お母さんの言葉に
わたしはうつむくばかりで、返事もしなかった
こうしてふり返ってみると、わたしたちの交友関係は奇妙の一言だったと思う
まず
背が高く瘦せていて、すこしだけ怒りっぽい赤髪のきれいな女の子
つぎに
こちらも背が高い、というより巨人
14歳にして身長200越えの神経質な黒髪の男の子
リンは怒ると真っ白な顔に髪と同じ色が浮かぶ
陽介はすこし鼻の穴が小さくなるだけ、激するのは苦手らしい
(リンに追い掛け回されて青くなってるのはよく見るけど……)
性格こそおおきく違うものの
どちらもずば抜けた才能の持ち主で
並外れた我慢強さ、過剰なまでの上昇志向を持っていて
お互いがお互いを高め合う友人 兼
さて、じゃあわたしはどうだろう
背は低い……これはいい。顔は、悪くない。リンはきれい系だから競合しない
小顔だし
あとは……あとはなんだろう、自堕落かな
間違いない、落ち込むけどそれがわたし、夜科ルミである。
神様みたいな友人に挟まれた哀れな可憐な子ウサギちゃん。
思うに、この似ているようで似ていないふたりの橋渡しがわたしの生まれ持った役目だったのかも
「……なーんて、本当のとこどーでもいいんだけどさぁ」
空が高い。
視界いっぱい痛いくらい青で、雲なんか一つもない
わが校の屋上は本日もサボりに最適!
「どーでもいいなら授業でとけよ」
と、寝転ぶわたしに無粋な声がひとつ。
噂をすれば影、最近声変りをして違和感ばりばりの洋介くんである
「もっとどーでもいいー、出なくても分かるよ今の範囲」
その程度のことはわたしでもおちゃのこさいさいだ
まったく無問題。
「おまえな、後で自分が困るんだぞそういうの」
こうるさい男だ。先生みたい
これはお説教はじまるかな、と身構えていると
しかし意外にも彼はため息をついて一枚の紙を寄越しただけだった
「進路希望のプリント、確かに渡したからな」
提出期限守れよ、なんて言って、やさしい巨人は来た道を戻っていった
しかし
「進路希望か」
口の中で言葉を転がしてみると改めてげんなりする
将来の夢とか、未来への希望とか、そういうキラキラしたものは苦手だ
今の時代、将来の夢ランキングでいえば満場一致で『ヒーロー』だけど……
『ヒーロー』
かつて誰もが空想し憧れたそれは確かに存在している
世界総人口の約八割が何らかの"特異体質"である超人社会となった現代において
キラキラしてるけどそれだけ、それが夜科ルミの彼らに対する感想だった
だって、じゃあ地球温暖化ってどうなったの?
食糧問題は?
石油が枯渇するとかなんとか
戦争している国があるよ、それはいいの?
日本は巻き込まれない?本当に?
人と人が殺し合って、じゃあそのとき『ヒーロー』はどっちにつくの?
テレビもSNSも不安ばかり煽る。
ヒーローが相手にしているのは敵だから、全部ぶつけるのはお門違いなんだけど
じゃあ敵はどこから、なんで出てくるの?
考えすぎ、あるいは考えなさすぎ、悪い癖だ
だからわたしは、なににも憧れられないでいる……
ぼんやりとした、あるいは暗澹たる気持ちで帰路につく。
いつの間にか日も落ちそうで、住宅街の狭い道に街灯がちらほら点いていた
「あーあ、洋介に希望進路聞いとけばよかった、どうせリンと同じだろうし」
神様みたいなふたり。わたしの特別な友人。ふたりについていけば間違いなくて
その先ならなんの不満もなくて
わたしは金魚のふんでで十分満足だった
―――今日このときまでは
ドンッ
「あ、すいません」
ぼーっと歩いていたせいか、向かいから歩いてきた人とぶつかってしまった
謝るときは相手の目をちゃんと見なさい!
そう、教えられていたから、わたしは みた
渇いた手の/千切れかけた腕の
曲がった腰の/裂けた背中の
顔のはんぶんなくなった
お爺さん/死体
ぶつかった肩に嫌な感触を覚える
ねっとりと、糸を引く、気持ちの悪い赤
風船が弾けたような、音がした
何が起きたか分からなくて、頭の中はぐちゃぐちゃで
だから咄嗟にうずくまって"それ"を避けたのは奇跡でしかなかった。
瞬間、お爺さんの、かろうじて原形をとどめていた遺体が弾ける
見えない巨人に殴り飛ばされたみたいに跡形もなく吹き飛ぶ
見れば"それ"の通り道はアスファルトもめくれていて
車も、電柱も、そして人も、ぜんぶぐちゃぐちゃになっていた。
「おっと、失礼、お嬢ちゃん、顔も見ずに殺すところだった」
「ぼくは烈波のブラスト、よろしくね」
アロハシャツにドレッドヘア
その破壊の爪痕の先で、軽薄そうな男が軽薄な
これまで経験したことのないほど
これは夜科ルミの
わたしがヒーローを目指すおはなし
だからネタバレ、ここでわたしは死ななかった
PSYREN要素まだ先かも……