なので学生編は短い予定です。多分2話くらい。
では本編どうぞ。
スタートラインのスタートライン
──今日は2月の某日、士傑高校の入学試験日だ。
ヒーローになると決断したあの日から10ヵ月、ワタシはそれをひたすらに個性の訓練に費やした。
なんてったってワタシの個性はマジでクソ雑魚なもんで、幼稚園の頃も含めて通算2年弱もの時間をかけないと合格できる自信が湧かなかったんだ。
そのお陰で、たいしろーと仲良く勉強会~的なことはできなかったけど……!!くぅ……勉強会……やってみたかった……!!
まあでも、結局のところヒーローの道にある関門は実技だけだし、やっても無駄だったし、いいか……
え?筆記試験で落ちるかもしれない?舐めてるのかって?そんのもんワタシの辞書に載ってない。失せろ。
そんな感じに思考しながら士傑高校までの道を進んでいく。
そんなとき、一つ重要なことをきめていなかったことに気が付き、たいしろーに話しかける。
「なぁたいしろー、合格祝いって焼き肉かたこ焼き、どっちにする?」
「気ぃ早いわ!!……焼き肉がええな」
「おっ焼き肉ね、珍し~」
◇◇◇◇
「では、実技試験にて行ってもらうことの説明を始める」
士傑高校の中に入って、ワタシたちと同じ受験生が大勢いる部屋の
「まず、外にある演習場まで移動し、そこで受けてもらう。演習場については受験番号ごとに場所が割り振られるため、後ほど掲示板に貼り出されるため確認しておくように。」
へぇ、今確認するんじゃないのか。そういうのは紙を渡すとかで間違えないようにされてそうなもんだけど。
あ、もしかしたらアレかな?極力受験生のあいだに協力関係をなくすようにするため、みたいな?
「そして内容だが、演習場内には二種類の人形が大量に設置されている。一つは赤色の
……なるほど、つまりは制限時間内でどれだけ
でも、なんか引っかかるんだよな、これ。特に言い方が。
素直に解釈すれば、これは
人形に配点差がないっていうのは戦闘方面のヒーローになりたいやつと救助方面のヒーローになりたいやつに点数差がないようにするためのシステムで、試験中の行動うんぬんは人形を無視しちゃいけないよってことだろう。
でも、これにはスルーしてしまいそうな疑問点がいくつかある。
文中から引っ張ってきてみると、人形を要救助者ではなく
他にも、人形の数は
やっぱり不審点が多すぎる。何か意図があって然るべきだろ、これはマジで。
…いや、ワタシの考えすぎか?
「では、各自移動を開始してくれ」
まぁ、心配し過ぎで困ることはない。だってハードルはより高く想定して跳んだ方が確実なんだから。
◇◇◇◇
あれからしばらく身体を温めながら移動して、指定された演習場の前まで着いた。
因みにワタシの隣にたいしろーはいない。予想通り、この演習場の振り分けシステムは事前に協力関係を結べないようにするためらしく、受験番号が連番の人だったりは少なくともワタシの目には見あたらない。当然幼馴染み関係はもってのほかってわけだ。
まぁ、仕方ない。これからもなんでもかんでもたいしろーと一緒なんて都合のいい展開は少ないだろうし、その練習ってだけだ。
想像通りというべきか想像以上というべきか、待機場所にはワタシと同じ受験生が唖然とするほどごった返しになっていて、ストレッチだの精神統一だの持ち物の確認だのをそれぞれ自由にやっている。
当然、ワタシも持ち込んできたガムをすぐ取り出せる位置に入れ直したりとか、個別包装のやつを簡単に開けられるようにするための最終調整をやったりしていた。もちろんガムは噛んでないけど。
何故噛み始めてないんだと言われれば、それは単純にルールだからだ。
今ありがたく活用させてもらっているこの持ち込み制度。
当然これはワタシみたいな+αが必要なやつのための制度なんだけど、もちろん誰でも彼でもこの制度を利用できるわけもなく、利用には事前に申請が必要かつ、持ち込む物のそれ相応の理由を説明し許可を得なくてはいけない。
例えば、『個性の使用にガムが必須なので、ガムを持ち込みます』みたいな感じ。
そして許可を得るには『必須』じゃなくちゃいけない。必須ではない物も持ち込みOKだったら、極論『楽に合格したいので、戦車を持ち込みます』がまかり通ってしまうからだ。実力を視るための入学試験でそんなことはあってはならない。
因みにこれは別に説明されたとかではなく推論。でも恐らくこれで合ってるはず。
だって、こうじゃないならワタシはガム以外にも空気入れと交換用のカートリッジも持ち込んでこれた。だけどそうはならなかったことから説明がつく。
で、少し話がそれたけど、何故ガムを噛まないかの理由は、装着が必要なサポートアイテムなら話は違うけど本来持ち込んできた物は普通はない物だ。その普通はない物を、試験に使うものを試験開始前に使い始めるなんて言語道断っていうわけ。
当然、個性も受験生の全員が試験開始まで使用禁止。
『では…試験、開始!』
そうこうしている内に、スピーカーから声が聞こえてきてついに試験が開始される。
ついさっきも聞いた声が響くと同時にワタシ含めて全員が演習場に雪崩れ込んでいく。
そして演習場に入ったその先には、ちょうど全員の目の前に緑色の人形が3つ立っていた。つまりは民間人人形、この試験においての得点。
それはもう、引くくらいに集る受験生。たった3つの人形でこれだけ争うのはこう……正直キモい。イメージは誘蛾灯に吸い寄せられる虫だ。
この光景を見ながら、あえてワタシはそれを無視してその人形たちの後ろ方面に走る。いや、ガム風船を掴んで移動してるから走ってはないけども。
打算的で悪いけど、ワタシの予想ではこの行動に1、2点くらいは入るだろうから。
ワタシの予想では、この入学試験はヒーロー活動についてどれだけ知っているかを筆記ではできないところで競うものだ。
ワタシが思うに、ヒーロー活動で重要なのは戦闘能力うんぬんの前に判断力と発想力だ。今どうなっているか、今どうするべきかはヒーローという職業をやる上で確実に必須。
試験官が視ているのどういう行動をしているかのはずで、だからこそ動かない人形を使った。
人形なら持っている設定を崩さないままに長時間同じ体勢でも状態が変わることもない。そして見た目に差異がないのも、外見以外で怪我人かそうでないかを表すのに最適でしかない。
ワタシの考察があっているのなら、外見以外で怪我人かを表すのはそうすれば分かりやすく判断力を問えるからだ。
さっきの民間人人形なら、自分の足で立っていて、ヒーローのもとまで逃げられていた。明らかに軽傷、或いは無傷の要救助者ではない
つまりあそこで足を止めるのはナンセンス、試験官の言う適切な処置はあの民間人人形が逃げてきた方向へ向かうこと。そっちに
その考えに従ってワタシはぐんぐんと演習場の中心へと進んでいく。そして、それに比例するように市街地を模している演習場は崩壊度が増していく。
そんなとき、視界の端に灰色のコンクリートの瓦礫の中に鮮やかな緑色が顔を覗かせる。
そっちを半ば反射的に見れば、まるでフィクションの中にでも入っちゃったんじゃないかと思うほどアクション映画で見慣れた、脚を潰されている民間人人形が。
ワタシは進行方向を変えてその民間人人形のもとまで移動して、首を捻る。
「……これ、どうやって退かすか」
そう、残念ながらワタシ一人にこのドデカい瓦礫は退かせない。ワタシが2、3人いればよかったんだけど、ワタシにそんな分身能力はない。
…仕方ないな。誰かに手伝ってもらおう。
「おーーい!誰かーー!こっちに瓦礫に潰された人形がいる!瓦礫を退かすの手伝ってくれーー!!!」
…………。
待てども待てども返ってくるのは静寂だけ。
マジか、誰もいないわ。
まぁそれもそうか。
ワタシは自慢じゃないけど個性の応用で、ガム風船を割れないようにして掴み、それでガム風船を操作すればかなりの速度を出して移動できる。どうやって割れないようにするかといえば、形を保つという操作をするだけ。何分、そういう個性なもんで。
で、それで急いで中心へ向かってたんだけど…それがこんなところで裏目に出るなんてマジで思わなかった。
マズいな。この民間人人形は脚が潰れている重症、仮に抜け出させられたとしてそのあとに大分な時間が拘束される。
そしたら点稼ぎができずに不合格、だからといって無視すればヒーローの行動として不合格。
なら、どうするべきだ。
ワタシは何をするのが最善だ?
何か、なにかあるはずだ。
不合格にならないやり方が。
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………分からない。
分からない。
少なくともワタシには分からなかった。
ガム風船で運ぼうにも結局は目の届かない場所は操作が難しいからダメ。
普通に運ぼうにも人を一人背負ってなんて遅くて時間がもったいない。
でも、この民間人人形を見捨てれば合格なんてできないだろう。
ワタシには最善の答えは出せなかった。
──でも、答えは出せなくても応えることはできる。
ワタシは民間人人形を潰している瓦礫の間にくるよう噛んでいたガムを膨らませて、割れないように操作しながら瓦礫を持ち上げていく。そうして中腰になれば入れるくらいの隙間ができれば、そこ潜り込んで民間人人形を脚に負担がかからないよう持ち上げる。
こんなこと今までやったことなかったけど、何とか上手くいってよかった。
そしたら持ち上げていたガム風船を流用し民間人人形を乗せて、この演習場の入り口まで運んでいく。
この行動は結局のところ打算だ。
要救助者を無視する合理主義者より、要救助者を助けるアホのほうがまだヒーローになれると思ったからだ。正直、普段のワタシなら前者を選ぶ。
それでもたいしろーとヒーローになると誓ったんだ、薄っぺらな自分なんていくらでも曲げてやる。
──その後、一体の
◇◇◇◇
「泡淡粘々の実技点数…やはりもう少し下げてもいいのでは?」
「なにを、むしろ上げるべきだろう。すべて最適解だったのだから」
「だがその総数が少なすぎる上に、最初の人形を全くの無視だぞ。そもそも例年は3体がラインだっただろうに」
「数の問題は今までの全員に減点行動があり、彼女にはなかったという話なだけだ。それに最初の人形の無視は減点にはならないはずだろう。むしろ今年はあれだけ群がって──」
「まあまあいいじゃあない、お二人さん?あなた達以外はこれで納得してるんだしさ。一人のことで延々と議論を踊らせるより他の子の点数も決めていきましょ。もおっと時間があるならそれでもいいけどさあ」
「…そうだな。なら、泡淡粘々の点数は48点で決定とする」
◇◇◇◇
受験番号8506、泡淡粘々。
実技試験──48/100点。
筆記試験──570/600点。
───合格。
試験内容考えるのすごく大変だった(こなみかん)。
人形一体の配点──最大20点、最小-5点。
その他行動の点数変動──最大10点、最小-10点。
こんな配点だから理論上100点を超過して点数稼げる。
ただほぼ全員減点行動しちゃうんでそもそも100点までいけないし、減点しなかったとしても今回の民間人人形みたいなトラップがあるから無理。いけるとしたらオールマイトだけ。
粘々ちゃんの点数計算。
加点要素。
・人形──最適解、20点。×2
・判断──瞬時に行動をとれる、1点。
・移動──速く周囲も見える速度、2点。
・避難──安全確保をした、3点。
・索敵──改めて
減点要素。
なし。
小ネタ。
受験番号の8506は、バ(8) ブル(ダーツで50) ガ ム(6)