TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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第76話:シャーロットと仕事馴染み

「――と、言う事なんですよ」

 

 連盟の受付にて、俺は依頼を出すために詳細な条件などを顔見知りの受付嬢に話す。

 名前をハンナ。以前リヴェンに連絡先聞いて爆死していた人だ。

 

「なるほど。それは……また難儀な」

「でしょう? おかげで肌が荒れてる気がして……」

「は? 喧嘩売ってる? ぶっ殺すよ」

「ごめんなさい」

 

 俺個人としては気になってたんだけど、傍目から見るとそうでもないらしい。

 嫉妬と殺意交じりの本気な視線だったので、即座に謝った。

 謝罪を受け入れてくれたのか、形だけでも怒りは納めてくれる。代わりに、カウンターに思いっきり片肘をついて、顎をその手の上に乗せた。

 

 今は仕事中ではあるのだけれど、気が知れた俺とのやり取りかつ、周りに誰もいないので砕けた口調になっている。

 仕事中は綺麗で丁寧なお姉さんに見えるが、実際はこういうガサツなところがある女性だ。

 まあ、仕事中は微塵もそれを感じさせないから、一流なんだけれど。

 

「あーあ。そろそろ高収入な高身長イケメンが口説きにきてくれないかなー。この窓口でおっさんたちの相手するの飽きたって」

「またそんなこと言って……」

「ずるいずるいずるい。あなたばかりイケメン冒険者はべらしてずるい!」

 

 また始まった。

 ハンナとは緋色の剣時代からの付き合いで、色々と俺の来歴を知っている人物でもある。

 一応、背景情報も伝わっているはずなんだけど……彼女からすれば、男たちを連れまわしてるって事実だけで羨ましくてたまらないらしい。

 

「辞めちゃおっかなー。こんな男日照りな仕事」

「再就職のあてはあるんですか?」

「あったらとっくに辞めてるってのー」

 

 彼女のこういった愚痴は今に始まったことではなく、少なくともここ数年間はずっと聞いている。

 なんなら、初対面の時から聞いているかもしれない。

 もはや慣れたものだ。

 仕事自体は小慣れた様子で、凄い手際がいい人なんだけどなぁ……。

 

「んで、私の方はどうです?」

「ん。とりあえず書類は作ったから、後は……まあ少しの間連盟内部で調査はするかな。幸運の女神様相手となれば、適当に依頼を張り出すわけにもいかないでしょ」

「その言い方……。まあいいや。それじゃあ、一旦は引受先探してくれるって感じでいいんですね?」

「そうだね。多分そうなると思う」

 

 こうして雑談している間にも片腕は動かしていたのだから、やっぱり仕事はできる人なんだよなぁ。

 それに、ハンナさんは冒険者の間では結構人気があるとも聞いているし。単純に耳に入っていないのか、それとも許容範囲外の連中しか言い寄ってこないのか。後者な気がする。

 

「はい、それじゃあ後はこっちで受け持つから」

「よろしくお願いします。それじゃ――」

「まあ待ちなさいよ」

 

 依頼が無事に出せたという事で、帰ろうと踵を返したところ、二の腕を掴まれて引き留められる。

 

「早朝で暇なの。もうちょっと話し相手になりなさいよ。それとも、それも辛いぐらい体調悪いの?」

「いいですけど。話した通り、少しばかり眠りが……ふわぁ」

 

 言ってる側からあくびが出てしまう。

 なーんか眠いんだよなー。寝不足ってわけじゃないのに。

 そんな俺の様子を見て、ハンナさんは少しばかり訝しげだ。

 

「ん、どうかしました?」

「……因みに、彼氏はこのこと知ってるの?」

「彼氏?」

 

 彼氏なんて俺にはいないぞ。一体誰の事を言ってるんだ?

 また、俺の彼氏を自称する連中でも出てきたのか? その都度鎮火するの面倒だから、なるべく出てきてこないでほしいんだけど……。

 

「ほら、あの黒髪の。リヴェンさんだっけ? 数か月前に冒険者登録で連れてきてたあの人。一緒に依頼を探しに最近になっても一緒に来てるよね?」

「あー」

 

 なるほど。あいつか。

 まあ、パーティをとっかえひっかえしてた女が、唐突に一人の男とペア組み始めたらそう思われるのも仕方がないか。表だって説明したこともなかった気がするし。聞かれなかったからな。

 いや、野良猫亭ではからかわれたから経緯説明してたわ。

 

「知らないと思います、相談してないので。因みに、彼氏じゃないですよ」

「えー、彼氏じゃないとかうっそだー。だって、あんたがあんなに自然な距離感で男性と接してるなんて、レイナードさん以来じゃん」

「レイナードみたいな人なんですよ。そっち系に縁がないタイプ」

「……ふぅん」

 

 あ、これは信じてないときの顔だ。

 まったく、すーぐそういう恋愛話に持っていくんだから。

 あいつとはクリーンな契約をしているんだから。友達ではあるけれど、彼氏彼女の関係性ではない。俺から貴重な友達を奪わないでくれ。

 

「ま、いっか。深堀しない方が面白そうだし」

「なんですかその理由は」

「いいじゃんいいじゃん」

 

 こうなると、何か言っても無駄だろう。

 釈然としないけれど、受け入れるのが付き合い方だ。

 

「ま、何にしても同じパーティなら不調ぐらいは伝えておきなって」

「あんまり心配かけたくないんですけどねぇ」

「心配をかけるって言うけれど、それで仕事に支障が出るなら連絡はするべきでしょ。どしたの、らしくないよ。普段はもっと割り切って行動してるじゃん」

 

 言われてみれば、確かに。仕事なんだから、それ相応の対応はしないとだ。

 当たり前の事なのに、なんで俺はそう考えなかったんだ?

 ううん。もやもやする。

 

 ハンナさんが悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。

 あっ。これなんか嫌な事思いついた時の顔だ。

 

「同じ人とパーティ組み続けるなんて緋色の剣以来だからあれれ? とは思ってたけれど。やっぱりなんか特別なんだ、彼は」

「特別、特別……」

 

 特別かと言われれば、そうだ。

 俺はあいつのことを大事に思っているし、応援してやりたいと思ってる。

 だからなのか? でも、心配をかけたくない理由とは違う気がする。

 なんですぐに言いに行こうと思わなかったのか。ううん、理由を考えてもさっぱりだ。

 

 そうやって考えていると、ハンナさんは先ほどまでとは打って変わって冷めた視線を向けてきていた。

 な、なんだよ。まるで俺が悪いって責めるような視線をして。

 

「……シャーロットさ。もしかして恋愛したことない?」

「はいっ!?」

 

 いきなりすぎる。何がどうなってそうなった。

 

「え? ほんと? うっそだー、あれだけとっかえひっかえして、男の扱い慣れてますみたいな立ち振る舞いしておきながら、おぼこはないでしょ」

 

 ちょちょ! いきなり何を言いだすんだこの人は!

 思わず、誰かに聞かれてないか周囲を見回す。

 この時間は冒険者たちは依頼掲示板の方を見るのが主で、カウンターに集まってきている人の数は少ない。まず、聞かれることはないだろう。

 

 それを確認して、安心して肩を下ろす。

 視線を上げ直すと、信じられないものを見る眼で見られていた。

 

「その反応、嘘でしょ? 体使って毎日毎夜男をとっかえひっかえしてたんじゃないの?」

「言い方! そりゃあ、軽いふれあいとか色仕掛けぐらいはしてきましたけれど、そんな深くまで体を許したことはないですよ」

「なんでさ」

「なんでって」

 

 そんなに大した理由があるわけじゃない。

 必要なら、手札として切る覚悟ぐらいはあった。でも、なるべく使いたくない一心で動いていたら、使わずに済んだだけだ。

 運が良かっただけ。その結果だ。

 

「……怖いじゃないですか」

 

 嘘を言っているわけじゃない。

 本当に、怖かったから。それだけだ。

 ……それをしてしまったら、本当に俺は俺なのかわからなくなりそうで。

 絶対に口にはしない。前世の記憶を引きずっているだなんて、絶対に信じてもらえるはずがない話だからな。

 

「可愛いかよこの野郎」

 

 まるで舞台上の役者のように大仰に天を仰がれた

 言葉上は褒められていたけれど、明らかに呆れられている。

 

「そういうのをさぁ、もっと冒険者の女性側にも向けられればさぁ、もうちょっと色々できただろうに」

「ぐっ。別にいいじゃないですか! ここ最近は恨み買っての問題を起こしてませんよ!」

「はいはい、良かったですねー。彼氏に感謝しときなさいよまったく」

 

 だから彼氏じゃないって。

 訂正しても絶対に言われ続けるから言わないけど。

 こういうのはもう諦めて流した方がいい。リヴェンがいれば、流石に言わないだろうから、俺が我慢すれば済む話だ。

 

 大きなため息を一つ吐かれる。ため息を吐きたいのはこっちなんだけど?

 でも、ハンナさんの表情はどこかすっきりしている。

 

「ま、とにかく伝えるだけは伝えておきなよ。心配をかけたくないって言うけれど、仲間の心配もできないなんて、気が気じゃないんだから」

「……はい」

「わかったら、この書類は預かるので、さっさと伝えに行く!」

 

 カウンターに身を乗り出すようにして、俺の頭を軽くぺしりと叩いてくる。

 痛くもなんともないが、何となく叩かれたところを抑えてしまう。

 

「え、今からですか」

「そうだよ。どうせこの後は宿に帰って休むだけでしょ?」

「それは、そうですけど……」

「よっぽど体調が悪いのなら連盟で受け持ってもいいけど。自分の口から伝えた方がいいんじゃない。人の口から仲間の大事を知るのって、かなりショック受けるよ」

 

 うっ。そう言われてしまえば俺には従う以外の選択肢はない。

 絶対面と向かって小言言われるだろうなぁ。

 セイラムの一件があった後だし、絶対何か言われるよ。

 

 正直なところ、トリシェルやリヴェンの反応を見ていればわかるけれど、俺に何かあったのは間違いない。

 俺自身は違いがよくわからないけれど、特にリヴェンは俺の状態を細かく確認するような視線をよくしていた。

 その影響だとすれば、どうすればいいんだろうな。

 

 大きく溜息を一つ。憂鬱だ。絶対になんかあるとわかってるのに行かないといけないってのは。

 

「……わかりました。この後伝えに行くことにします」

「うん、そうしなさい。年長者の忠告は聞いておくものだゾ☆」

 

 語尾に星マークでもついてそうな感じで言われて、俺は見送られる。

 途中知り合いたちに挨拶をしつつ、フードを深めに被って連盟の建物を後にする。

 

 ああ、今日は日差しが強いな。大きくあくびを一つ。

 陽気に誘われながら俺はリヴェンたちの宿を目指して歩き出した。

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