IS 3組の少女   作:被る幸

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ひっそり更新です。
これからは不定期に更新できればいいなと思っています。


1-10

「‥‥」

 

「‥‥」

 

 

沈黙が痛い。

もともと数十人用の更衣室を2人で使用しているため、その沈黙の痛さも倍増しているような気がする。

横目で右を見ると、すぐ隣にイケメン要素の塊が見えた。

女性でもそうはいないであろう程に磨かれた白い肌、光を受けて輝く銀髪、アイドル並みのルックス、男で無くともその100分の1でもいいから分けてくれと言いたくなるくらいの美しさだ。

良く言って中の上程度の外見でしかない俺にとっては、一生辿りつけない領域だろう。

これで中二病とかを患っていなければ、もっとモテるのではないだろうか。

 

しかし、授業前も思っていたのだか‥‥

他にもロッカーはあるのに、わざわざ俺の隣で着替えるのだろう。

もしかして、ソッチの趣味の人間なのかもしれない。

だとしたら、気をつけなければ‥‥俺はノーマルなので、掘ったり、掘られたりするのもゴメンだ。

和馬は「『男の娘』なら抱ける、むしろこちらからお願いしたい!」とか力説し、俺と一夏もそういう雑誌を渡されたが、数ページで挫折した。

 

 

「何だ?」

 

 

俺の視線に気がついたのか、マルクが睨んできた。

『それは、こっちのセリフだ』といのは飲み込み、何でもないと誤魔化してさっさと着替えを済ませる事にした。

ISスーツは通気性等も抜群なので、脱がずにそのまま制服を着る。

こんな気まずい空間なんて、さっさと退散したい。

 

 

「お前も、俺達と同じなのか?」

 

 

着替えを済ませて更衣室を出ようとしたら、そんな問いかけがされた。

流石は、中二病患者。狙ったかのようなタイミングでこんな意味深な言葉を投げかけてるくなんて。

中学時代の和馬がいたならば、この空間は瞬時に謎のバトル・フィールドとなり、見ているこっちの顔が熱くなってしまうような茶番を繰り広げてくれたに違いない。

 

しかし、俺は中二病を患っていないのでそんな言葉に乗ってやらない。

 

 

「さあな」

 

 

俺は、そう言い捨てて更衣室を後にした。

 

 

「‥‥五反田 弾。貴様はどっちなんだ?」

 

 

扉が閉まりきる寸前に、そんな言葉が聞こえたが無視をする。

中二病患者は、バカ正直に相手にしていても疲れるだけであると身をもって知っているからだ。

 

さて、次の時間は座学か。激しく憂鬱だ。

 

 

 

 

 

 

「昼休みだ!」

 

「昼御飯だぞ!!」

 

「ヴルストォ~~なの!!!」

 

 

長かった、これまでの時間がとても長かった。

朝食抜きで最初の授業は実技、空腹に運動という最悪のコンボのせいでお腹が綺麗にすっからかんだ。

座学中、何度鳴りそうになったお腹を抑えたかわからない。

ルーから巻き上げたたった3本のソーセージでは、自分の空腹を紛らわすことすらできなかったようだ。

 

 

「先行くからな!」

 

「えっ、刹利!ちょっと待つの!!」

 

 

ルーの制止の声を無視して『簡易懸垂降下装置』を準備しつつ、教室の窓から飛び降りる。

 

 

「刹利!」

 

 

一度見ているはずの弾が驚愕の声を上げ、他のクラスメートたちも悲鳴を上げている。

ルーは、ちゃんとわかっているらしく食堂に向かって駆け出していた。

身体が重力に捕まり落下を開始したところで、装置の支点部を2階の窓ではない場所に目掛け投げる。

こうすることにより、通常の使い方よりも時間を短縮して効果をすることができ、現在のような緊急時にとても重宝するのだ。

降下完了と同時に回収を済ませ、食堂に一直線に走る。

契約操縦者として課されたトレーニングの効果と餓狼の如き原始的欲求の加護も相まって、今なら『世界最速の男(ウサイン・ボルト)』といい勝負ができそうな気がする。

 

 

「そこの生徒止まりなさい」

 

 

私の進行方向にのほほんとしながらお堅い仕事が得意そうなメガネの3年生が立ちはだかるが、そんな命令は餓狼と化した自分には聴くに値しない。

速度を緩めるどころか、さらに加速しながら真っ直ぐ進む。

 

 

「仕方ありませんね」

 

 

3年生は自分を武力をもって制することも厭わないようで、何かしらの武道の構えをとる。

 

 

「押し通る、邪魔をするな!」

 

「生徒会役員として、停めさせていただきます」

 

 

先に動いたのは3年生で、ほぼ無拍子で仕掛けてきた。

その外見とは裏腹な相手を沈めることに特化したえげつない人体急所への掌打が繰り出されるが、餓狼状態で感覚が極限まで高まっている自分にはそれすら遅く感じる。

手首に手刀を叩き込み軌道を逸らし、アメフトのプロ選手から習った最小限の動きで相手をすり抜ける動きで突破する。

3年生は、己の実力に相当の自信を持っていたらしく抜かれる瞬間何が起きたか分からないという惚けた顔をしていた。

障害はなくなったので、自分は食堂にトップスピードのまま駆け込み空いている券売機に滑り込む。

財布から諭吉を取り出し、券売機に食わせ大盛りラーメン、大盛り炒飯、餃子2人前、サラダのボタンを押し出てきた食券とお釣りを回収し、即食堂のおばちゃんに渡す。

 

 

「相変わらず、よく食べるねえ。作りがいがあるよ」

 

「ここのご飯は美味しいから、いくらでも食べられるぞ!」

 

「そうかい、じゃあいい子にして待ってるんだよ」

 

「了解♪」

 

 

すっかり顔なじみになった食堂のおばちゃんと軽く談笑し、受け取り口から近い席を陣取る。

そこでデザートを頼み忘れていたことを思い出したが、まあ後でもいいだろう。

今日は中華系にしたのでデザートも合わせたほうがいいだろうか、それともここは最近メニューに並んだ限定桜餅にすべきか。

自分のお腹の底を棲み家としている魔物が獰猛な唸り声を上げるが、もうすぐ昼食を取ることができると思うとそれすら愛しく感じる。

そんなことを考えながらテーブルに備え付けられている角砂糖をいじっていると、目の前に先程の3年生が立っていた。

 

 

「ようやく、追いつきました」

 

「自分に、何か用でも?」

 

「ええ、生徒会役員として幾つか注意を」

 

 

先程の闘いで自分は厄介事の種を蒔いてしまったようだ。

いくら空腹レベルが限界だったとはいえ、こんな事になるならもう少し自重すべきだった。

後悔しても遅いようではあるが。

 

 

「後じゃダメですか?」

 

 

ものを食べるときは静かに自由で、救われていたいというのに。

説教なんて受けてたら、せっかくの楽しい食事も喉を通らなくなってしまう。

 

 

「駄目です」

 

 

ダメらしい。

 

 

「なら、さっさとお願いします」

 

「反省していないようですね」

 

 

ああ、ダメだ。空腹のせいか気が立ってしまう。

こんな言い方するつもりはんかったのに、どうしても刺があるような言い方になってしまう。

 

 

「ただ、お腹がすいているだけです」

 

「その程度のことは理由になりません」

 

「‥‥その程度?」

 

 

今、コイツはなんて言った?

空腹がその程度?どんな基準でそんなこと言ってるんだ?

確かに自分の行動は褒められたものではないかもしれない。言葉も悪かったかもしれない。

自慢ではないがなかなかな健啖家である自分にとって、空腹はかなり辛いものがあるのだ。

 

 

「貴方の行動は一歩間違えると大怪我につながる危険なものです。それは他人ではなく、貴方自身かもしれないのですよ!

わかっていますか!?」

 

「弱肉強食のIS学園では、勝った者が法でしょう」

 

「‥‥何ですって」

 

「IS学園では、生徒の長となる生徒会長の選出基準は『強さ』という一点のみ。現生徒会長は2年生で、貴方がた3年生はその決定に従う。

企業では有名ですよ。IS学園は設備は最先端だが、運営する人間の思想は獣のようだったと。

力があれば偉くなれる此処ならば、自分を止められなかった敗者である貴方の言葉を聞く必要はありますか?」

 

「‥‥違います。IS学園はそんな場所ではありません」

 

 

空腹による八つ当たりだとは自覚していたが、口を開けばそんな言葉がすらすらと出てきた。

しかしこの話は企業では有名で、現ロシア代表である生徒会長が実権を握った途端、その権限で何度も独断による決定や改革を進めたため、一部では『IS学園では、ナチズム思想が復活した』等と過激なことまで言われていたりするのだ。

それ以外にも専用機を持つ者や自分のようなエンブレム持ちと一般生徒を比べると、明らかに贔屓と思われる部分が多く見られる。

 

 

「生徒会がどう思っていようと、それが企業から見たIS学園ですよ」

 

「違います!そんなことはありません!」

 

「大食い嬢ちゃん、できたよ。取りおいで」

 

「はぁ~い♪‥‥では、失礼します」

 

 

怒りと悲しさが混ざりすぎて訳のわからない顔になった3年生を置いて、注文の品を取りに向かうがもう追っては来なかった。

あんなこと言うつもりはなかったのに、そう後悔しながら受け取ったものを確認する。

いつもと変わらず、見るだけで涎が溢れそうな美味しそうな料理の数々なのだが、食べるのが楽しみという気持ちが薄れてしまっているせいか食べ切れそうにない予感がした。

 

どうして、こうなったんだろう。

 

 

 

 

 

 

「刹利、本当にどうしたの?すごい顔してるよ?」

 

「‥‥別に、普通だぞ」

 

 

どうも、五反田 弾です。突然ですが、テーブルの空気が最悪です。

投身自殺のような懸垂下降をした刹利を追って食堂に着いたら、そこには殺意の波動を撒きながらラーメンの丼を積み重ねている姿があった。

ルーに聞いても『ルーが着いた時には、もうこうだったの』との事で、それまでの間に何かあったのだろう。

 

 

「ルー、おかわり買ってきて。余ったお金でソーセージとか買っていいから」

 

「ありがたく使わせてもらうけど、その前に説明して欲しいの!」

 

 

4杯目の大盛りラーメンを完食した刹利は、テーブルに突っ伏し財布から千円を取り出しルーに渡す。

まだ食べる気なのか、その小さな身体のどこに入るのだろう。胃が破裂してしまうのではないかと本気で心配だ。

そして、ルーよ。お前はちゃっかりしてるな。

 

 

「‥‥自己嫌悪中」

 

「そうなの?珍しいね。じゃあ、おかわり買ってくるの」

 

「あっさりし過ぎだろ!!」

 

 

たった一言で納得して、おかわりを買いに行こうとするルーに我慢できずツッこむ。

理由とか聞かないのかよ、お前ら親友なんだろ?もっと、こう傷ついた時には互いが支え合うとか、そういったものはないのか?

 

 

「だって、自己嫌悪ならルーにできることはないの。そういう時は好きな事して発散するのが一番だと思うな」

 

「そ、そうだけど」

 

「それに刹利もルーと同じだから、これくらいの事は日常チャメシ事なの」

 

「そうなのか」

 

「なの」

 

 

俺の理解が浅いだけで、この2人は本当に互のことをよくわかっているのかもしれない。

一応、俺も数少ない男性操縦者で特別扱いされているが、『エンブレム持ち』には『エンブレム持ち』にしかわからない何かがあるのだろう。

ならば、俺のやろうとしていることはただのお節介でしかない。

 

 

「ルー」

 

「何?」

 

「チャメシ事じゃなくて、茶飯事(さはんじ)な」

 

「‥‥し、知ってたの。場を和ませるルー的ジョークなの」

 

 

間違いを正してやると、顔を真っ赤にして券売機の方へかけていった。かわいい。

いつもマイペースで自信家な女の子が失敗して顔を真っ赤にして恥ずかしがる。

何だろうか、この胸の奥底からこみ上げてくる暖かくて優しい気持ちになってくるモノは。

 

 

「それは『萌え』というものですわ」

 

 

これが『萌え』?和馬が俺達にアニメを見せながら力説していた『萌え』なのか。

確かに、こんな気持ちになるならば世の中にアニメに嵌り込んでしまう人間が後を絶たないわけだ。

あの時のように『言葉』ではなく、『心』で理解できた。

 

 

「歓迎しますわ。新しい同志」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 

差し出された同志の手をとる。

少しひんやりとした同志の手は、女の子らしく小さかったが極上のシルクのような触れることすら罪に思える感触だった。

 

‥‥ところで、この娘誰?

 

同志は、ルーよりも鮮やかな金髪をした若干釣り上がった透き通った蒼色の瞳をした少女だった。

いつの間にか現れた少女は手を離すと刹利の前の席に持っていた焼き鮭定食の乗ったトレーを置き、何事もなかったかのように食べ始める。

日本人じゃないのに箸使い方がとても上手く、その動きの一つ一つ気品と優雅さを感じさせ、ただの食事風景が絵画のように見えた。

 

 

「あの‥‥」

 

「なんですの、同志?」

 

「いえ、何でもないです!」

 

 

ひと睨み。たったひと睨みで、理解させられた。

今の俺では、決して埋めることのできない実力差というものを。

俺よりも小さいはずの同志が何倍も大きく見え、言葉を続けることすら許されないような気がしたのだ。

 

 

「なら、いいですわ」

 

 

どうして、IS学園には普通の女の子はいないのだろう。

やっぱりあれか、才能を得るためには普通さを犠牲にしなければならないのだろうか?

くだらないことを考えながら、少し冷めてしまったハンバーグを食べる。

冷めてきているというのに、肉の旨味が一切欠けていない。

恐らくだが、ロースのミンチだけでなくいろんな部位の肉を混ぜているのだろう、一口ごとに微妙に変わる食感と味はまるで牛一頭を食べているようだ。

そしてレモンと醤油がベースのあっさりとしたソースが、胡椒を気持ち強めに効かせた肉のみの野性味溢れるハンバーグによく合っている。

この付け合せの薄切りにした玉ねぎも新鮮でえぐみもなく、シャキシャキとした食感と程よい甘みが嬉しい。

この味をなんとか盗んで、実家に帰った時に祖父ちゃんを驚かせてやるか。

 

ああ、ご飯が進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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