ソードアート・オンライン ー煌めく大輪の花ー   作:花見崎

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EP.02 生きるってこと

「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。」

 

 

自らを茅場晶彦と名乗った目の前の巨大ローブははじまりの街に強制転移させられた俺たちプレイヤーの前で淡々と『ソードアート・オンライン』のデスゲーム(本来の仕様)について解説している

 

 

「お、おいまさかあいつの言っている事は嘘だよな・・・?なぁキリト?」

 

 

クラインが困惑したような声色で俺に聞いてくる

気持ちは痛いほど分かるが、あいにくと俺は彼の期待するような返答はもちあわせて居なかった

 

 

「正直な話、出来るか出来ないかと言われれば答えは前者だ。ナーヴギアの構造を考えれば俺達の脳を焼き切ることなんて容易い。」

 

 

ローヴの言葉を否定するだけなら簡単だろう、そんなのは戯言だ。そんなことはありえないなどと鼻で笑って否定してしまいたいほどに俺の心は疲弊している

それでも、やつの言うことが事実ならば、俺達の現実世界(向こう)の命にまで影響を及ぼしてしまうこの話を簡単に斬り捨てることはできなかった

 

 

「それでは最後に、諸君のアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ。」

 

 

ローヴの言葉に導かれるがままに、俺たちはストレージを開いてそこに収納されていた1つのアイテムを出現させる

 

 

「『手鏡』・・・ですね。彼はどうしてk((」

 

 

キャッと小さい悲鳴と共にアリスの体が光り始める

否、アリスだけじゃなく俺も含めたこの広場に集められたプレイヤー全員の体が光に包まれる

 

 

「お前ら大丈夫か?」

 

 

「えぇ、特に異常は見当たらない様で・・・」

 

 

先に光が消えたツバキからの心配に応えたアリスの言葉は途中で切れ、代わりに困惑したような表情でこちらを見つめてくる

 

 

「なんだったんだったんだよ今の、、、って誰だよお前ら。」

 

 

「お前こそ誰だだよ・・・ってまさかクライン?」

 

 

1人のバンダナを巻いた男がこちらに話しかけてくるが、彼のアバターに見覚えは無い。雰囲気や経緯を考えてもしかしてと1人の名前を出して聞いてみる

 

 

「て事はてめえがキリトか!?」

 

 

反応的に彼がクラインなのは間違いない。それならばなぜ彼の容姿がガラリと変わっているのか、などと不思議に思いながら周りを見渡していると、さっきまでか近くにいたはずのアリスとツバキの姿も見当たらない

 

 

「どういうことだ?」

 

 

そう思い、ふと手元の手鏡を見るとそこに写ってちたのはキリトとしての俺ではなく、現実世界の桐ヶ谷和人としての俺だった

 

 

「アリス!ツバキ!聞こえたら返事をしてくれ!」

 

 

「アリスは確かに私ですが、お前は誰ですか?」

 

 

「ツバキは俺だけど・・・」

 

 

「信じられないとは思うが俺がキリトだ。んで、こいつがクライン。信じられなかったら手鏡で自分のアバターを見てみるといい。」

 

 

「あぁなるほど、それで手鏡って訳か・・・」

 

 

改めてアリスとツバキに目を向けると、手鏡を見る前と大きく変わっていないツバキに対して印象をガラリと変えたのはアリスだった

腰まで伸ばしていた栗色の髪は黄色と金髪の中間くらいの髪で、日本人女性らしい顔付きは一転、外国の人形がそのまま成長したような整った顔立ちになっている

 

 

「ひとまず状況は把握しましたが・・・しかし知りませんでしたよ、キリトが実は女性だったんですね。」

 

 

「ははっ、冗談でもそれはやめてくれ。結構気にしてるから・・・」

 

 

突然のデスゲーム宣言に恐怖に呑み込まれそうな俺の心はこの場で少しだけ和んできた気がする

それでも震える手が嫌でも現実へと引き戻してくる

 

 

「私の目的は既に達せられている。この世界を造り出し、観賞するためにのみ私は『ソードアート・オンライン』を創った。そして今全ては達成せしめられた。」

 

 

茅場晶彦への怒りとともに、頭のどこかでは冷静になっている自分がいる。生き残るためにはVRMMORPGは有限のリソースを誰よりも早く確保する必要がある。そのためにも次の村へ拠点を移す必要があるだろう

βテスター3人含む俺たちであればクラインを連れてこの先を進んだとしても問題なく進めるはず

 

 

 

「以上で、ソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君健闘を祈る、」

 

 

最後にそう言うとローヴは煙に消え、空にはつい数分前までと何ら変わらない夕暮れ空が広がっていた。まるで何も無かったのごとく

そして止まった時が再び動き出したかのようにローヴの消失後、はじまりの街は阿鼻叫喚の声に包まれる

 

 

「おい、お前らちょっt・・・」

 

 

近くにいるアリス達を呼ぼうとした声を俺は止めた

俺はアリスの恐怖と覚悟の入り交じった顔を見てしまっまたから

βテストの時、俺は彼女のあの表情を何度か見てきた。そして俺はその彼女の行動に何度も感化されてきた

 

 

「・・・お前らはこれからどうするんだ?」

 

 

さっき俺が言いかけた言葉をツバキが代わりに言ってくれた

 

 

「俺は他のゲームでダチだった奴らもここにいるはずなんだ、俺はそいつらをまずは探すよ。」

 

 

「そうか、本当ならその友達も一緒に連れて行ってやりたいが・・・」

 

 

ツバキが渋る理由もわかる。クラインの友達がどれくらいいるかは分からないが、デスゲームと化した今では初心者を多く引連れることはそれだけでリスクは高くなる

 

 

「おめぇらにこれ以上世話になる訳にはいかねぇよな。お前らだけでも気にしねえで次の村へ行ってくれ!」

 

 

 

「そうか、すまん。」

 

 

そう言うとクラインは人混みの中をかき分けて行ってしまった

 

 

「私は・・・」

 

 

アリスの様子からしてまだ決めきれないのだろうか

 

 

「俺はもう少しだけここに残るよ。」

 

 

俺がそう言うとアリスは一瞬驚いた顔をするも。理解したのか、すぐにいつもの顔に戻って

 

 

「仕方ありませんね、キリト1人では不安ですし私も一緒に残ります。問題ありませんね?」

 

 

「あ、あぁ。別に構わないよ。」

 

 

「・・・そっか。それなら俺は先行くよ。」

 

 

「あぁ。また生きてたら会おうぜお互いに。」

 

 

「えぇ、もちろんです。」

 

 

「次で会う時は、迷宮区かボス戦かな。」

 

 

「じゃあな!」

 

 

そう告げて足早に去っていく

 

 

・・・・

 

 

「さて、どうすっかなぁ。」

 

 

「何も考え無しにここに残るとかバカなんですか?」

 

 

「るせー!このまま放っておくのは気分が悪かっただけだよ。」

 

 

 

絶望し、へたり込むもの。さっきまで空に浮かんでいたローヴがあった空間を睨みつけながら届くはずもない罵声を投げかけるもの、とりあえず行動しようと駆け出すもの。まさに地獄絵図と言って相違ないこの状況を少しでも好転出来るような行動なんて俺に思いついてもそもそも実際に行動に移せるかどうか

 

 

「良いんだぜ?アリスも先に次の街を目指したって」

 

 

「ほざきなさい、お前のようなやつを1人にして何ができるのです。」

 

 

うぐっ、まぁまぁ痛いところばかり突いてきやがって・・・

 

 

「・・・そうだな。俺にはアイツみたいになんてなれないよな。」

 

 

「アイツとは誰なんです?」

 

 

「ソイツはさ、ゲームだってめちゃくちゃ上手い上に人をまとめあげる指揮力だって充分持ってる。更にはここぞと言う時に発破を掛けられる。指揮官として完璧するくらいな奴だったよ。」

 

 

今までソロが基本で、パーティだって即席か臨時くらいしか組んでこなかった俺には眩しく輝いて仕方なかったよ

悔しいからだれとはアリスには言わないけどな

 

 

「俺が言えたことじゃないけどさアリス。」

 

 

ここでようやく本題へと入る。なぜ俺がここに残ったのか、そしてこれから何をするのか、それを決めなきゃな

 

 

「なんですか?」

 

 

「迷ってるんだろ?お前。」

 

 

「なっ!何をそのようなことを!私は別にお前みたいに迷ってなどっ。」

 

 

分かりやすいなぁ

 

 

「放っておけないんだろ?ここに取り残されるだろうニュービーのアイツらが。」

 

 

「・・・」

 

 

「否定しないって事は図星ってことで合ってるよな?」

 

 

「そうですね。お前に私の考えを当てられたのは屈辱ではありますが、実の所を言うと助かりました感謝します。」

 

 

「あ、あのアリスが・・・!?明日は剣でも降るんじゃないか?」

 

 

「今ここでお前に剣を浴びせても構わないのですよ。」

 

 

「ス、スミマセンデシタ。」

 

 

「分かればよろしいのです。」

 

 

などとやっていると、集団の内の何人かが外壁に向かって走り出していくのが見えた

 

 

「何をやっているんだそっちは外壁以外何も・・・」

 

 

「お、おい誰かアイツらを止めろ!アイツら飛び降りる気だ!!!」

 

 

 

「まさか・・・血迷ったとでも言うのですか!?」

 

 

「と、とにかくとめないと!」

 

 

いやまて、止めてどうする。この絶望的状況に置かれて外周から飛び降りるほど正しい判断ができない彼らをどうやって引き止められるんだ

 

 

「待つんだお前たち!」

 

 

戸惑って動けなかった俺たちより先に彼らをよびとめるプレイヤーが声を張る

 

 

「良かったです。我々と目的が一致するプレイヤーが現れました。」

 

 

「あぁ、あの様子なら被害ゼロとまではいかなくても間違いなく減るだろうな。」

 

 

「どうしますか?我々も彼に手を貸しましょうか?」

 

 

「はは、情けないことにあそこに交じれる勇気は無いです・・・」

 

 

「・・・はぁ。さっきまで心配だなんだと言っていた人の言動とはまるで思えませんが、、、そうですね。あの様子なら問題なさそうですから私たちは先に向かいましょう。」

 

 

 

「えっ、着いてきてくれるのかアリス?」

 

 

「愚問ですね。それとも私ではお前とは釣り合わないとでも言いたいのですか?」

 

 

「そっ、そんなわけないだろう!?あぁ。ありがとうなアリス。」

 

 

「礼を言うのは私の方です。お前がいなければ私も動けていたか・・・」

 

 

「それじゃ行こうぜ!」

 

 

「自分で歩けますので手を引くのは辞めなさい!」

 

 

・・・・

 

 

はじまりの街を飛び出した後、俺たちは2つ目の街を今晩の宿と決め、波乱万丈な一日目を終わろうとしていた

 

 

「今日は色んなことが起こりすぎたな・・・」

 

 

「えぇ、本当にその通りです。」

 

 

また明日と、それぞれがとった部屋の前で別れたあと、寝る気の起きなかった俺は宿の外で街を眺めていた

すると宿屋の扉が開き、後ろから声をかけられる

 

 

「なんだよアリスも眠れてねえのか?可愛いとこあるじゃねえか。」

 

 

βテストの時なんてお互いに口を開けば子供のように口喧嘩ばっか。フィールドに出てもどっちが多く倒しただ俺の方が早かったなど、正直相性は最悪だと思いながらも今までソロだった俺には新鮮で楽しかったのかもしれない

だから正式サービスの時もアリスをコンビとして決めたんだと思う。アリス本人がどう思ってるのかはわかんないけどな

 

 

「お前が外でたそがれていたのが見えたので来てやっただけで別に他意などありません!」

 

 

そう言いながらも何も言わず隣に座って付き合ってくれるのもアリスらしくていいんだけどな

 

 

「明日は少し早めに出て『森の秘薬』クエストを受けようと思う。異論は無いよな?」

 

 

森の秘薬は一層で手に入る武器としては破格で、鍛えれば五~六層までは戦って行けるほど。だから1番近いこの街を拠点に決めた

 

 

「私が使うのも片手直剣ですのでそれ自体には異論は無いのですが、1番不安なのはお前がしっかり起きれるかどうかだけです。」

 

 

「ははは、善処します・・・」

 

 

夜はゲームまでいくらでも起きれるのだが朝早く起きるのはどうしても苦手で現実でもスグに起こされることもしばしば

 

 

「そういえば俺アリスに1個聞きたいことが・・・って寝ちゃってるし。」

 

 

ふと肩に重さが乗っかって顔だけ向けるとさすがに力つきたのか寝息を立てる彼女

 

 

「まさか俺このまま朝まで過ごさないとなのか?」

 

 

これは本格的に起きれないかもしれないなどと心のなかで思いながら俺はアイテム整理に勤しむことにしたのだった

 

 

・・・・

 

 

「確かこの辺りであってましたよね?」

 

 

「あぁ。βの時から変更されてなければそのはずだ。」

 

 

ゴツゴツとした灰色の岩肌の多く、植物のしの字もないようなエリアを抜けると、今までのエリアはなんだったのかと聞きたくなるくらいのでか森のフィールドが広がる

俺たちが受けるクエスト『森の秘薬』はこのエリアでポップする植物型モンスターの『リトルネペント』が落とす胚珠を集める必要がある

 

 

「一応確認だが、リトルネペント討伐の注意点は・・・」

 

 

「誰に聞いているのですか実つきに注意する。お前こそぬかることのないように。」

 

 

「わかってるよ。」

 

 

実つきを倒してしまえば倒したネペントが他の仲間を沢山呼んでくる。βの時はその習性を逆手に利用してレベリングする奴も居たが、デスゲームとなった今じゃハイリスクハイリターン

元々集団でポップするため数はこなせるのだから無理にリスクを犯す必要は無いはずだ

 

 

「ごめんちょっといいかな?」

 

 

いざ戦闘開始となろうとした所で後ろから話しかけられ出鼻をくじかれる。振り返ればそこには1人のスモールソードを手にしたプレイヤーが1人

 

 

「水をさしちゃってごめん。でも戦闘中に話しかけるのもどうかと思っちゃって。」

 

 

 

デスゲーム開始から2日でここにいるってことは俺たちとおなじβテスターなのだろうが、いかんせんリアルと化した今ではβテスト時の情報では相手が誰かは判別つかない

 

 

「いえ、大した問題ではありません。それで私たちに何か用ですか?」

 

 

「うん。君たちもこの森に来たってことは目的はアイツらってことだよね?もし君たちが良かったらだけど協力しないかい?」

 

 

「確かに3人で狩る方が効率的なのはたしかだけど・・・」

 

俺1人で判断はできないとアリスの方を向くと彼女はやれやれと言った顔をして

 

 

「仕方がありません。パーティを組んだ方が取り合い等面倒なことに巻き込まれるのもゴメンですし構いませんよ。」

 

 

アリスの言い分ももっともだ。今日あったばかりで連携は取れずとも分担くらいは出来るしトラブルも起こらないはずだ

 

 

「分かった。βテスターだからわかってるとは思うが一応確認だが・・・」

 

 

 

「実付きの事だよね?僕だって死ぬのは怖いからね。流石に危険なことはしないよ。」

 

 

ハハッと、短く肩を竦めながら笑う彼に少しだけその場の空気が少しだけ緩んだ気がした

 

 

「それじゃあ行こうぜ!」

 

 

俺たち3人は森の中に突入する。1番近くにいたネペントをポリゴン片に変えた硝子音を皮切りに3人は散らばり各々で狩り始める「」

 

 

「出ませんね・・・花付き。確率的にはそろそろ出てもおかしくは無いんですが。」

 

 

周囲にポップしてきたリトルネペントを狩り尽くした後、一息ついたアリスが話しかけてくる

時間にして約30分、3人で計200近く倒して未だ花付きが出ないことを考えるとβテストから変更されたと考えるのが自然だよな

 

 

「こりゃあ最悪徹夜コースかもなぁ・・・っとあれは。」

 

 

その時、新しいリトルネペントが2体リポップする。そのうち一体が花付きだった。しかし問題はもう一体が実つきだと気づく。しかしどうも位置が悪い。あの位置だと実を割ってしまう可能性まである

 

 

「ようやく1体目だな。どうする?」

 

 

「勿体ないですがここはスルーするのが吉でしょう。リスクは負わないに限ります。」

 

 

「大丈夫、僕が実付きのタゲを取って抑えるから2人のどっちかが花付きを倒してくれ。」

 

 

「分かりました。私が彼のサポートに回ります、キリトは花付きをお願いします。」

 

 

「分かった。それじゃあコペル頼んだよ。」

 

 

「了解!」

 

 

コペルが実付きネペントのタゲを取り、花付きネペントから上手く離したのを確認しで俺はソードスキルを叩き込もうとコペルとすれ違ったその時

 

 

「・・・ごめん。」

 

 

「えっ?」

 

 

すれ違いざまにコペルが小さく呟いたごめんという言葉。その意味を考える時間は無い。今は目の前の花付きを倒すことが先決だ

 

 

「ふぅ、、、とりあえず倒せたな。コペルタゲありがとうな。」

 

 

目的は達成出来たなら実付きは無理にあいてするひつようはない

実を割らないように気をつければ大丈夫だと、コペルの方を振り向こうとすると

 

 

「辞めなさいコペル!」

 

 

アリスの叫びの直後にパァンと破砕音と共に視界の隅で刺激臭と花粉が飛び散るのが見える

 

 

「おいおいまじか・・・」

 

 

コペルを見れば実付きネペントだったであろうポリゴン片、それが示すのはコペルが実付きを倒してしまったこと

余りに突然の出来事に足を動かさない俺たちを尻目にコペルは茂みへと姿を消す

 

 

「アリス!」

 

 

「分かっています!」

 

 

刺激臭によっておびき寄せられた数十体以上にも及ぶリトルネペントを俺たちは迎え撃つ

 

 

「コペルに関しては後回しだ!今は自分を守ることだけに集中してくれ!」

 

 

コペルが逃げていった方向に10数匹向かったのを見たが、コペルの状態を気にしている余裕は俺達には無い。ひたすらに目の前の大量のリトルネペントを倒さなければ俺たちは死ぬ

 

 

「うわぁぁぁ!!??」

 

 

茂みの向こうからコペルの叫び声が聞こえる

 

 

「このっ!!!」

 

 

叫び声の直後、アリスの方からソードスキルの起動音が聞こえる、おいちょっと待て、流石にそれは危なすぎるだろ

 

 

「待て早まるんじゃないアリス!」

 

 

アリスの剣先の周囲には実付きがいる。最悪の状況が俺の頭をよぎる

アリスのソードスキルは剣筋通り、実付きでも無いリトルネペントのHPを削り切る・・・はずだった

その剣がリトルネペントに刺さる直前、まさかの実付きが間に割り込んくる

 

 

パアァンッ!

 

 

 

再び聞きたくもなかった実の破砕音が響く

 

 

「アリス!」

 

 

クールタイムで動けない彼女の腕を掴む

1人分の逃走ルートなら確保できるはず、せめてアリスだけでもっ!

 

 

「お前何をする気なのですか!」

 

 

「行っけぇぇえええ!!!!」

 

 

助走をつけたまま、STRに任せてリトルネペントが沸いていない街に繋がる道へ向かってアリスを飛ばす

目的通りに転がりながら無事に通路側まで飛んだことを確認したあと直ぐにネペント狩りに意識を戻す

 

 

「アリス!すまないが前の街からポーションを買ってきてくれ!」

 

 

アリスを離脱させたのにはいくつか理由があった。先のソードスキル、明らかにアリスの判断は余裕がなかった。まともに落ち着けそうな状況じゃない今では最悪この後またわってしまう可能性が高い。それならまだ俺1人で戦った方が勝率高い

そして、アリスを離脱させることで最悪全滅だけは避けられる。アリスの実力を考えればここでかけるのには惜しすぎる戦力だ

 

 

「・・・必ず戻りますから!」

 

 

アリスはそれだけ言い残すと足音が遠ざかっていく。これはお説教1時間コース、、、いやもしかしたら最長記録更新かなぁなんて他人事のように頭の中で考える

それでも、彼女の説教が聞けるのは俺が生きてるからだもんな

 

 

「生きて帰れたら何時間でも聞いてやるよ。」

 

 

数十、、いな最悪百匹までいるんじゃないかってほど森のフィールドを埋めつくさんとするリトルネペントの大軍の前に俺の頭は驚くほど冷静だった

 

 

・・・・

 

 

「はぁっ・・・はぁっ。」

 

 

アリスと別れてから2時間くらいは経っただろうか、沢山いたリトルネペントも今では見渡す限り1匹もいない。俺の索敵スキルにも引っかかっていない

つまりは無事全員倒すことが出来たのだが、喜べる気力すら残っていなかった

 

 

「生きてる・・・んだな。」

 

 

左上に表示されたHPバーが俺がまだこの電脳世界に生きて囚われていることを証明している

あと1ドットしか残っていないけど

 

 

「アリスと合流しないと・・・」

 

 

ふらふらとした足つきで次の街へと続く道を最後のポーション片手に進む。フレンド欄を見れば近くにいるはずだ。せめて意識があるうちに合流しないとそこら辺で意識を飛ばしてしまえば為す術なく俺のhpは消えるだろう

 

 

「良かった・・・生きてる。」

 

 

「アリス・・・おかえり」

 

 

アリスの泣き顔を見て一気に緊張の糸が切れてしまったのか、俺の意識は遠のいていった

 

 

・・・・

 

 

「ここは・・・」

 

 

目を覚ませば目の前に広がっていたのは知らない天井・・・ではなく、拠点としていた宿屋の天井だった

 

 

 

「起きたのですねキリト!良かった、、、ほんとうに良かった、、、」

 

 

上体を起こせずに顔だけ動かすと今にも泣きそうなアリスが映る

 

 

「すみません、今回は私のミスでキリトをあそこまで追い込んでしまいました。」

 

 

「いや、あれは仕方がないよ・・・それに、俺達は今もこうして生きてる。それでいいじゃないか。」

 

 

「キリトにそれを言われると辛いですが、そういうことにしておきましょう。ですが、あそこで私を逃がす判断をされたことには少し不満です。」

 

 

「えぇっ!?」

 

「お前の強さは十分理解しているつもりです。あの絶望的状況の中で生き残れたのもお前の強さ故だということも。それでも、βからのお前の相棒として、お前の背中を守れなかったことが悔やまれるのです。お前にとって私はそこまで頼りないですか。お前にとって私は隣で戦わせるほど頼りないと思われているのですか!」

 

 

「アリスは頼りなくないよ。むしろ俺がβテストで散々無茶してきたのだってアリスがいてくれたからだ。」

 

 

流石に今はβテストほど無茶は効かないだろうけどねと軽く笑ってみせる

 

 

「それだと納得いきませんよねはい、、、」

 

 

「いいえ、今はこれで大丈夫です。いつかお前に今日のことを後悔させるほど強くなって見せますから。」

 

 

「期待してるぜ、相棒。」

 

はにかみながら拳を突き出してやるとアリスもやれやれと言って笑いながらもちゃんと突き返してくれる

ツバキに言わせてみれば俺たちは異色のコンビなのかもしれない

それでも、こうして息を合わせて戦ってるんだ。俺にとっちゃ一番のコンビだよ。

 

 

「胚珠を届けるのは明日にしましょう。今のお前の状態では今日はもう動かない方が得策です。」

 

 

「あぁ、俺も賛成だ。」

 

 

今日は流石に夕飯を食べる気力すらわかない気がするよ

 

 

「それではまた明日。」

 

 

「あぁそう言えば最後にこれだけいいか?」

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

廊下の外で扉を閉めないで次の言葉を待つアリスに一つだけ言いたいことがあった

 

 

「あの時のお前の泣き顔、結構可愛かったぜ。」

 

 

「なっ、なななな!!」

 

 

顔を赤く染めて壊れたラジオのように言葉を紡ぐアリスに少し面白くて笑ってしまう

 

 

 

「何をバカなこと言っているんですかこのバカァァ!!」

 

 

バァン!と勢いよくドアが閉まり、廊下を早々と去っていく

 

 

「なんかちょっと想像していたのと違うけどまぁいっか。」

 

 

翌日、へそを曲げたアリスに一日中付き合わされたのはまた別の話だ

 

 

 

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