TS異世界転生姫プレイ   作:パンデュ郞

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第97話:リヴェンと緋色の剣

 いつもは使わない酒場。聞けば、レイナードたちが昔愛用していた酒場だという。

 俺が泊っている宿屋や、シャーロットの……店とは違い、中々に規模が大きい。

 この町にはこのような大衆酒場は多くあるのだという。冒険者たちが景気づけや冒険終わりに酒を飲むための場所だ。俺たちが寄り付かなかったのは、シャーロットに配慮してのことらしい。

 

 ……あいつは、こういう大人数が収まる酒場が苦手らしい。

 レイナードに教えてもらった。

 

 そのカウンター席にて、レイナードは座って待っていた。律儀なことに、まだ酒の一杯も飲んでいないらしい。

 俺を見つけ次第、手を挙げて隣の席へ誘ってくる。

 黙って俺は招かれた席へと座った。

 

「やあ、一対一で僕と話したい、だなんて、珍しいこともあるものだね」

「……話に乗ってくれたことは、感謝する」

「いや、気にしないでいいよ。僕も、一度ゆっくりと話し合いたいと思っていたからね」

 

 流れるように、レイナードは酒を注文する。他に、幾つか合間に食べる小物も。

 俺は黙ってレイナードに注文を任せる。こういうのは、勝手が知っている奴がやった方がいい。

 注文が一区切りすれば、レイナードはゆっくりとこちらへ向けて口を開く。

 

「彼女のその後は、どんな感じかな?」

「徐々にマシにはなっている。が、一人でいるのは未だに避けた方が良い状況だ」

 

 シャーロットは、あの夢の町以降、極端に周囲を恐怖するようになった。

 気の知れた相手ならば問題ないが、そうでない相手からは幻聴が聞こえる。内容は……詳しくは教えてもらえていないが、良いものではないはずだ。

 

 その結果、常に周りに誰か一人知り合いがついていないと駄目な状況になってしまっている。夜の闇ですら、語り掛けてくる気がするらしい。今のところは、アリスといったか、あの店の店員である少女がその役割を果たしてくれている。

 

「休むべき、という言葉を聞き入れてくれたのは幸いだったね」

「ああ。トリシェルによって、少し先の都合が分からなくなったのが幸いした。あいつは、理由がなければ動き続けていただろうからな」

「彼女らしい。不安になると、じっとしていられないんだ」

 

 これは、俺の知らないあいつの話だ。

 以前ならば、こんな些細なところも気にならなかったんだろうな。

 下らない俺の些事な感情に、思わず苦笑する。

 

「で、僕に話って言うのは、彼女のことでいいんだよね?」

「ああ、そうだ。俺は、あまりにあいつを知らない」

 

 実際には知らないというわけではない。あの夢の町で、じっくりと話を聞かせてもらった。

 だが、それらはあいつの主観であり、あいつが感じてきたものだ。

 他の人物から見たシャーロットを、俺は知らない。

 

「緋色の剣時代の事を、俺に教えてくれ」

「……緋色の剣、か。懐かしいね、未だに、目をつむればまぶたの裏に情景が浮かぶよ」

 

 レイナードを中心に集まったパーティだったらしい。

 ぽつり、ぽつりと、一つ一つを噛みしめるようにして、レイナードは話始めてくれた。

 

 体は大きいのに、気は小さくて細かい作業をすることを好む重戦士のガレス。斥候だったら少しばかり先に見つけたものを隠し持っててもバレないからという理由で斥候を志したリズベット。常に自分の評価を高めようと努力していたセリーヌ。あちらこちらへ愛嬌を振りまきながら常に走り回っているシャーロット。そんな五人組だったらしい。

 

「ガレスは体は大きいのに気が小さくてね。一番か弱かったシャーロットとどうやってコミュニケーションを取ればいいか、しょっちゅう聞かれたもんだよ。力ばかりは強いもんだから、触れたら怪我させちゃうんじゃないかって」

「難儀な性格だな」

 

 確かにあいつの背は低いが、流石に人間が触れた程度で怪我はしないだろう。

 ……よほどの剛力であれば、話は別かもしれんが。

 

「リズベットは報酬にばっかり集中して、僕たちの事は都合のいい相手ぐらいにしか思ってなかったね。一番自由な子だった」

「……よく特定のパーティに留まっていたな」

「それこそ都合がよかったってことなんだろうね。セリーヌは……なんていうか、少し難しいかな。一番を目指そうとしていた、らしいんだけれど。ごめん、彼女はシャーロットを目の敵にしてた印象が一番強いかな」

 

 目の敵にしていた? 仲が悪かったという事か。

 

「思えば、僕がもっと早くから彼女たちの仲裁をしていれば、あんなことにはならなかったのかな」

「シャーロットからは、あいつのせいで崩壊したと聞いている」

「ううん。それは確かに一つの見方かもしれない。でも、僕はそうは思わない」

 

 ちょうど酒が届いた。

 軽く打ち合わせ、乾杯をしたのちに口をつける。

 この場における酒は、口を滑らせるためのものだ。ちょうどよいタイミングで来てくれた。

 これから先の事は、少しばかり話しづらい内容だろうから。

 

「発端がシャーロットってのは、その通りなんだ。彼女の貢献度が低すぎるんじゃないかって話が最初だったからね」

「だがそれは――」

「その通り。回復魔法使いの出番なんて本来ない方が良い。それに、彼女の回復魔法自体は非常に強力だ。戦闘中使いづらいというデメリットはあっても、出力自体は飛びぬけてる」

 

 少なくとも、内蔵までぐちゃぐちゃになったのに、一人だけで治してしまえるのは、彼女ぐらいなものだ、と。レイナードは笑いながら語る。

 覚えがある。オークションの時、ロザリンドにやられた傷の話だろう。

 後遺症があったはずだが……逆にいえば、破壊の権能を使われてその程度で済んでいることがおかしい。今となれば、白の民の権能ということで納得はできるのだが。

 

「言いだしたのはセリーヌで。リズベットがそれに乗っかった。ガレスがシャーロットを擁護して、そのままパーティは二分割。一度結束にひびが入ってしまえば、脆いものだったよ」

 

 立場上、どっちに肩入れすることもできなかった。それが、決定的な分裂につながってしまうから。と、笑いながらも、その横顔は寂しそうだ。

 

「シャーロットからは、頻繁に報告や相談を貰ってたんだ。彼女が一番マメな性格をしてたからね、細かい部分は凄い助けてもらっていたよ」

「だから仲がいいのか」

「向こうがどう思ってくれてるかはわからないけれども。そう思ってくれていたら嬉しいかな」

 

 ここまでの話で、色々と理解ができた。

 レイナードは、崩壊したパーティについてシャーロットを恨んでなどいなかった。にもかかわらず、シャーロットは自分が原因で壊れてしまったと気を病んでしまった。不幸なすれ違い、ということになるか。

 

 それでも、今は仲良くしているあたり、やはり気は合うのだろう。

 再会してからは俺も知るところだ。その前の、知らないところの方が知りたいのだが……今遮るのは無粋だな。

 

「僕がもっと周りをよく見て、気を付けていれば防げたはずの事件だった」

「ああ、緋色の鐘でやたらと慕われているのは……」

「教訓だよ。僕はもう、仲間のどんな苦痛も見逃したくなかった」

 

 そう言って、レイナードは酒を煽る。

 軽々しく語っているように見えて、思うところは多分にあるのだろう。

 

「……ごめん、話がそれたね」

「気にするな。付き合ってもらってるんだ、こちらだって付き合うさ」

「ありがとう。じゃあ、もう少しだけ聞いててもらえるかな」

 

 大分時間が経ったと聞くが。やはり、当人には未だに心の傷として残っているようだ。

 同じクランの仲間に吐き出すこともできなかったに違いない。

 

「確かに、緋色の鐘はこの町で一番のクランになった。でも、そう考えるたびにずっと頭によぎってたんだ。ああ、どうして僕は最初から上手くできなかったんだろうって」

「それはだな――」

「言わなくていいよ。高望みだってのは分かってる。失ったからこそ、今がある。……頭ではわかってるんだけどね」

 

 人は失ったものを数えずにはいられない、か。

 テンユウ。俺も、あいつのことを考えないときはない。俺がもっと強ければ、と。

 それでも、乗り越えなければならない。未来に、つかみ取りたいものがあるのならば。

 

「ごめん。散々愚痴を聞かせてしまったね」

「なあに、気にするな。むしろ、聞けてよかった。今後どこかで爆発されてれば、こちらが被害を被っていたかもしれないからな」

「あはは、言ってくれるね」

 

 もはや、俺たちとレイナードたちは切っても切れぬ縁だろう。この町にいる限りは、だが。

 親睦を深めるのも大事なことだ。結束感は、時に逆境を打ち砕く。

 

「それじゃあ、愚痴を話してスッキリしたところで、改めて色々と話をしたいんだけれど……その前に一個だけ確認してもいいかな?」

「ん? なんだ」

 

 確認だと? 何か、確認しておかなければならないようなことがあったか?

 先ほどの会話内容を思い出す。ふむ、特に何もない気がするが、一体なんだ?

 手持無沙汰になり、酒を口へと運ぶ。

 

「リヴェン。君、シャーロットの事が好きだろう?」

「――っ! ぐっ、ゲホッ、ゲホッ」

 

 むせた。あまりに突拍子もなく、予想もできない発言だった。

 

「ああ、やっぱりそうなんだ」

「ん、ぐ。いきなり、なんだ」

「あはは、君がそこまで狼狽えるだなんて、よっぽどな事だね」

 

 愉快気に笑うレイナード。その頬は、僅かに赤みがさしていた。

 こいつ、まさかこの程度の量の酒で酔ったのか?

 

「そっかぁ。そっか。うん、君なら納得できるかな」

「何の話だ!」

「いや、ね。僕じゃ、ダメだったからさ」

 

 怒鳴りつけてやろうかと思って睨みつけた先にある横顔は、どこまでも寂しそうだった。

 

「お前、まさか……」

「本人には言わないでくれるかな? なにせ、言い寄らないからって理由で側にいられた男だからね」

 

 誤魔化すように酒を傾けるその姿は、間違いなく俺が認めた剣士の顔で、同時に、何もかもを諦めた男の顔をしていた。

 

「話そうよ。せっかくの男二人だ、これまでの話も、これからの話も、この期に出し切ってしまおう」

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