本名
個性 つむじ風
こどもの時分、毎日のように親父に殴られていた
ゴミ捨て場に半死半生で投げ捨てられて、団地中大騒ぎになったこともあったな
……暴力に理由はない
イラついてるとき、雑魚が足元うろちょろしてたら蹴るだろ
だから俺は別に親父を恨んじゃいない
ただ酷くうらやましいと思った
蹴りたいときに蹴れることが
殴りたいときに殴れることが
殺したいときに殺せることが
お袋が殺された時でさえそう思った、心の底からだ
俺の憧れ
まぁ、その夢もすぐに覚めちまったが
人が死ぬと警察も動くよな、ガキが親にボコられてるって通報程度なら流せても、流石にな
あっという間に証拠を揃えられて、制圧、確保
みっともねぇったらなかった
いい歳こいてガキみたいに泣きじゃくって警察に謝っててよ
俺はもっとうまくやる
俺ならもっと暴れられる
もっと自由気ままに生きて見せる
同級いじめるのが山のちっぽけな個性だけどよ
俺は強くそう思ったなぁ
「それが俺の
足元のボロクズを蹴り飛ばしながら、いつの間にか思い出話に花を咲かせていた。
「……ァ、ガッ」
ボロクズが返事をする、気分がいい
とはいえ潮時か、最低限やることはやったわけだしな
……一撃目で目撃者も含め通りの人間全員殺すつもりだった
"三回"俺の必殺が中学かそこらのガキに避けられた
正直焦った、稀にいる"当たり"引いたガキかもってな
決死の表情で手のひら向けられたときは死んだとさえ思った
ま、特になにも出てこなかったが
「わかるぜ、人間不調ってあるよな、悔しいよな、ワンチャンあったかもって」
「安心しろよ、どのみち何もできなかったさ、縮みあがってただろ?膝ガクガクで」
また蹴り飛ばす。軽くだ、ループシュートを決めるくらい丁寧に
これは蹴り殺すとして
あと一撃がせいぜいか、警察はともかくヒーロー相手は面倒くさい
「ぃち……しぉ……」
存外にしぶといガキだった
健気に返事を返すそれを渾身の力で蹴りぬく
ベキッ
こ気味良い音が、住宅街をこだまする。靴先からは確かな感触
蹴り上げられたボロクズは空中で半回転舞って、折れた電柱に当たるとそのまま力なく落ちた
もう何も言わない
ピクリとも動かなかった
「依頼完了かな、さようなら、お嬢さん」
いつになく気分が良かった
いま、この場でボクを止められるものはなにひとつない
ボクが一番強くて、一番自由だ!
「一人称、安定しないんですね」
いやにはっきりとした声だった
震えている、恐怖を押し殺した声
前方から聞こえた
先にはめくれたアスファルト、壊れた塀、燃え上がる車の残骸、怯えながら顔を出してしまったアホの野次馬、死体、死体、死体
……死体にしか見えないボロクズ
こぶしを握り締める 冷静に
手のひらに"つむじ風"80%で発動 努めて
握りこんだ拳の中で風が荒れ狂い皮をはがしていく 冷静に
出力先を絞って、中指を立てた先にぶっ放す 目撃者は全員殺す
風刃烈波
拳から凝縮したつむじ風の塊が飛び出る
もはやつむじ風なんて生易しいものではない、殺意の乗った暴風、暴力の権化
風船が割れたような音が鳴る。心地よい俺だけの死の音
目の前の全部、巻き上げてぐちゃぐちゃに混ぜていく
アスファルトも、塀も、車も、死体も
全部が混ざって、跡形もなく、消し飛ばして
「……消し飛ばない?」
景色が変わらない。
同じ惨状、同じ野次馬、同じ死体
「現行犯だ、クソ野郎」
―――違う声
男の声が聞こえた次の瞬間、強い衝撃が横腹を襲い、俺の視界は真っ暗になった