IS 3組の少女   作:被る幸

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原作突入は、次話以降になります。
なので、今回は原作キャラクターは一切登場しません。




1-2

某日、IS学園特別会議室

 

学園地下に設けられたこの場所は生徒は勿論、学園の教員の大半は存在を知らない影の部分にある。

清掃と整備用のロボットの侵入口以外に外部との繋がりを持たないこの部屋は、壁と天井がモニターになっており、そのモニターにはIS関連企業を代表する面々が映し出されていた。

 

 

『我社は、232番と618番との交渉を希望する』

 

『叢雲さん、それは欲張りというものです。どちらもISランクAで稼働時間も10時間超え、御国の言葉にもあるでしょう《二兎追うものは一兎をも得ず》と』

 

『ウチとしては、男性操縦者と交渉できるならどうでもいいわ』

 

『イングリット、お前の所は男性操縦者の1人のISスーツを開発することになっているだろう』

 

『あら、そうだったかしら?』

 

『おやおや、歳だけはとりたくないですね』

 

『同感だ』

 

『潰すわよ?』

 

 

ここで行われているのは、今年入学する新入生に対する交渉権の調整だ。

簡単に表現するならIS版のドラフト会議に近いものがあるが、世界に現れてから10年も経っていない歴史も浅く成熟していないISでは、国際法の整備も甘く大企業が圧倒的有利に事が進む。

なので『弱肉強食』『隷属か、死か』という戦国時代も真っ青な状態である。

発言こそしていないもの中流企業の姿もあるが、それは大企業のお溢れに与るのを待っているに過ぎない。

しかし、この場に参加できるだけ恵まれていると言わざるを得ないのだ。

この場に参加できない新参の弱小企業は、データを取ろうとすればIS学園を頼るか、多額の契約金を払って他企業の契約操縦者を雇うしかない。

後者を選べる余裕はないし、前者を選ぼうにも申請から認定まで数ヶ月はかかるし、その間に何かしらの不備があれば申請は却下される。

 

 

『そういえば、デュノアは来ないのか?』

 

『色々忙しいんじゃないの?フランスは《統合計画》から外されたわけだし』

 

『あの方は先見性に欠けていますしね』

 

『一応、専用機持ちの娘を入学させるらしいですが時間稼ぎにもならないでしょう』

 

『盛者必衰』

 

『おお、怖い怖い』

 

 

そんな軽口を叩きながら、各企業は互いに腹の探り合いを続ける。

この場にいる者たちにとって他企業の没落は権益拡大の機会でしかなく、どう上手く立ち回れるか、妨害するか以上の興味はない。

 

 

『次は、コルトさんの順番でしたね。希望する娘はいますか?』

 

『というか、何でケーファーが仕切ってんの?』

 

『誰もやらないからですが?』

 

『あっ、そう』

 

『162番だ』

 

 

中央の空間投影機に映し出されていた実技試験の映像が宣言された番号の物に変わり、その横に生徒のデータが表示される。

アメリカ企業コルト・ファイヤーアームズの系列会社であるコルト・ISの社長が選んだのは、重善 刹利であった。

 

 

『あっ、うちも162番希望ですね』

 

『ハービックか』

 

『ええ、清く正しい企業ハービックです』

 

『相変わらす、ムカつく話し方だな』

 

『いえいえ、インテリオルさんほどではありませんよ』

 

『なんだと!』

 

『はいはい、インテリオルさんは落ち着いて、ハービックさんも挑発しないでください。会議が順調に進みません』

 

『おやおや、これは失礼しました』

 

『ふん』

 

 

その後も大企業を中心としたIS学園新入生の交渉権会議は大半の生徒が未決定状態で一時中断となり、次回に持ち越されることとなった。

果たして、重善 刹利を獲得するのはコルト社になるのか、それともハービック社になるのか

 

神のみぞ知ることである。

 

 

 

 

 

 

「やったぞ、刹利!合格だ!!」

 

 

早朝、部屋に駆け込んできた父の嬉しそうなその言葉を聞いた瞬間は、寝起きということもあってか、いったい何のことを言っているのか理解できなかったが、すぐに今日がIS学園の合格発表だったことを思い出す。

本当なら合格への歓喜で満たされるところであるが、自分は違った。

 

 

「もう、父さん!勝手に自分の部屋に入ってこないで言ってるでしょ!!」

 

「な、なんだよ‥‥家族なんだからいいじゃないか」

 

「家族でもダメなの!」

 

 

手元にあったIS教本を手に取り、投げつけようとしたところで踏みとどまる。

ノックもせずに入ってくるなんて怒られても当然のことではあるが、父も合格を逸早く自分に知らせたかったというのもわかるので怒りづらい。

とりあえず、教本を下ろし、父に手を差し出す。

 

 

「とりあえず、頂戴」

 

「何をだい、刹利?お小遣いなら先週渡し‥‥」

 

「合格通知書に決まってるでしょ!」

 

「あ、ああ、そうだった。そうだった」

 

 

何の為にここに来たのかすら忘れるなんて、父も歳ということだろうか。

40代と年齢的には若くても、何かと女性が優遇されるのが主流になりつつある昨今で、早くに妻を亡くし男手ひとつで娘1人を育てるのは自分の想像もつかぬ苦労があったのだろう。

その点には深く感謝しているが、それはそれ、これはこれだ。

 

父から受け取った通知書の『合格』という文字を見て、ようやく実感が湧いてくる。

 

 

「や‥‥」

 

「刹利?」

 

「やった!自分、よくやったぞ!!」

 

 

暴走しそうになる喜びを発散させる為に自分で自分を褒める。

嬉しさが溢れ出して止まらない、ざまあみろ『重善さんの成績じゃ、記念受験にしかならないわね』とか言った担任教師、自分が本気を出せば合格できるんだぞ。

瞳から溢れてくる涙を拭う事無く、ただ喜びに震える。

 

 

「ああ、よくやったな刹利」

 

「当然!自分、努力家だからな!」

 

 

父の大きな手が自分の頭を撫でる。

乱暴な手つきで撫でるので髪の毛がぐしゃぐしゃになってしまったが、今くらいは許してあげよう。

 

 

「よし、今日はお祝いに何処か食べに行くか!!」

 

「えっ、別にいいよ。自分が作るから」

 

 

女性優遇社会の中で男親だけであると、社会立場的にも経済的にも不利になってしまうことが多い。

ISが世界に出てきてから社会は変わりつつある、それもあまりよくない方向に。

これまで男性が優遇気味だった反動が一気に来たかのように、男性の地位は王族・皇族、一部の上流階級の人間を除いて地に落ちた。

実直な性格の父は、会社の中でも男女差別することなく公平公正に仕事をしてきたので特に立場とかは変化なかったが、それでも特にここ数年で残業で会社に泊まり込むや出張の回数が著しく増えた。

でも、父の給料はあまり上がっていない。

 

昨日も帰ってきた様子はなかったし、今も草臥れたスーツ姿であることから察するに帰ってきたばかりなのだろう。

よく見れば、目の下には不健康な隈が見えた。

 

 

「いや、刹利が頑張って掴んだ合格だぞ!お祝いしなくてどうする!!」

 

「でも、最近は教本とかで出費が多かったし‥‥」

 

「子供が遠慮するな!」

 

 

父に額を小突かれる。

見えていたので回避することはできたのだが、こういうものは避けてはいけない気がした。

 

 

「あぅ」

 

「こういう時のための蓄えくらいあるさ、父さんをなめるなよ」

 

「‥‥わかった。けど、とりあえず父さんはシャワーでも浴びてきて。

その間に朝ごはん作っとくから」

 

「ああ、すまない」

 

「別に、家族でしょ」

 

 

ようやくテンションの落ち着いた父を部屋から追い出す。

もう一度、通知書に記されている『合格』という文字を確認して、少し特殊な鍵の掛かる引き出しに厳重にしまい、朝食を作りに台所へと向かう。

 

 

「よしっ!頑張るぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとう、重善さん。我が校からIS学園進学者が出たのは喜ばしい限りのことだ。

単にこれは君の普段からの努力のたまものであり、この結果は君の後輩達に大きな希望の道を示し、さらなる自学研鑽をさせその道に続く者を生み出すだろう。

そう君は、第一人者となったのだ。登りゆく朝日よりも、明るい輝きで『道』を照らしている。

そして我々がこれから向かうべき『正しい道』を‥‥」

 

 

IS学園合格を学校へ報告しに行くと、職員室は騒然とし校長室へ強制連行された。

そして、現在校長の拷問じみた長い演説に付き合わされている。

どうして、地位も高く年齢を重ねた人間というのは、こうも人に偉そうな話をするの好きなのだろうか?

自分がこの地位に来るまでに重ねた経験を語りたいというのは、クラスメイトの男子がたまにしている悪いことをした自慢に似ている気がした。

 

つまり、している方は気持ちいいかもしれないが、される方はどうでもいい。

 

 

「これからIS学園に入学し、幾度となく『こんなはずじゃなかった』と思うことがあるだろう。

しかし、そんな時にこそ自暴自棄にならず初心を思い出して欲しい。どうして、ここに来ようと思ったのか、そしてそれを支えてくれた人の顔を」

 

 

既に校長の話が始まってから10分近く経っているのだが、終わる気配は全く見えず、むしろ調子が乗ってきてさらに長くなりそうな予感すら感じさせる。

自分をここまで強制連行した担任も、あまり顔には出さないがうんざりしているようだ。

 

 

「校長、IS学園合格者に会いたいという企業の方が‥‥」

 

「そうか、まだまだ話したいことがあるのだがここまでにしておこう」

 

 

どこの企業の人か知らないがGJだ。この精神的苦行から解放されるなら、いくらでも会おう。

自分を呼びに来た教頭に連れられて、今度は応接室に案内される。

しかし、IS学園に合格したら企業の人間が会いに来るようになるなんて、『IS操縦者になると、世界が変わる』という言葉は本当だったのか。

 

 

「こんにちは、重善 刹利さんですね。私は、IS開発企業『ハービック』の紅葉(もみじ)・ディランです。

本日は、重善さんとの契約交渉のために来ました」

 

 

応接室にいたのは、とても綺麗な女性だった。

シミ一つ無い白磁の肌、アルビノというのだろうか白というより銀色に近い絹糸の髪、ルビーレッドの瞳、等身大の精巧なドールが動いているような整い過ぎた容姿は、どこか現実味を薄くさせる。

同性である自分でこれなのだ、異性である教頭などみっともなく見とれていた。

 

 

「どうも」

 

「申し訳ありませんが、重善さんと2人にしてもらえないでしょうか?」

 

「は‥‥はい、わかりました!」

 

 

美しい女性の頼みに二つ返事で了承し、応接室から出てゆく教頭。男の悲しい性というものなのだろうか。

椅子に座るが、正面から見るとこの美貌は凶悪な武器だ。

爛々と妖しく輝く赤い瞳に見つめられるだけで、筆舌し難い不安感に襲われ心が激しく掻き乱される。

 

 

「さて、早速ですが本題に入らせていただきます。こちらの都合で申し訳ありませんが、この後にも処理しなければならない案件ありますので」

 

「は、はい」

 

「我社についてどこまでご存知でしょうか?」

 

 

IS開発企業『ハービック』

アメリカに本社を置き、IS量産のシェアでは10位を下回り本格量産された機体はないものの推進系統、特に超音速関連の開発には他社の追随を許さないほどのノウハウを持ち、第1世代後期から超音速機の開発に成功している。

また、『IS最速』と名高い時速3800kmを記録した『ライトニング‐Ⅵ』の開発元でもある。

ISレース『キャノンボール・ファスト』の国際大会においては幾度となく優勝を果たし『1位で当然、2位で不調、3位で天変地異』と呼ばれるほど圧倒的な強さを示し、他企業に合わせる為の制限が入ったほどだ。

 

『速度のハービック』と呼ばれ、IS開発企業では5指に入るとされる大企業中の大企業である。

 

 

「雑誌に乗ってる情報程度なら」

 

「充分です」

 

 

わからない。企業としてISコアを多数所持し、国家代表に選ばれるような契約操縦者が在籍している大企業が、一般公立中学校からIS学園に合格した程度の自分に契約交渉を持ちかけてくるのだろうか?

これがまだ装備開発の小企業とかなら青田買いなのかと、まだ現実感がある。

しかし、今自分の前にいるのは超一流大企業の人間だ。

IS学園の合格のところから夢でも見ているのでは?と疑いたくなる。

 

 

「では、現在こちらが提示できる契約内容についてご説明します」

 

 

本当はまだ理解が追いついていないのだが、頷いておき話を進めてもらう。

提示された内容は、自分の今までの常識を塵一つ残さず消滅させるに足る程驚愕すべきものだった。

 

○契約金 年額480万円(賞与無し)

○当社から支給される装備を優先的に使用

○稼働データの全提出の義務

○月10時間以上の運用データの収集

○他社との契約禁止

 

 

「運用データの収集等に関しましては、優先して機体を使用できるようIS学園との調整を行いますので問題ありません」

 

 

正直、自分を代表候補生か何かと勘違いしていないかと尋ねたくなるくらいの破格の好条件だ。

自分は反射神経以外に取り柄がない普通の女子中学生で、天才的な才能を持っているわけでも、特殊な操縦技術を会得しているわけでもない。

 

『見て、反応する』

 

そんな簡単なことしかできないのだ。

 

 

「契約内容で何かご不明な点はありませんか?」

 

「‥‥どうして、自分なんです?」

 

「どうしてとは、どういうことでしょうか?」

 

「どうして、自分なんかと契約しようと思ったんですか?

『ハービック』程の大企業なら、自分よりももっといい人を選べるでしょう」

 

 

何も考えず、釣られた餌に飛びつくように契約するのが一番賢いのかもしれない。

でも、聞かずにはいられないのだ。

 

 

「成程、重善さん。どうやら貴女は自己評価が低すぎるようですね」

 

「え‥‥」

 

「はっきり言いましょう。貴女の実力は、この数年間でも例を見ない異常な程レベルの高い今年の新入生の中でも上位に入る‥‥専用機を持たないものとしてならトップクラスとも言って良いほどのものなんですよ?」

 

「嘘だ‥‥そんなの絶対嘘だぞ!」

 

「嘘ではありません。ですから、こうして私がここにいるのです」

 

 

自分がトップクラスの実力者?夢にしても出来すぎた話だ。

現実は漫画のような幸せご都合主義なんて存在せず、実機を動かしたことのない素人が少し努力したからといって凄い実力を身に付けるなんてありえない。

 

 

「‥‥」

 

「信じるか、信じないかは自由です。ですが、我社は貴女という人材を求めているというのは紛れもない事実です」

 

 

そう言ってディランさんは契約書を差し出してくる。

内容を読み返してみても、説明されたのと全く変わりないものであり、騙されて不利な契約を結ばされようとしているわけではない。

ここでこの契約書にサインをすればその時点で、自分は『ハービック』という大企業の契約操縦者となり、今後の未来も保障される。

そううれば、この女性優遇社会の荒波の中で男手ひとつで真っ直ぐに自分を育ててくれた父にも恩返しができる。

 

ならば、迷う必要はない。

 

 

「契約成立です。

これからは私が貴女の上司になるから、よろしくね」

 

 

契約書のサインを終えたあとのディランさんの笑顔は、先程までの妖しい恐ろしさなど微塵も感じさせない、優しくて綺麗なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




用語解説

『ライトニング‐Ⅵ』
ハービック社の開発した第2世代型IS
パッケージ換装無しで超音速機動を可能としており、オートクチュールの使用によりIS最速記録である時速3800kmでの飛行を可能としている。
速度を追求するため実験機であり、機動性以外の性能は第1世代と同等くらいしかなく、基本武装も存在しない。
第5回キャノンボール・ファストに初登場し、2位と5分以上のタイム差をつけて優勝したという伝説を残している。
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