TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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第85話:シャーロットと捜索

 静かな時間。お互いに一言も話さず、何も起きない。

 ……ああぁ~! なんで俺はあんなこと言っちゃったのかなぁ!

 もしも隣にリヴェンがいなければ、その場でゴロゴロ転がってしまっていただろう。

 いてくれてるから、辛うじて体面を保ててる。

 

 保ててる、本当か? 本当にか? 今更じゃないか?

 なあ、凄い醜態晒したと思うんだけど俺。らしくもない自分語りまでしちゃってさぁ!

 ああああああ、本当にこれが夢で起きたら全部忘れてたらどんだけいいことだろう。いや、十中八九ここは夢なんだろうけれど、忘れていられる気は欠片もしない。

 

 まーじで恥ずかしい。今鏡見たら顔が真っ赤になってる自信ある。

 電車でうたた寝してたら、知らない人に寄りかかってた時ぐらいの気まずさがある。

 今も肩借りちゃってるし。てか肩借りたまま眠ってたし。恋人かよ。そういう関係なんじゃないから。ないからっ!

 こうしてそっと目を閉じたまま、寝たふりを続けてるぐらいにはどうしようか迷ってる。

 

 ……まだ、思ってはいるよ。俺のせいなんじゃないかって。

 でも、それは悪くないと言ってもらえた。受け取った言葉が、胸の奥でぽかぽかとしている。

 ううん。心地いいのか、居心地が悪いのか。結論が出るまでは、もう少し寝たふりを――。

 

「起きているな」

「うぇっ」

「呼吸音を聞けばわかる」

 

 そういえば、こいつ察しがいいタイプだった。下手な演技は平気で見抜いてくるタイプ。

 くそう、くそう、少しぐらいこっちの迷いを気にして見て見ぬふりをしてくれてもいいじゃないか。

 かと言っても、バレてるのに寝たふりを続けられるほど気が強くもない。仕方がないので、そっと目を開けた。

 目に入ってきた光景は裏路地の光景。どうやら、眠っておきたら全部違いましたなんて都合のいいことはなかったようだ。

 

「……おはようございます」

 

 すっと背筋を伸ばして、寄りかかっていた肩から離れる。ちょっと心臓の音がうるさい。聞こえてないだろうな。

 

「ああ。よく休めたか」

「おかげさまで……」

 

 俺のちょっと不機嫌な回答を得て、リヴェンは愉快気に笑った。

 なんだ? 何が面白かったんだ?

 

「どうやら、随分と元気は戻ったみたいだな」

「それも、おかげさまで。ご迷惑をおかけしました」

「いいさ。わかっていて、来たんだからな」

 

 帰ってくる声が上機嫌だ。

 俺に元気が戻ってきてくれたことを喜んでくれてるのかな? だとすれば、ちょっと、嬉しい。

 

 でなくて、さてはてこれからどうしようか。

 ここが夢なのかは知らないけど、作り物だってのは、何となくわかった。

 ここに来る途中、みんなに囲まれたけれども、リヴェンは躊躇なく切っていた。切られたみんなは苦痛の声を上げるでもなく、ただただ俺を非難する声を上げるばかり。

 そこまでくれば、流石に異常だってのは俺にもわかる。

 

 だとすれば、目の前のリヴェンも作り物なんじゃないかって思ったけれど、こいつは多分本物だ。少し話をした感じ、そうっぽい感じがする。

 最初は俺を騙して後で突き落とすためのものだと思っていたけれど、その様子もない。い、一緒にいて欲しいって言葉も聞いてくれたし。ちょっと恥ずかしい判断方法だけど。

 あとは、これが作りものだとして、あんな頭のよさそうな切り替えしが俺にできる気がしない。つまり、俺の頭が作り出した幻覚ではない。我ながら悲しくなる判断方法だけど、とにかく俺はこいつを信じることにした。

 

 とりあえずは、ここが夢だというのなら、夢から覚めることが目標になるのかな。

 

「ここが夢の中だって言ってましたよね」

「ああ、そうだ」

「夢の中で眠れるのかだとか、普通の夢だとは思えないだとか、色々と聞きたいことはありますが……何をすればいいんですか?」

「それに関しては、方針を決めてある」

 

 ほほう。決まってたのか。

 リヴェンは確信を持った語調で、俺に告げる。

 

「トリシェルを探すぞ。あいつも、この夢の中にいるはずだ」

 

 驚いた。リヴェンだけじゃなくてトリシェルもいるのか。それならレイナードとかもいるのか?

 聞いてみたら、いないらしい。そっか。あいつはお留守番か。

 何か大事が起きるときに限っていない奴だ。後になって駆けつける場合が多かったけれども。

 

 理由は話ながらということで、俺たちはその場から立ち上がった。

 リヴェンは土地勘がないだけで、地図は頭の中に入っているらしく、迷う事なく歩みを進め始めた。俺もその後ろを追いかける。

 

 裏路地を進みながら、気になることを確認していくことにした。

 

「リヴェンさんはどうやって私の夢の中に?」

「ロザリンドに頼んだ」

「ロザリンドさんに、ですか?」

 

 あの怪物姉、まだこの町から離れていなかったのか?

 いいや、転移ができるんだっけ。正確には入れ替えみたいだけれど。

 どこかにまだ手下残しておいて、入れ替わったのかな。

 話聞いてる感じだと、リヴェンの動向だけはチェックし続けそうだし、あり得る話だと思う。

 

「精神だけ手下の人間に下ろしてやってきた」

「えっ」

「手下には全員できるようにしているらしい。とんだやつだ」

 

 それは確かにとんだやつだ。

 てか、精神だけ? でも魔法って使えるんだ。魔力とかそういうのって体依存じゃないんだな……。

 ちょっと興味だけあるから、機会があれば聞いてみたいな。何かよくわからないけど友好的だったし、きっと教えてくれるだろう。

 

「トリシェルが夢の中にいるってのも、その、ロザリンドさんが?」

「…………」

 

 おい、急に黙るなよ。

 なんか答えにくい話題なのか?

 少し経っても、答えが返ってこないので、しょうがないので話題を変えることにした。

 

「――じゃあ、今はどこへ向かってるんですか?」

「今は、緋色の鐘のクランハウスだな」

「ああ、トリシェルを探すって言ってましたね」

 

 確かに。あいつを探すなら、いそうなところを当たっていくのが確実だろう。

 でも、意外と謎が多いんだよなぁ。ふとした拍子にいなくなることもあるみたいだし。

 レイナードはよくもまああのじゃじゃ馬をクランに入れようと思ったよ本当に。

 ……もしかしたら、俺を緋色の剣に誘った時と同じ感じだったのかもしれないけど。

 

「じゃあ、また大通りに出ないとですよね」

「だな。大丈夫か?」

「今は、はい。多分」

 

 作り物だと思っていても、皆の顔で言われるのは苦しい。

 だとしても、もう絶望するほどじゃない。今はこいつが側にいてくれてる。一人なら、実際そうだったように、気がおかしくなるだろうけれども。

 

「辛くなったらいつでも言え。下らない話程度はできる」

「……ふふっ。またその話ですか」

「なんだ。仕方がないだろう、そういうことをしてきた経験がないんだ」

 

 なさそうだなぁ。聞いてる話的にも、友達全然いなかったらしいし。

 テンユウさん? ぐらいか。こいつの口から出てきた名前って。

 あとは怪物姉。部下のニール。そのぐらいなんだよな。交友関係めっちゃ狭そう。

 王族ってそういうものなのかな? こう、上に立つものは孤高たれみたいな家訓でもあるのだろうか。知らないけど。

 

「私からも話をしますよ」

「……そうか。それは、聞いてみたいかもな」

「それで、どのぐらいで着きますか?」

「もう少し先でメインの道に出て、右に曲がればすぐにクランハウスだ。準備はいいな」

「はい」

 

 ふと、意識してなかったけれど、今になって気が付く。リヴェンの背中って、こんなに広いんだな。

 思わず笑ってしまう。ずっと後ろに隠れていたくせに。身長が高いなとは思っていたけれども。

 ああ、懐かしいな。レイナードにも同じことを思った時があったっけ。

 どうして、前衛たちってのはこんなにも頼もしく見えるときがあるんだろうな。

 

 そうして、メインの通り手前まで来た。リヴェンが少し先行して様子を見ているが、何やら様子がおかしい。

 あっ、戻ってきた。

 

「どうかしましたか?」

「……なぜかはわからんが、人型どもがいない」

「えと、何もいないってことですか?」

 

 静かに頷かれる。

 それは、おかしいな。さっきはあんなにいたのに。

 でも、好都合じゃないか?

 

「それなら、さっさとクランハウス入っちゃいましょうよ」

「……ああ、そうだな」

 

 室内で囲まれたときのことは考えておく、と怖いことを呟かれた。

 そのこと考えてなかったけれど、確かに恐ろしい。

 

 でも、どういう事なんだろうか? 俺の時はあんなにどこに行っても出てきていたのに。

 裏路地に入った瞬間追ってこなくなったのも気になるし。

 なんか出てくるために必要な条件でもあるのかな。

 

「……念のため言うが、この世界にいるのは俺とお前、トリシェルの三人だけだ」

「はい?」

「他の連中はいない。万が一に見かけることがあっても、偽物だと思え」

「えっと、わかりました」

 

 なんで今言われたのかわからないけれど、リヴェンの表情を見ると何か考えがありそうだ。

 俺より頭がいいこいつに考えがあるのなら、黙って従っておこう。

 てか、リヴェンの口ぶり的に、ひょっとして周り囲まれたときってリヴェンには人々が別の存在に見えてたりする? 万が一に、さっき見たにしてはおかしいよな?

 まあいいや。俺たちしかいない。俺たちしかいない。……うん、気を付ける。

 

 言われたことに気をつけながら大通りに出る。うん、本当にびっくりするぐらい静かだった。

 通り一面に人がいた先ほどと違い、ゴーストタウンにでもなったのかってぐらい何一つ気配がしない。

 聞かされてはいたけれど、これには俺も驚いた。

 

「こっちだろう、ついてこい」

「あっ、はい!」

 

 リヴェンの声に意識を戻す。あっけに取られてしまったけれど、いないなら好都合以上のものはないんだから気にしないでおこう。

 

 クランハウスの方はというと、こちらも外からだと中に人の気配が感じられない。普段ならば聞こえてくるであろう、クラン員たちの談笑とかが聞こえてこないのだ。

 リヴェンは一度こちらを向いて、視線を合わせる。準備はできているかという問いだったので、黙って頷いた。

 そうして、俺たちは緋色の鐘のクランハウスの扉を開く。

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