他のオリジナル専用機持ちや転生者の登場は、まだまだ先になりそうです。
「であるからして、ISの運用には基本的に国家の認証が必要じゃん。逸脱した私的な運用をしていると国際法に則って罰せられ‥‥」
教科書をめくりながら内容を確認し、なんとか付いていけている事に安堵する。
ISを動かせることがわかった後、俺達には国家から派遣された専門教師によってISについて徹底的に叩き込まれたのだ。
女性にしか動かせないはずのISを、まさか自分が動かせるなんて夢にも思っていなかったので、雑誌程度の知識しか持っていなかった俺は地獄を見る羽目になった。
姉がIS界では知らない人がいないくらいの超有名人なのに、ISに全く興味がなかったアイツは俺以上の地獄を見る羽目になったそうだが。
しかし、なんで入学初日から授業があるのだろうか?
コマ限界までIS関連の教育をする為らしいのだが、そんなにギリギリなら一般高校みたいに3年制にせず高専みたいに5年制とかにすれば、もっと余裕を持って様々な教育ができると思うのだが。
まあ、きっと俺のような一般的な小市民が想像も出来ないような諸々の事情があるのだろう。
この学園設立と運営は日本政府が行っているというのが一般的に知られている事であるが、少しパソコンで調べればIS開発にいち早く乗り出した企業の多大な援助があったことを知ることができる。
つまりこの学園は一部の大企業が多大な影響力を持つということだ。
特記事項の中に『在学中は、いかなる国家・組織・団体に帰属しない』とあるが、刹利やルーのような『エンブレム持ち』がいる以上、この規則は形骸化しているといってもいいだろう。
「また、うちのクラスにも2人程いるが、企業の契約操縦者はその大半が未成年であるが為、契約条件や内容についてはその企業に関係のない第三者機関で十分に検討され承認されなければならないとされている。
これを『企業IS契約法』というじゃん。この辺はテストとかでもよく出るから教科書とかに線とか引いとくじゃん」
やばっ、聞いてなかった。教科書何ページだ。
「10ページ、6行目からだよ」
「サンキュ、助かった」
「いえいえ」
隣の席のクラスメイトに教えられたページを開き、内容を再確認した後、蛍光ペンで線を引く。
危ない、危ない、ただでさえ付け焼刃程度の知識なのに、こんな余裕ぶった態度でいたら、あっという間に置いていかれてしまう。
このIS学園のテストは、上位30位までは発表され、60点以下は欠点扱いとなり放課後に補習が入るらしい。
そんなことになったら、実機を使った特訓の時間が大きく削られてしまうので避けたい。
授業内容を聞きながら刹利やルーの方を見てみる。
そこには、想像通りの光景があった。
「ルー、起きなって」
「眠いの」
「いいから」
「刹利、さっき貸したマクラ返して。ルーのは、没収されちゃったの」
「だから、寝たらダメだって言ってるだろ!それに渡されたのも没収されたさ!」
「そこ、うるさいじゃん!」
「はい、すみません」
ああ、やっぱり刹利は苦労人ポジションなのか。
自己紹介の時のルーとのやり取りを見ていて、面倒見のいい人なんだろうと思っていたが。
「刹利は、騒がしいの」
「だ、誰のせいだと‥‥」
「刹利?」
「‥‥明日から、自分でソーセージを調理するか?」
刹利のその言葉を聞いた瞬間、ルーの顔がこの世の終わりに遭遇したか、神話生物と遭遇してSAN値をごっそり削らた時みたいな顔をする。
というか、自己紹介前に食べてたソーセージは刹利が調理したものだったのか。
確かに、あのルーが早起きして料理しているのは想像できないし、そもそも料理している姿だけで驚愕しそうな気がする。
「そ、そんな、だったら‥‥だったら、ルーは誰にカレー・ヴルストを作ってもらえばいいの!?」
「自分でやればいいさ。ソーセージを焼いて、上にケチャップとカレー粉をまぶせばいいだけじゃないか」
「それが出来れば苦労しないの!ルーがカレー・ヴルストを作ろうとすると炭の塊ができるんだよ!?」
やっぱり、ルーは料理が苦手なのか。
それよりも、あの2人は気づいてないようだが、背後から夜叉か阿修羅の如く怒り心頭な先生が接近している。
出席簿が振り上げられ、そして‥‥
「おっと」
「避けただと!」
あまりのことに、気づいたら俺は席を立ち叫んでいた。
先生の振り下ろした出席簿はなかなかの速度が出ており、振り下ろされてから気がついた刹利は避けようがないはずだった。
なのに、刹利は身体を少し動かすだけで、いとも簡単に避けてみせたのだ。
あまりにも簡単に避けたので勘違いしてしまいそうになるが、あの速度では普通の人なら避けることは疎か、微動だにできなかっただろう。
あれが、『エンブレム持ち』の実力というものなのか。
「いい反応じゃん」
「いや、なんで自分が叩かれなきゃいけないんですか!?」
「ヴルストォ~~~、ヴルストがいつも食べられなくなるなんて‥‥地獄はここにあったの!」
流石、ドイツ人そこまでソーセージを愛しているとは。
というか、こんなんで大丈夫なのだろうか、このクラス。
行き先が、激しく不安だ‥‥
◆
「刹利ぃ~~~、あやまるからぁ~~~。ルーの為に毎日ヴルストを調理してほしいの」
「抱きつくな、暑苦しいぞ!」
ドイツ人がソーセージ好きだというのは知っていたが、ちょっと脅した程度でこんな風になるとは、流石に予想外だった。
自分の大きすぎず小さくなくもない胸に顔を埋め、潤んだ瞳の上目遣いで懇願してくるルーを引き剥がそうとするのだが、意外と力が強くてなかなか離れない。
ああ、周りから『百合』やら『禁断の』とかの不穏な単語が聞こえてくる。
言っておくが、自分はノーマルだ。普通に男の子が好きだし、中学時代にも彼氏はいなかったが好きだった人くらいはいる。
確かに今のルーは庇護欲をそそるというか、『守ってあげたい』や『自分が助けてあげないと』という感情を芽生えさせてくるが、それは自分の母性がくすぐられただけだ。
「ね、いいでしょ?ルーに毎日ご飯を作るだけの簡単なお仕事だよ?
材料はルーが買ってくるから。ね?ねっ?」
「わかった、わかったから!」
「わぁ~~い、やっぱり刹利は優しいの♪」
「まったく、ルーが甘え上手なだけだと思うぞ」
周りの目を気にせず、あんなに素直に甘えるなんて自分には無理だ。
恥ずかしすぎるし、甘えるのは苦手なので、甘えるくらいなら自分でやったほうが楽である。
「ツェツィにも言われたの」
「ツェツィ?」
「本国にいた頃からの知り合いで、ツェツィーリアっていうの」
「じゃあ、その人もここにいるのか?」
「うん、確か1組だよ」
「へぇ」
なんだか、その人とは話が合いそうな気がする。主にルーによる苦労話とかで。
「そうだ、刹利もツェツィと会ってみるといいの。絶対気が合うの」
「そうだろうな」
というか、いつまで自分の胸に顔をうずめているつもりなのだろうか?
そろそろ周囲の疑惑の視線が確信の視線に変わりつつあるので、自分的のはそろそろ離れてもらいたいのだが。
しかし、間近で見るとルーは可愛いなと思う。
変な意味ではなく、純粋に母性をくすぐられるというか、お世話をしてあげなきゃと思わせるような。
そう、仔犬。生後まもない仔犬のような、可愛い系オーラを発しているのだ。
「刹利、いい匂いなの」
「嗅ぐな、離れろ!」
「えぇ~~、もう少し堪能したいの。ルーは、刹利の匂い好きだよ。
優しくて、あったかくて、ちょっとだけ食べ物の香りがする。お母さんみたいな匂いなの」
「‥‥そうか」
こういう時、どんな顔をすればいいのかわからない。
自分はこんな大きい子供を持つような年齢ではないのだが。
老けているとでもいいたいのか、それとも落ち着いていると言っているだけなのか。ルーの性格的に、前者ということはないだろうから、ここは褒め言葉として受け取っておこう。
「なんか、凄いことになってるな」
「弾‥‥これ、どうにかして欲しいさ」
「このまま眠れそうなの~~」
他のクラスの方にでも行っていたのか、戻ってきた弾は開口一番にそう言った。
そして、ルーよ。自分の胸は枕じゃないからな。
「うん、無理」
「即答!?」
「いや、だってさ‥‥セクハラとか言われたら、俺死ぬぞ。色々な意味で」
確かに、ISが現れてからセクハラとかの罰則は厳しくなった。
それにより冤罪で社会的地位を失わされる男性が増加したため、冤罪だった場合にはその女性は虚偽申告罪として罰せられる。
しかし、それは気の弱い女性が男性側の主張に押し切られたりするなどの弊害を生んでいる。
「刹利ぃ~~♪」
「ひゃん!もう、頭を動かすな!」
「‥‥」
「ねぇ、刹利。今日から一緒のベットで寝いていい?」
「ダメ」
「ねぇ~~、いいでしょ?」
「だから、頭を動かすな!!」
ルーが頭を動かすたびに、その‥‥何というか、いろいろとそうなって、ああなのだ。
こそばゆいとも、心地よいとも違う、筆舌しがたい感覚である。
「なあ、弾もどうにか‥‥って、なんで席に戻ってるのさ!」
「いや、すまん。いろいろあるんだ」
「訳わかんないこと言ってないで、早く助けて欲しいさ!」
「すまん、無理だ」
「何でさ!!」
「事情ってものがあるんだよ、男の子には‥‥」
訳がわからないよ。
結局、次の授業のために戻ってきた担任に実力行使をもって引き剥がされるまでルーに抱きつかれたままだった。
◆
「授業を始める前に、クラス代表を決めるじゃん」
クラス代表か、なんだかなったらいろいろと苦労しそうなので、正直言うと避けたいのだが、『ハービック』社の意向的でならなければならない。
企業と契約して優先的にISやアリーナの使用権がもらえ、高校に入ったばかりの自分に使い切ることができないくらいのお金が給料として支給されているが、こういう時は面倒臭い。
これは義務なんだと心に言い聞かせているが、やっぱり思ってしまう。
「男子は1人しかいないから五反田は決定じゃん」
「マジかよ‥‥」
「言葉遣いに気をつけるじゃん。で、女子の代表だけど、立候補はいるか?」
「はい」「はいなの!」
「お前らか‥‥」
自分が立候補に手を上げるのと、ほぼ同時に後ろに座っていたルーも手を上げる。
ルーが立候補してくるなんて意外だった。てっきり『疲れるから、嫌なの』とか言って、立候補してこないと思っていたのだ。
ところで、あの担任の反応はなんだろうか。
もしかすると、自分もルーと同様に問題児扱いされているのかもしれない。
入学初日から担任教師に目をつけられるなんて最悪だ。どうにかして、評価を挽回しなければ。
「いくら刹利でも、代表は譲らないの」
「それは自分も同じだぞ。どうしてルーは、代表になりたいんだ?」
「代表になれば、ルーはキラキラできるからなの!」
「キラキラ?」
「そうだよ、キラキラ。クラス対抗戦とかのイベントでルーは、さらなる高みに昇る‥‥ルーは、頂点を目指す女なの!」
つまり、ルーは対抗戦とかのイベントで活躍して目立ちたいという事か。
そう考えると、ルーらしい立候補の理由かもしれない。
「でも、代表は委員会とかにも出なきゃいけないんだぞ?」
「‥‥刹利。ルーと刹利は友達だよね?」
「自分を代理に立てようとするな!」
「ルーが戦って、刹利が支える。完璧な分業なの」
「いい加減、ぶつぞ?」
「ぼ、暴力反対なの!」
面倒臭いことだけ自分に押し付けようとするなんて、油断も隙もない。
きっとさっきのような抱きつき+上目遣いの甘えコンボで頼んできて、何だかんだ言って自分は手伝ってしまう未来像が容易に想像できる。
昔から、頼られると『自分に任しておくさ』と、自分が苦手なことでも簡単に引き受けてしまう。
安請け合いはしないと心に誓っても、つい反射的に引き受けてしまうのだ。
「だから、お前らは騒ぎすぎじゃん」
「はい、すみません」
「刹利のせいで、ルーまで怒られたの」
後で覚えてろよ。
明日の朝は絶対ソーセージを調理してやらないと心に強く誓う。
「重善にソンネン、他に立候補者はいないのじゃん?」
「「「「‥‥‥‥」」」」
「なら、仕方ない。2人はIS学園らしくバトルで白黒つけるじゃん」
バトルの勝敗でクラス代表を決める。
クラスの代表として対抗戦とかに出るのだ、強い方が代表というのは四の五の言うよりわかりやすい。
ルーがISを動かしている所はまだ見たことないが、『エンブレム持ち』である以上は代表候補生とかにも勝るとも劣らない実力を持っていると思ったほうがいいだろう。
この甘えん坊の下に、いったいどんな怪物が潜んでいるのだろうか。
でも、自分も負けるつもりはない。
IS学園入学前に、『ハービック』の訓練場で先輩契約操縦者やディランさんの指導のもとで必死に実機訓練を重ね、様々なACMを会得したのだ。
反射神経の活かし方もある程度掴めてきたし、充分戦えると思う。
「わかりました」「わかったの」
「じゃあ、アリーナやISの調整はこっちでしておくから、決まったら知らせるじゃん。
よし、授業をはじめるじゃん。教科書の7ページを開け」
IS学園で、最初のバトルの相手がルーとは奇妙な縁もあったものだ。
「刹利」
「なんだ、ルー?」
「負けないの」
ルーが、こちらに向かって拳を突き出してくる。昨日貸した少年漫画にでも影響されたのだろうか。
影響されたかどうかは置いといて、ルーの方も気合十分のようであり、元々自分もこういう少年誌展開は嫌いじゃない。むしろ、大好きだ。
「こっちこそ、負けないぞ」
軽く拳を突き合わせ、そして互いに笑い合う。
『笑うという行為は本来攻撃的なものであり 獣が牙をむく行為が原点である』と優吾の持っていた漫画にあったが、ルーの笑顔には攻撃的な感じは一切なく、年頃の女の子らしく可愛らしい笑顔だった。
「だから、授業を始めるって言ってるじゃん‥‥」
用語解説
『企業IS契約法』
早期にIS操縦者と契約しようとする企業を取り締まるために作られた法律
未成年で、社会経験に乏しく契約等の知識もない学生操縦者に不利な条件で契約させないために『契約内容は第三者機関で精査される必要がある』や『年1度の査察受け入れ義務』等が記載されている。