ようやく入学初日終了です。
1日終了に5話かかるなんて、もしかしてテンポ悪いのでしょうか。
『入学おめでとう。どう、学園の様子は?』
「ありがとうございます、ディランさん。
学園は予想以上に面白そうなところです。まあ、その分だけ苦労しそうですけど」
夕食後の自由時間、風呂から戻り、まだ身体が冷えていない内に柔軟体操を行っていると『ハービック』から支給された最新型の携帯端末にディランさんから電話が掛かってきた。
最初は部屋から出ようかとも思ったが、すでに夢の世界へと船を漕ぎ始めているルーの姿を見てそのまま出ることにした。
まあ、よくもそんなに眠れるものである。
『確かルームメイトは『ケーファー』の『眠り姫』だったわよね?』
「『眠り姫』?」
それは、ルーのことなのだろうか。
確かに、起きている時間より寝ている時間の方は圧倒的に多いのではないかと思うくらいよく寝ているが。
『ルーツィア・ソンネン、『ケーファー』の契約操縦者の』
「えっ、ルーにそんな格好良い二つ名なんてあったんですか?」
『あら、結構打ち解けているみたいね。資料によるとなかなか気難しい娘だってあるのに』
「その情報を集めた人が、ダメだったんじゃないですか?」
ルーが気難しいなんて、その情報を集めた人は何を見ていたのだろう。
自分も深くまで知っているわけではないが、ルーくらいに単純な人間は世界でも数人程度しかいないのだろうか、と思える程にわかりやすい。
簡単に言うなら、ルーの中には基準となる線が引かれていて、その内側か、外側かしかない。
きっと、その情報を集めた人は外側だと判断されたのだろう。
『そうなの?じゃあ、部署異動してもらわないと‥‥情報部が無能なんて致命的だもの』
「え、まっ‥‥」
『何か、問題でも?』
軽い気持ちで言った言葉が人一人の人生を狂わせようとしている。
その事にとてつもない、言葉には言い表せないような怖さと焦りを感じた。
しかし、その事について今更撤回することはできない。
人の本心を完全に理解するのなんて不可能だ。だから、自分の言葉が正しいのか、ルーの情報を集めた人間が正しいのかは分からないのだが、ディランさんは自分が正しいと判断した。
それにより、その情報部の人はあっさりと部署を変えられる。
現代社会において、情報というものは非常に重要で大切なものでたった一つの情報が多くのことを知らせ、時には数百万ドル以上の利益をもたらすことがある。
『ハービック』に本格的に所属する前に教育されたのでよく覚えている。そして、その後の言葉も。
『我社は清く正しい企業です。有能な者には正しく報酬を、無能な者には正しく罰を与えます。
そして、裏切り者には正しく制裁を加えます。いいですか、『清く正しく』です。努々忘れぬように』
あの瞬間、自分は『ハービック』という巨大な装置を動かす為の歯車になったのだと実感した。
畏怖とかそういう感情的なものではなく、本能的な何かに理解させられたのだ。
「‥‥ありません」
『そう、ならいいわ。ところでクラス代表にはなれたかしら?』
「いえ、それが‥‥」
ディランさんにクラス代表の座をめぐって、ルーと対決することになった顛末を説明する。
自分が総報告してくるのを知っていたかのように、ディランさんは『そう』と楽しげに言う。
『一応、『カスタム・イーグル』は貴女に優先させるようお願いはしてあるけど、専用機相手だと心許無いわね』
「ルーって、専用機持ちだったんですか?」
『ええそうよ、ヨーロッパ大会にも何度か出場してるから、そのデータを後で端末に送っておくわ』
衝撃事実の発覚だ。ルーが専用機持ちだったなんて。
自分もIS学園から『カスタム・イーグル』を優先的に借りることができ、半専用機化しているが、やはり本物の専用機と比べると差は小さくないだろう。
IS学園最初の対戦相手が数少ない専用機持ちとか、どこぞの少年誌的展開だ。
『あなたなら『眠り姫』に勝てるかもしれないわ。期待しているから、精一杯頑張りなさい』
「無茶なフリはやめてください」
『まあ、間に合うかどうかはわからないけど
「‥‥今回のは、大丈夫ですよね?」
『‥‥』
なぜそこで無言になる。不安を増長させるようなことはやめてほしい。
ただでさえ、あのパッケージにはトラウマがあるというのに。
『前回で見つかった問題点は修正済みよ。試験機動も病曇達が行っているわ』
「‥‥本当ですか?」
『嘘をついても仕方ないでしょ』
ここで何と文句を言おうとパッケージは既に送られている途中だろうし、今の自分の役目は『FDS』完成の為のデータ収集なのだ。
断ることは契約違反である。
それに、姫先輩が試験機動を行っているのだから、少なくともシステム稼働中に強制解除されることはないだろう。
上空数百mで、突然ISが解除され重力という柵に誘われて大地へと落ちてゆく感覚、思い出すだけでも背筋が凍りそうになる。
いざという時のために姫先輩が待機していてくれていたからこそ大丈夫だったものの、1歩間違えればこの場にはいなかっただろう。
『追加で欲しい装備があるなら遅らせるけど、何かあるかしら?』
「今のところは、特に」
『そう、なら頑張ってね。代表決定戦』
「はい、全力を尽くします」
『朗報を期待するわ』
通話が終了し、携帯端末をベットに投げ、自分もそのまま倒れ込む。
ルーとの代表決定戦に、陸上部への勧誘、FDS用パッケージの稼働データ収集、考えただけでも面倒臭そうだ。
「Zzz‥‥」
隣のベットに視線を向けると、すっかり緩みきったルーの微笑ましく幸せそうな寝顔が見える。
全く、こっちは色々と頭を悩ませているというのに。
「刹利‥‥ヴルストを‥‥忘れちゃ‥ダメなの‥‥」
「はいはい、わかったさ」
なんだか悩んでいるのがバカらしくなったので、電気を消して、アラームを確認してから眠りにつく。
いい夢が見られるといいな。
◆
千冬さんの長い、長い説教から解放され、お互いほとんど会話のないまま交代で備え付けのシャワーを浴び、ベッドに腰掛ける。
正直、何がなんだかわからない。
隣の部屋にいる残りの男子生徒に会いに行ったら、その片方が急に一夏に暴言を吐いてきて喧嘩になったのだ。
いつもなら暴言なんて涼しい顔で受け流して相手にもしないのに、今日は違った。
あのリーダス・マルクとかいった奴の暴言は、一夏の中の地雷を盛大に踏んでしまったらしい。
「なあ、一夏‥‥アイツとは知り合いか、なにかなのか?」
「いや、あんな奴会ったこともない」
「じゃあ、何で」
「そんなの、俺が知りたいさ!あいつは何なんだよ!俺の何を知ってるって言うんだよ!」
「‥‥」
この話題は地雷だっていうのは十分に理解していたが、それでも聞かずにはいられなかった。
俺は、親友だ。少なくとも俺はそう思っているし、思い上がりでないのなら一夏もそう思っていてくれているだろう。
だから、互いに傷つくことだと理解しても、あえて踏み込む。
「なあ、『お前のせいで全て不幸になる。姉の時のように』とか言ってたけど‥‥千冬さんと何かあったのか?」
「‥‥」
「だんまりか」
まあ、今まで話してこなかったということは、それだけ言いにくいことなのだろう。
だが、ここで聞いておかなければ、この先一生聞けないような気がするのだ。
「一夏」
「‥‥なんだ」
「とりあえず、なんか吐き出しとけ。溜め込むと録なことにならねえし」
「でも‥‥」
「大丈夫だ。この寮の防音は結構高いらしいからな」
恐らくだが。
いきなり核心を聞き出そうとしても、この頑固者が言うはずないので、外堀から攻める。
人が聞いたら卑怯とでも言われるかもしれないが、俺自身が口を滑らせない限りバレることはないので、全く問題はないだろう。
一夏は、どうするべきか悩んでいるようなので、もうひと押しくらい必要か。
「たまには、俺を頼れよ。自慢じゃないが、よく蘭の人生相談に乗っているから、そういうには慣れてるんだぞ」
相談内容は、主に一夏の好みや自然なデートの誘い方、ライバルである鈴を出し抜く方法とかだったが。
「そうなのか?」
「ああ、当然だろ」
「なんか、想像できないな」
「なんだと!これでも、俺は蘭の兄貴なんだぞ。妹の人生相談くらい、朝飯前さ」
なにせ、お前からいろいろと聞き出すだけでいいんだからな。
何の疑いもなく答えてくれるし、蘭とデートさせるために仕組んだりしても疑う事が無い。
その分、蘭の必死のアピールとかもほとんど効果をなさないのだが。
まったく、この鈍感王はいつになったら周りの女の子たちの行為に気がつくのやら。
「じゃあ、とりあえず‥‥アイツって、何様のつもりなんだろうな?」
「何様のつもりって?」
「いや、だってよ。初対面の相手に『お前のせいで、全て不幸になる』だぜ?
何を知っているのかは、俺にはわからないけどさ‥‥何でお前がそんなこと断定できるんだ?」
「確かに」
「銀髪にオッドアイ、『不幸になる』発言。中二病か!?ってツッコミ入れたくなるよな」
「中二病?」
「一昨年の和馬」
「ああ、なるほど、わかった」
俺らの友人、御手洗 和馬は中学2年生の時に、それはそれは見事なまでに中二病を発症していた。
自らを『
その斧を学校に持ってきて『さあ、
一夏も、あの頃の和馬の痛々しい言動を思い出したのか苦笑していた。
「確かに、和馬程じゃないけど、そんな感じだな」
「だろ。だから、あんな奴の言葉は真に受けない方がいいと思うぞ」
「でも‥‥」
「まあ、アイツは俺の知らないお前の何かを知ってるんだろうけど、悩むだけ無駄だと思うぞ?
ああいった奴は、自分の考えていることがすべて正しいとか思ってるだろうし」
過去に何があったのかは知らないが、一つだけ言えることがある。
詳細を聞きだせるのは、当分先になりそうだということだ。
まったく、貸し1追加だからな。
◆
セットしていたアラームが鳴り、深く眠り込んでいた意識が覚醒してゆく。
微妙な寝足り無さを感じながらも身体を起こし1度伸びをする。背中から指先までの気怠さが抜けてゆく心地良さと共に、意識も完全に覚醒した。
ベットを出て、簡単なベットメイクをしてから洗面所へと向かう。
歯磨きや整容に着替えをしっかりして、おかしな所がないか入念にチェックしておく。
『エンブレム持ち』は、IS学園においての企業の顔のようなものである。ルーのような例外的存在もいるが、基本的には企業に泥を塗るようなことがないよう、常に気をつけておく必要があるのだ。
それが終われば、今度は部屋に備え付けられた冷蔵庫まで移動し、中から様々なソーセージを取り出す。
ソーセージにこれほどの種類があるなんて、ルーに出会わなければ知ることもなかっただろう。
とりあえず、今日は4種類を各6本の24本用意する。
これだけ用意しても昼前にはほぼ完食し、学食で更にソーセージを食べるというのだから、ルーのソーセージ好きには驚かされるばかりだ。
部屋に調理ができる場所はないので、このソーセージを調理する為にはキッチンルームへ行かなければならない。
「なんで、こんなことしてるんだろうな」
廊下を歩きながら自問自答してみるが、虚しいだけだった。
きっと寮に入った初日にルーのおねだりに負けてしまったのが、全ての元凶だろう。
ほどなくして、キッチンルームに到着する。
国家直轄の特別指定校だけあって、こういった所にも無駄に予算をかけており、置いてある機材は全てプロの料理人が愛用するものと同じ物が殆どだ。
この鍋一つでも数万は軽くするだろうし、本当に無駄としか思えない。
キッチンルームには、まだ5時になっていない事もあってか自分を含めても片手で数えられる程度の人数しか人はいない。
全員が1年生であり、上級生達がやって来だして混む前にさっさと済ませてしまおうという考えなのだろう。
コンロにたっぷりの水をはった鍋とソーセージを敷き詰め1cm程度水をはったフライパンを置き火にかける。後は待つだけだ。
コンロの前に椅子を持ってきて、それに座り携帯端末を弄る。
ニュースにさっと目を通して現在の情勢をある程度おおまかに把握し、その後はソーシャルゲームで時間を潰す。
初めは、携帯ゲーム機の劣化版と馬鹿にしていたソーシャルゲームだったが、いざ遊んでみるとこんなちょっとした暇を潰すのに最適なものはない。
ハマりすぎて、おかしくなってしまう人が出てくるのも納得だ。
自分は、そんな風になりたくないので無課金プレイヤーである。最近では、課金したら負けかなとすら思っている。
ゲームの合間にフライパンのソーセージを返しておくことも忘れない。
これを怠ると、火の通りが悪くなり味が落ちてしまう。
やるなら、完璧に。それが自分のモットーなので、手を抜いたりすることはしない。
「刹利、おはよう。ヴルスト、できてる?」
もうすぐフライパン組のソーセージが出来上がるという頃に、まるで狙ったかのようにルーが現れる。
整容もしていないボサボサの髪の毛に、緑地に星の柄の入ったパジャマにスリッパ姿という、起きてそのまま来ましたという状態だ。
「おはよう。もうすぐできるけど‥‥とりあえず、こっちに来な」
「はぁ~~い」
まだまだ寝たりないのか、眠そうな目を擦るルーを呼び寄せ、ポケットに入れておいた小型の鏡を置いて折畳式の櫛で髪を梳いてやる。
くすぐったそうに目を細めるルーを見ていると、なんだか手のかかる妹でもできたような気分だ。
「まったく、部屋を出る時は身嗜みを整えなきゃ駄目だぞ」
「はいなの」
「最初の頃は、ちゃんとできてたのに」
「だって、刹利がやってくれた方が気持ちいいんだもん」
やっぱり、わざとだったのか。
手早くボサボサになった髪を整え、茹で上がったソーセージを皿に移す。
そして、沸騰した鍋に残りの未調理分のソーセージを入れる。
「ねぇ、食べていい?」
「1本だけだぞ」
「5本!」
「多すぎる、2本」
「せめて、4本は食べたいの」
「却下。どうせ、朝食でも食べるんだろ?」
そう言うと、ルーは物凄い呆れた顔をする。
「刹利はわかってないの。早朝のヴルストは別腹なの!」
「‥‥」
「あぅ!」
とりあえず、無性に腹が立ったので頭をはたいておく。
「ぼ、暴力反対なの!」
その意見には同意するが、人間であれば許せない時というのは必ずあるはずだ。
だから、自分は悪くないぞ。
用語解説
『カスタム・イーグル』
アメリカ製第2世代型量産IS
ストラトス・イーグルを各企業が特別改修した機体で、全体的なバランスはそのままに企業の特色が強く出ている。
その性能は、ほぼ第3世代と比べても遜色ないレベルに達しており、値段も含め『半専用機』ではなく『量産専用機』と言ったほうが良い。
ハービックモデルは、ストラトス・イーグルに比べ機動性や旋回性能といったところが強化されているが、耐久性が若干低下している。