IS 3組の少女   作:被る幸

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今回は弾メインです。
後、名前だけ出てきていた専用機も出ます。


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放課後から一夏が見当たらなかったので、食堂で様々な女子に絡まれ精神力を高速で削られながら食事をとり、ようやく自分の部屋へ帰ってくることができた。

部屋の奥からシャワーの音がするので、一夏の奴も戻ってきているらしい。

とりあえず第一ボタンまできっちり止められた制服の襟首を緩め、上着を枕元に投げベットにダイブする。

学校が始まってまだ2日、だというのに精神的疲労度は数ヶ月ぶんくらい溜まったような疲れようだ。

話しかけられるのもそうだが、見られるだけというのも相当くるとは知らなかった。

動物園とかで、ただ見られているだけで食住が保障されているパンダとかをニートみたいだと馬鹿にしたことがあったが撤回しよう。

ほぼ毎日自分の生活を見世物にされるなんて、拷問にも等しいえげつないものである。

よくストレスで弱ったりしないものだ。今の俺なら1週間も経たずに心折れるに違いない。

 

 

「おっ、帰ってきたのか」

 

「ああ‥‥一夏、確かにここは俺たちの部屋だがシャワーから出る時にはパンツくらい履いて出ろ」

 

 

何が悲しくて野郎の裸を拝まなければならないのだ。

 

 

「別にいいだろ、これくらい?」

 

 

男同士なんだしさ、と一夏は言うがそれは甘いと言わざるを得ない。

 

 

「一夏‥‥あの扉一枚の向こうは女の園なんだぜ。何万分の一の確率かはわからないが、もし今誰かが入って来てみろお前は性犯罪者扱いだぞ?」

 

「た、確かに」

 

 

そこまで考えが及んでいなかったようだが、そんなことは天文学的確率でありえないのはわかっている。

入寮前に説明があったが、俺達やあの厨二病の部屋は世界トップレベルのセキュリティシステムで守られており、扉のロックも限られた人間しか入れないよう生体認証が使われているのだ。

だがしかし、ここに居るのは中学時代『人間旗立て機』と称された織斑 一夏である。

少し早めに教室に着けば朝練後で着替えている女子がいて、裏道を通ると不良に絡まれている少女がいて、本屋に行けば欲しい本に手が届かず困っている女の子がいて等のイベントを発生させ、しかもその全て相手が美少女だという一夏だ。

『織斑が歩けば美少女イベントが起こる』と男子全員に言わせる程のイベント野郎に確率は天文学的なものだから安心しろと言えるほど俺は自信家ではない。

中学3年間をほぼ隣で過ごしてきた俺だから言える。

 

『一夏の行動に美少女が絡んだ時、確率や統計は当てにするな』

 

俺、五反田 弾はここに予言しよう。我が友織斑 一夏は、この1ヶ月以内に新しい美少女を惚れさせるであろうと。

 

 

「ここが俺達に残された、最後の安住の地だというのはわかる。だが、それでも最低限の緊張感は持っておけ」

 

「悪い。強くなることばかり考えてて、そこまで考えてなかった」

 

「おう、これから気をつければいいさ」

 

 

一夏が急いで着替え始めたので、俺もシャワーを浴びるための準備をする。

今日も疲れたので、さっさとこの倦怠感をシャワーで洗い落として眠りたい。

 

 

「なあ、弾」

 

「何だ?」

 

「どうやったらISで強くなれると思う?」

 

「そりゃあ、強い人に教えてもらうしかないだろ」

 

 

俺達はほんの数ヶ月前まで、自分にIS適性があるなんて夢にも思っていなかったのだ。

しかし、ここに入学している生徒の大半は年単位で操縦者になるための勉強や訓練を積んできているものばかりである。

故に、俺達は圧倒的に基礎経験値が足りていない状態だ。

それを埋めるには経験を積むのと上手い人の技術を盗んで自分のものとするしかない。

 

 

「だよなぁ~。でも、そんな知り合いいないし」

 

「千冬さんは?」

 

「無理無理、千冬姉は教師として色々忙しいみたいでさ」

 

「そうか」

 

「それに、どうせなら千冬姉の知らない所で強くなって驚かせたい」

 

「無茶言うなよ」

 

 

そんな選り好みできるような立場ではないことを自覚していないのだろうか。

重度のシスコンを患っている一夏は、世界最強の姉に褒めて欲しくてどうしようもないらしい。

 

 

「篠ノ之さんは?」

 

「今日頼んだら、剣道場に連れて行かれてボコボコにされた」

 

「何故、剣道場?」

 

「俺の腕がなまっていないか見るためだってさ」

 

 

ISに剣道の腕がどう関わってくるのかが、いまいちわからないが篠ノ之さんがそう言うなら何かしらの関係があるのだろう。

教えてくれた相手に取り敢えずで無駄なことをさせるとは思えないし。

一夏の専用機は、俺のとは違って近接ブレード1本しか装備のない超近接特化機だから丁度いいのかもしれない。

 

 

「そういう弾はどうするんだ?」

 

「俺か?俺は刹利にACMを教えてもらうことになってる」

 

「ACM?」

 

 

一夏がアホそうな顔で尋ねてくるが、もしかして俺も似たような顔をしていたのだろうか。

間違いなくしてただろうなと確信を抱きながらも話を進める。

 

 

「空中戦闘機動のことらしい」

 

 

よく考えたら『エンブレム持ち』からその技術を教えてもらえるなんて、結構凄いことではないだろうか。

あの時は何も考えずダメもとで頼んでみたが、普通なら大企業のエリートが初心者の為に時間を割いても何の得にならないので相手にもされないはずだ。

でも、刹利は悩むことなくOKしてくれた。その優しさに感謝の気持ちが溢れ出しそうだ。

これからは、刹利いる方向には足を向けて寝ることなんてできない。

 

 

「ずるいぞ、弾!なんでお前だけ!!」

 

「いや、お前のクラスにも専用機持ちの娘がいるだろ?」

 

「男嫌いっぽくて、近寄りがたいオーラを発しているから頼めなかった」

 

「そりゃ、ご愁傷様」

 

 

どうやら、IS学園に入学してから女運というものに恵まれてきているらしい。

これは、3年間一夏の面倒を見てきた俺への神様からのささやかなプレゼントなのだろうか。

 

 

「なあ、それって俺も参加できないか?」

 

「刹利ならいいって言ってくれるだろうけど‥‥お前は、篠ノ之さんに頼んだんだろ。それは、どうするんだよ?」

 

 

明らかに一夏に惚れている篠ノ之さんのことだ、頼まれた次の日に別の人にも教えてもらうなんて言ったらかなり傷つくだろう。

この鈍感野郎はそこん所の機微がわかるようになれば人間として文句がないだが、人間そう上手くできていない。

鈍感じゃないこいつなんて完璧超人すぎて近寄りがたい存在になっていただろう。

 

 

「それは‥‥そうだな。教えてくれって頼んだのは俺だし、もう少し箒に教えてもらうことにする」

 

「それでいんじゃね。もし、どうしても刹利に教えてもらいたくなったら俺も頼んでやるよ」

 

「ありがとな」

 

「おう。じゃあ、俺はシャワー浴びてくるな」

 

 

ちゃんと着替えを持って脱衣所に向かう。

もともと女子校だった場所を急ごしらえで改装したので仕方ないのだが、やはり生粋の日本人としては湯船に浸かりたい。

ちょっと熱めの湯に肩まで浸かり、皮膚をチクチクと刺激されながら冷えた身体を真からあっためたい。

 

 

 

 

 

 

「ルー的に、浮気はいけないと思うな」

 

「浮気ってなにさ」

 

 

昨日の教訓を生かし、余裕を持って行動したため今日は食堂で朝食をとることができた。

今日の朝食は、光り輝く白米に自家製と思われる青魚のフレークと根菜の味噌汁にキュウリの漬物だ。

一見質素に見える朝食だが、一口食べればそんな意見は消え去るだろう。

ごく一般的な家庭にある電気釜では絶対に出せないであろう米の香りが際立つ絶妙な炊き加減、噛めば噛む程にギュッと詰まった米の味が出てきて、おかずなんていらないレベルだ。

キュウリの漬物も程よい歯ごたえと塩気が、米を引き立て高める名脇役として心憎い演出をし、次のフレークへと繋ぐ。

そしてこのフレークをご飯と一緒に口に含めば、待ってました千両役者。生姜の風味とそれに負けない濃い魚の味が、口の中で米と渾然一体となり完璧な調和を生み出している。

 

 

「刹利はルーのなんだから、勝手にフラフラしちゃダメなの」

 

「自分は、誰の所有物でもないぞ」

 

「そうですよ、ルーツィア。刹利は誰のものでもありませんよ」

 

「ルーは昔から独占欲が強い子でしたから、仕方ありませんわ」

 

 

御飯、漬物、フレークの黄金トリオから少し離れ、味噌汁を一口。

日本人、万歳。人参や牛蒡等のアクの強い根菜に負けないしっかりとした出汁と味噌の味。

それに程よく柔らかくなった乱切りにされた根菜、どれをとっても自分では辿りつけない天上の味ともいえる究極の味噌汁だ。

こんな美味しい和の朝食を食べないなんて、周りの3人はかなり損をしている。

ああ、もう3杯目だというのに食欲が一切落ちる気配がない。

 

 

「ターシャは合格だけど、親友の座は譲れないの」

 

「構いません。親友の座は一つだけだとは、思っておりませんので」

 

「あらあら、少し妬けますわ」

 

 

フレークに少しだけ唐辛子を振りかけてみると、これがまた御飯が進む。

生姜の風味と醤油で臭みの消えた魚の旨みだけを詰め込んだフレークに唐辛子のピリリとした辛さが味を更に引き締めてくれる。

朝食に割ける時間が決められていることが口惜しい。

もっと時間があれば、この朝食を心ゆくまで味わうことができるというのに。

 

 

「しかし、3人共よく朝からそれだけ入りますわね」

 

「普通だぞ?」「普通なの」「普通だと思いますが?」

 

 

呆れたように言うセシリアの言葉に、自分達3人は完全に同じタイミングで答えた。

確かに周りの女子生徒達に比べたら多い方ではあるが、ターシャも他の運動部に所属すると思われる上級生も同じくらいの量を食べている。

昔は自分のことを大食いだと思っていたのだが、どうやら井の中の蛙だったらしい。

 

 

「それだけ食べて、何故太りませんの?」

 

「鍛えてるからな」「太らない体質なの」「秘密です」

 

「今なら殺意のみで人を倒せそうですわ」

 

 

なんだかセシリアからドス黒いオーラが漂ってくるが、気にせず食事を続ける。

ああ、本当に日本人で良かった。

 

 

 

 

 

 

「さて、まずは弾の実力を見せてもらうぞ」

 

 

愛機であるカスタム・イーグルを装着した刹利が少し楽しそうに言う。

世界最強の量産機をハービック社がフルカスタムした機体。

洗練された機体バランスの中で特に目立つふた回りくらい大きい推進翼や各所に改造が施された脚部推進器が唸りを上げており、そこから生み出される加速力と速度は想像を絶するものに違いない。

顔の大半を覆う超感度ハイパーセンサーは漫画とかに出てきそうなサイボーグみたいで、紅く輝くモノアイに見つめられると背筋が冷たくなる。

 

 

「な、何をするんだ?」

 

 

緊張と恐怖から若干声が上ずってしまった。情けない。

深呼吸をして恐怖を和らげ、心を落ち着ける。

 

 

「簡単なことさ、このアリーナの3分の1を使った鬼ごっこだぞ」

 

「鬼ごっこ?」

 

 

そんな子供みたいな遊びで本当に強くなれるのだろうか。

でも、どんな表情をしているかは分からないが声は真剣そのものだ。

大企業の契約社員でエリートな刹利が訓練してくれるというのに、それに疑問を持つなんて烏滸がましい。

 

 

「まあ、説明の前にISを展開してくれないか」

 

「了解」

 

 

左腕を真横に突き出し拳を握りこむ。色々と試した中でこれが一番黒曜石をイメージしやすかった。

(来いよ、黒曜石)

心の中でそう呟くと、左手首から薄い膜が身体を侵食し始める。1秒にも満たない、コンマ数秒で光の粒子が溢れISが展開されてゆく。

普通のISの腕部の1.5倍はある巨大な漆黒の腕、鏃のように鋭く尖った高圧縮大出力推進翼、一部を除き鋭角的で濃淡はあれ黒一色で統一された外観をもつ黒曜石は暗黒騎士という表現がよく似合う。

一夏の奴は聖騎士みたいなのにと最初は思ったりもしたが、今ではコイツ以外に俺の相棒はいないと胸を張って言える。

 

 

「展開時間0.8秒。まあまあだな」

 

「これでも早くなった方なんだぜ」

 

「専用機持ち最速は0.05秒だぞ?」

 

 

現状で満足してはいけないということなのだろうか。

しかし、0.05秒なんてどんなレベルなのか想像もつかない。

 

 

「まあいいか、じゃあルールを説明するぞ。

1、範囲は今から転送するエリアのみ

2、武装は使用禁止

3、3分逃げ切れたら弾の勝ち  これくらいかな」

 

「3分でいいのか?」

 

 

3分なんてカップラーメンの待ち時間くらいしかない。

そんな僅かな時間を逃げ切れば勝ちなんて、結構楽な条件な気がする。

いくらカスタム・イーグルの性能が破格でも、完全専用機である黒曜石よりスペックが高いとは思えないし。

転送されたエリアを確認してみるが、アリーナの3分の1を使うだけあってかなり広い。逃げに徹せば、勝てるような気がする。

 

 

「十分だぞ」

 

 

どうやら、刹利にとって3分という時間は逃げる俺を捕まえるに十分すぎる時間らしい。

初心者だからって余裕だと思っているのだろうか?なら、その考えは覆してやらねば。

今では古いとか言われたりするが、意地ってものがあるのだ。男の子には。

 

 

「じゃあ、弾が動き出してから10秒で自分も追いかけるからな」

 

「了解」

 

 

勝ったら何か奢らせてやろうと心の中で誓いながら、推進翼をフル稼働させ200m以上の距離を取る。

黒曜石の推進翼は一般的なものより小型に見えるが、その中身は獰猛過ぎて手に負えないじゃじゃ馬だ。

推進翼の中で圧縮されたエネルギーは爆発的な速度を生み出し、期待をさらに加速させてゆく。

動き出してから数秒で時速200kmを超えているが、黒曜石の本来のスペックでは理論上ではこれの倍は出せるらしい。

刹利もこの加速力には驚いているようだ。

 

 

『9、10!じゃあ、今から追いかけるぞ』

 

 

通信回線からその宣言が聞こえ、俺は更に機体を加速させる。

刹利が豆粒くらいの大きさに見える距離まで離れたが、ここからどう追ってく

 

 

「機体の加速力は凄いけど、一零停止や無反動旋回くらい使えないとACMの取得は難しいぞ?」

 

「はっ?」

 

 

なんでさっきまで豆粒くらいの大きさだった刹利がもう目の前に居るんだ?

急旋回で別方向に逃げるが、刹利は後ろにピッタリと食らいついて離れる気配はない。

 

 

「ハービックを舐めたらダメだぞ。このカスタム・イーグルにはライトニング系統の推進機器を使ってるんだからな」

 

 

伝説のキャノンボール・ファスト最速機系列の推進機器、どうりで速いわけだ。

しかも、俺は旋回の度に結構なGを受けているのに刹利にはその様子がなく涼しい顔をしている。

急な鋭角ターンをして距離を取ろうとするが、離れるどころか逆に距離を詰められてしまった。

これが、刹利の‥‥『エンブレム持ち』の実力だというのか。

圧倒的すぎる。なんとか機体の性能で捕まってはいないが、刹利も本気どころかその半分すらも出していない様子だ。

3分で十分すぎると言うわけである。

今の俺では勝ち目なんてないかもしれない。けど、これから技術をどんどん吸収していっていつか絶対に負かしてやる。

そう心に誓った。

 

 

「はい、捕まえた」

 

「くそっ、もう一度だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




用語解説



『黒曜石 オブシディアン』
日米合同開発特殊第3世代型IS
日米で第3世代型IS開発の技術交流の一環として作られていた機体
装甲内のエネルギー循環を自由に操作し攻撃・防御に転用できる『循環装甲』のデータ収集用の実験機である為、拡張領域は少ない
シールドと融合した腕部は表面を特殊偏光ガラスで覆っているため対物・対エネルギーの両方の防御力が高い


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