よし、プロヒーローなるか!   作:しらないひと

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何を見るにしてもその色眼鏡を外さないと本当は見えないのさ。


背伸びる少女と夢見る少年

 

 

 

終礼が終わったんと同時に、何かがドタドタと教室の外から走ってくる。

それがちょうど俺らんクラスの近くで音が止まって、お人形さんみたいな綺麗な顔がドアから覗いてきたと思たら、その場でまだ先生だっているっちゅうのに大声で喋り出した。

 

「たいしろー!一緒に帰ろうぜ」

「おう、モチロンや」

 

 

俺の席は窓側って分かっとるクセにドアから話しかけてきたこの無駄にパワフルな別嬪さんは泡淡粘々。俺の幼馴染みにして、10年前に守ってくれた俺のヒーローや。

 

 

今みたいなんはほんの小さい頃から日常茶飯事で、不本意ながら粘々のテンションにはもうとっくに慣れてもうた。多分、粘々の周りにいるやつは全員そうや。

 

 

 

「今日もお熱くてええなぁ!豊満さんよ…!」

 

そんでも粘々は比喩なしにこの学校のモテ女の3本指に入るくらいの美人やから、よく冗談半分で揶揄われる。

 

 

「そういうんは粘々に10年粘着されてから言ってみぃや」

「ニヤつきながら言うことちゃうやろが!取り返しつかんくなるくらいの石投げんぞ!」

「かかってきい、全部無効にしてやるわ」

 

そんな感じに友達とじゃれながらドアんとこにおる粘々のもとへ歩いてく。

 

 

「おまちどーさん」

「おし、そんじゃ帰るか」

 

俺が話しかければ、粘々のキツくも見える端整な顔がえらく可愛らしい屈託のない笑顔に変わる。

 

 

 

 

 

──まだまだ小っこかった俺は、個性が分かりづらかったんもあってそれはもう虐められてた。でも粘々だけは味方でいてくれて、何度この笑顔に救われたんか分からんくらい救われた。その瞬間は正に俺だけのヒーローやった。

 

 

多分、本当の意味でヒーローに憧れたんはその時や。そんで本気でヒーローになろう思ったんも。

 

 

「──に見たら猫のしゅ……って聞いてるか?」

「あんま聞いてないわ」

「おい」

 

 

…そんで粘々に惚れたんも。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

「なーたいしろー、進路ってどうすんの?」

「あん?進路?どしたん急に。コレんこと言っとるわけちゃうやろ?」

 

粘々ん家で一緒に人生ゲームやっとる時に、粘々の口から突然そんな問いが飛んでくる。

まぁ、明らかに人生ゲームから話題引っ張ってきたんは分かるけどな。

 

「たいしろーがヒーロー科行くのは分かってんだけどさ、ヒーロー科の何処行こうとしてんのかなーって思って」

 

そないなことを言いながら粘々は職業をプロヒーローにする。プロヒーローちゅうんは、このゲームでいっちゃん強い職業だ。実に()()()()()()()()()()()()選択や。

 

「うーん、まぁ第一志望は士傑やろなぁ」

「ほう、その心は」

「近いし、何より雄英と並んで西の士傑なんて呼ばれてるからな。やるからにはトップを目指すもんやろ」

 

俺も職業をプロヒーローにする。単純に強いっちゅうのあるんやけど、やっぱりやりたい職業やるんが人生ゲームの醍醐味やからな。

粘々の手番に移って、スロットの回す。因みに粘々は恋愛ルートの方にコマを進めとる。理由は単純にそっちの方が強いからやな。

 

 

「そういう粘々はどうするん?進路」

「んー?たいしろーが行くとこ」

「……ん!?」

「あぁ、だから士傑になるね」

「ちょっ…いやちょい待てや!!」

 

粘々が平然とコマを進めるから一瞬スルーしそうになったけどな、今、粘々とんでもないこと言っとったよな!?な!?

 

「なに?もしやこのワタシが士傑いけないとでも?」

「そこは疑っとらんわ!俺が待った掛けたんは理由の方や!俺が行くからって、理由軽すぎるわ!」

「え~?そうかぁ?」

「当たり前やろ!士傑の!しかも!ヒーロー科やぞ!んな簡単に行くん決めるトコちゃうぞ!」

 

 

別に粘々なら士傑は行けるんや。粘々なら、今すぐにでも入学できるに決まっとる。

何しろ俺なんかより断然頭だっていいし、何よりその資格がある。

 

絶対に崩れんと信じられるような、ヒーロー足りうるその精神が粘々宿っとるんや。

 

いや、せやけど、いくら何でも理由が俺はちぃっとやめてほしいわ!恥ずかしすぎるっちゅうねん!

あ、いや嬉しくはあるんやけ────

 

 

 

「あぁ、いや、ワタシが行くのは普通科だよ」

 

「………は?」

 

 

 

俺のヒーローが、崩れる音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、ワタシはおかしいやつだ。

 

ああいや、この『おかしい』っていうのはワタシの言動とか出自とかじゃなく、もっとスピリチュアルでオカルトにも思えるような、ワタシという存在の根幹に関わるようなより深い部分のことだ。

 

 

幼稚園くらいの頃は、ワタシは割とそこら辺に居るような年相応にはしゃいで個性も弱くて、それでいてちょっと面倒くさい子供だった。

幼馴染みのたいしろーと毎日のように遊んで、ことあるごとにふざけ合っては笑い合うような本当に普遍的なやつだった。

 

そう、()()()()()

 

 

 

──ワタシが産まれた時から、ワタシの中には俺がいた。

俺は男の大人で不思議なくらいこの世界を知っていた。そして、小っさい頃はいっつもワタシに変わって体を動かす、いわゆる主人格だったんだ。

 

ただ、いつの間にか消えたのかワタシ主体で混ざり合ったのか分からないけど、今はワタシの中に俺はいない。

 

どうやら、俺は大量とも言える知識で世界を上手に歩いて行ったらしい。俺の知識もその源もワタシはほとんど知らないけど、それをもとに動いた経験はワタシにも残った。

 

といっても、もうその俺のもっていた経験も僅かに残った知識も曖昧だし、直感みたいなモノでしかそれは表に出てこない。

 

けど、それでも分かるものは分かる。

有り体に言えば、一足先にワタシは大人になっていた。

 

俺の知識が、経験が、軌跡が少しずつワタシという人格に影響を与えて、ワタシの幼い部分を埋めていってやがて精神的にワタシは子供の時代を瞬く間に駆けていった。

 

 

もしかしたら俺とワタシが交ざり合ったという仮説の結果なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

 

 

ただ、ワタシの精神は当に大人として成熟しきっていた。

 

 

俺が明確に薄れていった小学校の低学年くらい時、ワタシが表に出れば、同世代の人たちよりも大人びてると我ながら感じることが多かった。

少し、怖かった。周りから逸脱しているのが。そう、まだ残っていたワタシの幼い部分が訴えてくる。

 

 

だから、おのずと幼い自分を演じるようになっていくのは当然の帰結だったかもしれない。

 

だから口調は男勝りにして、もっと人懐っこい性格になって、何かに執着するようにした。

 

 

 

長年そうすればそれも自然体のワタシになっていって、いつの間にか小さな恐怖は感じなくなっていた。

 

みんなワタシを大人びていると見ていなかったし、むしろ子供っぽいやつだと思ってくれていたから、これでいいんだと多分、ワタシは安心していたんだと思う。

 

 

ただ、たいしろーだけはワタシの本質に気付いていたんだ。

ワタシの精神が成熟していて、現実的な、冷めた思考回路を持ってるってことを、たいしろーは気付いていた。

 

嬉しかった。

だって、たいしろーはワタシの外面と考え方のズレを知っているから一緒にいて楽だったから。演技を意識せずに本当のワタシをさらけ出せる居場所でいてくれたから。

 

でも、それを延々と続けるわけにもいかない。

 

 

 

何故なら、この世界でワタシは脇役で、たいしろーは主役だから。

 

 

 

これは、ワタシが主人格になってからずっと直感的に分かっていることだ。

 

ただの根拠の無い直感なら当然ワタシは無視していたよ。でもこの直感は俺の影響で生まれた方の直感だ。

俺の直感は異次元にも思える知識の成れ果てた末路、それがそう簡単に外れるわけがない。

実際、この直感が外れた試しなんてほんの2回しかない。

 

 

だから、どこかでワタシはたいしろーから離れなくちゃいけないんだ。いずれ、プロヒーローとして成功を収める、たいしろーの邪魔を、しないために。

 

 

 

だってそれがワタシの望みだから。

 

 

 

まぁ、いきなりはワタシが耐えられないから少しずつ離れていくつもりだけど。

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

──中学3年の春。

 

 

 

「アアアァァッ!!」

 

いつものようにたいしろーと一緒に登校していると、ワタシ達の目の前を叫びながら何かが遮った。

それは自動車ほどの大きさで、ワタシの目がおかしくないのなら、それは人だった。

 

この超常社会において個性の無断使用は法律で禁止されてる。

禁止されてるといっても迷惑行為でなければ黙認されてるけど、明らかに今のは通行の妨げにしかなっていなかった。

というか、アスファルトやコンクリートを砕きながら進んでいる。

 

 

つまり──(ヴィラン)

 

 

「っおいたいしろーここから……っていない!?」

 

さっきまで左隣にいたはずのたいしろーが、いない。

まさかと思って(ヴィラン)の走り去っていった方向を睨めば、道を破壊していく(ヴィラン)にしがみつくたいしろーの姿が。

それも、上手いこと間接部に入り込んで動きを制限していた。

 

 

 

「あんのヒーロー精神野郎め…!!」

 

 

それを見たワタシは、半ば無意識にガムを口に放り込んで走る。目指す先は当然あの(ヴィラン)

 

 

 

 

走る、走る、走る。

 

 

 

瓦礫を避けて跳び越えて更に先へ。

 

 

跳ぶ、走る、跳ぶ、走る。

 

 

 

思い出したかのようにスマホを取り出して電話を掛ければもう懸念はない。

 

たいしろーが上手いことしてくれたのか、進むにつれて瓦礫が少なくないっていく。

 

 

あとはただひたすらに走るだけだ。

 

 

 

走り、走り、走り、走り。

 

 

 

走って、走って、走って、走って。

 

 

 

 

 

 

でもあの(ヴィラン)はかなり速くて、障害物のように瓦礫が積み上がるこの道ではたとえ天地がひっくり返っても追いつけない。むしろ、突き放されているのもののまだ追えているのだから上出来かもしれない。

 

 

 

───でも個性なら、ワタシの『バブルガム』なら…!

 

 

 

生まれてから飽きるほどやってきたように風船ガムを膨らませていく。そうすれば、綺麗でテニスボール程の大きさのガム風船が完成する。

 

そしてこれも、飽きるほどやってきたように口から切りはなそうとして、──止まる。

 

 

だってワタシが今、こうする必要はなかったから。

 

 

冷静になれば、こんな暴れ方をしている(ヴィラン)がプロヒーローの一人にも見つかってないわけがないし、そもそもワタシがさっき警察に電話を掛けたんだ。

あと数分もすれば頼りになるプロヒーローが駆け付けてくれるはず。ワタシがわざわざ個性の無断使用という、逮捕一歩手前の行為を起こす理由がない。

 

だいたい、たいしろーだって(ヴィラン)にしがみついた時は考えてなかったかもしれないけど、あいつはバカじゃない。むしろ天才の部類だ。

今ごろ安全に離脱する方法か(ヴィラン)を食い止める方法を考えついてるに違いない。

 

 

だから────

 

 

 

「はよ止まれやァァアッ!!」

「うっとうしいわクソガキ!」

 

 

その時、(ヴィラン)がついにたいしろーに手を出した。その一撃は重く、たいしろーは途轍もない速度で地に伏した。

 

 

頭が真っ白になった。

 

そりゃあ、(ヴィラン)だから、手ぐらい出すだろうさ。むしろ、今まで許されてた方が驚きなくらいだ。

 

でも、でも。

 

たいしろーなら殴られないと思っていた。思い込んでいた。だって、たいしろーはこの世界の主役なんだから。

『直感』だと物語はまだ先のはずで、でもたいしろーは今危機に陥っていて。

 

 

なんで、どうして、なんで。

 

 

たいしろーが殴られたという事実に怒りが湧いて、同時に『直感』と現実の差異に混乱して、頭がどうにかなりそうだった。

 

 

 

 

──そこにはワタシの思考はなくて、ただ、でも、ワタシの身体は勝手に動いていた。

 

 

個性で操るガム風船を掴んで車並みの速度を出して、ただたいしろーの元へひたすらに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度こそ…()はたいしろーのヒーローに───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いた時には、俺は病院のベッドで寝ておった。

 

一瞬、何が何だかわからんくなったが、徐々に思い出していく。

 

たしか…登校中に(ヴィラン)に遭遇して、考えなしに飛び付いて、巨体やっちゅうのに何とか押さえ込もうとして、そこから……………分からんわ、記憶がそこで途切れとる。

 

 

そんなとき、突然横の方から器用に小さく叫ぶ、えらい聞き慣れた声が。

 

「お、起きたか!たいしろー、おはよう」

「おう。粘々、おはようさん」

 

声を掛けられ身体を起こせば、そこには粘々が俺の横に座っておった。

 

「具合は大丈夫か?」

「あー、まぁちっと体痛いな」

「はぁー……なら良かった」

「よかないわ!痛いっちゅうたやろ!」

 

何が「なら良かった」やねん!それは何ともないときのやつやろ!こいつ、俺のことなんやと思っとるんや!

 

「…確かにそうだ、大丈夫ではないか。でもあの速度だったからなあ…」

「…えっ?俺、とんでもない攻撃うけとったんか?」

 

 

そんな質問を粘々に投げかければ、粘々は両手でお椀みたいな形を作って答えてくれる。

 

「そりゃあもう、こんくらいのクレーターができるくらいには*1

「なにそれ怖ぁっ!?なんで生きとんねん俺!?」

「あ、でも幸いなことに後遺症はないらしいよ。よかったなぁ」

「えぇ……俺の体どうなっとんねん…個性か?個性のお陰なんか?」

 

そんな自分の個性の神秘を感じながらまた寝っ転がると、粘々は担当の医者をよびに行った。

 

 

その後、俺が病院に運ばれてから1日が経っとることに仰天して、あのリカバリーガールがこの病院に来とることにまた仰天して、あと1日だけ入院することが告げられた。

 

 

 

 

◇◇◇◇

 

 

 

 

「なぁたいしろー」

「なんや」

 

たいしろーが寝てるベッドの横にある椅子に腰掛けて、昨日のことについて話す。

 

「お前、自分を犠牲にまでして(ヴィラン)足止めしてさ、最高にヒーローしてたよ。」

「そうかもしらんけど、俺は…」

「関係ない」

 

どうせ結局返り討ちにあったとかを言い出そうとしてるたいしろーの言葉をそこで止める。

 

「それはヒーロー精神というものには関係ないんだぜ?たいしろー。……お前のその行動はあの時間違いなく凡百のヒーローを超えたんだよ。少なくとも、ワタシの目にはそう写った」

 

 

 

そうだ。あの時のたいしろーは間違いなくこの物語の主役だった。そして、ヒーローだった。

 

 

 

でも、あそこでワタシが回収しなかったらたいしろーは多分、死んでいた…はずだ。

 

その原因は間違いなくワタシ。

ワタシの何かの行動で、この世界の神が描いた筋書きのようなものからワタシが外れて、その影響でたいしろーにまで影響を及ぼしてしまった。

 

つまり、もう『直感』なんて信用ならない。少なくともワタシ周りじゃあそのはずだ。

 

 

……もういい加減、役にはまるのは辞めよう。

 

今回の出来事で分かったんだ。ワタシは結局、『直感』に頼りきりで、全てを見通した気になっていた子供だ。

こんなのが大人だなんて片腹痛い。

まだワタシは誰かを守れる大人になんて成れてやしなかった。

 

 

だから。

 

「なぁたいしろー」

「なんや」

 

守れなかったからこそ。

 

「ワタシも、お前みたいなヒーローになれるかな」

 

 

せめて、ワタシはたいしろーを───

 

 

 

「……もうなっとるやろ。なんなら軽く超えとるわ」

 

「ハハッ…そっか…!たいしろーをも超えるのか。それなら…」

「?それなら………なんや?」

「…よし、プロヒーローなるか!ワタシとたいしろーで!一緒に!」

「──っっ!!あぁ!もちろんよ!二人揃って、トップヒーローや!!」

 

 

 

───そばで支えていたい。たとえ脇役(ワタシ)があまねく主役の生きる運命にどんな波紋を生もうとも。

 

 

 

だってそれが、ワタシの選んだ道だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これがたいしろー…いや、『太志郎』のオリジン。

 

 

そして…背伸びを辞めた、『ワタシ』のオリジン。

 

 

 

 

 

 

 

*1
大分誇張してる







背伸びる少女は背伸びを辞めて、夢見る少年は夢を追い始めた。互いは互いを見始める。やがて賽も小石も投げられた。



ここで『《よし、プロヒーローなるか!》完結』って銘打ってもいいんじゃないかなって思ってる。というか書き始めたときはそのつもりだった。
というわけでこれにて、第0章《『   』:オリジン》、完結です。

おかしいなぁ…ここの話、脳内プロットでは単話の予定だったんだけどな、なんで3話もあるんだろう…不思議。

因みに、泡淡粘々というキャラは別にモブに憑依したとかの設定ではなくシンプルにオリ主としてポップした設定なので、ワタシちゃんは本来の泡淡粘々とかではなく、バグで俺くんの魂が転生前に漂白されず、生まれてから徐々に漂白されていった結果というだけです。
なのでタグにもある通り太志郎もといファットガムの過去はすべて捏造です。


二話目書き終わったあたりから続きも書こうと思った関係上次回から不定期になりますが…それでも見てくれる方は、また。


…そういえば粘々ちゃんの個性、全くつかってないなぁ…

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