※キャプション必読
最近、組織で幹部として名を上げた男がいる。加入して数ヶ月でそれほど有能さを見せつけた彼について、僕は情報屋・バーボンとして情報をいち早く掴んでいた。
本名は不明、本人はハイエナと名乗っていて、出身はサバンナの小国のスラムで、それにより守銭奴だという噂が流れていた。主な仕事は任務の後処理・証拠隠滅で、この組織には貴重な人材だ。ただ、公安警察としては非常に厄介な相手である。
いざ、対面した彼は予想よりも幼い見た目をしていた。
ビスケットブラウンの癖毛にブルーグレーの大きなタレ目、特徴だけでいうと僕に少し似ている気がする。身長はあまり高くはないが、かといってすごく小柄なわけではなさそうだ。
話し口調は崩れた敬語だが、スラム出身だという噂からは考えられないほどの頭の回転の速さと知識が豊富であることが伺えた。
問題は、彼じゃなかった。ハイエナが最近護衛としてガタイのいい男を連れていることは情報として知っていた。だが、その男が何よりも問題だった。
数日前、僕の表の顔である安室透が働く喫茶ポアロに来店した青年のうちの1人だったのだ。
確か名前はジャック・ハウル、今はオオカミと名乗っていた。だが、彼は現在NRC生で、特待生でもあるようだし、注目されている陸上選手のはずだ。そんな彼がどうかハイエナと知り合ったのだろうか。真面目そうな彼がまさかこんな裏社会にいるとは思いもしなかった。
彼も僕を覚えていたらしく、目が合うと会釈をしていた。やはり、感じのいい青年だ。
ハイエナ…基、クレイモアはオオカミについてこう語っていた。
「オレは非力ッスからね、舐めてかかる輩が多いんスよね〜。それでどっかにいい護衛がいないかと思って探してたら、あ〜らびっくり‼︎後輩がたまたま日本にいたんスよ。で、じゃ…オオカミ君に手伝ってもらうことになったッス。あ、ちなみにオレのことが下っ端に知れ渡るまで、まぁ1年の契約なんで関わらなくていいッスよ」
「先輩が非力なのは見た目だけじゃないっすか。骨まで噛み砕いて食べる人に言われたくねぇ」
後輩、ということは彼もNRCの卒業生なのだろうか。あそこまで親しげなら特待生だった可能性もある。…調べてみる価値はありそうだ。
それにしてもやはり、“ヴィラン養成学校”NRCにはなにかがある。
一通り幹部への顔合わせが終わると、幹部たちの間で雑談が始まった。新たな幹部の情報を得るにはうってつけの場だ。
「先輩」
「ん?どうしたッスか?」
「そろそろ帰ってもいいっすか。ゆ…監督生から連絡があって」
「了解ッス。監督生君によろしくッス」
「うす」
監督生…工藤優一のことだろうか?恐らく、彼にはこの仕事を伝えていないのだろう。優一君は、未来の公安の協力者である新一君の実兄でこの組織のことも、新一君の現状も知っている人物だ。随分と新一君を可愛がっていたようだし、関わってみても“ヴィラン養成学校”と噂されるNRC生なのかと疑うほどに“いい子”だった。
そんな彼が、友人が短期間だとはいえこの組織に関わることを良しとするだろうか。いいや、しないだろう。もちろん、これは1週間ほど関わっただけの僕の推測であるし、彼が周りの人間達相手に猫を被っている可能性もゼロではないが。
まったく…外部の情報屋の【ダイヤモンド】のことも調べなければいけないというのに、すべきことがまた一つ増えてしまった。
ラギー・ブッチには前世の記憶がある。決して慣れない王宮での生活で頭がおかしくなったわけではない。事実であるので。
魔法がある世界で生まれ、死んだ彼は前世の仲間達とかつての学舎で再会し、かつて自分が王と認めた男の実家に就職した。慣れない王宮での仕事は、優秀なラギーからするとそう難しくはなかったものの、スラム出身の自分を疎ましく思ったり蔑む者も多く、ある程度実力を認められるまで1年を要した。
ようやっと息がしやすくなったと思えば、スラム改善事業に精を出している自分の王から、監督生が話していた組織に潜入するよう命令された。ムカついたラギーは、ちょうど後輩が友人たちと来日することを小耳に挟んだため、王にそれを告げ自分の補佐にするよう誘導した。
その後輩も、ちょうど監督生が組織壊滅をかつての知り合い…現在の特待生仲間達に頼んでいたため、二つ返事で了承してくれた。
それにしても、とラギーは考える。
(相変わらずのトラブルメイカーっぷりッスねぇ、ユウ君は。あれはもう逆に自分から生み出してるって言われても納得しちゃいそー、なんて)
かつての級友達と比べても遜色ないほどキャラの濃い組織の幹部達が雑談するのを尻目に、ラギーはそんなことを考えていた。
深掘りされるとボロを出しかねないジャックは帰したし、あとは自分が上手くやればいいだけのことである。
こちらに鋭い視線を送ってくるバーボン…監督生から聞いた話だと公安警察の降谷零というらしい…をちらりと見ながら、どう立ち回るべきかとラギーは思考を飛ばした。
ジャック・ハウルには(以下略)。
魔法がある世界で生まれ、死んだ彼は前世の仲間達とかつての学舎で再会し、今。四年生になり、すでに将来が決まっている彼は前世の友人達と話だけは聞いていた日本に来ていた。
世界的に見ても比較的治安がいいらしいこの国は、監督生…ユウが言うには、前世で存在した漫画の舞台らしい。ユウの地元である米花町や隣町の杯戸町は日本のヨハネスブルクと称されるほど治安が悪く、殺人事件や強盗、はたまた爆弾事件までもが日常茶飯事なんだとか。しかも殺人の動機も薄いことが多いらしい。ただ、厄介なのは米花町住民は何故か殺人事件のためにトリックを用意しているとか。ジャックは、そんな暇があるなら他のことをすべきだと思ったが口には出さなかった。
さて、彼は今日裏社会の人間になった。生まれ変わりブラコンへとシフトチェンジした監督生から組織壊滅を手伝ってくれとの頼みを受けたこと、そして尊敬する先輩が潜入するから手伝え、とかつての王に依頼されたからだ。
潜入する先輩の護衛をしていればいいと聞いたので、友人思いの彼は二つ返事で了承した。1年間のみで、人を殺すこともなく、もし何かの間違いで逮捕されたとしても王の国から日本の公安に、ジャックは依頼を受けた諜報員だと話が行っているので問題ない。こんな好条件で組織の情報を得られるなら、と考えたからだ。
友人達にそれを話すと、少し心配そうな顔をされたが止めることはなかった。人を殺すなよ、と念は押されたがそれは単にジャックの将来を考えてのことだとわかったため、やはりNRC生だと笑った。
いざ、仕事を始めてみると大して難しいことはなかった。血の匂いがこびりついた現場では、前世から継いだ鼻の良さこそ恨んだものの、それ以外自分がすることなどなく楽な仕事だとのんびりと思っただけだった。
数日経ってみても、外見だけはそう強く見えなさそうな先輩をやっかんでいちゃもんつけてくる輩をどうにかするだけで、そう大したことはなかった。
先輩がクレイモアというコードネームをもらい、幹部達の集会へと誘われたためジャックもそれについていった。
そこにいたのはジンやベルモットなどの主要な幹部達だった。監督生から聞いた各国の諜報機関の捜査官達もいた。捜査官が数人も幹部であることに気付いた彼は、この組織大丈夫かと嘲笑した。さすがヴィランである。
幹部達への紹介が終わり、雑談が始まった頃。先輩からアイコンタクトで帰れと言われたため、他の幹部に聞こえるように言い訳をしてジャックは帰ることにした。
ふとスマホを見てみると、監督生からメールで、『デザートに洋梨タルトを作ってみたから早く帰って来いよ』と連絡があり、口には出さなかったものの内心ウッキウキである。恐らく前世なら尻尾をブンブンと振っていたはずだ。人間で良かったとジャックは笑った。
帰りながらふと、表の顔であるカフェ店員として本名で会ってしまったバーボン…基、降谷零のことを考えていた。これからもポアロには行くつもりであったが、彼がいると探りを入れられそうで大変めんどくさい。それに、自分だけでなく友人達まで警戒されているかも知れないと思うと少し気が重くなった。まぁ、あの友人達なら、「反対にしょっちゅう行って怪しい行動しまくろうよ」と言いかねないが。
ジャックは、なるようになるかと思考を中断して、家で待つタルトに思いを馳せた。
ケイト・ダイヤモンドは情報屋である。かつてからの後輩がご執心の、通称・黒の組織にも度々情報を売ることもある、言わば凄腕の情報屋だ。
彼の本業はインフルエンサーで、SNSでの総フォロワー数は300万人を超える程だ。
本人の優れたルックスと話術のうまさ、謎に包まれたNRCという名門大学の生徒(だった)、そして英語やフランス語、日本語や韓国語、中国語まで幅広い言語を、現地人も認めるほど上手く話すことが彼の人気の秘訣だ。
まぁ語学に関しては、記憶を持ったNRC生全員が翻訳魔法を使えるからというタネはあるが、誰も魔法なんて知らないのだから問題ないのである。
彼が莫大な情報を持つ秘密も魔法にある。ユニーク魔法である“舞い散る手札”を使い、かつ目立たないよう変装をして情報を得る。つくづく便利なユニーク魔法だ。
単なる小遣い稼ぎとして始めた情報屋だが、万一にもケイトには行きつかないよう細工はしているので問題ない。もし突き止められてもこちらには魔法があるのだ。
知り合いのブローカーからのメールを読み、ユニーク魔法を発動する。
「オレはコイツで、コイツはアイツ。“[[rb:舞い散る手札>スプリット・カード ]]”。…さて、かわいい後輩ちゃん達のために、オレも頑張っちゃおっかな〜」
アズール・アーシェングロットはイタリアンマフィアの[[rb:首領> ドン]]である。
元は彼の前世からの幼馴染である双子の実家だったそれを、NRCを卒業してすぐに双子達と乗っ取った。もちろんポッと出の彼がすんなりと認められる訳がなく、周囲を実力で黙らせるまでに1年を費やした。
もちろん、学生時代から彼が経営しているモストロ・ラウンジの規模拡大にも余念はなく、四年生の頃から営業を始め今や全世界80店舗にまで広めた。
やっと周囲が落ち着いたことで彼は新たな商売相手として黒の組織に目をつけた。
世界的なシンジゲートである彼らの弱みを握れたらどれだけの利益を得られるか。
黒の組織、そしてモストロ・ラウンジの規模拡大のため、彼らは急遽日本へ行くことを決めた。もちろん、それだけではない。現在は世界的な推理作家と有名女優の息子として生まれた前世からの後輩、彼の頼みを聞いたからだ。後輩思い?いいや違う。アズールにあるのは全て打算である。
かつてモストロ・ラウンジでアルバイトをしていた彼の有能さを1番理解していると自負するアズールが、彼と有利な“契約”を結べる機会を逃すはずがない。彼と契約してどれだけ働いて貰おうかと考えるアズールの頭には、黒の組織を相手取ることへの恐怖などなかった。なぜなら彼は、魔法士であるから。
魔法士が怖がるのは魔法士だけだ。生まれ変わり、なぜか魔法が使えるようになった監督生の方がよっぽど恐怖を覚える。なんせ魔法が使えないにも関わらず、彼の代のNRCには、『監督生だけは怒らせるな』という暗黙の了解ができるほどの実力者だったのだから。
自分に有利且つ監督生に穴を突かれない契約を考えるため、彼はその優秀な頭脳をフル稼働させていた。だが、ふと立ち上がると側に控えていた双子に言った。
「お前達、準備なさい。今すぐ出発しますよ、日本へ」
「「はい/はぁ〜い」」