「また、帰ってこれたんだここに。」
そんなちんけな賞賛の言葉しか出ない程に俺はこのゲームに魅入っていた
2025年、人類はフルダイブ型MMORPGの開発に成功した。ナーヴギアを介することでゲーマー達の夢であったゲームの中に入るコトが擬似的にではあるが体現できることとなった
βテスト応募者は10万人超えの中、運良くその手に授けれたのはたった1000人。俺はその1000人の内の1人に運良く入ることができ、そしてβテストから数ヶ月たった今俺は再び『ソードアート・オンライン』の世界へと降り立つことが出来た
「さて・・・と、約束まで時間あるんだよなぁ。」
ログインした全員が一番最初に降り立つここ【始まりのまち】に来るため、沢山のプレイヤー達がこの街にやってくる
各プレイヤーの反応は百人百様、街の雰囲気を楽しむもの達がいればプレイヤー同士で会話を楽しむものも
さて、本来ならこのままフィールドに駆け出してボアを倒しに出かけたいところだが・・・生憎と俺には先約がある
「とりあえず道具だけでも揃えておくか。」
始まりの街に開かれている武器屋に入り、βの時と同じ片手直剣を買い外に出る
「ちょっとばかし下見くらいなら・・・」
約束の時間まで中途半端に出来た空き時間。本来なら待っているべきなのだろうがゲーマーの性とでも呼ぶべきなのか、この街の先に広がる光景を見たい欲に逆らうことは出来なかった
最初はフラフラとした足取りから段々と足早についには走り出すほどにウキウキしていた自分に自嘲してしまう
そのままβテストで慣らした足はそのまま門をくぐるはずだったんだけど
「おーいそこの兄ちゃん!」
背後から誰かを呼び止めるような声に反応してその場で走るのをとめた
「俺か?」
声に聞き覚えはないが、見てきた限り周りにプレイヤーはおらず考える限り俺を呼び止める声だと判断して振り返る
振り返ってみた声の主はやはり知らないアバター。少なくともβの中じゃ見なかったアバターだ
「あんたβテスト経験者だろ?」
両膝に腕を置き、息を切らせながらこちらに話しかけてくるバンダナの男
「あ、あぁ。そうだけど…」
意図は分からないが、わざわざここで嘘をつく理由もない
「俺今日が初めてでさ、序盤のコツをちょいとレクチャーしてくれよ。」
「あ、あぁ・・・」
歯切れの悪い唸り声に似た音を口から吐きながら後頭部をさすり目を逸らす
「わ、悪ぃ。突然で困惑してるよな。とりあえず俺はクラインってんだよろしくな。」
「よ、よろしく。」
人の良さそうな笑顔を向けてこちらに伸ばされた手をぎこちなく握り返す
「嫌ってんならいいんだ、おれぁ他の奴にでも頼むからよ!」
「ちょ、ちょっと待て!」
じゃあな!と片手を挙げて去っていこうとするクラインを俺は呼び止める
「別にクラインに教えるのがイヤってわけじゃないんだ。ただこの後人と待ち合わせしてるんだ。合流してからなら教えてやれるよ。それでもいいか?」
先まで約束よりゲーマー欲を優先しようとしていた男が何を言っているんだと言われそうだが、流石に途中で投げ出すほど人を捨ててはいない
「その相手も俺と同じβテスターなんだ、そいつがいいって言ってくれれば2人でレクチャーするよ。」
「本当か!?」
「あ、あぁ。そいつが良ければだが・・・まぁ面倒見は良い奴だから大丈夫だと思う。」
「恩に着るよ!」
「俺はキリト、改めてよろしく。」
・・・・
「うおおおおぉ!!!すっげえぇぇぇぇ!!!」
「なっ、凄いだろ?」
「本当にここがゲームの世界なのかよ!?」
そんなこんなでクラインの教師役を勤めることになったのだが、時間までまだあるからとクラインをフィールドの近くまで連れてきた
この景色を見て吠えるクラインを見て、βテスト開始時を思い出して思わず笑ってしまう
「んじゃ一旦戻ろうか。」
「そういやよ、お前が約束した『アリス』?って子はどんな子なんだ?」
「βテストの時にコンビ組んでたんだけど、剣も強いしリーダーシップもあるんだが・・・」
「だが?」
「いかんせん毒舌家というか・・・」
「お前が私をどう思っているのかよーく分かりましたよ。」
突然背中越しに感じた冷たい視線に背中をビクッと震わして恐る恐る振り返ればそこには笑っているのにその奥に見える凍てつくような顔でこちらを立ふさがるように立っているアリスが
「ア、アリス!?どうしてここに!?」
「それはこちらのセリフです。お前を待てども待てども一向に来ないので仕方ないのでこちらから向かいに行けば私との約束を反故にしてまで隣の男といることを選ぶとは。私の配慮が足りませんでした。申し訳ありません。」
「やめて!?誤解だから!クライン・・・彼が俺にレクチャーしてくれって頼まれたから・・・」
「お、俺からもすまねぇ嬢ちゃん!俺がキリトにレクチャーしてくれって無理に頼んじまったせいで・・・」
「貴方が謝る必要はありませんよ。どうせキリトのことです、この景色に我慢出来ずに時間を忘れて見入ってしまったと言ったところでしょう。」
「ハ、ハイ。全くもってその通りです、、、」
ぐぅのねも出ないとはこの事なのだと全てを見透かされてるかのような彼女の口撃に俺は肯定するしか出来なかった
「とはいえ、気持ちとしては私も理解はできます。それと彼・・・クラインさんでしたか、彼に免じて水に流すとしましょう。」
凍てつくような視線が消え、彼女らしい柔らかい笑顔に戻ったことを確認してホッと胸を撫で下ろす
「すまなかったアリス。いつか埋め合わせはするよ。」
当然です。と、俺たち2人の間を縫って進む彼女の後ろを俺たちはついて行く
「行きましょうか、乗りかかった船です。私も彼に付き合いましょう。」
「本当か!?重ね重ね恩に着るぜ!」
・・・・
「どわーっ!!?」
草原広がる西フィールドにポップする【フレンジー・ボア】に突進されたクラインがその場でのたうち回る
「大袈裟だなぁ。痛みは感じないだろう?」
「そうはいってもよぉ。」
「まずは敵を観察しなさい。低層のモンスターであれば初心者であっても大体の動きは把握出来るはずです。」
「よーし・・・」
再び立ち上がったクラインが刀を構え直す
「大事なのは初動のモーションだって。ソードスキルさえ発動出来れば後はアシストが動かしてくれるよ。」
クラインは色々と試してみるものの、一向にその刀が光る様子は見られない
「よっ、早速やってんな?」
「ツバキじゃないか、お前もこっち来たんだな。」
はじまりの街方面の道から1人の男性プレイヤーが声をかけながらこちらに向かってくる
顔だけをそちらに向けると、βテストの時に何度かボス攻略で顔を合わせたツバキが立っていた
「なんだよ、キリトの事だからどうせ1人で寂しくイノシシ狩りに勤しんでるかと思ったが・・・居たんだな、友達。」
ガハハハと、ちょっとバカにしたような感じに俺は少しムッとする
たしかに俺はコミュ障だし友達も少ないのは確かだけど別にそこまでじゃ無いだろ!と返そうとしたがその前に
「あぁすまんすまん、キリトには可愛い可愛い相棒がいたもんな。」
「べ、別にアリスとはそういった関係じゃねえし!?」
「俺はコンビとしての相方としての意味で相棒と言っただけなんだが、まさかお前たちそこまで進んでたとはねぇ。」
ニヤついた笑いをこっちに向けてくるツバキに思いっきりソードスキルのひとつでもぶち込みたくなったがあとが面倒なので我慢我慢…
「とまぁ、キリトをいじるのはそれくらいにしてお前はMOBも狩らずに何やってるんだ?まさかとは思うがハイエナ狙ってるとか・・・」
「そんなわけないだろ。冷やかしに来ただけならどっか行ってくれ。」
「わ、悪かったって!まぁ見た感じ初心者の彼に稽古でもつけてやってるって感じだろ?」
アリスとは正反対にフレンドリーでおちゃらけたタイプのツバキはβの時も何度かボス攻略の時にパーティをまとめあげる指揮役を勤めていたことがあるくらいにコミュ力は俺と段違いに高い
「それで、結局アリスがどこにいるのか知らないんか?」
「アリスなら向こうでイノシシ狩りしてるよ。俺とアリスで時間制で交代することにしてんだ。」
いい加減しつこく聞いてくるから答えることにした。まぁ別に隠すことでもないしな
「ふーん・・・」
「なんで聞いてきたお前が無関心そうなんだ・・・」
「いや、俺が別にアリスに用があった訳じゃねぇんだ。」
「ならなんで。」
「俺よ、今でも不思議なんだよ。βテストの前半じゃお前ら犬猿の仲だったはずのお前たちがあそこまで仲良くなった理由が気になってな。」
そうは言うけど別に今でも仲良しと言えない気がするけど
「私とキリトの仲がいい?お前の目は節穴なのですか。」
「酷くね!?」
「はは、そういうことだツバキ。」
「で、でもパーティ組んでるじゃん。」
「パーティを組んだのはそちらの方が色々と動きやすかっただけです。それ以上の理由はありません。」
「交代時間だから俺もイノシシ狩りに出てくるよ。アリスおつかれ。」
すれ違いざまにグータッチのジェスチャーを示すとアリスはやれやれと言った感じで合わせてくれる
あれ?そういえば何か忘れてる気がする
「よっしゃぁぁぁ!!倒せたぜえええ!!!」
あっ、ごめんクラインすっかり忘れてた・・・
「俺様もソードスキル出来たんだぜ!見てくれたか!?」
「あー・・・スマン、凄くいいにくいんだがな。」
バツの悪そうな顔で目を逸らす
「そりゃあないぜキリトよぉ。」
・・・・
あの後も代わる代わるクラインのレクチャーを続けながら交代で自分たちのレベリングを続けているといつの間にか周囲は夕暮れの橙色に染まっている
「今日はありがとうなおめぇら!」
「良いってことよ!ニュービーを鍛えるのも醍醐味のひとつだからな!」
「お前はクラインを見て大爆笑していただけで何もしていないでは無いですか。」
「ハハハ…そうだクライン、フレンド登録しようぜ。いつでも・・・はさすがに無理だけどクエストとかなら手伝うよ。」
「そうですね、ここで出会ったのも何かの縁です。またどこかで会いましょう。」
「生憎と俺はキリト達といつも一緒って訳じゃないが呼ばれたら俺も行くぜ。」
「ありがとうな!俺のダチもこのゲームにログインしてんだ、今度紹介すっからよ!」
「っと、もうこんな時間か。悪い、俺は一足先にログアウトするぜ。」
メニューを開いていたツバキが俺たちにログアウトを告げてくる
すっかり夢中で忘れてたがもうすぐ6時になるのか
「俺も腹減っちまってよ。この後熱々のピザを予約してんだ。」
「準備万端だな。」
「俺はまだ続けるよ。アリスは?」
「私もそろそろ落ちようと思います。妹達に心配かけると行けないので。」
そうなると残るのは俺だけか
「キリトよ、1人残るからって泣くなよ?」
「そうですよ、βテストの時も大変だったんですから。」
あのアリスさん突然存在しない記憶を生やさないでもらえませんか
「キリトお前・・・」
やめろツバキ、そんな悲しいやつを見る目で俺を見るな!
「ふふっ、冗談ですよ。」
また全員で集まってこうやって笑いあえたらいいな・・・
「な、なぁお前ら。」
なんて考えていた俺の思考をクラインが引き戻してくる
「俺のメニューにログアウトボタンがねえんだ。確認してくれねえか?」
「そんなはずはありません。ログアウトボタンがないなどとそのような欠陥バグあっていいはずが・・・ありませんね」
クラインの衝撃発言により俺たち4人は一斉にメニューを開いてログアウトボタンを探し始めるものの誰一人して見つからない
「どうなるんだよこれ。」
「流石に運営から何かしらアナウンスがあるとは思うが・・・と思ってれば早速。」
はじまりの街に備え付けられた鐘の音が鳴り響く。普通であれば、この後ログアウトボタン消失のアナウンスなりなんなりが来るはずが一向に来ない
代わりに俺たちを強制転移の光が包み始める
・・・・
「ここははじまりの街ですね。アナウンスはここですると言うでしょうか?」
「そうだといいんだがな…」
「まだ何かあると?」
「嫌な予感がする・・・」
そう呟きながら空を見上げていると突然空に『Warning』の文字と警告音が浮かび上がり、はじまりの街上空を埋め尽くし、そこから謎の赤い液体が流れ落ち1人の巨大なローブを出現させた
「誰なんだアイツは?」
「わかりません。アナウンスにしては明らかに雰囲気が異様です。」
ログアウトが出来ないバグと、突如出現した謎のローブによって俺たちの恐怖心は一気に煽られる
それ俺たちと一緒に招集されたプレイヤーも同様の様で、口々に不安をくちにだしている
「プレイヤーの諸君、わたしのせかいへようこそ」