この世界におけるナチスとの戦いに勝利してからしばらく経った頃、ゆかは艦娘を連れてアズールレーン基地に赴いていた。日本皇国の手によってセイレーンがこの世界からほとんど姿を消したことで海は一時的に平和になっている。
「思ったより賑わっているな」
「提督さん、提督さん!!今度はこっち行くっぽい!」
様々な店が建ち並び、一種の観光地のような賑わいは見ているこちらもワクワクさせる。夕立もはしゃいであらゆる店に興味を示し、ゆかを振り回していた。ちなみに他の艦娘は自由行動している。
「お、これは美味いな」
その途中で、ナチス決戦前に夕立が食べていたパンケーキをゆかは買って口にしていた。夕立からおすすめで紹介されたこのパンケーキは甘くてとても美味しいとゆかは絶賛していた。
しばらく探索した後、夕立と別れたゆかは目的地……クイーン・エリザベスとのお茶会の会場にお邪魔していた。
「お待ちしておりました、ゆか様。こちらにどうぞ」
「ああ、ありがとう」
「いえ、これがメイドの勤めですので」
出迎えたのはロイヤルメイド隊の1人であるベルファストだ。ゆかはベルファストの案内を受けてクイーン・エリザベス、フッド、ウォースパイト、イラストリアスがいるお茶会の席に向かった。
会場につくと、ゆかと目が合ったクイーン・エリザベスは一番にこう言った。
「よく来たわね、庶民!!」
「しょ、庶民?」
ゆかは戸惑った。なにせゆかは国のトップの立場についている者であり、決して庶民ではないのだ。それにゆかは自分のことについてアズールレーン内で広まっていると考えているから尚更だ。
フッドがゆかが席に座ることをクイーン・エリザベスに進言し、ゆかは座った。そこでゆかは自己紹介をする。
「まあ、いいか………日本皇国ネクロマンス統率者兼海軍総司令官大和ゆかだ。ネクロマンス統率者は首相と考えて貰えばいい。名前は知っていると思うが、よろしく」
その自己紹介にこの場にいる全員が驚いた。ゆかが艦隊を指揮をしていたことは知っていたが、まさか軍のトップだと思わなかったのだ。それに首相を兼任している。だが、ゆかの見た目が中学生や高校生に見えるため余計にそう思えないのだ。
「ふーん。学生にしか見えないのに?」
クイーン・エリザベスはそう呟いた。その一言は何気ない言葉だったのだろう。だが、その言葉はブーメランであるし、ゆかはそう言い返すことができたが、肝心のゆかは固まっていた。
「気にしてるんだ…あんまり追及しないでくれると助かる…」
「わ、わかったわ」
ゆかは目のハイライトを無くして俯いてしまう。この場が気まずい空気になってしまった。
そこでフッドが話題を転換してゆかに話しかけた。
「そういえば、あなたは明日には祖国に帰るのでしょう?」
「そうだな。ナチスがこの世界の侵略に失敗した以上もうこの世界にほ侵攻しないだろうし、俺たちもこの世界に残る意味などないしな」
「なら、あなたの祖国のことについて聞かせてくれないかしら?陛下もよろしいですね?」
「ええ。もちろん許可するわ」
ゆかは日本のことを話しながら、この世界に来てからのことを頭の中で振り返っていた。いきなりゲートができたと思ったらセイレーンが民間船を襲撃して、そのセイレーンを海神が倒して………その後セイレーンに報復するためにゲートをくぐったらこの世界に来てしまった。そこからは大変だった。ナチスがこの世界を侵略しているのを航宙駆逐艦の偵察でわかってしまって、その侵略を阻止するために必死にこの世界を駆け巡った。セイレーンを殲滅しつつ、アズールレーンとレッドアクシズとの間で起こっている対立に介入したりした。
そして、そんなこんなでナチスと決戦を挑んで辛勝。今にいたる。
「まあ、日本はこんな感じだな」
「あら、驚きましたわ。日本って重桜と似ているのですね」
「文化面はな。後は軍艦の設計も似ているところがあるな。艦名が一緒の艦艇もあるし」
「面白いですね。あなたの世界とこちらの世界との共通点はどんなのがあるのですか?」
このように、主に日本が元いた世界と今いる世界の相違点の話題で盛り上がっていた。話を聞いている4人は興味津々に聞いている。このお茶会はしばらく続きそうだった。
「答えを見つけたみたいだな、エンタープライズ」
「あなたは…」
「無刈雅だ。好きに呼んでくれたらいい」
エンタープライズはアズールレーン基地全体を見下ろせる丘に佇んでいた。そこにやってきたのは日本皇国諜報員の無刈雅。ネクロマンスの最古参の1人である。そんな彼はエンタープライズの横に歩いて行き、彼女と同じく佇んだ。
「初めて会ったあの時はどこか固い雰囲気があった。だけど今は多少マシになった」
「そうか。あんまり自覚はないのだが……」
「それでもだ。伊達に諜報員をやっていない」
諜報員である無刈がよく受ける任務は相手国へ潜入して情報を収集する、いわゆるスパイ任務がほとんどだ。その任務では、自分が日本皇国の諜報員だとバレないように常に相手の顔色を窺う必要がある。そうして培ったその顔色を窺うという力によって、エンタープライズの少しの変化にも気づいたのだ。
エンタープライズはこれまで戦うために生まれてきたと思っていた。だが、ジャベリンやラフィー、綾波やユニコーンなどを始めとしたKAN -SENによって気付かされたのだ。自分はセイレーンから世界を救うために生まれたのだと。
その答えを見つけるまでにエンタープライズは沢山苦しんだ。そのことを無刈は知っていた。
「それじゃあ、俺はここで失礼する。達者でな」
無刈は、その場から消えるように姿を消した。
「あなたたちのおかげでこの世界は救われた。改めてお礼を言いたい」
そう言ったのはプリンス・オブ・ウェールズ。ソファーに座っている彼女は、テーブルを挟んで反対側に座っている艦娘の神通に向けて話をしていた。
「いえ、私たちはセイレーンへの報復とナチスの侵略を阻止するために戦っただけです。お礼を言われるほどではありません」
「それでも言わせてほしい。私たちアズールレーンやレッドアクシズではなし得なかったことだ」
「そこまで言うのなら、受け入れましょう」
神通は出された紅茶を一口口に含み、飲み込む。紅茶特有の香りが口の中に広がって、その美味しさを倍増させる。
神通はまだ紅茶が入っているカップをテーブルの上にある紅茶と一緒に出された皿の上に置く。
「それにしてもレッドアクシズとよく同盟が組めましたね。対立しているとしか聞いてませんが」
「こちらもそう思っているが、あくまで表向きだけだ」
「?もしかして、水面下ではまだ対立しているのですか?」
「そうだ。もし仮にこの対立が表に出たら同盟破棄もあり得る」
「そうですか…」
「こちらとしては貴国を盟主として、それぞれの対立を抑えてほしいのだが…」
「無理ですね。セイレーンのほとんどを壊滅させてナチスもいないとなると、さすがに我が国がこの世界にいつまでもいるわけにはいきませんから」
要するにこの世界の問題はこの世界で解決しろということだ。セイレーンは日本の民間船を攻撃しているために無関係ではないが、この対立は日本がこの世界にやってくる前に起こったことなのでこの世界の国家が解決するべき問題だ。
「正直、艦娘が羨ましいよ」
プリンス・オブ・ウェールズがぽつりと洩らしたその言葉は神通にはしっかり聞こえていた。
セイレーンとの戦いは主に専門家であるKAN -SENに指揮権が与えられていた。しかし、セイレーンが残党しかいない以上、KAN-SENに指揮権を与える必要などなく、各国の上層部は彼女たちが持っている指揮権を剥奪した。そして上層部主導で再びアズールレーンとレッドアクシズの構図で対立した。
その状況にKAN -SENからすれば、せっかく同盟を結べたのにという見方が強かった。彼女らは、対オロチ戦で協力してオロチを討伐していたことから既に仲間意識ができていた。そんな時の水面下での対立だ。いつか表舞台で対立するようになるだろうと簡単に予測出来るこの状況は、彼女らから不満が出たり、先程のプリンス・オブ・ウェールズみたいに艦娘を羨ましがるようなKAN -SENが出るのは当然だった。
「………」
神通は口を閉ざすことしか出来なかった。
「この景色も今日までか〜」
レッドアクシズ基地を探索している艦娘川内は、日本と似た和の雰囲気を堪能していた。
水面下ではアズールレーン陣営と対立しているものの、表向きは同盟関係なのでアズールレーン陣営のKAN -SENが観光に来ていた。その様子を影から見た川内も、彼女らに倣って観光することにしたのだ。
「あむ………美味しい」
観光している途中で見つけた甘味処で餡蜜を食べる川内。日本の餡蜜とは似て非なる味をしながらもその美味しさ、甘さは期待通りだった。
「久々に間宮の餡蜜を食べたくなったな…。帰ったら頼んでみよう」
「川内?」
呼ばれて川内は振り向く。そこには刀を横に差し、こちらを見つめる1人の女性の姿があった。その人物を川内は艦娘としての本能で正体を察した。
「瑞鶴?」
「そうよ。横失礼するわね」
川内の横に座る瑞鶴。
「あの時はありがとね。川内が加賀先輩の零戦を落とさなければ今頃私たちは海の底だったから」
「あの時か〜。大丈夫だよ。こっちが勝手にやっただけだし」
瑞鶴が川内に話しているのは、オロチとの最終決戦の時に加賀と瑞鶴が戦った場面のことだった。精神的に追い詰められていた加賀と加賀の目を覚まそうとする瑞鶴との戦いは、加賀の方に軍配が上がった。そうして、加賀の零戦によりトドメを刺されそうなところを対空ミサイルでその零戦を川内が落としたのだ。仮に落とさなければ瑞鶴と瑞鶴を庇っている翔鶴が轟沈する可能性があった。
「後、これ返すね。
「分かった。こちらから返しておくよ」
瑞鶴からある通信道具が渡される。それは過去に神通が瑞鶴に渡した通信道具だった。瑞鶴は戦いが終わって元の世界に帰る予定の神通にそれを返したかった。そんな中で同型艦の川内を見かけたのだ。
「そういえば明日だっけ?帰るの」
「そうだね。まあ、いつまでもこっちの世界にいるわけにはいかないしね。水面下でまだ対立しているのがちょっと心配だけど」
川内のその呟きは、その時に吹いた微風に消えていった。
「よし!目標!転移ゲート!」
翌日、日本艦隊はKAN -SENの見送りを受けながらこの世界と日本を繋ぐゲートに向けて航行していた。日本艦隊には衛星の代わりを務めていた航宙駆逐艦もいた。その後ろには、皇国陸軍が乗っている輸送船があった。
「司令官!大変です!!」
そんな時だった。1人の部下が先遣隊からの連絡を焦った様子で持ってきた。
「なんだ、何があった」
「ゲートが何故か消失しているとの通達が!!先遣隊はこちらに引き返すそうです!!」
「はっ?」
ゲートの消失。それは日本艦隊がこの世界に取り残されたことを意味する。だが幸いにもそうはならない。ゆかが能力を使用して日本に艦隊ごと帰ればいい。
ゲートが消失するという想定外のことがありながらも、ゆかは能力を使用して帰還しようとする。その瞬間だった。
「!?時空が歪んでいる!」
突如として時空が歪み始めた。ゆかは咄嗟に対処しようとするも間に合いそうにない。
「総員、衝撃に備え!!」
「くっ!各自、状況知らせ!!」
ゆかは部下に被害状況を知らせる命令を出す。その結果、日本艦隊のどの艦艇にも被害がなかった。
「!?衛星通信受信しました!!地図表示します!!」
その地図には、日本とロデニウス大陸が写っていた。それは日本艦隊が元の世界に戻ってきたことになる。
乗員は声をあげて喜んだ。
そして、この世界にやってきたのはゆかたち日本艦隊だけでなかった。
「あれは、アズールレーン基地とレッドアクシズ基地!?まさか!彼女らもこの世界に来てしまったのか!?」
アズールレーン基地にて、アズールレーン陣営の代表とレッドアクシズ陣営の代表、そして日本皇国の代表が集まっていた。
「さて、君たちも異世界に来てしまったわけだがこれからどうするのか聞きたい。まだ君たちの世界を観測できるので今すぐにでも帰せるが、突然の時空の歪みによる転移だったためにいつ観測できなくなって君たちを帰せなくなるのかわからない。なのでこの場に残るか、元の世界に帰るかを今決めてほしい」
日本皇国の代表であるゆかのその言葉に場は静まり返る。その静寂をエンタープライズはゆかに質問する形で破った。
「質問させてほしい。仮に残った場合、私たちの扱いはどうなる?」
「扱いについては、君らが残ると表明してから上で判断する。まあ、俺が艦娘と同じ扱いになるようにするがな」
このようなことができるのは、ゆかが首相と似たような権限を持っているからである。
政体はネクロマンス首脳部(ゆか、煉、未来、雪、海斗)の合議制で、ゆかはそのトップ。だが、軍事以外でネクロマンス首脳部が重要度が低いや面倒などの理由で、ネクロマンスの中から選挙で選ばれたメンバーに回していた。そして、そのメンバーたちは回された案件を議論したりするなど複雑な体制になっている。
ゆかのこの解答を受けたKAN -SENらは考えるように沈黙した。そして、先に口を開いたのはエンタープライズだった。
「私は残りたいと思う。ナチスやオロチの借りを返したいのがあるが、元の世界に戻ったら、近いうちに人類どうしで対立して、KAN -SENどうしでも争うことになる。私としてはせっかく敵対関係から友好関係に改善したのに再び敵対関係に戻るなどはしたくない。ならば、この国に残った方がいい…そう思った」
エンタープライズが言い終わると、彼女に賛同してレッドアクシズ代表長門が言った。
「余も同じだ。それに、余からすれば艦娘が生き生きとしているのが羨ましい。元の世界では、我々の存在はセイレーンに対抗する唯一の存在として扱われていただけだった。そのセイレーンが壊滅している今、貴重な国家戦力として酷似される未来しか見えない。だが、この国は艦娘を人間と同じように接していると聞いた。ならば我々は残った方が良いと判断した」
ゆかはもう2人の代表であるプリンツ・オイゲンとクイーン・エリザベスに目を向ける。彼女らが話したのはだいたい似たような理由で残ることだった。
日本皇国という国はオタク文化がある。妖怪などの人外の種族と共存している。故に、KAN -SENのような存在は受け入れやすい。艦娘も、人間と同じ人権や自由などが与えられている。
「分かった」
ゆかは頷いた。そして立ち上がってこう言った。
「ようこそ日本皇国へ!我々は君らを歓迎しよう!!」
この後については語ろう。
まずKAN -SENは艦娘と同じく、第零主力艦隊に配属となった。彼女らはこれからKAN -SEN部隊として活躍することになるだろう。また、配属に伴って装備も艦娘と同様、魔改造された。
次に基地についてだ。アズールレーン基地及びレッドアクシズ基地はゆかと未来の能力によって、横須賀鎮守府の近くに転移させた。これにより、艦娘とKAN -SENの交流が進むことだろう。
数日経つと、KAN -SENは日本各地に観光に行くようになった。その際、道行く人々によく話しかけられた。KAN -SENは艦娘と似たような存在として注目されていたのだ。この件を境にKAN -SENの存在は瞬く間に日本中に広まって、KAN -SENは新たな日本国民として元からいた日本国民に受け入れられた。
さらに数日後には、向こうの世界に残っていた他のKAN -SEN全てがこちらの世界に飛ばされてきた。その中には亡くなったと思われた天城の姿まであった。これに対し日本側は彼女らを保護して、前のKAN -SENに聞いたようにこの世界に残るか元の世界に戻るかを選択させた。その結果、全員この世界に残るを選択した。
彼女らは、その後に先にこの世界にきたKAN -SENと合流した。天城の姿を見た一航戦は、天城が本物だと分かると一目散に抱きついたりするなどのことがあったが、比較的短時間で合流できた。
この出来事から、本格的にKAN -SENが指揮官である大和ゆかについてくるようになった。前までは慣れないのか一歩あけていたのだが、今はそれがなく、逆に向こうの世界に残してきたKAN -SENが全員日本に残る決断をした為に向こうの世界への未練がなくなったのか、普通に接してくるようになった。
ナチスとの決戦によって轟沈した艦艇は既に補充が始まっており、頭おかしい生産速度を叩き出す
ネクロマンス本部ではゆかを始めとした首脳部が集まっていた。そこで、向こうの世界で遭遇したナチスについての対応の会議をしていた。
「ナチスか……ついに
「そうだね。ということはこの世界も危なくない?」
「危ないだろうな……それか、既に手遅れの可能性すらある」
「泳がされている可能性があるのか〜。厄介だね」
日本からは何故か地球の観測が出来ない。だからこそ、ナチスやアメリカの様子がわからない。
情報が足りない。結局、そういう結論に至る。
「とりあえず、警戒しとくに越した事はない。皆も用心しろ」
ナチスの存在はこの世界にどのような影響を及ぼすのか。それは誰にも分からない………。
KAN -SENが初めてゆかに会った時の第一印象。
エンタープライズ→子供か?
クイーン・エリザベス→学生?
長門→子供?
プリンツ・オイゲン→子供?
ゆかは見た目から大体子供みたいに見られています。だが、中身は成人した大人である為に、子供扱いすると機嫌を悪くしたり、落ち込んだり、拗ねたりします。
作者です。
ついに第二章終わりましたね。この後に少しだけ間章を書いてから、第三章の方にいきたいと思います。
魔王編にて、登場させて欲しいキャラは?(参考として検討します)
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レミリア・スカーレット
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フランドール・スカーレット
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両方出して欲しい
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出さなくても良い