その分短い話が複数まとめられているという満足感が高くなっている回(そうであって欲しい)なのでご容赦をば。
では本編、どうぞ。
入学前
「ほんじゃ、合格おめでとうな!カンパイ!」
「おめでとー!カンパーイ!」
コーラとウーロン茶の入ったグラスがぶつかり合い、カチンッと子気味のいい音が響く。
ワタシとたいしろーは士傑高校合格祝いっていう名目で親から金をごっそりと毟り取り、ここら辺じゃ1番高い焼き肉店に来ていた。
もちろんコースは食べ放題のやつ。そのためワタシ達も当然、めちゃくちゃ食べて元を取る気満々である。マジで店の文字を真っ赤っかにしてやるからな、覚悟しろってね。
「そんじゃあ早速、肉焼くぞ!で、何から焼くよ?」
「あ~、まずは牛タンやな」
たいしろーからそんなお言葉が飛んできたのでそれに応えて……というかワタシも食べたかったしナイスたいしろー。
それで、あらかじめ頼んどいたハラミとカルビの中から牛タンをサラダごととりやすい位置に動かした。
「りょーかーい隊長!ではでは~牛タン、着火!」
「オイ、焼くってそういう意味ちゃうわ!っちゅうか誰が隊長や!」
「ふふっ……あ、店員さん!上ハラミと厚切りカルビ、あとサンチュもください。たいしろーはなんかいるー?」
「せやなぁ…ほんならミノとキムチと────」
肉が焼けるいい匂いが食欲を存分に刺激する。そろそろ牛タンをひっくり返しておこう。
───2時間後。
またハラミの皿が空になった頃、ワタシは箸を止めていた。
「ふぅぅ………そろそろキツくなってきたな。たいしろーはお腹の具合、どう?」
「そやなぁ…ま、大体今半分くらいやな。……食えへんなら俺が残り食べて終わるけど…どうするん?」
「愚問だね、まだ食べるに決まってる」
確かに箸は止めたけど、食べられないとは言ってない。焼き肉はまだまだこれからに決まってる。ワタシ達の焼き肉はこれからだ。
「おっしゃ!それでこそや!ほんじゃあもう少し肉頼んどくか。………そこの店員さん、注文ええか?…………え?ダメなん?……食い過ぎ?…………俺ら出禁?」
…………ワタシ達の焼き肉は終了しました。また次の焼き肉をご期待ください。
今日の戦果。
牛タン────4皿。
ネギ塩牛タン─3皿。
ハラミ────2皿。
上ハラミ───4皿。
カルビ────1皿。
上カルビ───3皿。
厚切りカルビ─4皿。
ミノ─────2皿。
マルチョウ──1皿。
サンチュ───3皿。
白米─────3杯。
キムチ────2皿。
飲み物────6杯。
入学後
入学からなんにもか経ったある日、くあぁ…とあくびをしながら適当に授業を聞き逃していた。
正直授業はつまらない。
まぁ、ちょくちょく知識が全く反応しないのもあるけど、そういうときは普通にやればいいだけだし、楽な作業よ。
そうして授業時間は終わり、先生は最後に、とワタシを指した。
「泡淡、お前授業ちゃんと聞いてなかっただろ。これ解いてみろ」
「15」
「……正解だ」
ふっ…これが才能ってやつなのか…つまらないものだ。
ちなみにたいしろーとはクラスが分かれてしまった。
くっ…これが運命ってやつなのか…残酷なものだ。
1年の体育祭
「オラァこれでも喰らえぁッ!!!」
リレーの種目でトラックを走っていると、ゴムボールがトラックの横から飛んでくる。それはもう恐ろしい速度で。そしてワタシはそれを何とかギリギリ、ガム風船で受け止める。
「アブっ…!っ今マジで危なかったよなぁ!!殺す気でもあんのかよ!?オイオイそれでも教師かコノヤローッ!!」
「残念かもしれんけどそういう競技なんだ泡淡!一応手加減してんだからしゃんと避けろよ!!」
──士傑体育祭名物、妨害リレー。
複数の教師が生徒のリレーを妨害する畜生競技。一部の教師はすごい活き活きとしながら生徒に個性をぶち当てる。
「おっしそっちもだ!」
「んなもん俺には関係ないわ!ほんじゃ、返しとくで!」
「は!?あ、ちょっやめろ、豊……イッタァ!!??」
──士傑高校は今日も平和であった。
「ウオオ!ラディカ○ビーーーームッ!!」
「えっ先生っそれ他作品のや──ぎゃあああ!!!」
───………………………平和…。
職場体験
「オクロックさん!これからしばらくお世話になります!」
「うむ、気合が十分あるようだな。その気合を体験とはいえ、お前自身が思うヒーローとしての活動をすることに向けろ、未来のヒーロー『
「はい!」
と、いうことで、ワタシはこの前決めたヒーロー名『ファンシーガム』として、かのNo.6ヒーローであるオクロックの元で職場体験をすることになった。
「ひとまず、君はどういう個性で何ができるんだ?活動としても指導としてもそれを把握しておきたい」
とのことなので、包み隠さず簡潔に説明する。
「えーと、『バブルガム』っていう個性でガム風船を自由に操れます。安定した状態で一度の最大操作数は4つで、簡単なガム風船の変形とガム風船を割れないように操作できるって感じです」
「なるほど。操作のことについてもう少し詳細に説明できるか?」
ワタシが洗いざらい話せば、説明不足だったのか、それとも何か気になったことがあったのか、オクロックから質問が返ってきた。
ここの説明詳しくするのが大変というか何というか……とにかくアレを知ってると知らないとで大分変わるからな、とりあえずそのことを聞いておかないと。
「分かりました。……ところでオクロックさん、『トポロジー』というものはご存知ですか?」
「…いや、知らないな。俺にどういうものなのか教えて欲しい」
どうやらワタシはハードモードに突入するらしい。
「簡単に言うと、図形の形状ではなくつながり方のみに注目した数学の分野なんです。ようは図形そのものを粘土のような引き延ばしたりできる物として定義し、図形に存在する角と窪みや歪み、体積は一切考慮せずに図形に空いた穴だけを考え、変形させたりする…というものです。有名な例を挙げるならば、マグカップとドーナツは同じ図形であるとする理論ですね」
「あ、あぁ…なるほど。その例は聞いたことがある」
オクロックはここまで難しい話をされると思っていなかったのか、ややポカンとしながら話を聞いて、ワタシが最後に言った例で記憶の片隅から『トポロジー』の理論の概要を引っ張り出すことができたらしい。
「そして、その考え方を流用して個性を昇華させました。『ガムの膜に空洞』があり、その『空洞は外に通じる穴がない』という図形にガム風船を固定するという操作をするけど、でもその固定の操作は硬直するものではない。…つまり、そこさえ守っていれば自由自在にガム風船を変形し、縦横無尽に動かすことができる、というカラクリになっています」
「…………その……凄いな、まだヒーローとしての本格的な訓練は数ヶ月前に始めたばっかりだというのに……既にここまでとは。……本当に、君は将来有望だな」
「っありがとうございます!」
ワタシの感謝を皮切りに、会話が途切れた。そしてそのままスタスタと歩き出すオクロック。
………えっ?何も声かけとかないの?ほら、「行くぞ」とか「着いてこい」とかマジでないの?あなたもしかして不器用ですか?まぁ別にいいんだけどもさ。
「あ、でも、なんでそんなことを聞いてきたんですか?」
「あぁ…まぁ少し、な」
(何かアドバイスをしてあげようと思って聞いたら予想以上に複雑で理解しきれなくて何も言えなかったとか言えない………トポロジーとやらなのは分かったが何でその…固定…?をしたのに動くんだ……?)
今は丸ーいガムが怖い
ウチの名前は
──愛罠施捉、個性『トラップ』。触ったものを罠に変えることができる!ブービーからセンサーまで何でもござれだ!
実はウチ、入学したときからとある男の子に片思いをしているの。その男の子はウチたち新入生の代表で、入学式の時の壇上に立った姿に一目惚れしちゃったの!
その男の子は、豊満太志郎さんっていうとってもイケメンな方。でも豊満さんはただイケメンなだけじゃなくて、すっっごく優しい人でクラスどころか学年で慕われてるくらい良い人なのよ。
だからウチは、1年間豊満さんと話したりして仲良くなって、やっと今日、告白します!
「豊満さん、今日帰る前に時間もらっていいかな?」
「あー…おう、大丈夫や」
「そ、それじゃあその時間的に校舎裏で!」
──そして、あっという間に時間は流れて放課後の校舎裏。
ウチは今から運命の糸をたぐり寄せるのだ。
「あ、あの!」
「おう、なんや」
「ウチと!付き──いいいいいい!?」
何故か突如としてウチの身体が浮かび上がる。ウチはもちろん、豊満さんだってめちゃくちゃ困惑した顔を浮かべた。
いやほんとに何が起きてるの!?
そのままウチは豊満さんに見られながら謎の力に浮かされて、校舎の屋上まで連れ去れてしまった。
そしてその屋上にいたのは、隣のクラスの豊満さんの幼馴染みこと、泡淡粘々さんだった。
彼女とは特段関わりがないどころか話したことすらないんだけども、何故だか今は連れ去られた理由が分かる気がする。
確実に「豊満さんに手を出さないで!!」的なニュアンスの言葉がぶつけられるに違いない。
「あ、あの…ウ」
「初めまして、愛罠さん?」
「……はい、初めまし」
「恋愛禁止」
「…………はい?」
「士傑って恋愛禁止なんで」
「……あれ、そうでし」
「恋愛禁止なのマジだからそういうの辞めときな?」
「………なるほど」
ウチが返事を返す前に泡淡さんは、半透明で球状の…確かガム風船に乗って屋上から降りていった。
(…………よし、豊満さんに告白の続き言いにい───ヒュッ)
ウチも屋上から出ていこうと思った次の瞬間、大量に視界に入ってくるカメラ入りのガム風船たち。よく見ればスピーカー入りのもある。
『マジで……ね?』
「っ!?……はぃ…」
───ウチの嫌いな物にガムが追加された瞬間だった。
2年の体育祭
『さぁ最も速くお題を引いたのは泡淡選手!続いて花﨑選手も──』
ワタシはトラックの中継地点にて、『お題』と実況されている一枚の折られた紙を開いて、即座にトラックから大きく外れて走り出す。
目指すは最近ト○ロ化してきたたいしろーだ。
──士傑高校体育祭名物、奪いもの競争。
借り物競走を強奪に形式を変えた競技。奪われる側は最大限の抵抗をしなければならない。無論、危ないのでこの強奪は生徒間限定である。
「っていうわけで!一緒に着いてこいたいしろー!」
「どういう訳や!ムリに決まっとるわ!」
「煩い!答えは聞いてないんだよ!」
既に膨らませておいたガム風船の内の3つをたいしろーへ飛ばす。が、たいしろーはそれをものの見事に躱してしまう。
──ときに、個性というものは相性の良し悪しがあるということは知っているだろう。火は水に弱いし、戦車は地雷に弱い。当然そういう相性は、最もといっていいほど戦いにおいて重要な要素。
そして、ワタシとたいしろーはどうなのか?実はそんなもの、火を見るからに明らかだったりする。
それは──
「マズっ…!!」
「おし!取った!」
ワタシの有利だ。
だって
「たいしろー、もう捕まえたし素直にはこばれてくれよ?」
「はいはい、わかっとる」
当てたガム風船でそのままたいしろーをゴールテープまで運んでいって1位でゴー──………ルといきたかったけど、残念ながら僅差でワタシより先に別のやつがゴールして、2位になった。
ただ、この競技はここで終わりじゃない。
何を隠そう、これは借り物競走を元にした奪いもの競争。持ってきたものが係の人にお題に沿っていると認定してもらわなくてはいけない。
ワタシはたいしろーを連れて係の人に見てもらう場所に並ぶ。
「──えーと……うん、大丈夫だね。じゃ、2着の人どうぞー」
「はーい。で、これね」
呼ばれたからお題の書かれた紙を渡しながらたいしろーを見せつける。
「えっ?……あー、フフっ…!はいはい、なるほどなるほど~!そっか!良いね!」
というわけで無事オッケーをもらったワタシは2着に確定して奪いもの競争は幕を閉じた。
「なぁ粘々」
「なに?」
「結局、どないして俺?どんなお題だったん?」
「あー、お題はね、『クッション』だったからさ、まぁ…たいしろーかなって」
「………そうなんやな」
仮免許
1つ問おう、仮免試験の初動に必要なのはだと思う?そう、雄英潰しだ!
というわけで。
「これでも喰らって退場しろ雄英!!」
「フッ…なんのこれし───あっヤバっ!?」
『
よし、着弾。
──酸稲幸酢、個性『酸性』。手のひらから酸性の液体であればなんでも出せる!因みに出番はもうない!
この仮免試験の内容は、ザックリいうと的当てゲーム。
身体のどこかに計3つの的を付けて、3つ当てられたら脱落。逆に誰のでもいいから3つ的に当てれば合格というもの。
そんな感じだから、ワタシの操るガム風船に試験で配られたボールを付けてある程度適当に飛ばせば当たると思ってやってみたけど、まさか本当に当たるとは。
『泡淡粘々、合格』
というかマジでこんな簡単に合格しゃちゃっていいやつなの?これ。
『黒瀬亜南、合格』
そうして試験は続いてく───なんてね。
3年の体育祭
開始の合図とともにワタシたちは綱を引き合う。
だけど、対戦相手の内の一人であるたいしろーはいきなり寝そべった。一瞬どういうことか考えて、そして答えが頭に浮かび、同時に答えが結果として返ってくる。
──士傑高校体育祭競技、クラス対抗綱引き。
何の捻りもなく本当に普通の綱引き。個性の使用は可。
「それズルだろ!?」
思わず叫ぶワタシ。
だって仕方ないでしょ!
…よし、一旦頭を冷やそう。まずは状況の整理から。
綱が動かない仕組みはこうだ。
たいしろーが寝そべることで、たいしろーを挟んで綱と地面が繋がる。そこでたいしろーが個性で両方を吸着することで、『絶対に負けない綱』を作り上げたんだ。
……これさ、どうやっても勝てなくね?マジで動かないよこれ。………ヤバ。
───結果、綱引きはワタシたちの敗北に終わった。
卒業
「粘々センパイ!おめでとうございます!」
「ははっ、ありがとね」
後輩との交流も熟しつつ、一際目立つ人だかりの中に文字通り飛び込んでいく。
「よっ!たいしろー、卒業おめでとー!」
「おう、粘々もおめでとうさんな!」
何故か周りからキャーと上がる黄色い歓声をBGMにして、浮かんだガム風船からたいしろーにダイブした。そんなワタシをたいしろーはしっかりと受け止めてくれる。
まぁそれはどうでもよくて、この卒業をもってしてワタシたち三年生は正式にヒーロー活動を認められたんだ、次にやることなんて決まっている。
「よし、そんじゃあ正式に事務所立ち上げるぞ!できれば明日くらいに!」
「せやな、むしろさっそく立ち上げてもええんやないか?」
そう、事務所の立ち上げだ。といってもワタシたちは少数派なんだけど。
ヒーロー科を卒業したあとは2パターンの進路がある。1つは既に活動しているベテランのサイドキックとして見習いをするもの。そして、ワタシたちのするようにいきなり事務所を立ち上げること。
なぜ立ち上げが少数派かというと、お金の問題が大きかったりする。プロヒーローという職業は公務員とはいえ完全歩合制かつ、事務所を持つとなると、いわば社長になるということ。当然事務所の維持費もあるし、初めのうちは稼ぐことができるのかも分からない状態で、めちゃくちゃ大変らしい。
その手続きも大変だし、サイドキックとなればそこら辺とはしばらく縁がないわけで。
そもそもとしてプロヒーローは人気商売でもあるから、人気の獲得をできるまでいつまでなのかが分からない不安も新米ヒーローの最大の敵とも密かにいわれている。
その点ワタシたちは『士傑の卒業生』っていう肩書きが味方してくれるから、そこは楽になっていたりもするけど。無論、雄英には敵わないけどさ。
そういう理由で事務所を持つということは思ってる以上に大変なわけだ。
それでもいきなり事務所を立ち上げるメリットこそが、『若手の新米プロヒーロー』っていう肩書きである。基本的に人って生き物は『新しい』とか『若手』っていう言葉が大好きで、簡単にニュースやSNSでピックアップされることができる。
中規模以下の学校ならメリットたり得ないがそこはヒーロー科の2トップ校、世間様の目に止まりやすいわけだ。
ただ、だからといって楽観的に事務所を立ち上げはしない。
ワタシたちがするのは
「そんじゃあ、これからもよろしくな!
「こちらこそや、
──────それからしばらくたったある日、こんな見出しの新聞が刷られた。
『士傑高校卒業生の二人、FGヒーロー事務所を立ち上げる【次代のトップチームヒーローか】』
一言言います、大変だった。
次回更新もまた長くなってしまうかもしれないです。書きためがないので…