IS 3組の少女   作:被る幸

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転生者が少しだけ登場しますが、今回は顔見せ程度です。
本格的に絡むのは、もう少し物語が進んでからになると思います。


1-7

「終わった‥‥」

 

 

入学初日なのに授業は6限目までしっかりあり、俺の精神力をゆっくりと容赦なく削っていった。

さすが、IS学園。普通の高校の授業の数十倍は難しいだろう。

IS適性があり、稼働させることがわかったあの日まで学校での成績が中の下くらいだった俺が、進学校より難しいIS関連の教科についていけるなんて‥‥人間、死ぬ気で頑張ったらなんとかなるものだ。

 

教科書を鞄にしまい、首を鳴らしたあとに背伸びをする。

すっかり身体に溜まりこんだ疲れと倦怠感が抜け出してゆくような心地よい感覚だ。

 

視線を移すと、周囲のクラスメイト達は俺と同じように帰る準備をしたり、仲良さげに談笑したりとそれぞれ好きなことをしている。

まあ、一部俺に対しての様々な思惑を感じさせる視線を感じるが。

最近、他人の視線に対して敏感になりすぎているような気がするが、気の休まる暇なく視線にさらされ続ければ嫌でもこうなってしまう。

刹利とルーはというと‥‥

 

 

「刹利、今日はどうする?」

 

「特に予定はないし、夕食まで時間がある。IS申請した後、ちょっと運動してくる」

 

「うわぁ~~、よくやるの」

 

「IS操縦者は身体が資本だからな」

 

「じゃあ、ルーは部屋で寝てるの」

 

 

ルーの発言は置いといて、やっぱりもう少し身体を鍛えるべきだろうか。

中学時代は一夏と共に3年間帰宅部ではあったものの、実家の手伝いや筋トレでそれなりの筋力はあるつもりだ。

しかし、刹利の軍がやったりしてる壁を降りるアレとか見せられたら、俺もあれくらいできるようにならなければならないのだろうか。

 

ISの操縦においては、サポートがあるので初心者同士の内は身体能力の差はあまり関係ない。

しかし、それが上位に属する者同士の戦いになってくると話は別で、身体能力等の差は実力に大きく関わってくるのだ。

例を挙げるのなら、剣を振る時だ。

ISによるサポートがあるため、剣を一切振ったことのない人間でも最適化による恩恵によって、それなりに使える程度にはなるが、剣道や剣術を習った人間からすればソレはまだまだ無駄が多過ぎるらしい。

実際に測定してみたところ剣を構えて振りぬくまでの時間の差が1秒近くあったそうだ。

たかだか1秒と思うかもしれないが、世界大会等ではコンマ数秒の油断で勝敗が決するので、1秒もあれば十二分なのである。

 

しかし、今日はいろいろと疲れたので、鍛え始めるのは明日以降にしよう。

さて、一夏の奴と合流して、ルーみたく部屋でのんびりするか。

 

 

「じゃあな、刹利、ルー。また、明日」

 

「ああ、また明日」

 

「また明日なの」

 

 

2人と別れて1組を目指す。

その道中も、すれ違う時や目の前を通り過ぎる時に女子生徒から興味や恥じらい、畏怖に嫉妬と様々な感情がこもった視線が向けられ、ゲームで毒沼に入ってしまった時のように1歩毎に地味に精神力が削られてゆく。

これが、あと3年も続くかと思うと憂鬱で仕方がない。

2つ隣のクラスを訪ねて行っただけなのに、どうして数百mも歩いたくらいに消耗しなければならないのだろうか。

 

 

「一夏ーー、生きてるか?」

 

「ああ、何とかな」

 

 

1組を訪れるとそこには予想通りというか、俺と同じように磨耗した親友の姿があった。

やはり、俺と同じような目にあったのだろう。

 

 

「一夏、『楽園』なんてなかったんだな」

 

「そうだな」

 

「そういえば、篠ノ之さんは?」

 

「剣道部を見学してくるってさ」

 

「へぇ」

 

 

男2人が並んで窓枠に頬杖をつき、だんだんと夕焼け空に変わりつつある空を眺める。

まさか、『女の園』で男が心の癒しになるなんて思ってもみなかった。

 

そういえば、和馬の奴が昨日メールで『羨ましすぎる、全財産をやるから変わってくれ』とかいうのが届いていたが、果たしてそのセリフは入学したあとでも言えるのだろうか。

いや、きっと言えまい。

 

 

「そういえば、俺達以外にも2人。男がいるんだよな?」

 

「らしいな」

 

 

全男たちの夢であるIS学園に入学できたことで舞い上がり、今まで全く興味がなかったが。

俺と一夏以外にもこんな目に遭っているのが、後2人いると思うと、顔さえも見たこともないはずの相手に妙な親近感を覚える。

きっと、いい友人になれるに違いない。

 

 

「どんな奴だろうな?」

 

「さあな、少なくとも個性的な奴はお腹いっぱいだ」

 

「ああ、重善さんにソンネンさんか‥‥確かに個性的だよな」

 

「ルーは言うまでもないけど、刹利も意外とズレてんだよ」

 

 

特に、食事に関してはルーよりも我が道をゆく。

半分ずつ分けるという約束を忘れかけて半分以上食べてしまってルーを怒らせたり、『自分、まだ食べ足りないぞ』とか言い出して時間ギリギリまで食べ続けようとしたり。

いったい、あの程よく引き締まった身体のどこにあれだけの量が入るというのだろう。

 

 

「こっちも、箒とイギリスの代表候補生で疲れたな。特に代表候補生の子なんて男嫌いっぽくてさ、結構突っかかってくるんだよ」

 

「うわ、最悪だな」

 

「話しかけられたと思ったら、次には『腑抜けた顔をしていますわね』だぞ?」

 

「そりゃ、お前が本当に不抜けてたんじゃないのか?」

 

 

ルーに覚悟してないとか言われてたし。

しかし、いつもの腑抜けた顔と時折見せる真剣な顔のギャップで数多の女子を撃墜し、旗を構築してきた一夏の事だ。

きっとその女子もすぐ『一夏ハーレム(IS学園版)』を構成するメンバーになるのだろう。

中学時代から、コイツの旗構築場面を数多く見てきた俺の勘がそう囁いているのだ。

 

 

「そうなのか?」

 

「少なくとも、今のお前の顔は腑抜けてる」

 

「それを言ったら、お前もだろ」

 

「俺はいいんだよ」

 

「なんだよ、それ」

 

 

俺はお前みたいに無条件でもてたりするようなキャラじゃないからな。

そのセリフは言わないでおく。

 

 

「一夏、寮に戻ったら‥‥後の2人にでも会いに行かないか?」

 

「賛成、4人しかいない男だ。仲良くなれるといいな」

 

「ああ」

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァ‥‥35分43秒06‥‥自己記録更新‥‥」

 

 

10000mを全力で走り切り、息も絶え絶えではあるが、止まらずゆっくりウォーキングを行いながら息を整える。

こうして運動後のクールダウンをしておかないと、筋肉中に乳酸が溜まったままになってしまい、翌日以降にも疲れ等が持ち越されてしまう。

この時酸素を多く取り込んだ方が、乳酸の処理効率が上がるらしい。

 

 

「35分の壁が厚い過ぎるぞ‥‥」

 

 

在学中に10000mを31分台で走れるような筋力をつけろという、ディランさんの指示ではあるが、達成できる気がしない。

というか、10000mを31分台って、高校陸上大会の記録の中でもトップ10に入るような記録ではなかっただろうか。

ストレッチをして身体をほぐしながら、違和感を感じる部位が無いかを確認する。

 

グラウンドの方に目を凝らしてみると、陸上部や他の運動部の人達が部活動に勤しんでいる。

どの部も活気があって、一生懸命頑張っている姿はカッコよくて輝いていた。

 

 

「君、新入生?」

 

「はい、そうですが?」

 

 

特に違和感等を感じないので、ストレッチも切り上げて帰ろうかと思案していると声をかけられた。

体操服姿なので学年はわからないが質問の仕方的に、この人が上級生であることは間違いないだろう。

 

 

「やっぱり、私は3年の神原(かみはら) みゆきだ。陸上部の部長をしている」

 

「はぁ?」

 

「回りくどいのは好きじゃない、はっきり聞こう。陸上部に入らないか?」

 

「えっ?」

 

 

これは、もしや部活への勧誘というものなのだろうか。

どこの高校でも入学初日から部活の勧誘合戦が激しいというが、このIS学園においてもそうだとは思っていなかった。

部活には興味がある。中学時代は、アルバイトをしていたので殆ど幽霊部員だったのだ。

 

しかし、自分には契約操縦者として月10時間以上の稼働データを収集する義務があるので、入部したとしてもまた幽霊部員になってしまうだろう。

 

 

「自分、『エンブレム持ち』なんで」

 

「大丈夫だ。ここはIS学園、IS関係のことで部活を休むことは許されているし、幽霊部員も多い」

 

「そうなんですか」

 

「ああ、君の走りはある程度洗練はされているが、まだまだ荒い。どうかな、陸上部に入って走りに磨きを掛ける気はないかな?」

 

 

流石IS学園、何に関してもISが優先されるようだ。

どうするべきだろうか、確かに部活には興味はあるが、陸上部に入るかどうかになると悩む。

 

 

「すみません、考える時間をください」

 

「ああ、構わない。私も即決してくれるとは思ってなかったからな」

 

「そうですか」

 

 

あっさり承諾されたので、少し驚く。

漫画とかでの高校の部活の勧誘合戦というものはもっと激しかったので、そこまでいかないにしてももっと勧誘してくるものだと思っていたのだ。

架空の世界と現実世界は違うということなのだろう。

 

 

「君はいいランナーになれる。是非とも前向きに検討してくれ」

 

「はい」

 

 

ストレッチも終え、部活の方に戻っていく先輩をの背中を一瞥してからシャワールームへと向かう。

 

 

「部活か‥‥」

 

 

 

 

 

 

半乾きの結んでいない髪に鬱陶しさを感じながら寮に戻ってくると、何だか騒がしい。

まあ、今日から寮に弾を含む4人の男子が住むようになるのだ。

興味、恥ずかしさ、期待、甘酸っぱさ等の思いが混じって、暴走しすぎる人が出てきてもおかしくはないだろう。

自分は、あんまり興味ないが。

 

 

「男子同士で喧嘩だって!」

 

「ウソ、ホントに?」

 

「ホント、ホント、何か1組の織斑君と4組のマルク君が部屋の前で口論してるらしいよ!」

 

「見に行こ、見に行こ!」

 

 

喧嘩か。やっぱり男子同士だと、どちらが上か決めたくなってしまうのだろうか。

女子達が向かっている方が男子部屋で喧嘩が起きている現場なのだろう。

人の喧嘩に首を突っ込もうとしたり、野次馬に行ったりするのはよくないことだというのは理解しているが、気になってしまうものは仕方がない。

 

ということで、他の女子の流れに混ざって男子部屋の方へと向かう。

さてさて、一体何が原因なのだろうか。

そんなことを考えながら進んでいると、現場にはすぐ到着した。

喧嘩のことは、まだ噂になったばかりなのか、自分と同じような野次馬はまだ十数人しかいない。

 

 

「貴様さえいなければ!」

 

「俺が、何をしたって言うんだよ!」

 

「落ち着け、一夏!」

 

「‥‥」

 

 

銀髪で右目が紅、左目が蒼というオッドアイの誰が見ても文句のつけようのないイケメンと織斑が口論し、弾と中東系の浅黒い肌と黒髪を持つクールな男子が後ろから羽交い絞めにして2人を抑えている。

あれが、この学園に通う4人の男性操縦者か。

全員、どこかの雑誌とかでモデルでもやっていそうなくらいにレベルが高い。

 

 

「ねぇ、誰がいいと思う?」

 

「私は、織斑君かな。だって、あの千冬様の弟だし」

 

「私、エーシア君がいい。寡黙な少年ってかっこいいと思わない?」

 

「ええぇ~~、マルク君でしょ、絶対!一番カッコイイもん」

 

「あたしも、織斑君」

 

「マルク様!」

 

「エーシア君」

 

 

と野次馬に来た女子たちの間では、男子4人に対する品評会が行われている。

本人達を目の前にして、よくそんなことを言えるなと思うが、男子4人は喧嘩の真っ最中でそれどころではないのだろう。

それにしても、弾の人気がなくて可愛そうだ。

確かに、あの4人の中では一番普通に近い容姿をしているが、自分と同じで常識的でいい奴なのに。

 

 

「貴女は、誰がいいと思う?」

 

「自分か?自分は、だ‥‥五反田君で」

 

「へぇ、マニアックね」

 

 

なんか、ムカついた。

『ハービック』での訓練で、ある程度それを表に出さないようにすることはできるが。

今日友人になったばかりでお互いをあまり知らないとはいえ、馬鹿にされるのは少々面白くない。

 

 

「‥‥」

 

「あら、どうしたの?突然黙り込んで?」

 

「別に、なんでもないぞ」

 

 

色々言ってやりたいことはあるが、しかし、ここで新たな喧嘩の種を蒔くわけにはいかないので我慢する。

質問してきた女子は自分に対する興味を失ったのか、他の女子に同じ質問をしていた。

 

深呼吸して気持ちを落ち着けながら、喧嘩している方を見る。

 

 

「何で、なんで、俺じゃダメだって言うのかよ‥‥」

 

「お前は、何が言いたいんだ?悪いが、俺にはわからない」

 

「ああ、わからないだろうよ。俺の気持ちなんて、お前には絶対わからない」

 

 

途中の会話を聞いていなかったせいか、何がどうなってこうなったのかわからない。

最初、あれだけ激昂していたはずの銀髪が今は何故か落ち込んでおり、織斑の方も訳がわからないのか困惑している。

とりあえず、喧嘩は終わったのだろうか。

 

 

「貴様ら、そこを動くな!」

 

「逃げても捕まえるから、覚悟するじゃん!」

 

 

どうやら、喧嘩の噂を聞きつけた教師陣がようやく到着したようだ。

うちの担任と『ブリュンヒルデ』と名高い織斑先生を投入してくるあたり、逃がさないというのは本当なのだろう。

ここは、下手な抵抗をするよりも素直に従ったほうがいい。

人間、時には諦めも必要だし、好奇心に負けた自分の責任だ。そんなにひどい罰は与えられないだろうから、甘んじて受け入れよう。

 

 

「まったく貴様らは、入学初日から騒ぎを起こし追って‥‥覚悟は出来ているだろうな?」

 

「げっ、千冬姉!」「ち、千冬さん!」「お、織斑 千冬!」「‥‥」

 

 

喧嘩をしていた2人は当然、それを止めていた2人も織斑先生を見て青ざめる。

喧嘩の最中でも全く表情を変化させなかった中東系の少年も例外ではない。

人形みたいに生気が感じられなかったので不気味な奴だと思っていたのだが、ああいう顔もできるのだとわかって安心した。

止めようとしていたのに、巻き込まれる形で弁明もできず説教組となった弾は肩を落として落胆していたが、織斑に何か言われると少し疲れたような笑みを浮かべてから何か言い返していた。

きっと、少年誌的に考えて‥‥

 

 

『悪いな、弾。巻き込んだみたいで』

 

『別にいつものことだろ。けど、貸し1な』

 

『了解』

 

 

みたいな感じで、当たらず遠からずといったところだろう。

 

 

「おっと」

 

「チッ」

 

 

考えるに耽っていると、捕まえようとした担任の手が伸びてきたので回避する。

しかし、今この教師、明からさまに舌打ちしなかったか。

 

 

「自分、逃げませんよ?」

 

「重善、これだけは言っておくじゃん‥‥」

 

「はい」

 

「私は負けず嫌いだから、覚悟しておくじゃんよ!」

 

 

ああ、こっちはこっちで面倒臭いことになりそうだ。

獲物を前に舌舐りをする狩人のような顔をした担任を見て、自分は直感的にそう判断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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