話に大きく関わってくるオリキャラはこれで終わりか、後1人くらいになると思います。
相打ち覚悟で瞬時加速で突っ込んでくる打鉄の脚部推進機を撃ち抜き、マガジンの残りを頭部に叩き込み絶対防御を発動させ撃破する。
仮想模擬戦モード、終了
タイム:11分27秒
非ダメージ:83
消費弾数:134発
命中率:69.2%
回避率:91.6%
評価B+
超感度ハイパーセンサーに表示された模擬戦結果に肩を落とす。
学習機能によって超感度ハイパーセンサーは日に日に自分の反応速度に最適化されてゆき回避率は平均85%超えるようになったのに、射撃の命中率だけはどうしても上がらない。
この記録も自分の今までの中でベスト3に入る好成績なのだが、射撃型ISであるカスタム・イーグルを使用してこれでは話にならないらしく、こちらも平均85%超えにしなければならないのだ。
射撃に関してはセンスと経験がものを言うので、銃と全く馴染みのない平和な日本で今までを過ごしてきた自分には圧倒的に経験が足りない。
毎日射撃はできないので、実弾が撃てないように処理された銃を使って構えや照準の練習だけは毎日行なっているのに結果に結びつかないのが歯痒く感じた。
持っていたアサルトライフルを展開解除し、地上に降下する。
超感度ハイパーセンサーを解除し、事前に用意しておいたスポーツ飲料の入ったボトルを慎重に手に取る。
普段通りに取ろうとするとボトルを破裂させてしまうからだ。
ハービックの施設でも両手で数え切れない数のボトルを破裂させてしまい、ディランさんに何度怒られたか。
いっそ、IS用のボトルを作ってしまえばいいのにと思う。
水分補給しながらさっきの模擬戦のデータを本社へと転送する。
「はぁ‥‥」
クラス代表を賭けた模擬戦まで後5日、こんな状態じゃ専用機持ちであるルーに勝てる見込みは薄い。
しかし、だからといって代表を諦めるほど自分は情けない人間でもない。後5日しかないのなら、5日で勝てるようになるまでに仕上げればいいのだ。
アリーナの使用時間には余裕があるので、まだ最低3回は仮想戦が行えるだろう。
目標は仮想戦の平均命中率65%超えだ。
「‥‥ふぅ」
しかし、お腹が重い。いくらやけ食いとは言え、流石に大盛りラーメン5杯はちょっと食べ過ぎだった。
IS操縦者として自己管理は重要なので、これからは気をつけなければ。
◆
「寒っ!」
四月とは言え、完全に日が沈みきったアリーナの外は制服だけでは少々肌寒く感じる気温だ。
結局あれから仮想戦を4回ほど行い汗だくになったのでシャワーを浴びたのだが、それがいけなかった。
身体をあっためたことで皮膚に近い血管が拡張され、そこを春とはいえまだまだ冷たい空気が通り過ぎることで体温を持っていかれるのである。
病気には強い方ではあるとはいえ、慢心できる程でもない。
走って帰れば早いのだろうが、そうするとまた汗をかいて部屋に戻ったらまたシャワーを浴びなければならいだろう。
仮想戦で少々無茶な機動をして体力を結構消費してしまったので、明日の朝の準備とかを考えると部屋に戻ったらすぐに寝たい。
とりあえず両手を脇で挟み込み、汗をかかない程度の早足で学生寮を目指す。
「~~♪~~~♪」
途中にある運動部用に設置されている無料自販機を過ぎたところで、誰かの歌声が聞こえてきた。
日本語でも英語でもないので歌詞の内容は分からない。
しかし、透き通った凛とした声で歌い上げられるその穏やかな歌は、とても耳心地良くいつまでも聴いていたいと思わせる素晴らしいものだった。
寒いので早く自室に帰りたいという気持ちもあるのだが、この声の主を確かめたいという興味もある。
寒さと興味を天秤にかけ、興味のほうを選ぶ。この機会を逃せば、2度目はないような気がするからだ。
歌声の主の気を散らしてしまわぬように、足音を殺しながら慎重に声のする方向へと足を進める。
道から外れ、見苦しくないように整えられた茂み等を音を立てないため迂回したりしながら歌声の発生源へと急ぐ。
「~~♪~~~♪」
思いのほかすぐにたどり着いた歌声の発生源。そこにいたのは、月の女神だった。
月の光が質量を持ったかの如く夜の闇を優しく照らすような銀髪、アメジストの瞳は見ているだけで吸い込まれそうになるほど深い輝きを放つ。
肌も新雪を思わせる汚れひとつない白さで、嫉妬することすら罪に思えてしまう。
近づくことを許さない身体から溢れ出す高貴なオーラは、全く不快ではなく芸術を鑑賞している気分だ。
リボンの色からして同じ1年らしいが、こんな綺麗な人がいたなんて知らなかった。
流石は、IS関係の次に多い就職先がモデルや女優、アイドルといわれるIS学園なだけはある。
ルーも自分とは比べ物にならない美少女だが、この人はそれとは別ベクトルの美しさがあった。
「~~‥‥っ!!」
「‥‥あっ」
歌声に聞き惚れ、美貌に見とれていると不意に目があった。
気配は極力消していたつもりだったが不十分だったのだろう。
邪魔するつまりは一切なかったのだが、結果として歌を中断させてしまった以上は言い訳でしかない。
「‥‥ご、ごめん!」
罪悪感から急速旋回をし、その場から撤退を開始する。
最初から全力疾走、汗とかは一切気にせず一直線に学生寮方向へと駆け出す。
「逃しません!」
やはり怒らせてしまったのか、逃げる自分を全力で追いかけてきた。
先ほどまで月の女神に見えていたその姿が、今では獲物を狡猾に追い詰めようとしている猟犬に見える。
「謝るから、謝るから!許してぇ!!」
「必要ありません」
身体能力は向こうの方が上のようで、背中に受けるプレッシャーが一歩ずつではあるが縮まってくる。
学生寮まで残りは約100m、このペースでは逃げきれない。
どうする、何か冴えた手段は?いい逃走経路は?
頭を働かせてみるが、ここに来て2週間も経っていないのだ。複数のISアリーナを抱え、ただでさえ広すぎるこの学園の敷地すべてを把握できているはずがない。
「捕まえました!」
結局、逃げきれずに捕まってしまう。
なんて言って謝ればいいだろうか、ここから挽回する方法はないだろうかと少々酸素が足りなくなった頭で必死に考えを巡らせる。
「そのエンブレム‥‥貴女は、重善 刹利で間違いありませんね?」
「そ、そうだぞ」
「重善 刹利‥‥ワタクシと友達になってください!!」
「‥‥はい?」
予想外の言葉に思考が停止しかけたが、なんとか踏みとどまる。
こういう時、どんな顔をすればいいか分からないが、とりあえず微笑んでおけばなんとかなるような気がした。
「ワタクシ、ターニャ・スミルノフは‥‥日本でいうところのぼっちなのです」
あっ、この人どことなくルーと同類の香りがする。
◆
「‥‥という訳でして、ワタクシは友達がいないのです」
「自業自得のような気がするさ」
あれから、近くにあったベンチに腰掛け話を聞くことになった。
スミルノフさんの話をまとめると
・スミルノフさんは4組の生徒でロシアの代表候補生で専用機持ち
・入学した理由は、経験を積むのと現生徒会長の持つロシア代表の称号を祖国に取り戻すため
・入学式前に生徒会長に挑戦するも結果は完敗
・ショックでやや自暴自棄になって引き篭っていた
・気持ちの整理がついた時には、すでに手遅れ状態に
・やけ食いをしていたら、さらに引かれた
こんな感じだ。
可哀想だとは思うが、やっぱり自業自得だと思う。
学校生活において、コミュニティが形成されるまでの最初の1,2週間は1秒1秒が金やダイヤと同じ価値を持つ。
国際色豊かなここでは尚更だ。
自分の場合はルームメイトのルーと初日から意気投合、というか一方的に気に入られたのであまり苦労しなかったが篠ノ之さんみたいなタイプだったら、かなり苦労しただろう。
「それは、わかっています。ですから、こうして頼んでいるのです」
自分の手を取りアメジストの瞳を潤ませながら上目遣いで頼ってくる姿は、庇護欲を絶妙な加減で刺激し無条件に頷きそうになる。
これを狙ってしているのなら、相当な悪女であるがスミルノフさんからはそういう嫌な感じはしないので天然だろう。
「なんで自分なんだ?」
「運命です!」
「わけがわからないさ」
「まだ祖国にいた頃、ISの整備班長が言っていました。『日本での出会いには、全てイベントがなければならない』と。
ですので、ワタクシは人目のない場所で歌っていたのです」
何を言っているのか、さっぱりわからない。
いつの間に日本はそんなことが決まってしまったのだろうか?
「それは、間違ってると思うぞ」
「はて、整備班長は日本の日常をアニメにしたもので勉強したと言っていましたが?」
「フィクション!それ、フィクションだから!!」
「なんと!そうなのですか!!」
どうやら、スミルノフさんに日本のことを教えた整備班長はオタクだったようだ。
悪気はなかったのだろうが、聞かれたままアニメで知った間違った日本像を純真無垢なスミルノフさんに教えてしまったのだろう。
人に聞くだけでなく、事前に自分で調べたりしなかったのだろう?
「では、この方法で友達は‥‥」
「できにくいだろうな」
「なんと!なんと‥‥」
なんだか相当ショックを受けている。
潤んでいた瞳は閉じられ、月明かりを受けて輝く雫がこぼれ落ちた。
握られたままのてからは微かな震えが伝わってき、嗚咽こそもらさないものの泣かせてしまったようだ。
きっと、これは最終手段だったのだろう。
「わ、わた‥‥ワタクシに、もう‥‥とと友だ‥友達は‥‥」
ああもう、せっかくの美人が台無しだ。
こんな娘を見捨てることができるだろうか。いや、できない。
「いるさ、ここにひとりな」
自分らしくない格好つけた台詞だが、これで泣き止んでくれるのなら安いものだ。
空いていた手で優しく頭を撫でる。この綺麗すぎる髪に触れのには一瞬躊躇したが、ここまで来たら引き返すことなどできない。
「あまりまじめになっちゃだめだ、そのほうが上手くいくんだぞ」
「‥‥はい。はい!」
今泣いた烏がもう笑う、そんなことわざがよく似合う表情の変化である。
涙の跡を輝かせながら、やや崩れた笑みを浮かべるターシャは月の女神とかなどではなく。自分と同じ、普通の女の子だった。
「これから宜しくな、ターシャ」
「こちらこそ、よろしくお願いします‥‥あなた様」
雪のような頬をほんのり桜色に染めながら、深々と頭を下げてくるターシャ。
ちょっと嫁入りの時の挨拶みたいだなと思ったことは、秘密にしておこう。
そんなつもりはないだろうし、またアニメ好きの整備班長から教えられた間違った日本知識が原因だろうし。
「いやいや、そんな呼び方じゃなくて、普通に刹利でいいさ」
とりあえず、呼び方だけは変えさせておく。
あなた様なんて呼び方されたらクラスでどんな反応をされるかわからない。
今年になって男子が4人入ってきたが、IS学園の生徒の90%以上は女子なのだ。
『女の園』と呼ばれる理由はその圧倒的な女子率だけでなく、同性愛者が多いという噂からもきている。
数百人もいればそんな人が何人かはいるだろうというのはわかるが、自分はノーマルだ。
そっちの気なんて一切ない。
「そうですか、では刹利と呼ばせていただきます」
「それでいいぞ」
最初はどうなるかと思ったが、これで一件落着だ。
ホッとしたら、小腹がすいてきた。
昼にあれだけ食べたというのに、もうお腹が空くなんて何か住んでいるのではないだろうか?
空いてしまったものは仕方ないので、我慢せず食べることにしよう。ダイエット?何それ、美味しいの?
「さて、一緒にご飯でも食べないか?」
「ええ、お供させていただきます」
空を見上げると綺麗な夜空の中で満月が輝いていた。
ターシャの言葉ではないが、こうやって自分たちが出会ったのは何かしらの運命力が働いたのではないだろうか。
泣いたせいで少しだけ目を赤くしながらも、隣を歩きながら心底嬉しそうなターシャを見て、ふとそう思った。