「じゅ、銃声!?」
「メールで言ってた武装集団ってあれのこと?」
「は、はい! あれがカタカタヘルメット団、アビドスを襲撃する武装集団です!」
「! あいつら、また性懲りもなく……!」
見たところ、20人以上はいるだろうか。どうやらこちらの物資がほとんど尽きていることは向こうにもばれているようで、こちらへ見せつけるように銃を乱射している。
ガタッと荒っぽい音を立てて教室の戸を開け、セリカが戻ってきた。片手で誰かを引っ張ってきたようだ。小柄な体に不釣り合いなほど長いピンク色の髪をした彼女が、「ホシノ」というらしい。
「ホシノ先輩連れてきたよ! ほら先輩! 寝ぼけてないでさっさと起きて!」
「むにゃ……まだ起きる時間じゃないよー」
かなりマイペースな性格らしい。
「ホシノ先輩! ヘルメット団が再び襲撃を! こちらの方はシャーレの先生です」
「ありゃ~そりゃ大変だね……あ、その人がシャーレの先生? よろしくー、むにゃ」
「先輩、しっかりして! 出動だよ! 装備持って! 学校を守らないと!」
ホシノ本人は未だ寝ぼけているようで、猫耳の少女がまるで介護でもするかのように、ショットガンやら盾やらを持たせている。
「いつもこんな感じなの?」
「そうですね……だいたいこんな感じです。でもいざ戦闘となると本当に強いんですよ。アビドスはともかく、もしかするとほかの学校と比べても上位に入るんじゃないかと思うくらいです」
そんなアヤネの言葉を聞きつつ、戦闘の準備を着々と進める四人へと視線を向ける。シロコとセリカはライフルを使うようで、弾倉に弾丸を詰めつつ手榴弾や予備弾倉を手早く身に着けていく。ホシノは先ほど見た通りショットガン。ノノミはどうやらミニガンを扱うようだ。たしかに、弾をばら撒いて広域制圧するようなコンセプトの重機関銃は、財布に優しくないだろう。しかし、各種弾薬や手榴弾なんかの物資は、私が必要分を確保できるから問題ない。
「先生が来てくれて本当に助かった。この間の襲撃の時なんて弾薬がカツカツだったからノノミは前線に出てこれないし、私もセリカもすごく慎重に狙わなきゃいけなかった」
「それは大変だね……でも安心して、私がいる限り弾丸不足なんか起こさせないからね」
「本当に助かるわ、先生。これで何の気兼ねもなくあいつらをぶちのめせるんだから!」
勢いよくコッキングレバーを操作して弾丸を装填するセリカからは、ため込んだ鬱憤がひしひしと感じられる。
「よーし。景気づけってわけじゃないけど、思いっきりやっちゃおうかー」
ホシノもショットガンのポンプを操作して弾丸を装填。第一印象ではおっとりして暢気な少女という感じだったが、こうして武器を手にしているのを見るとやはり手馴れているのがわかる。
「よし、それじゃあ私が戦闘の指揮を執るよ。みんなに無線を渡しておくから、一応回線は常に開いておいてね」
「ん、わかった」
「オペレーターは私、奥空が勤めさせていただきます。先生、気を付けてくださいね」
「了解、もちろん気を付けるよ。よろしくね」
そうしてシロコ達を先頭に、セリカ、ノノミ、ホシノの四人が校舎の外に打って出る。校庭には、窓の外から見た通り20人くらいのヘルメットをかぶった少女が銃を構えていた。
「なんだぁ? アビドスの皆さんじゃねぇか! もしかして校舎を引き渡してくれる気になったのか?」
赤いヘルメットをかぶったリーダー役の少女が威勢よく挑発するのに、シロコ達はあまり動揺していない。
「寝言は寝てから言って。私たちの校舎は渡さない」
「そうよ! あんたたちなんかに負けるほど私たちが弱いはずないじゃない!」
それどころか、なんとなく不敵な笑みまで浮かべてヘルメット団を挑発しかえしている。その言葉がリーダー役の癪に障ったのか、ヘルメット団側の攻撃から戦闘は始まった。
「アロナ、補佐をお願い」
〚あーい、了解。戦術指揮の補佐を開始。先生、よろしくね〛
アロナがシッテムの箱を本格的に起動させると、タブレットの画面にアビドス高校の校庭の鳥観図が映し出され、その上にシロコ達とヘルメット団のアイコンが並ぶ。シロコ達のアイコンには、銃に装填された弾丸の数と、予備弾倉を含めた全弾丸数が表示されている。
「……うん、やっぱりアロナはすごいね。かなりあやふやな説明しちゃったと思ってたんだけどな」
改めてみると、素晴らしいものだ。今シッテムの箱に映し出されているのは、私が戦術指揮のたびに頭の中で思い描いているイメージと全く相違ない。違うことといえば、弾丸の数まで把握できるのがなおさら指揮の精度を上げてくれる。
「それじゃあノノミ、君はバリケードがない少し開けたところで陽動を。ホシノはノノミを守りつつジワジワ前進して。シロコは二人がヘルメット団の注意を引き付けている間にリーダーの子に接近。セリカはシロコの後ろで援護射撃をして」
「了解です! いっきますよー♧」
「りょーかいだよ。ノノミちゃんはおじさんが守るからね」
ホシノがショットガンと盾を構え、派手に連射しながらヘルメット団のど真ん中につっこんでいく。その後ろにはミニガンを携えたノノミ。これだけでも十分脅威になるだろう。
「うわぁっ!? アイツヤバいぞ! 早くやっちまえ!」
「盾なんか持ちやがって! ずるいぞ!」
「普通の子が盾なんて持ったってもて余すだけだよ~? おじさんはいっぱい練習してやっと使えてるだけだもん」
思惑通り、ほぼ全員の注意がホシノとノノミに向いた。無線越しにホシノの盾が弾丸を弾く甲高い金属音と、ショットガンの爆発力のある発砲音、その上に秒間30発強という発射レートを誇るミニガンの帯のような銃声が耳をつんざかんばかりに聞こえてくる。これ以上無線の音量を上げたら鼓膜が破れてしまいそうだが、そこは自分で立案した作戦だし、無線の回線を常に開けておけといったのも自分だ。しょうがない。
ホシノとノノミを囮にした理由はいくつかある。一つは、ただでさえ耐久力が高いというホシノが盾を持ち、広い攻撃範囲と高い威力を持つノノミのタンク役となることで、ヘルメット団側にとっての「脅威」にして「優先目標」になってもらうこと。もう一つは……
『先生の言った通り。ホシノ先輩とノノミの銃の発射音のおかげで私たちの射撃音が殆ど聞こえてないみたい』
『これならいけそう! それに今までの戦闘よりずっと戦いやすいわ!』
そう。シロコとセリカという隠密役を更に隠すためのブラインド目隠しだ。アビドスの校庭はその環境上砂煙が立ちやすく、ヘルメット団の少女たちが慌ただしく動いたり、さらにいえばミニガンで一斉射をしたり、それだけでちょっとした煙幕でも焚いたかのように砂が巻き上がる。そうして視界が悪くなったら次に頼る感覚は何か? それは聴覚だ。視界に焼き付けた脅威を、視界が失われた後でも否応なく意識させてしまえばいい。
『そういえばだけど先生、しっかり遮蔽物に隠れてる?』
「ん? 念のためにね。流れ弾とか来たら危ないし」
『オーケー。でも気を付けてね? もしかしたら先生を直接狙うやつとかいるかもしれないからさ~』
「それもそうだね……」
まあ、多分ないと思うけどね。
ヘルメット団側にしてみれば、弾薬がほとんどない相手なら短期決戦で終わると考えていただろう。それが私というイレギュラーな存在が突如アビドスにやってきたことで、彼女らの知らないうちにその前提はひっくり返ってしまっていたのだ。気づけば銃声もほとんどなくなり、砂煙も晴れる頃には、ヘルメット団の少女たちがおでこを押さえて転がっているのが見えた。セリカがしぶとく立っていた1人の肩を極めているが、あの様子なら振りほどかれることもないだろう。
「いや~、ホントに勝っちゃうなんてねぇ。おじさんびっくりしちゃったよ」
「はい! 思いっきり勝っちゃいました!」」
ノノミとホシノの方へ歩いていくと、二人が手を振ってこちらに声をかけてきてくれた。
「まだ全員逃げてないから警戒は解けないけどね。それにしても皆、本当に強いんだね。あっという間に片づけちゃった」
「そもそも個人の戦力で言えば私たちのほうがずっと上。それ込みでも先生の指揮があると私たちだけの時とは全然違った」
「そうね、本当に正確でびっくりしちゃったわ。そういう仕事をしたことがあるんじゃないかってくらいだったわね」
あながち間違いではないけどね。
校内から支援用のドローンを操作するアヤネに増援の有無を聞いてみると、今のところ有視界内では確認されていないと返ってきた。戦闘自体ものの数分で終わったし、戦闘中何処かに連絡するような余裕があったとは思えない。今の時点で来ていないなら少なくとも今日中には報復にも来ないはずだ。叩くなら今のうちだろうね。
「よし、とりあえず終わりだね。この子たちが起きて校庭から出て行ったら、今後のこと考え」
「くっそぉぉおらぁっ!」
何事かと思えば、セリカが取り押さえていたヘルメット団の少女が力任せに拘束を振り払い、突然私に飛び掛かってきた。近距離でショットガンの弾やミニガンを銃撃を受けているだろうに、私につかみかかろうとするなんて、なかなか骨がある子じゃないか。
「先生っ!」
シロコとホシノが真っ先に動いたが、若干不良の子の方が早い。私のお腹めがけて彼女は拳を突き出してくる。大振りな上にヤケクソで殴りかかってきているから拳の動きも単調。それほど危機感を感じることでもないものだが、キヴォトスの子は思った以上に身体能力が高いからなあ。まともに殴られた時の痛みは計り知れない。
さっと体をひねって拳をかわし、腰を深く落として右腕を大きく振りかぶる。あとは狙うところを見定めて、肩から手首にかけてスナップを効かせつつ振り上げれば……
「ぐぶっ!?」
見事に胸骨の真下に拳がめり込み、少女の体がくの字に折れる。力が抜けて足で体を支えられなくなって崩れ落ちる少女を抱きかかえ、ヘルメットを急いで脱がせた。
「ちょっ!? 先生なにやって……!」
「ほら、我慢しないで。手伝ってあげるから」
背中をさすると、一拍おいて少女は喉の奥から駆け上がってきたものを吐き出した。
「……先生、相当な力なんだねぇ」
「私は力は強くないよ、筋肉が戻る力を使うだけ。ほら、私割合顔がいいからさ。何かと危ないこともあったんだよね」
そう誤魔化して、わずかに黄色に唾液を散らして咳き込む少女を抱きかかえて立ち上がる。気づけば他の構成員たちはほとんど逃げたあとのようだった。
「大丈夫でしたかっ、先生!」
校舎の方からアヤネの声が聞こえてきた。どうやら私が殴りかかられた映像をドローン越しに見て、あわてて飛び出してきたらしい。アヤネに事の顛末を説明してひとまず落ち着かせ、これからの動きを考えることにした。