2桁前にして、ようやくセシリア登場です。この作品のセシリアは、ちょろくはありません。
後半に少々下ネタ表現があります。苦手な方は、ご注意ください。
朝8時、茹で上がったソーセージをラップで包んだり、その隙を狙って摘み食いをしようとするルーと激しい攻防を繰り広げたり、部屋に戻ってルーの整容を手伝ったりしていたらこんな時間になってしまった。
寮の食堂に到着するが完全に出遅れてしまったようで、殆どのテーブルが埋まっており、ゆっくり食べているような時間的余裕もない。
別に、満腹になるまで食べなければ倒れてしまう腹ペコキャラではないので構わないのだが、それでも食べれる時にはたくさん食べたいのだ。
「うぅ、時間がないぞ」
「‥‥ごめんなさい」
ちょっと泣き言が出てしまい、それを聞いたルーが暗い顔で謝ってくる。
いつもの太陽のように明るい笑顔は見る影もなく、今にも泣きそうな子供のような顔だ。
そんなつもりじゃなかっただけに、焦りが脳を支配して冷静さを欠く。
「き、気にしてないぞ!自分、全然気にしてないぞ!」
「でも、刹利は食べるのが好きなの」
「それは、そうだけど‥‥」
自分は、ある程度行動を考えてから動くタイプなので、こういった突発的に起こる予想外の事態には弱いのだ。
朝食をいっぱい食べれないことに対して、ちょっとショックを受けているだけに、下手な慰めをしても状況を混乱させるだけのような気がする。
だが、ルーに悲しい顔をさせたくないというのも、また事実だ。
そう考えると、頭の中では『どうしよう』という焦りの言葉が思考スペースを侵食してゆく。
「う、うぅ~~‥‥」
「‥‥本当に、ごめんなさい」
「いったい、何事ですの?」
食堂の入口で2人してオロオロしていると金髪の美少女に声をかけられた。
「ツェツィ‥‥」
「ルー‥‥そのようですと、またですのね」
「‥‥うん」
「まったく、貴女という子は‥‥」
状況がさっぱり理解できないのだが、この金髪巻き毛の美少女がルーの言っていたツェツィなのだろうか。
泣きそうなルーを見てため息をつくと、頭を撫でる。
「えと‥‥」
「貴女が、ルーのルームメイトの刹利さんですわね?」
「あ、ああ、そうだぞ」
ルーのルームメイト、なんだかダジャレっぽい響きだ。
第3者の介入によって、焦りによって支配されていた脳も落ち着きを取り戻し、こんなくだらないことも考えられるようになる。
本当に助けが入ってくれてよかった。あのままでは、絶対自体は良い方向に進まなかったであろう。
しかし、このツェツィという少女、専用機持ちだ。一瞬ではあるが、金髪の隙間からイヤーカフス型の待機状態になった物が見えた。
どこかで見たような覚えがあるのだが、うまく思い出すことができない。
「わたくしの名は、セシリア・オルコットですわ。ルーとは、IS学園に入学する前からの友人ですの」
「思い出したぞ、イギリスの代表候補生の」
そう、ツェツィ改めセシリア・オルコットは『ハービック』で渡された各国の国家代表と代表候補生のリストで見たのだ。
自分と同じ年齢の女の子が、IS操縦者として国家の代表候補として選ばれるなんて凄いと驚いた覚えがある。
まさか、ルーの言っていたツェツィがあのセシリア・オルコットだったなんて、世の中どこで繋がっているのかわからないものだ。
「あら、わたくしをご存知ですの?」
「まあ、それなりに。自分、重善 刹利。一応『エンブレム持ち』だ」
「そのエンブレムは『ハービック』のですわね。
ルー以外の『エンブレム持ち』は初めて見ますが‥‥貴女とは仲良くなれそうですわ。主に、この子の苦労話で」
「同感だな」
どうやら、オルコットも自分と同じ事を思っていたようで、握手を求めるように手を出す。
その一連の動作は、庶民生まれの自分では一生できない、一目で育ちの良さが分かる優雅なものだった。
手を握ることすら悪いように思えてしまうが、応じないのも失礼だろうし覚悟を決めて握手する。
自分の手とは全く違う、手入れの行き届いたすべすべとした感触にいつまでも触っていたいという誘惑に駆られるが、なんとか踏みとどまった。
「‥‥ルー的には、無視はよくないと思うの」
オルコットの介入によってルーも落ち着いたのか、まだ陰りは見えるものの笑みを浮かべることができるようになった。
何がきっかけで、ああなったのかはわからないが、今度からは気を付けよう。
「悪かったな、気をつけるぞ」
「全く、自分で騒ぎの原因を作っておきながら貴女は‥‥反省なさい」
「はぁ~~いなの」
オルコットに窘められ、がっくりと肩を落とすルーに苦笑しつつ、時計を確認する。
見事に少ない時間は消費され、今から頼んだとしたら遅刻を覚悟しなければならない。
流石に『エンブレム持ち』として、それは出来ないので諦めざるを得ないだろう。
「ルー、教室に向かうぞ」
「そうですわね、急がなければHRに遅刻してしまいますわ」
「えっ、でも、まだ朝ごはん食べてないよ?」
「お昼まで我慢だな」
「‥‥刹利」
朝食抜きという事に、またルーがその表情を曇らせようとするが、一度起きた事態は予想外ではない。
「別に気にしてないぞ。一食抜いたって問題ないさ‥‥ソーセージ5本な」
「気にしてないなんて、嘘なの!2本!!」
「いいや、譲らないぞ。6本」
「譲らないどころか増えてるよ!?明日から本気を出すから、3本で勘弁して欲しいの!!」
「仕方ない、それで手を打つさ」
「ぐぬぬ」
明日からちゃんとする事を約束させ、尚且つソーセージもいただく。
朝食を食べ逃したのだから、これくらいのことは許されるだろう。
非常に悔しそうな顔をしながらポケットに潜ませていたソーセージを差し出してくるルーに、オルコットが驚愕していた。
「あのルーに、自らソーセージを差し出させるなんて‥‥刹利さん、恐ろしい方!」
「ルーの胃は刹利に握られちゃったの」
「むぐ‥‥いいから、いくぞ」
とりあえず、素早く一本を平らげ、芝居がかったリアクションをとる2人を急かす。
「ノリ悪いの」
「刹利さん、淑女たるもの焦らず常に優雅でなければ」
「‥‥ルー、やっぱ6本な。セシリア、優雅じゃなくてルー化してるぞ?」
「ごご、ごめんなさいなの!」「わ、わたくしが、ルーに!ありえません、ありえませんわ!」
セシリアのことを勝手に呼び捨てにしたのだが、別に気にしていなさそうだった。
まあ、むこうも最初から自分の事を名前呼びしているのでお相子ということなのだろう。
このような茶番を挟みつつも、朝のSHRにはちゃんと間に合うことができた。
セシリアは1組だったので途中で別れることになったが、昼食を一緒にとる約束をしたので今から楽しみである。
ちなみに、ルーがあんなに泣きそうだった理由をこっそりセシリアに聞いてみたのだが‥‥
ルーは、基本的にマイペースで我儘なのに、親しい人の幸せや楽しみを邪魔してしまうのをひどく気にするらしい。
まったく、難儀な生き方をする。
◆
「重善、ソンネン。お前達の模擬戦はこっちの都合で今週の日曜日になったじゃん」
「わかりました」
朝のSHRの最後に代表決定戦の日にちが知らされる。
日曜日か、当初の予定では土曜日に今週中に届くだろうFDSパッケージのデータ収集に使う予定だったのだが、変更せざるを得ないだろう。
FDSは使用後の疲労感で動くのも億劫になってしまうので、なるべく次の日が休日な土曜日にデータ収集をして日曜日は身体を休めようと思っていたのに。
模擬戦を行うとなるとアリーナ1つを貸し切ることになるので色々と都合がつきにくいのだろう。
不満はあるが、納得するしかない。
「えぇ~~、日曜日はお昼過ぎまで寝るつもりだったのに」
「我慢するじゃん」
「文句言うな。4組の方も女子の代表決定戦をやるらしく、そっちと纏めてやる事になったせいじゃん」
「ルーには関係ないの」
流石は、ルーというべきか。自分が寝たいからと言って拒否するなんて、典型的な日本人型思考の自分には恐ろしくて真似できない。
「なら、ソンネンの不戦敗じゃん」
「くっ‥‥卑怯なの」
「卑怯じゃない。職員会議で決まったことだから、お前がどんだけ騒ごうと変わらないじゃん」
「うぅ、仕方ないの」
「じゃあ、SHRは終わりじゃん。1限目は実技だから、さっさと着替えて第4アリーナに集合するように」
SHRも終わったので、荷物をまとめて第4アリーナの更衣室を目指す。
今年から世界中の人が予想しなかった男子学生が入学することになったので、IS学園は色々と準備が不十分なのだ。
寮の方は最優先で整備されたらしいが、アリーナの更衣室までには手が回らなかったらしく、3つあった更衣室の片方を男子用にしてしまったのである。
基本的に実技の授業は2クラス合同で行われるので、今まではかなりの余裕を持って更衣室を使用していたらしいのだが、その1つが使用できないので混雑するだろう。
なので、早めに場所を確保しておきたいのだ。
「ルー、急ぐぞ」
「‥‥納得できないのぉ~~」
どうやら先程のことをまだ引きずっているようで、悔しそうな表情を浮かべるルーは、ポケットからソーセージを取り出して食べだす。
「待ってくれ、俺も一緒に行っていいか?まだ、アリーナとかの位置が曖昧でさ」
「いいぞ」
「構わないの」
ISスーツが入ったと思われる袋を下げた弾が、合流してくる。
そういえば、朝食時には見かけなかったが織斑達と一緒に食べていたのだろうか。
「そういえば‥‥弾の専用機って、どんなの?ルーのは、これだよ」
そう言ってルーは、首に掛けたラリエットを見せる。
深い緑色のビーズがあしらわれたシンプルで、どこか古風な感じのするそれは、子供っぽさの残るルーの少し大人びた魅力を引き出していた。
「‥‥弾?」
「あ、いや、おお俺の専用機だったよな!」
どうやら、弾はルーの専用機の待機状態よりも、それを取り出す時にはだけた胸元に興味深々のようである。
男である以上、ルーのような美少女のそういう所に目がいってしまうのは仕方ないことだとは思うが、もう少し隠せないものか。
巻島家の掃除を手伝っていた時に、優吾の隠していたエッチな本を発見してしまった時のような気まずさと、冷めた感情が広がる。
ちなみに、優吾は少し年上のお姉さん系が好みらしい。
見蕩れていたのと焦っていたのもあってか、自分の冷たい視線に気づかないまま左腕の袖をまくる。
そこには、黒い無骨なガントレットが装着されていた。
専用機の待機状態は通常ルーのようなアクセサリータイプが主流なのだが、やっぱり男女差というものなのだろうか。
「へぇ、なかなかカッコイイの」
「でも、結構邪魔なんだよな‥‥コレ」
「何だか、蒸れそうなの」
「うわ、それは嫌だな。‥‥刹利、どうした?」
ようやく、自分の冷えた視線に気がついたようだ。
「‥‥視線が露骨だぞ」
「何の話?」
「ち、違うぞ!そそそそんなつもりは、い一切無くてだな!!」
まさかバレているとは思わなかったのだろう。弾の慌て用は相当なもので、しっかり見てましたと自白しているようなものだった。
まあ、見られていた当の本人はわかっていないようだが。
「まあ、自分もそういうのには理解がある方だから‥‥次から気をつけるんだぞ」
「痛い、その優しさに心が痛い」
「ねえ、何の話なの?」
「ルーは、知らなくでいいことさ」
「刹利のケチ」
ケチと言われようと弾の立場から考えて黙ってあげたほうがいいだろう。
さっきから『言わないでください』と言わんばかりに両手を合わせて、拝んできているし。
「じゃあ、そんなケチな人が調理したソーセージはいらないな?」
「刹利は、とっても優しい人だと思うな」
相変わらずソーセージのこととなると、この掌返しの速さだ。
どれだけ、ソーセージに命をかけているのだろうか。
「貸し1だぞ」
「了解しました!」
そんな馬鹿なことをしていると、ようやく目的の第4アリーナへと到着する。
腕時計で時間を確認すると、更衣室が混雑していても少し余裕を持って着替えができるくらいの時間があった。
「じゃあ、また後で」
「ああ、後でな。それと、ありがとな」
「自分をあんな目で見たら、許さないからな?」
「‥‥肝に銘じておきます」
理解はあるが、自分をその対象してもいいというわけではないので一応釘を刺しておく。
ディランさんの冷たい笑を真似て言うと、弾は首が痛くなりそうなくらいの速さで頷いた。どうやら、効果は上々のようである。
男子用更衣室に逃げ込む弾の姿は、ちょっとだけ優吾と重なって見えた気がした。
「刹利、更衣室けっこう混んでるの!」
「はいはい、今行くさ」
◆
やばい、非常にやばい。
「はいはい、注目。今から、基本中の基本であるISの装着と起動をしてもらうじゃん。
各クラス3グループに分かれて、各班には1人ずつ専用機持ち達に班長としてついてもらうから、指示に従うように」
IS学園で初めての実技授業、一応専用機持ちとして恥じないように最低限のことは叩き込まれているので授業に関して問題ないが、他の問題が生じている。
「ねぇ、班の分け方って、どうするの?」
「出席番号順じゃないの?」
「えぇ~~、だったらマルク君や五反田君の班に入れないかもしれないじゃん!」
「うっさいわねぇ、それは私も同じよ」
「神様お願いします、マルク君の班になれますように」
手を伸ばせば容易に触れられそうな距離に、何故かに露出度の高いISスーツを着た女子がいる。
しかも、その女子のレベルは中学時代に比べて天と地の差と言って良い程に高く、この状況下において何も反応がない男子がいるとすれば不能か同性愛者くらいだろう。
ボディラインを強調させる悩ましいそのデザインは、絶対に男がしたとしか思えないほどに男心をくすぐるツボを押さえていた。
以上の点を踏まえて考えて欲しい。
反応してしまった俺は、最低な人間なのだろうか。
叢雲製ストライクモデルの男性用特注品に、反応を隠す機能がなければ、俺は社会的な終わりを迎えていただろう。
ありがとう、叢雲社の開発部の皆さん。
「1班五反田と3組1~11番、2班重善と12~22番、3班ソンネンと23~33番、4班更識と4組1~11番、5班スミルノフと12~22番、6班23~34番。
以上、指示された班に分かれるように。各班長は、ISを受領しに来るじゃん」
「やったぁ~~、神様ありがとう!」
「はら、やっぱり」
「残念だったわね。私は1班だけど」
「うぅ~~、憎しみで人が殺せたら‥‥」
歓喜と絶望の声の中、俺は反応してしまったことを悟られないように歩く。
隠蔽機能のおかげで傍目からはわからないが、それでも歩き方等からバレる可能性があるからだ。
今回用意されていたISは『打鉄』が3機『ラファール・リヴァイヴ』が3機、そして『ストラトス・イーグル』が1機である。
『最強の量産機』と呼ばれるだけあって、他の2機とは風格が違う。
しかし、雑誌の写真で見た『ストラトス・イーグル』よりも推進翼がふた回りくらい大型化しているし、脚部のスラスターも増設されている。
そして、肩部にも装甲が追加されており通常のIS装甲と違う所から、何かしら特殊機能があるのだろう。
「重善、お前もさっさと自分の機体を受領するじゃん」
「はい」
露出の多いISスーツの生徒ばかりの中で、唯一首から足先までの全身を包むボディスーツ型のISスーツを着た刹利が『ストラトス・イーグル』に近づいてゆく。
露出部分は一切ないはずなのに、かなりのスタイルを持つ刹利が着ているせいか、非常に艶かしい。
「先生、先に着用してもいいですか?」
「許可するじゃん」
先生から許可をもらうと刹利は立位のまま固定された『ストラトス・イーグル』の装甲に足をかけてコックピットの位置まで器用に登っていく。
なるほど、あれは刹利の為の機体なのか。
確かに、刹利は専用機持ちではないものの『エンブレム持ち』で他の生徒達より技量は高い。
だから、『ストラトス・イーグル』のような高性能機が与えられるのだろう。
10秒もかからず起動を済ませた刹利は、機体のロックを外して軽く動作確認している。
カシュン、という音とともに顔の上3分の2を覆うバイザーが展開される。その様子は、ロボットアニメのワンシーンのようでかっこいい。
「見事じゃん」
「どうも」
先生の褒め言葉に対してもそっけない返事をし、刹利は打鉄の乗ったカートを運んでゆく。
俺以外の専用機持ちも既にカートを運び始めており、残ったのはラファール・リヴァイヴだけだった。
「こら、1班。さっさとするじゃん!」
「はい!」
少々、刹利の姿に見蕩れ過ぎてしまったようだ。
俺は左腕のガントレットを撫でながら、自分の相棒に呼びかける。
行くぜ、