流れは基本的にオリジナルは控え、原作遵守で進めていくつもりです。
誤字・脱字等あれば、指摘をお願いします。
リィン、という澄んだ鈴の音色のような音が頭の奥にまで響き渡り、基本操縦用の教科書で何度も反復したものと全く同じのISの操縦方法が流れ込んでくる。
それだけではなく、専門すぎて覚えきれていなかった部分を補完するかのように膨大な情報が意識を侵食してゆき、理解させられた。
基本動作、操縦方法、性能、特性、搭載装備、稼働時間、設定行動範囲、センサー精度、シールド残量、エネルギー効率etc.‥‥
全てが、もともと備わっていたかのように十全に自分のものとして扱えそうだ。
360度全方位に広がった視界には、奇妙な違和感があるものの、それが当たり前であると頭で強制的に理解させられる。
本物のISを起動させたのはこれが初めてであるが、なるほど、世界のパワーバランスを揺るがすには十二分過ぎる程強大な力だ。
戦闘機や戦車クラスの武器でなければダメージを与えることができないシールド、量子化することで状況に合わせて最適な武装を選択できる多様性、大幅な改修を行わずとも地・海・空や極地などあらゆる戦場に対応できる汎用性、必要時以外は待機状態でどこにでも持ち運べる携行性と隠密性、そのどれをとっても旧兵器とは一線を画するものである。
強いて欠点をあげるなら、その核となるコア部分の生産が開発主である篠ノ之 束と数名しかできず、その生産速度も年15個が限界であるというと事と男性適合者の数が恐ろしく少ない事くらいだろう。
国産第2世代型量産IS『打鉄』の装甲に包まれた左手を目の高さで突き出し、2、3度握り開きする。
ISの補助で身体能力等も強化されているはずなのに、若干反応に誤差があるようだ。
「受験番号162番の方、実技試験会場へ進んでください」
「はい」
自分をここまで案内し、ISの装着方法について懇切丁寧に説明してくれた女性教員の声に促され、身体を少し傾けて実技試験場へと低速で進んでゆく。
もっと速度を出して進むこともできそうではあるが、それをすると実技試験開始前に安全管理の点で減点されかねない。
現在、この施設全体が試験会場なのだ。
常在戦場に近い心構えで臨まなければ、女子競争倍率70倍オーバーというIS学園の入学は絶望的と言わざるを得ない。
実技試験会場に入るとそこは、今まで観客席からしか見ることができなかったISアリーナのフィールドだった。
ここまで来た、その喜びから心が抑えきれなくなりそうなほど躍り、歓喜の声をあげたくなるが我慢する。
「はい、貴女が次の受験生ね。じゃあ、自己紹介してくれるかな?」
実技試験の相手として自分を待っていたのは、同じ年代の少女としか思えない人だった。
試験官を務めているので教員であるのは間違いないのだが、大きさが若干合っておらず、今にもずれてしまいそうな黒縁眼鏡とおっとりとした純朴そうな外見で、そうには見えない。
しかし、こんな事で動じてペースを乱すほどヤワな精神はしてはおらず、落ち着いて対応する。
「自分は、受験番号162番。
「はい、確認しました。受験番号162番、重善さんですね。
私は、実技試験官の山田 真耶です。今日は、よろしくね」
「はい」
山田先生が装着しているのはフランス製第2世代型量産IS『ラファール・リヴァイヴ』である。
第2世代型の中でも後期に生産された機体で、高い汎用性と後付け装備の豊富さが特徴の万人向けのISだ。
そのスペックは第2世代型中期に生産された『打鉄』を防御能力を除いては全て上回っており、使用するISが逆ではないのかと尋ねたくなる。
「では、実技試験の内容を説明します」
実技試験の内容を簡単にまとめるとこうだ。
○試験時間15分の模擬戦形式
○使用できる武装は登録リストの中から何を何度使用しても良い
○試験時間が5分を切るまでは試験官は反撃せず回避に徹する
○模擬戦の敗北は不合格ではない
とりあえず、現状でどれだけISを操縦できるかを見るためのものらしい。
自分のように今日初めてISを起動させた人間も少なからずいるのだから、そうであってもらわなければ困る。
「では、好きな武装を展開してください」
「はい」
意識を集中させると、視界とリンクしたハイパーセンサーに現在使用可能な装備の一覧が現れる。
近接装備は『打鉄』の基本装備である刀型から、太刀、脇差、ショートソード、ロングソード、クレイモア、レーザーブレード、メイス、アックス、ランス、ハルバート、スピア、ナックル、鉤爪etc.‥‥
射撃武器はハンドガン、アサルトライフル、アサルトカノン、軽機関銃、重機関銃、ショットガン、ガトリング、グレネードランチャー、ロケットランチャー、バズーカ、レーザーライフルetc.‥‥
他にも投擲武器や設置武器、補助装置等、現在までに製作された物をすべて集めてみましたと言わんばかりの
量の情報が一気に頭に流れ込み驚く。
試験官の山田先生の微笑ましいモノを見るような視線から察するに、きっと自分の前に実技試験を受けた子も同じような事していたのだろう。
全く、事前説明くらいして欲しいものだ。
◆
ふふっ、驚いてる。驚いてる。
特別に用意された独立型
緊張でガチガチになっていたりする子も、こういった時には素の表情が見ることができる。と私、山田 真耶は思う。
世界で最も競争倍率が高い高校としてギネスにも認定されたIS学園の試験、その緊張感は生半可なものではなく、毎年極度の緊張で倒れたりする受験生が後を絶たない。
皆、自分以外の人間は敵と思っているような殺気立った筆記試験の会場は、本職の軍人ですら近づくのは遠慮したいと言い出すほど重苦しいのだ。
そんな中で、この実技試験は少しだけ違う。
もちろん試験に対する緊張もあるが、初めて触れるISへの興奮、広がる世界の感動、新しい自分の発見に対する恐れ、その他多くの感情が高校入学前の多感な時期の少女達にあふれる。
だから、その子の素に近い表情を群れるのはこんな時にしかないのだ。
「ゆっくりでいいですからね」
「はい」
こちらを向いて落ち着いた声で返事をしているが、その若干釣り上がった鳶色の瞳には非難の色が見えた。
やっぱり、ちょっと恨まれてしまったようである。
装備を選んでいる間に、私も彼女の簡単なデータを再確認しておく。
重善 刹利 女性 生年月日:H30.04.11 15歳
出身:日本 ISランクB- 総IS稼働時間0時間0分
筆記試験:274/300 体力試験:A-
筆記も体力もかなり高い成績を修めているし、ISランクも悪くない。
実技試験で危険な機動や暴走をしなければ、まず間違いなく合格するであろう。
春から、副担任ではあるが自分が受け持つ生徒になるかもしれないと思うと楽しみで胸が躍る。
そうしてデータをスクロールしてゆくと、体力試験の追記事項に気になる点を見つけた。
反応速度:0.13秒
これは、驚異的な数値と言える。
データによれば部活動等に所属してはいないようなので、天性のものなのだろう。
日常生活においては、この高い反応速度を生かす機会は少ないだろうが、ISを装着しているならば話は少し変わってくる。
ISには超音速での機動や特殊な装備の為にAllegory Manipulate Systemという人間の脳とISを接続するシステムが搭載されており、これにより人間の反応速度を超えた動きができるのだ。
生身の時点で人間の限界に近い反応速度を出せる彼女がISの補助受けると、どれほどのものになるのかわからない。
「よし」
『打鉄』の両手が一瞬光り、武装が量子展開される。
その両手に握られていたのは無骨なデザインのハンドガンだった。
アメリカ製 IS2014A1 装弾数7+1発
IS開発最初期に製作されたハンドガンタイプの武装
70年以上軍用拳銃として採用されていた『M1911』をIS用に再設計され、耐久性とカスタム性の高さから現在でも根強い人気を持つ
貫通力よりもストッピング・パワーに優れ、多種の兵器にも劣らない威力を誇る
なかなかマニアックな武器を選んだものだと思いつつ、気持ちを引き締める。
「準備はいいですね?」
「はい」
「では、実技試験を開始します」
そう宣言するのに連動し、視界に隅でカウントダウンが開始される。
彼女の方のハイパーセンサーにも、ちゃんとカウントダウンは表示されているようで緊張度が高まったのが見て取れた。
さて、彼女はどういった戦法を取ってくるのだろうか。
驚異的な身体的スペックを持つ実力未知数の相手に、もうすっかり忘れかけていた代表候補生の頃の血が騒ぐ。
3‥‥2‥‥1‥‥
カウントが0になった瞬間、『
本当なら実技試験では専用機持ち、総稼働時間24時間を超える者以外に戦闘機動は行ってはならないのだが、そこは実技試験の点に色をつけるので許してもらおう。
それに、バレなければ問題ではない。
さあ、これに彼女はどう反応す‥‥
――左脚部被弾、シールド減衰。ダメージ8、実体ダメージ無し
ハイパーセンサーに表示された文に驚きつつ、左脚部を確認すると弾丸が掠ったのだろう爪先部の装甲が欠けていた。
油断がなかったといえば嘘になるが、それでも開始直後の瞬時加速に反応して射撃を行い、あまつさえ命中させるとは思いもしなかった。
これは、本物なのかもしれない。
「‥‥初めてなのに、すごいね」
「これくらい、普通です」
そう言って、両手に持ったハンドガンを構える姿は素人っぽさが残るものの、私の動きに合わせて反応していた。
どうやら、まだ行動の先読みというものができないので、天性の反応速度でそれを補っているのだろう。
ちょっと意地悪しちゃおうかな?
◆
「ふぅ‥‥」
未だ火照りの取れない身体に清涼飲料を流し込み一息つく。
現在、実技試験を終え、駅のホームで電車を待っている。
個別解散ではなかったので時間が掛かり、駅の電光掲示板横にある時計で確認してみると20:49だと示していた。
ここから、自宅の最寄駅まで8駅もあり、その駅からも自転車で30分近くかかるのだ、きっと自宅に辿り着く頃には22時近くになるだろう。
別に親が躾に厳しく、門限が定められているわけではない。
問題は、もっと単純で‥‥そして深刻なものだった。
グ~~、ギュルギュル~~‥‥
「お腹空いたな」
そう、ものすごく空腹なのだ。
実技試験の集合時間は朝の9時で、自分の試験開始時刻は午後で昼食休憩からも近かったので弁当は軽くつまめるものしか持ってこなかったのである。
自慢でもなんでもないが、自分はよく食べる。
一般的な女子中学生の倍くらいは簡単に食べるし、あればあるだけ食べたくなるタイプだ。
なので、つい食べ過ぎて実技試験でお腹が痛くならないように、予備の食料等を持ってこなかったことが、こんなところで響いてくるとは思わなかった。
「炭酸なんて買うんじゃなかったな」
火照った身体にはちょうど良かったかもしれないが、空きっ腹には炭酸の刺激は強すぎる。
喉が渇いていたのもあってかペットボトル選んでしまったので、容器の中にはまだ半分ほど中身が残っている状態だ。
「‥‥強かった」
そっと目を閉じてみると、実技試験の様子がまざまざと思い出される。
もともと勝てるなんて思ってはいなかったが、反射神経には自信があったし、実機を動かす機会には恵まれなかったが、その分市販されている教本をいくつも購入しイメージトレーニングと身体作りは怠らなかった。
でも、そんなものは大して役に立たなかった。
反射神経の良さを逆手に取られ、不規則なフェイントに揺さぶらて射撃は安定せず。
それでも必死に食いついて『
リロードを何度も繰り返し、消費した弾倉の数が両手の数より多くなったところで10分が過ぎ試験官の反撃が始まった。
武装展開時の好きを見逃さず妨害を行うが、そんな小手先の技術など1度しか通用せず、結局は試験官の攻撃を紙一重で回避しつつカウンター叩き込むので精一杯だった。
反射神経任せのカウンターなんて何度も成功するわけもなく、次第『肉を切らせて骨を断つ』戦法に変化し、最終的に骨も断たれてしまう。
試験官のラファールのシールドエネルギーは半分くらいは削れたと思うし、それなりの操縦技術は示すことができたはずだ。
「合格してるといいな」
目を開いて空を見上げると、そこには綺麗な星空が広がっていた。
◆
「稼働時間が0の者相手に、専用機持ちと同レベルで戦うなど何を考えてる!」
「す、すみませ~~ん」
IS学園の職員室に世界最強の怒号が響く。
口径が小さければIS装備でも弾く強化ガラスがビリビリと震え、他の教師達は触らぬ神に祟りなしと安全な場所で静観を決め込んでいる。
「まったく、いくら体力テストで優秀な成績を修めていても実機でも高い技能を発揮できるとは限らんのだぞ!」
「はいぃ‥‥でも、織斑先生。見てください、ここで私の展開に反応して『展開介入』してきてるんですよ!
初の実機でここまでできるなんて、やっぱりこの娘は本物だと思うんですよ!!」
「確かに、初の実機で元代表候補生の相手にここまでの動きができるなら十分すぎる」
「ですよね!ですよね!!射撃も銃口と私の指の動きで回避してきますし、近接戦を仕掛けたらカウンターしてくるんですよ!!」
「落ち着かんか!」
スパァーーーンッ!!
音を置いていかんという速度で振り抜かれた業務日誌が真耶の頭を捉える。
「とりあえず、コイツは合格だ。しかし、今年はどうもおかしい」
「うぅ‥‥そうですね、世界でも10人に満たない男性操縦者が4人、入学式には間に合わない子もいますが専用機持ちが8人、この娘も含め高すぎる操縦技術を持つ娘も多数、それに篠ノ之博士の妹さん。
はっきり言って異常です」
それまで静観を決め込み、合否判定作業に勤しんでいた他の教師も同意するように頷く。
例年であれば技量の高い生徒が多い年は何度かあり、専用機持ちが複数入学してくることもあった。
しかし、今年はそれに加えて世界に9人しかいない男性操縦者の約半数が入学し、その全員が専用機持ちである。
これも、お前の思惑通りなのか。束?
世界最強は、世界のどこかでほくそ笑んでいるだろうISの開発者を思い大きな溜息をついた。
用語解説
『
小さな加速を連続して行う機動技術。
『
ただし、実戦で使用する場合はある程度の速度が必要なので、慣れない間は酔う事が多いので注意が必要。
『展開介入』
相手の武装展開時に、展開直前の量子化状態の一瞬に銃弾等の異物を紛れ込ませエラーを起こさせ展開を失敗させる技術。
基本的にISの武装展開時間は1秒未満であり、上級者になればさらに早くなるので成功確率は極端に低い。
『独立型
必要のない
全長9mのモノリス型をしており1機で最高500もの後付武装を格納でき、コア・ネットワークに接続することによって格納された武装を自由に使用できる。
開発企業やISアリーナには最低1機の設置義務が課せられており、後付武装をそのまま保管することは国際法で禁じられている。
公式戦での使用は認められていない。
価格:1機4億円