TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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第91話:リヴェンとパラダム

 トリシェルの居場所までたどりつくのは、意外なことに簡単だった。

 表の連中はレイナード達が引きつけてくれておいたのもあるが、店主が全てを見透かしてるかのように隠しルートを用意してくれていたのだ。

 只物ではないと思っていたが、何者なのか謎は深まるばかりだ。ただ、下手に知ろうとすれば宿を貸してくれなくなる気がするからな。詮索する気はない。

 

 宿を上手く抜け出した俺たちは、その後ロザリンドの言う場所までたどり着く。

 そこは中層の民家の一つ。一見すると、何の変哲もないただの家だ。

 だが、ロザリンドが間違うはずがない。この家の中に、何かがあるのだろう。

 

「シャーロット、心の準備はいいか?」

「は、はい。えと、ここであってますよね?」

「間違いない。入るぞ」

 

 扉の鍵は開いている。何の邪魔もなく開いた。

 開いた直後、俺たちは面くらった。そこにいたのは――白髪の老人。ただの老人ではない、白の純度が高すぎる。こいつは白の一族だ。

 

「お待ちしておりました。姫様。および、黒の方」

「えと、あなたは……?」

「わたくしはパラダム。トリシェルの養父、とでもいえばいいでしょうかね」

 

 ふむ、嘘を言っているようには見えないな。嘘を言うメリットもない。

 信じてもいいだろう。ひとまずは、だが。

 

「それで、俺たちの前に出てきて何の用だ」

「気が急くのも仕方のないことでしょう。ですが、ご安心ください、あの子は無事に生きていますよ。今は地下にて休ませてあります」

「ほう。首謀者が何をしに来たと思えば、ご親切なことだな」

 

 シャーロットがこちらを意外そうな顔で見てくるが、容易に想像ができることだ。

 トリシェルは青の民。白の一族の命令には逆らわない。

 つまり、白の民であるこいつがここにいるというのなら、全てはこいつが企んだことだったのだろう。

 少なくともトリシェルの行為を容認する立場にはいたわけだ。

 

「あなたがトリシェルに死ねと命令したんですか……?」

 

 直接聞いてしまうか。それもいいだろう。

 きっと、こいつは隠すことなどしない。

 

「ええ。そうです」

「どうして!?」

 

 今にも詰め寄りそうなシャーロットを、腕を伸ばして止める。

 どうしてと見てくるが、こいつを詰めてもまともな回答が返ってこないのは明白だ。

 それならば、優先するべきはあいつの身の安全を確認すること。

 こいつ相手に時間を取られたくはない。

 

「……聡いですね。似ているようで、まるで違う」

「何の話だ」

「こちらの話です。そうですね、あなた方にとってはトリシェルの実際の身の安全の方が大事でしょう」

 

 そう言うと、パラダムはそっと道を譲る様にその場で半身になり、奥へと誘う。

 

「どうぞこちらへ。あの子のところまで案内しましょう」

「それが罠でないという保証は?」

「ふむ、真っ当な警戒ですね。ですが、もはや我々にできることはありませんよ。と、言葉を信用してもらうしかありませんが」

 

 嘘を言っている気配はしない。真実なのだろう。

 ちらりとシャーロットを確認する。嘘かどうかはわかってなさそうだが、トリシェルのところに行くとなれば否はなさそうだ。

 

「わかった。ついて行こう」

「では、こちらへ」

 

 案内された先にあったのは、地下へ下る梯子。なるほど、外観のただの民家というのは隠れ蓑にするためのものか。

 

「シャーロット、一人で降りれるか? 必要なら背負うが……」

「だ、大丈夫ですよ。多分……」

「そこまで長い梯子ではありませんよ。では、先に行かせてもらいますね」

 

 そう言って、先にパラダムは降りていった。

 ならば、次に行くべきは俺だろう。シャーロットは最後だ。

 

「上を見上げないでくださいね!」

 

 降りている最中になんか聞こえたので、上は見上げないようにする。

 落ちないか心配だが、蹴り飛ばされる可能性に比べたらマシだろう。それで体勢を崩されればたまったものじゃない。

 さて、何事もなく地下には降りられた。シャーロットも少し手を痛そうにしているが、問題はなさそうだな。パラダムが仕掛けた罠も無さそうだ。

 

「それでは、こちらです」

 

 地下の様子は、研究所のようだった。

 無機質な廊下に、ガラス越しに見える幾つかの部屋が繋がっている。時折経由する広い部屋は、まるで養育施設のようにも見える。

 何かを育てていたのか? ここで?

 

「ここで有志の青の民を育てていたのですよ。今回の計画に使える子を作るために」

「つまり、あいつはここで育ったと」

「そうなりますね」

 

 随分と機械的に育てられたものだな。なるほど、あの狂信っぷりも頷ける。

 閉鎖空間で他に生きる意味を持たせず、ただそのために生み出され育てられたとなれば。暗部の人間の育て方に良く似ている。

 

「苦労しましたよ。あなた方が討伐したセイラムにも一時手伝ってもらいつつ、立派に活動できる子たちを何とか揃えられました」

「……敵討ちとかは思わないのか?」

「我々は等しく罪人。なれば、同情こそすれその末路に口出しはしませんよ。信じた道の先に、破滅が待っていただけということです」

 

 随分と割り切った考えのようだ。

 果たして、腹の内はどうなっていることやら。

 

 そうしているうちに、一つの部屋の前でパラダムは立ち止まる。

 そして、そっと招き入れるように手で指し示した。

 

「どうぞ。この部屋の中にトリシェルはいます。負荷があるので、まだ寝かせておりますが」

 

 さて、ここからどうするか。

 ここまで嘘はなかった、罠もなかった。ここにきて罠を仕掛けるか? いいや、それはない。こいつらの目的から外れるはずだ。

 ならば、俺が取るべき択は――。

 

「シャーロット、扉の先にはお前ひとりで行け」

「えっ!?」

「俺はまだ、こいつに話がある」

 

 パラダムは一瞬驚いたように眉毛を上げ、すぐに笑みで感情を覆い隠した。

 望むところという事か? いいだろう、少しばかり問答に付き合ってもらうぞ。

 

「罠はない。こいつらの目的に反するからな」

「おやおや、信頼してもらえているのですね」

「でないと、辻褄が合わないからな」

 

 シャーロットは不安そうな表情をしている。だが、やはりトリシェルが心配なのだろう。少しずつ扉の方へ移動している。

 一押ししてやるか。

 

「話が終われば俺も追う。先に行っててくれ」

 

 その一言に、決心がついたのか。先に行ってますと言い残して、扉の先に姿を消した。

 扉が閉ざされる。残されたのは、俺とパラダムだけだ。

 

「それで、私に話というのは? 姫様に聞かせたくない話のようですし、手早く済ませましょう」

「俺が聞きたいのは、お前らが呼ぶ姫とは何者なのか、だ」

 

 パラダムの表情が変わる。真っ先に変わったのは目だ。余裕を持っていた微笑みから、真剣な眼差しへ。

 

「……それは、どのような意味ですかな?」

「セイラムが言っていた。かつて失ったと。ならば、姫というのはあいつだけの事ではないのだろう? 答えろ、白の一族にとっての姫とは何だ」

 

 視線が合う。一切逸らされぬ強い視線。これは、俺の意図を読み取ろうとしているな。

 何秒経ったのかわからない。一通り測り終えたのか、向こうから視線がそらされた。こちらも一息を吐く。

 

「かつての歴史を知らないのですか。黒の一族も、随分と落ちぶれたものですね」

「悪いが、末端なものでな」

「知らぬともよいと判断されていたと。にもかかわらず、ここまで来たのですから運命とは摩訶不思議なものですなぁ」

 

 遠い場所を見ているように、やや斜め上を見上げてパラダムは言った。

 なんだ。何を見ている。もしや、思い出しているのか?

 

「いいでしょう。私の口から語れることは、語ります」

「なら、姫とは何だ」

「一口で言うならば、白の一族の中核を担う存在。でしょうかね」

 

 わかりやすく例えましょう、と続く。

 曰く、白の一族の関係性は大きな木に似ているとのことだ。

 姫は巨大な木の幹、枝、本体。白の一族というのは、姫から零れ落ちる果実と等しい。

 通常の木と違うのは、地面に落ちればまた木を生やすのではなく、そのまままた同じ幹に返るということだ。姫から生じ、やがて姫へと返る。

 それこそが、白の一族のシステムなのだと。

 

「我々は全て姫から産まれ、姫へと返る。人とは異なり、循環する個の生命。それが、我々白の一族なのですよ」

 

 ……嘘、ではない。嘘を言っているようには聞こえない。

 だが、理解しきれない。そんなことがあり得るのか?

 あり得るのだとすれば、それは人間の御業ではない。神や上位種に近しい存在だ。

 

「思い当たる節があるのではないですか? あの方が通常の生命の理を捻じ曲げるところを、ご覧いただいたことがあるのではないのですか?」

「なんだと?」

「セイラムと対峙した際に、生命としての形を歪められたのでは? そう、視力という機能を奪われたように」

 

 ――っ!

 あの時、俺の目を治したのは誰だったか。いいや、わかってる。シャーロットだ。

 

「我々にできることは姫にもできる。当然です、我々は全て姫から生じたものなのですから。そのすべては、根本的に姫のために存在している」

「待て、だとすれば、順番がおかしい」

 

 白の一族が生まれたのは何百年前だと言われている? 伝承にも残っているほどだ。

 あいつと異なる姫がいたというのならわかる。だが、こいつの口ぶりは違う。

 姫は一人しかいないと、言っているようではないか。

 

「ええ。その推測は正しいですよ」

 

 思考を読んだかのように、俺の推論は肯定される。

 だとすれば、だとすれば、この異常な状況は何だ。

 

「我々が循環するように、もっと大きな括りで姫は循環なさるのです」

「どういう意味だ。何を言っている」

「さてはて、実のところ我々も詳しいところは理解していないのです。ただ――」

 

 その後に明かされる事実は、俺を驚愕させるには十二分だった。

 

「――姫は失われた後、再びこの世に舞い戻られる。そう、古くより決まっているのですから」

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