ツバキside
「はァァァァっっ!!!」
はじまりの街を出て、俺たちはフィールドをMOBを切り倒しながら進んでいく
ソードアート・オンラインがデスゲームに変貌した直後、俺はすぐにはじまりの街をたつことを選択した
MMORPGにおけるリソースは有限であり、はじまりの街で混乱しているプレイヤーの中からも俺と同じように次の街に繰り出してくる人も多いはずだ。特に俺と同じβテスターは間違いなく動くだろう
この世界で生き残るために
キリトとアリスが残ったのは驚いたものの、アイツらもいずれは俺たちを辿るのは間違いないだろう。アリスがどう動くかまでは予想できないが、キリトは間違いなく街を出ていくはずだ
「ここら辺で狩らないんですか?」
「はじまりの近くのフィールドは直ぐに狩り尽くされる。だからまず俺たちが目指すのは次の村だ。」
今俺の後ろでついてきくる男性プレイヤーははじまりの街を飛び出た時に呼び止められ、共に次の村へ向かうことにしたニュービーの『アカツキ』
キリトとアリスはともかく、クライン達や他のプレイヤーを置いていく判断をした直後にまさか連れて行ってくれとお願いされるとは考えていなかった
「僕はこの世界を生き残る力とそのすべが欲しいんです。」
「良いのか?俺はこの先前線を貼っていくつもりだ。危険度だってそれ相応だ。それでもお前は着いてくるか?」
一番のソロ友だったはずのキリトに裏切られた後もソロを続けてきた俺にはコンビ、ましてや初心者を抱えての攻略は慣れないものがある
知識や技術は人並みよりあると自負しているものの、死んだら終わりのプレッシャーと初心者を守りながら進むことへの不安はそう拭い切れるものじゃない
その上で常に前線で戦い続けるとなると、危険は跳ね上がる
「・・・お願いします。」
そう口に出した彼の覚悟を決めたそのキリリとした目を俺は信じてみようと思う
「そっか!じゃあ俺は『ツバキ』!お前は?」
「『アカツキ』です。」
と、そんなこんなで即席パーティを俺たちは組んでデスゲームと化したソードアート・オンラインを駆け抜けていた
「そういえばひとつ気になってたんですけど。」
「なんだ?」
「僕が話しかける前、3人くらいの人と話してましたが彼らは着いてこないんですか?」
あちゃ、そこから見られてたのか
「あー、、、あいつらはいいんだ。」
「見捨てる・・・って事ですか?」
随分と直球というかなんというか、、、そりゃあ言葉を選べば間違いでも無いかもしれないし事実、はじまりの街に残った多くのプレイヤーを見捨てたことには変わりない
「アイツらのうち2人は俺と同じ元βテスターだ。ほっといてもあいつらで勝手に追いついてくる。」
「ですがっ・・」
「どうした?不安か?俺だけじゃ不安と言うなら今すぐ街に戻った方がいい。1度でも迷いが生じれば晴れるまでは足枷にしかならない。」
「それは・・・」
俺は聖人でもなければ万人を助けるようなヒーローじゃない。俺は生き残るためなら非情にもなる
「いえ、一緒に行かせてください。」
「そうか。」
これ以上会話は続けなかった。俺はひたすら無言のままホルンカの村へと突き進む
・・・
「ひとまずは及第点って所だな。」
はじまりの街を飛び出してから数日、俺はアカツキにこの世界での戦い方を教えながら彼を見極めていた
飲み込みは早い方で、教えたことも直ぐに自分のものにしている
けど、結局は人並みだった。いや、アイツがおかしいだけでこっちが普通か。
「さて・・・と。レベルも十分だ。次はイベントクエストを受けに行こう。」
「イベントですか?」
「あぁ。片手剣を得物にしているプレイヤーなら必修クエと言っても過言じゃないくらいには重要なクエストだ。」
「それくらい重要なクエストなら難易度とかも高いのでは?」
「大丈夫、ポップするモンスター自体はそこまで高いわけじゃない。ただ、気をつけなきゃいけない事がひとつだけあるんだ。」
「それは実際に見た方が早い。て事で向かうのは明日、今日は休め。」
「え!?今からじゃないんですか!?」
「生憎と時間のかかるクエストなんだ、運が悪かったら半日は潰れることもざらにあるんだ。今からやって集中が切れるのは致命傷になるからな。」
目指すはホルンカの森、そこにポップするネペントからドロップする胚珠が目的なんだが、そのネペントが厄介で一歩間違えれば為す術なく全損させられる危険性を孕んでいる
「今日は明日に備えて早く寝よう。」
それぞれが近くの宿を取り、寝床に着いた
・・・
「ここら辺足場が悪いから気をつけな。」
リトルネペントの上位種が出てくるフィールドを俺たちは道なりに進んでいく。道中でポップしてきたモンスターも苦戦なくこれた、これならリトルネペントも、問題なく倒せるだろう
「ホルンカの森ってあれですか? 」
アカツキが岩壁の先に広がる森フィールドを指さす
「そうだ、今からあそこで俺たちはネペントを狩るんだが、、、 」
ホルンカの森に繋がる坂道までたどり着いた時、ふとした違和感を覚える
「変だな、ネペントの数がやけに多い・・・」
ソードアート・オンラインのモンスターは基本群れることは無い。他のゲームとかだと群れで暮らす事が多いゴブリンでさえせいぜい3匹が限度だ。だが、視認できるだけで8体はいる
ネペントだって多くても4体かそこらのはずだ、あまり考えたくは無いが、理由として考えられるのは
「誰かが実付きを壊した!?マズイぞ! 」
ネペント狩りにおける最大のタブーを想像し、さぁーっと血の気が引いていく感覚に背中を押されるかのように坂道を俺はかけ上がろうとする
「待ってください! 何があったんですか!? 」
っと、アカツキのこと忘れてた。とはいえ実付きのことを説明している暇もないし、説明できたところで連れて行くことのリスクが大きすぎる
相手がネペントじゃなきゃ教えながら戦う方法も取れるが、今回は状況が悪すぎる!!
「悪いが一旦お前は街に戻れ!ちょっと今はまずい状況になった! 」
「いまいち状況が掴めないですけど、大量のモンスターに襲われているなら俺も助太刀に入った方が! 」
「ゴブリンとかなら良いが、こいつら相手だとそうはいかねぇんだ!下手したらさらに倍以上にまで増える!」
「すみません!ご武運を祈ります! 」
こっちに向かって坂道を降り始める大量のネペントをソードスキルでなぎ払いながら進もうとするが多勢に無勢、進むどころか少しずつ押され始めている
「ツバキさん!空からプレイヤーがってうわぁぁぁ!!! 」
背後から断末魔のような叫び声が聞こえたものの、戦闘中の俺には振り返って確認している余裕は無い。フレンド一覧のアカツキのhpバーを一瞥して、問題ないと判断して俺はまたペネント狩りに集中する
アカツキside
「ツバキさん!空からプレイヤーがってうわぁぁぁ!!!」
先輩プレイヤーであるツバキさんに不服ながら従って朝までいた街に戻ろうと踵を返した時、頭上で何かが崩れる音が聞こえて見上げれば空から瓦礫と共に降ってくるプレイヤー
なぜ人が上から落ちてきたのかとか、避けた方がいいのかいやでも受け止めるべきかとか直ぐに行動に移せなかった僕は情けない叫び声を上げながら落ちてきたプレイヤーの下敷きになった
「いてててて、、、なんとか生きてる・・・だ、大丈夫ですか?」
ぶつかった衝撃からか視界がぶれているものの、運よくHPも減らずに済んだらしい。肝心の上から落ちてきたプレイヤーも全損までは防げたみたいで自分が落ちてきた場所を見上げながらポーションを飲んでいる
「巻き込んでしまってごめんなさい。まさかトラップに引っかかるなんて・・・それよりもアスナ、、」
謝罪もそこそこに、知らない人の名前を呟き崖から突き出した木材か何かに飛び乗りながら崖上を目指す彼女を僕は見送ることしか出来なかった
彼女達の力になれない自分がもどかしくて仕方なかった
「ツバキさんを呼ぼうにもあれじゃ・・・」
ツバキさんの方を向けば、押されつつもなんとかあと2体の所まで来ていた
背後でもう一度誰かが落下する音を聞き、振り向くと先程のプレイヤーがまた落下していた
「急がないとっ!」
「待ってください!」
何かに恐れているのか、焦った表情でフラフラと立ち上がりながら走り出そうとする彼女に声をかけて呼び止める
「ごめん、私の友達がピンチだからあとにしてくれる。」
「い、今はモンスターが大量発生していて危ないです!」
彼女の実力は分からないけど、素人目の僕でも今の彼女を向かわせることは出来なかった。現実でもゲームでも心の乱れはプレイに間違いなく影響してくる。今の焦りに満ちた彼女を放っておけば死ぬかもしれない。そんな思いが彼女を引き止めさせるんだ
「そんなこと分かってる!でも、行かないとアスナがっ!」
「今、僕と組んでる人が向かってるので一旦落ち着いてください! 」
正直これがなんの気休めになるのだろうかとは思うが、今は落ち着かせなきゃい。そんな気がする
「離してっ!」
「あっ、待って!」
静止を聞かずにそのままネペント森に繋がっている坂道を駆け上がって行く
・・・
ツバキside
大量のネペントを斬り伏せながら駆け上がった先、森の中でも開かれた場所で1人の女性プレイヤーがネペントと戦っている。てっきりネペントが数体いるかと警戒していたが、そこにいたのはたった一体。状況から考えると彼女が倒したのだと理解した
最後の一体は実付きでは無いため、問題なく倒せるはずだと、少し肩の力を抜いてせめて労いの言葉でもかけようかと近寄ろうとした時
「まずいなありゃぁ。」
プレイヤーの奥、自分がいる反対側に青と白の猿型のモンスター。フィールドボスの『ジャイアント・アンスロソー』がポップする
彼女1人では不利だと判断した俺は距離を詰めるために再び走り出す
「間に合えええ!!!」
獲物を仕留めんと右腕を叩きつけようとする巨猿にすんでのところで潜り込みバーチカルによる斬り上げで奴をのけぞらせ、そのまま連撃を叩き込んで一方的に削って行く
「これで終わり!っと。」
最後の一撃を頭にぶち込んで巨猿をポリゴン片に変えた
「あー、、、とりあえずナイスファイト?」
片手剣をしまい、先までネペントと戦っていた女性プレイヤーに振り向いて労いの言葉をかける
ぶっちゃけかける言葉が分からず疑問形になってしまったのは許して欲しい
「hpはどれくらい残ってるんだ?回復できないならポーションを譲ることもできるけど。」
「あっ、あのっ!」
ひとまずは彼女の安全確認からかと思って尋ねるも返ってきたのは返答ではなかった
「ミトというプレイヤーを見ませんでした!?」
こんな質問が返ってきた。ここまで心配そうな顔を見るに一緒にログインしてここまで来たフレンドなのか?
「あーいやごめん。少なくとも俺がここに来るまで誰も見てないな。」
「そうですか・・・死んでないよねミト・・・」
そう返すと見るからに落ち込みが増していく彼女に俺はなんて声をかければいいか分からない
「ミトって子は君とパーティーを組んでたのか?」
「パーティー?」
あまり要領を得ていなそうな顔をするあたり初心者なのだろうか
「あー、、、ここら辺に自分のhpバーが見えると思うんだけどその下にそのミト?って子のバーがもう一本見えないか?」
自分から向かって左上を指さしながらhpバーの確認を促す。気休め程度だが、安否確認だけでも落ち着かせる薬にはなる
「良かった、、、」
安堵するところを見るに、相手の生存を確認できたのだろう。となれば、俺ができることはもうあるまい
「良かったじゃねえか、お友達もお前もちゃんと生き残れたみてぇでよ。」
「アスナ!」
直後、後ろから坂道をかけ登り女性プレイヤーが現れる
「ミト!良かったいきなり消えちゃうから私ミトに何かあったんだって心配でっ。」
「心配かけてごめん。」
お互いの生存を確かめ合うかのよつにお互いを抱きしめ合う2人を見てもう大丈夫かな。と、アカツキと合流するためこの場を離れようとする
「ちょっと待って貴方!」
「ん?俺か?」
完全に二人の世界に入ってるもんで、俺のことは忘れてるだろうと思ってたが突然声をかけられる
「貴方がいなかったら私は間違いなく死んでいたわ。ありがとう。」
「別に大したことはしてない。たまたまここに居合わせたってだけだからな。」
「私からもお礼を言わせて。アスナを助けてくれてありがとう。」
「ツバキさん!」
「ちょうど良かった、アカツキ。それでどうするんだお前ら?俺たちはここでネペント狩りを続けるんだが。」
「今日はもう街に戻ってやすむことにする。アスナもそれでいい?」
「うん、もう今日は疲れちゃった。」
そう言うと、2人は街へと続く道を一緒に歩いていった
「さて、今から狩るネペントの注意点だがー」