おれには『ねね』っちゅーおさななじみがおる。
ねんはすごいんや!!えらいべっぴんさんで、みんなにだいにんきで、それになんでもしってるんやで!個性だってもうはつげんしたし!まぁ、その個性はびみょうやったけど…
せやけど、個性なんてよわくてもねねがすごいっちゅーことにかわりはないんや!
やからおれはねねみたいになる!そんで個性はねねよりすごいのはつげんして!そんでおーるまいとみたいなヒーローになって!そんでそんで!おれは─────
◇◇◇◇◇
4歳を過ぎてもたいしろーに個性が発現しなかった。
そんな残酷な現実が突き付けられた。
たいしろーは見るからに生気の抜けた顔をしていて、俺の心を燻らせてくる。
「た、たいしろー…」
俺はそんなたいしろーのことを心配して声をかけるが、俺の口からは不安とよくわからない感情が入り混じったような俺らしくもない情けない声しか出てこなかった。
「えっと……あ!ガム!ガム食べるか?」
「…」
たいしろーから反応は返ってこなかった。
今日が土曜日で良かったな………平日だったら幼稚園なんて行けなかっただろうね。…いや、良くはないな。結局たいしろーに個性が発現しなかったのなら最悪以外の何ものでもない。
「…たいしろー……」
反応はない。
悔しいが、仕方ない。無個性っていうのは、個性がないのはそれだけで底辺の烙印を押されるのだ。
だから、俺に出来ることなんて何も──
「…………ねね…」
「──ッ!」
瞬間、小さくて今にも消えてしまいそうな声が俺の耳を強打した。
たいしろーの消え入りそうな声が今、確かに俺の名前を呼んだんだ。助けを求めるように。
俺の中の何かが爆ぜた。
「っ!大丈夫だたいしろー!個性なんて無くたって!この世の中自分の個性を活かせてるヤツなんてすげぇ少ないんだ!だから、大丈夫なんだよ!」
俺は必死にたいしろーにがむしゃらになって叫ぶ。大丈夫だと。
「ワタシだって個性マジで弱いし使いどころなんてほんの少しもないけど!それでも別に何にも困ってないし!だからたいしろーも大丈夫!」
「…ほんまに……?」
虚ろだったたいしろーの目に生気が灯る。その目は1日前にだって見たはずなのに酷く懐かしく感じた。
…そういえば、今日初めてたいしろーと目が合ったな。
「!うんっ!本当だよ!ワタシたちは何にだってなれるんだ!」
「…おれも…ヒーローに………なれるんかな…」
たいしろーの目に潤いが増していく。
……結局のところ、これは自己満足だ。
大丈夫だと叫んだところで何も現状は変わらない、ただ俺が自分は無力なことに苛立って、たいしろーを励ましたということにして罪悪感を帳消しにしたかっただけだ。
「あぁ!たいしろーは、ヒーローになれるんだ!!」
でも、それでも、俺のちっぽけな言葉でたいしろーの心が護れるのなら、おれは
だってたいしろーは優しいやつだから。
「っ、ぅぅ……ぁあ゙あ゙ぁ゙ぁぁああああ!!!!」
そうして、ありきたりな表現だけど、まるでダムが決壊したようにたいしろーが泣き崩れる。しかし心の底から安心した様子で。
俺は優しくそれを見守った。
◇◇◇◇
甘かった、
──差別の声が俺の鼓膜に木霊する。
甘かった、
──思わず苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべてしまう。
甘かった、
──たいしろーの絶望したような顔が焼き付いて離れない。
甘かった、
──自覚のない悪魔どもに吐き気がする。
甘かった、
──名前が呼ばれ理性がジリジリと焼け焦げていく。
本当に、甘かった。
──拳にズキズキとした痛みが残る。
◇◇◇◇
本日は土曜日、時刻はAM6:00、天候は快晴!
さぁ、個性訓練の時間だ!
説明しよう!
個性訓練とは、その名の通り個性を強くしようとすることである!
そんで、何でやるかはご想像の通り、なんてったってワタシは弱いからだ。ワタシが弱かったから、俺は何もできなかった。
…だから、強くなるために始めようか!個性をひたすらに使う苦行を!
てことで俺は今、我が家の庭にいます。
うん、本当はやることの関係上俺一人になれる場所が良かったんだけど、幼稚園児がそんな都合よく山だとか森だとかの人気のない場所に行けるわけないんだよなぁ…危ないから。実に無念。
まぁ、ぱっと見は幼女がガム風船を飛ばしてるだけの幻想的な風景だから途中で止められるとかの心配は多分大丈夫なんだけど。
さ、御託はここまで。早く始めようか。
てことで、まずは俺の個性を再確認していく。
とりあえず、さっきまで噛んでほぐしていたガムを膨らませていく。大きさはとりあえず手のひらくらいに…よし、できた。
そして、それを口から切り離して宙に浮かせる。
ガム風船を右に動けと念じれば右にふよふよ、左に動けと念じれば左にふよふよと動く。
これが俺の個性の概要だ。正直に言って弱い。
少なくともこの個性に防御力なんてないし、攻撃力なんてもっての外、戦闘に圧倒的に不向きな個性だ。
これからこの個性を、人を守ることができるような個性に改造していく。
と、いうと目指すべき方向はクッション性かな。ガム風船なもんで硬度を上げる方面はマジで茨の道だろうし。
まぁ、どちらにしろすぐわれるようなガム風船じゃダメだ。仮に拳を受け止められたとして、そのまま突き破られたら意味がない。
だから、どうにかして耐久性を上げる方法を考えつかないといけない。
そんなことで頭の中をぐるぐるさせながら、なんとなくガムを口に放り込む。
ガムを歯で撫でれば軽くて硬い音が聞こえてくる。それを唾液で溶かしながら、まだ硬いコーティングをパリパリと歯で破っていって、ゆっくりとガムをほぐしていく。
今世はお母さんがガム好きだからたくさん食べさせてくれたからか、何だかガムを噛んでいると落ち着くんだよなぁ。ま、前世から食べてたんだけどね、噛んでれば空腹感紛らせられるから。
……うん?
…これじゃね?耐久性上げる方法。まぁコーティングは再現不可能だとしても噛む前のガムって硬いじゃんね?
つまり、どうにかして
さっきから浮き続けているガム風船に乾燥しろと念じて触ってみると──
「ま、だめか」
ガムはしっかりと柔らかいままだし、マジでめちゃくちゃ手にくっ付く。しかもガムに穴が空いたせいで『ガム風船』ではなくなったから操作できなくなって、芝生がガムまみれ。
………掃除が大変だぁ……。
「前途多難だな…」
思わず呟く。
でも、やるんだ。たとえどれだけ道が長くて険しくても、ちゃんとたいしろーを守れるように。
だってあいつには敵が多くなってしまった。
だけど、あの野郎どもは敵であって
それでも『ワタシはいる』って示すために。
それが俺のやりたいことだから。
◇◇◇◇
あの、運命の日から何日も経過した。
今まで俺は、ただひたすらにたいしろーの傍に居続けた。イジメを受けさせないように、何があっても守れるように。
抑止力の面もめちゃくちゃにあったけど。
実際、しばらくこれをして虐めようとしたやつらを返り討ちにするだけで大分安全が出来るようになった。
まぁ、それでも石を投げてくるようなやつはいるし、たいしろーがひとりになっちゃう瞬間だって当然ある。
その瞬間ってのは、俺かたいしろーのどっちかがトイレに行くときだ。
この瞬間だけはどう頑張っても一人になるのを避けられない。
だってたいしろーを女子トイレに連れ込むわけにも、ワタシが男子トイレに付いてくわけにもいかないしね。そうなったら変態だし、そもそも羞恥心ってものもある。仕方ないってやつだ。
ただし、だからといってこの間の虐めをコラテラルダメージとして扱うのはもっての外。守ると決めたんだからちゃんと守れって話でしかない。
だから、できる限り時間は短く済ましたし、できる限りたいしろーに張り付いていた。
「うわっ!?」
「!?ッたいしろー!」
トイレから出た瞬間、たいしろーの悲鳴が耳をつんざく。
──でも、それでも、だから、また、失敗した。
個性で飛ばされたであろうこぶし大の石が、150km/h剛速球でたいしろーへ飛んでいく。
そして、着弾。
石がたいしろーのお腹をぐにゅりと歪ませる。
───幼稚園児なんて善悪の定義も他人への配慮も分からない、自分が何したいか何したくないかで動くからこそ何処までも残酷になれる怪物だ。
ワタシは俺であったせいで、分かったつもりでいただけですっかりそのことが抜け落ちていた。
だから真逆だった。
たいしろーを守ってるつもりで煮詰まったヘイトを集めていて、たいしろーの味方を気取っていただけで俺はただの醜い裏切り者だった。
ワタシはどうしようもなくたいしろーの
「…あれ……?」
「…は?」
着弾した石が、たいしろーが、まるで時間が止まったように石がめり込んだまま動かない。
あれだけの速度をもった石がぶつかったはずなのに、たいしろーは後ろに吹き飛ばされるでもなく、
「おれにも…個性が……!!」
それはまるで、石がたいしろーに衝撃も何もかもがくっ付いたかのように───
「はは……!!」
豊満太志郎
個性『脂肪吸着』
彼の身体は何でも吸着し、沈められるのだ!!!
これまでのワタシは骨折り損かよ……良かったな、マジで。
《豊満太志郎》
個性『脂肪吸着』
名前聞いたことないからモブキャラ(モブキャラとは言ってない)
イジメによるストレスで太ったから個性がちゃんと効果を発揮した。まだトト◯みたいな体型ではない。
人生観を粘々に粉々にされてるので全ての基準が粘々になってる。