梵天主と米花町   作:よたか

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間宮塔矢という男

 

 

 

昔、俺の世界には色がなかった。本当に色を感じ取れなかったわけではなく、比喩表現だ。

 

 

 

俺はシングルマザーの母親と2人で生活していた。とはいえ母親は仕事人間でほとんど帰って来なかったので実質1人だったが。まぁ、それなりの金は置いていてくれたため別に文句はない。

 

たぶん、俺は物心ついた時から何かが他人とは違かった。

学生時代に知ったが、おそらく俺は共感能力が極端に低いんだろう。極端な話、人を殺しても罪悪感を感じないような人間だということだ。

 

自分が異常だと早い段階で気付いていた。当時1人の時間が多かった俺は図書館に通い、人間の心理に関する本を読み漁った。別に、心理学の本だけではない。当時4歳だった俺が読んでいてもおかしくないような絵本や児童書なんかも読んで、人間はこの時にはこういう行動をするんだと学んだ。

結果、小学校に入学する頃には年相応の擬態ができるようになっていた。

 

 

万次郎と出会ったのはこの頃だったか。

 

俺が夜遅くまで1人で過ごしているというのは近所ではそれなりに有名な話で、見かねた万作先生が俺を空手道場に誘ったのだ。母親は快諾し、母親が帰ってくるまで毎日のように道場で過ごすことになった。

空手を始めてみると案外才能があったらしくすぐに上級生とも渡り合えるくらいに成長した。上級生に混じっていたのは俺と場地、そして万次郎だった。

 

万次郎の組み手を初めて見た時、なんとなくその目に心を惹かれた。それから他の人間に比べて少しだけ万次郎に興味が湧いていたのかもしれない。

 

数年経ち、俺の幼馴染はエマと万次郎、場地。そして真一郎くん経由で知り合った春千夜と千壽に増えた。春千夜とエマは比較的他3人に比べて大人しかったので俺もこの2人と過ごすことが多かった気がする。この頃には、佐野家で過ごす時間が母親といる時間よりも長いと感じていたと思う。

 

俺が万次郎に魅せられたのはこれくらいの時だった。

上級生になってクラブ活動が始まり、いつもより遅く道場に行くと、万次郎が春千夜の口を裂いていた。泣きながら笑う春千夜とどこかおかしい万次郎。いつもなら真っ先に止めに入るはずだが、なぜか動けなかった。

 

 

 

 

 

 

どこかおかしい万次郎を見て、俺はその黒に魅せられた。その黒に、恋をした。

 

 

 

 

 

 

気付いたら真一郎くんがいて、救急車が来ていた。

その日から俺は、本格的に万次郎が気になり始めた。

 

 

もう一度あの黒が見たい一心で、常に万次郎の側にいることにした。その結果、初対面から苦手だと思ったドラケンやパーとぺー、場地が連れてきた一虎とも一緒にいることになったが、あの黒を見るためなら厭わなかった。

 

 

 

 

 

 

再びあの黒に近しいものを見たのは中3の夏だった。残念ながら万次郎のではなかったが。

 

真一郎くんと店の奥で話していると、ガシャンと音が聞こえた。不審に思って真一郎くんと見てみると、一虎と場地がいた。

 

盗みかバレたことで半狂乱になった一虎が場地の制止も聞かずに真一郎くんと俺を殺そうと工具片手に殴りかかってきた。

その時の一虎に、万次郎の黒に近しいものを感じた。そのせいで反応が遅れ、殴られる直前に真一郎くんを引っ張り急所を外すことしかできなかった。別に問題ないが。

 

結局一虎は黒に染まったまま警察に連れて行かれ、真一郎くんは目が覚める3年後まで入院することになった。

 

その時から、一虎は俺のお気に入りになった。万次郎の黒に比べると足りないが、好ましかった。

 

 

 

 

天敵とも呼べる花垣と出会ったのはその2年後、俺が高2の時だ。

参番隊の隊員が喧嘩賭博とやらを開いているということで俺と万次郎とドラケンの3人で見に行ったのだ。行ってみるとそこにはボロボロで立っている花垣と、キヨマサとかいう首謀者。すぐさまキヨマサはドラケンによりのされ、万次郎が花垣に話しかけていた。普段なら万次郎の側で俺も話しかけていたがその時ばかりは無理だった。

 

たまにドラケン達にも感じる眩しさが、花垣からは何倍にも感じられた。万次郎の黒とは真逆の色。その時感じた不快感は、未だ忘れられない。

 

かつての真一郎くんに似ているという理由で花垣を気に入った万次郎は、その後ことあるごとにタケミっち、タケミっちと呼び、連れ回すようになった。

 

決定的になったのは8.3抗争の頃だったか。

色々あって愛美愛主との抗争で、ドラケンをキヨマサが刺した。俺としてはナイスとしか言いようがなかったしそのまま死んでくれてもよかったが、花垣が奮闘したせいで無事生き残ってしまった。あの後から、万次郎がより一層花垣を気に入った。

 

万次郎が花垣を連れ回すせいで近寄り難くなり、少し離れていた矢先、俺にとって嬉しいことがあった。

一虎が出所して芭流覇羅という族のNo.3になっていたのだ。久しぶりに会った相変わらず万次郎を恨んでいるのか、黒く染まっていて、見ていて楽しかった。

 

血のハロウィンの時には数年ぶりに万次郎の、あの愛おしい黒が見れて俺としては大興奮だった。

 

 

 

 

が、それを邪魔したのも、やはり花垣だった。

場地を刺した一虎を、あの黒を纏って殴り殺そうとする万次郎を必死に止めやがったのだ。確かに一虎が死ぬのは嫌なので途中で止めようとは思っていたが、もっとあの衝動を見ていたかった。花垣が万次郎を止めてしまったので、仕方なく少し前に自殺しようとしたバカを押さえつける手を強め、タスキで止血を再開したのだった。

 

 

 

 

関東事変の時、エマと俺、花垣の3人で歩いていると稀咲がバイクでバット片手に突っ込んできた。花垣は自分が狙われていると思ったのか避けていたが、本当の狙いはエマだった。咄嗟に片手に持ってきたヘルメットを被せたことで頭へのダメージは軽減されただろうが、結局その後1年間目を覚ますことはなかった。

 

病院で、俺と万次郎、ドラケンの3人でエマの目が覚めるのを、お通夜みたいな雰囲気で待っているとヒナちゃんが現れた。

その時ヒナちゃんが話していたのは、花垣はヒナちゃんが死ぬ運命を変えるためにタイムリープしてきたということ。

 

そんなの、ずるいだろ。アイツがこれまで邪魔してきたのは全て、未来から来てなにが起こるかを知っていたからということ。そんなのってないだろ。

 

ヒナちゃんの言葉で奮起した2人と共に、天竺との抗争へ向かい、結果的には勝利した。途中、稀咲が銃を出してきた挙句鶴蝶とイザナの野郎を撃ったりしたが、最終的に死んだのは稀咲だけだった。

 

 

それから、東卍が解散して、万次郎がイザナ達と一緒に姿を消して、すぐに真一郎くんが目を覚ました。万作先生はそれで少し持ち直したようだ。

 

目を覚ました真一郎くんに万次郎が消えたことを話すと、発狂したようになっていた。

理由を聞くと、真一郎くんはポツポツと話し始めた。

 

驚いた、まさか真一郎くんもタイムリープしていたとは。

 

つまり、万次郎のあの衝動は、真一郎くんが老人を殺してタイムリープしたからという事だろ?

真一郎くんには悟られないようにしたが、興奮した。本当に、感謝した。

真一郎くんのおかげで俺の世界は色を知ったんだ。

 

タイムリープの事を他に誰に話したのか聞いたら、トリガーとなって“前”の記憶を持つ春千夜と今牛さん達元黒龍の信頼できる人間だけだという。

 

万次郎が消えて連絡を取らないようにしていた春千夜に、興奮が冷めないまま連絡を取り、数ヶ月ぶりに会った。

 

久しぶりに会った春千夜は、何か心境の変化でもあったのか真一郎くんを真兄と呼ばなくなっていたし俺にも敬語になっていたが、万次郎の話になると饒舌で、俺と同じくあの衝動を持つ万次郎に心酔してついていったことが伺えた。

 

そして、俺は合法的に万次郎のそばにいるため、警察、いや公安に入ることを決めた。その時には東都大学の教育学部への進学はほとんど決まっていたが、進路が警察ならなんの問題もなかった。

 

 

 

春千夜と連絡を取りながら度々ドラケン達にも会うような比較的平和な日常を過ごし、大学を卒業した。そしてすぐに警察学校に入った。主席、次席は逃したものの好成績で入学し、鬼塚教場の伊達班に入った。

 

似てないはずなのに、かつてのドラケン達と重なる奴らが同じ班で、正直そんなに得意ではなかったが、最終的には仲良くなれた、と思う。

 

卒業後俺、そして降谷は成績を見込まれて警察庁警備局に異例の配属をされた。が、特に顔を合わせることはなく、あっちは俺を公安だと知らなかったようだ。

すぐに上司から潜入捜査をしろとの言葉を受けて、求めていた梵天へ潜入することになった。

 

春千夜へはすぐに連絡した。もちろん、上司にはバレないように。春千夜も喜んでいたし、手引きをしようかと聞かれたが上司に怪しまれないために自力で入ることにした。春千夜には俺が公安であることを誰にも言わないよう口止めをしておいた。

 

計画通り数ヶ月で梵天に潜入することができた。潜入捜査だということを知らしめるために梵天にとって当たり障りない情報は上司に流していたが、上司と連絡係からの連絡が途絶え、その必要もなくなった。

 

しかし万が一にも俺が裏切ったと思われても困るため、取引先にいた降谷と諸伏に情報を横流しさせていた。まぁ、意味なんてなかったが。

 

 

梵天に入り優秀なハッカーがいないということで俺がスカウトすることになった。俺が目をつけたのは樫村という男だった。彼の妻と息子が日本の教育が合わないという理由で渡米したが妻は死に、息子のヒロキがトマス・シンドラーとやらに厳しい監視生活を強いられていることを突き止めた俺は、日本の教育を改革することを夢見る教師として彼に近づき、ヒロキの身柄と安全を対価に彼を得た。まぁ、ヒロキも手伝ってくれているみたいだが。

 

 

 

 

梵天に入り久しぶりに会った万次郎は記憶より痩せて、ひどいクマができていた。こんなんじゃ、あの衝動に呑まれても思うように動けるはずがない。

俺は万次郎健康作戦を実行することにした。おかげで最近はそれなりに健康だ。

 

そう、健康になったんだ。日々衝動と格闘している万次郎を見ながら、表の職業として教師をし、忙しさで死にそうになるこの日常は、俺にとって最高だった。

 

 

最高、だったんだ。

 

 

 

万次郎が俺を色を見せてくれた。万次郎だけだったあんなに強い色を見せてくれたのは。

 

衝動に呑まれる前に死なないよう、細心の注意を払っていただろ。なのに、なのに‼︎

 

 

 

なんで、死んだ?それも、花垣と‼︎‼︎‼︎

相反する色の男となぜ‼︎

 

 

あぁ、不愉快だ。

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