だが、これは強制ではない
変革には破壊を伴う
自己の全てが破壊されるのを恐れるのであれば立ち去ってくれても構わない
「私は……私は!」
"知らない天井……でも無くなってきたなぁ"
目を覚まし、独り言つ
瞳に映るは真っ白な天井
それも自宅のようにどこか安心感を与えるようなものではなくどこまでも無機質な白
最初のころはこの部屋の光景に不安を掻き立てられていたが、1週間も経てばそんなことも気にならなくなっていた
ここは数千もの学園が集まる学園都市《キヴォトス》
そこの『連邦捜査部シャーレ』という、よくはわからないけどとにかくすごい権限を持つ部活の部室(でっかいタワーまるまる1棟)
そして私はそのシャーレの担当顧問であり、キヴォトスで唯一の《先生》である
今日も今日とてきっとあるであろう書類の山に憂鬱な気持ちになりながらそばにあるタブレット端末を手に取った
"ほら起きて。朝だよ"
優しく声をかけながら液晶を数回タップする
側から見れば機械に声をかける異常者だが、これにはちゃんとした理由がある
『むにゃむにゃ…最近はぁ…いちごミルクも悪く無いかもって〜…はわわ!また寝坊してしまいました〜!』
"おはようアロナ"
『おはようございます先生!』
タブレットの中でてんやわんやしている少女は《アロナ》
私が持つタブレット端末のような何か《シッテムの箱》に搭載された高性能AIであり、優秀な私の秘書だ
ただ、アロナの声は私以外には聞こえないらしいので他の人がいる時はなるべく話しかけないようにしている(タブレットに向かって話しかける異常者と思われちゃうからね!)
"アロナ、今日の予定は?"
『本日は10時にシャーレに入部する方が来られます!』
"そっかそういえば今日だったね"
1週間前にできたばっかりのシャーレにはまだ部員がいない
私が希望する生徒を所属関係無しに際限なく加入させることができるシャーレではあるけれど
それをお構い無しにできるほどキヴォトスの生徒たちというものを知らないし
色々とあって4人ほど知り合ってはいるけれど4人とも所属する学園ではかなり重要な役職に就いたやんごとない人達なので勝手に加入させるのもあまり気乗りしない(厳密にはもう1人いるけど彼女はまた別の意味で凄い肩書きをもってる)
そのため今まで部員0でやっていたんだけど
それを見かねたアロナがつい2日前に加入させる生徒を完全ランダムで選んでくれたのだ(ソシャゲのガチャを引いてるみたいで楽しかった)
"これから来るのはどんな子だっけ?"
『も〜、シャーレの記念すべき1人目の部員なんですから忘れないでくださいよ〜。』
呆れたようなアロナの言葉にごめんごめんと平謝りしながら書類を確認する
ーーー
名前:刹那トワ
学園:トリニティ総合学園
学年:3
部活:なし
武器:HG
誕生日:4月7日
ーーー
使用武器が書かれていることに価値観の違いを感じるけれどそれは一旦おいといて
履歴書を読み進めていくと、写真が目に入った
そこには金色で目元を隠すほどの長髪の女の子が写っている
所謂メカクレという特徴ではあるが、このキヴォトスにはそういった子が一定数いるため意外と見慣れたものだ
ヘイローの形もただの円環なこともあって
はっきり言って特徴的な子が多いキヴォトスの中ではかなりありふれた子だろう
まあその子が個性的であろうとなかろうと大切な生徒の1人
先生として教え導くことはまだできないが力になろう
コンコンコン
おっともう時間かな
時計を確認すると9時50分
予定の時間の10分前
これで10分前行動をする真面目な子だというのがわかった
こうやって少しずつ彼女のことを知っていこう
"鍵はかかってないからそのまま入ってきて"
「失礼する」
ガチャリと音を立てて開かれるドア
出迎えのために目を向けた先に立っていた少女は私のイメージとかけ離れていた
170cm以上ある私とほぼ同じ身長
褐色の肌
ウルフカットの黒色の髪に惜しげもなく晒される深碧色の瞳
頭に浮かぶヘイローは2つの円環の一部が重なり合い
まるで∞のようになっている
写真の子とは全くの別人にしか見えない彼女を前に私は聞かざるを得なかった
"えっと……どちら様?"
「私は刹那トワ。これからシャーレの部員として世話になる者だ、よろしく頼む」
"トワって写真と全然違うね"
「ん?ああ、色々あったからな。入学時と比べればだいぶ様変わりした」
"へー、2年間でこんな変わるんだね"
「そうだな人は案外簡単に変われるんだと実感したよ」