中央暦 1639年5月19日 早朝
「隊長、ドローンによる偵察から魔王は少しの魔物しか連れていないようです。どうしますか?」
「出撃して迎撃しましょう。地の利は我々にありますし、魔王が自分からこちらに来てくれました。魔王討伐に今ほど絶好の機会はないでしょう」
煉は魔王に送った紙のことを考えていた。まさかここまで上手くいくと思ってもいなかったのだろう。怒りで見事に顔を真っ赤にしながら進軍してくる魔王をドローンから送られてくる映像で見た煉は、「ウソでしょう?」と戸惑っていた。
「雪………一体何を書かせたのですか…」
煉のその呟きは風に消えていった。
魔王が近くに出現したことが城内に知らされた。それを好機と捉えた者の1人である北方貴族の騎士アボンは配下約200名を連れて、魔王『ノスグーラ』に突撃していった。魔王の護衛と見られる魔物は簡単に倒せる。それに加えて魔王は1人だ。それならば数で押し潰せる。
「我に続けぇぇぇぇぇーーーー!!!!」
だが、魔王は伝説の勇者ですら倒せなかったのだ。その勇者より実力が劣る彼らがいくら数を揃えても倒せるはずがない。
魔王は、目視できる程のどす黒い濃い魔力を魔王本体から溢れ出していた。煉、レミリア、フランはそれが攻撃する瞬間だと確信していた。
「下種が!!」
彼らのその確信は正確であった。魔王は突撃してきた者たちに向けて手をかざし、その手から黒い炎が出現する。
「魔界の王の名において命ずる!!魔界の監獄の王、鳳凰、我の命により我に逆らいし愚かな敵を焼き尽くせ!!魔王炎殺拳奥義!【炎殺黒鳳波】!!」
その炎は魔界の炎の再現であった。炎で形どられた鳥が突然している者たちに一直線に向かっていく。日本軍はそれをただ見ていることしかできない。助けようとしても、炎から逃げようとする騎士団が射線に入るなどで助けることができない。
結果、突撃していった騎士団は1人残らず焼き尽くされて全滅した。その一部始終を見ていた者たちは魔王の力に唖然とする。だが、日本軍はトーパ王国ほど唖然としていなかった。それは国内にそれ以上の魔法を放つ者やチート能力を持っている者たちがいるからか、彼らは感覚が麻痺していた。
「大いなる大地の王よ!その絶大なる力を解放し、我が配下となりし古の魔人を呼び覚ませ!!
【エンシェントカイザーゴーレム】!!」
瞬間、大地が盛り上がって岩の塊となって、やがてそれが人の形と変化して動き始める。それに対抗するのは、急遽駆けつけてきたトーパ王国屈指のエリート部隊である王宮戦闘魔導衆特戦隊だ。彼らはエンシェントカイザーゴーレムと魔王がいた位置に竜巻を発生させる。その竜巻は雷を纏っていた。
だが、その攻撃は全く意味がなかった。魔王とエンシェントカイザーゴーレムには全く効いていなかったのだ。その様子を見ていた煉、レミリア、フランは「効かなくて当然」と思っていた。王宮戦闘魔導衆特戦隊約10名の全魔力と言ってもいい量の魔力を使用して放たれた雷を纏った竜巻【ドラゴンサンダーストーム】は、煉たち3人が知っているゆかの【キルコマンド
「隊長!!支援準備完了しました!!いつでも行けます!」
「よし、行きますよ、2人とも」
煉は
「小癪な!!やれ!」
魔王が召喚した、高さ17mもあるエンシェントカイザーゴーレムは城門に向けて進軍していた。このゴーレムで攻撃されると城門は一瞬で粉々になるだろう。そして、今は少ない魔物が後から迫り来る魔物の大群と合流して城内を蹂躙するだろう。それを阻止するべく、トーパ王国騎士団が最低限の戦力だけを城内に残して、他は城門に集結して攻撃を行おうとする。
「ここを破られるな!!我が騎士団の誇りにかけて絶対に守り抜け!!!」
そう騎士団が自分たちを鼓舞するが、目の前に迫り来るエンシェントカイザーゴーレムに対し、内心絶望に近い感情を抱いていた。あの大きさのゴーレムを破る手段がないのだ。切り札であった王宮戦闘魔導衆特戦隊の魔法は効かなかったため、その分絶望感は大きかった。
「エンシェントカイザーゴーレムよ!!有象無象の人間どもを捻り潰せ!!」
そして、城門に集結している騎士団に向けて巨大な腕が振るわれる。高さ17mもあるゴーレムの腕だ。その大きさも相当なものだろう。それが振るわれたらどうなるか、簡単に想像できる。集結している騎士団の中にいる魔王討伐部隊隊長のアジズも絶望感を味わうのと同時に、日本軍でも敵わないのではないかと思い始めていた。
(すみません、守りきれませんでした。でも日本の皆さんには感謝しています。どうか、これ以上の損害が出ないうちに逃げて下さい)
アジズがそう思ったのも助けに来てくれた日本への感謝もあるのだろう。アジズは目を閉じていつか来るであろうエンシェントカイザーゴーレムの振るわれた腕の衝撃に備えた。だが、それはいつまで経っても来なかった。逆に周りがザワザワしていた。なんだと思ってアジズは目を開けた。そこには……
片腕を斬り落とされたゴーレムと日本軍の隊長である黒岩煉が対峙していた。
エンシェントカイザーゴーレムと対峙している煉の後ろにある城門から39式戦車を先頭に、トーパ王国に派遣されてきた機甲戦力が出てきていた。それらに取り付けられている砲門は全て目の前のエンシェントカイザーゴーレムに向けられていた。
「あ、あ、あれは……太陽神の使いの鉄龍!!!
おのれ人間どもめーー!!!どおりでレッドオーガとブルーオーガがやられたわけだ!まさか太陽神の使いを召喚していたとは!!」
しかし、目の前の鉄龍(戦車や装甲車)は魔王の記憶にある物より大きく、洗練された形をしていて、あの忌々しい爆裂魔法を放つ角も魔王の記憶にある物より大きく、重厚だった。
「チッ!エンシェントカイザーゴーレム!!眼前の敵を踏み潰せ!!」
魔王のその命令に、エンシェントカイザーゴーレムは動き出す。しかし、日本軍は動かない。片腕を失っても尚脅威で、それが動き続けているその姿にトーパ王国騎士団は恐怖するが、日本軍は動かない。恐怖で動かないのか。そうではない。日本軍は分かっているのだ。
すると突然、エンシェントカイザーゴーレムが吹き飛ばされた。高さ17mの岩でできたゴーレムの重さは相当なもののはずなのにも関わらず、吹き飛ばされたのだ。その元凶は、エンシェントカイザーゴーレムがいた場所に佇んでいた。
「あなたの相手は私です」
和服で包んでいる煉の姿は周りから浮いていて凄く目立つ。また、エンシェントカイザーゴーレムがいた場所に佇んでいることから、魔王はゴーレムを吹き飛ばしたのはコイツだと判断してこう命令した。
「おのれーー!!!エンシェントカイザーゴーレム!ヤツを潰せ!!」
標的を煉に変えて、片足を振り下ろすエンシェントカイザーゴーレム。煉はそれを軽く避け、刀の鯉口を切って構える。それを魔王は煉が刃物で戦うことを察して、刃物で岩でできた巨大なゴーレムに勝てるわけないと自身の勝利を確信していた。それ故にどういう風に嬲り殺すかを考えていた。魔王は煉1人に意識が集中していて周りの戦車や装甲車等には目をくれなかった。
「黒岩煉、いきます」
ボソッと煉はそう言うと、迫り来る魔物の大群を斬り裂きながら神速と言ってもいいスピードでエンシェントカイザーゴーレムに突貫する。
「黒岩流【
それは血の芸術……綺麗な紅の薔薇をその場にいた者全員が幻視する。刀に付いた血が振るわれる刀によって振り払われ、その道筋が薔薇のような形になっている。一瞬でそのように刀を振るった煉は、さらに別の技を放とうとする。
「黒岩流【
先程の技に続くように、煉の刀が横薙ぎに振るわれる。振るわれた後、敵に突貫、突きを放つ。この技は横薙ぎで花びらを表し、突きで花の中心…雄しべや雌しべがある部分を示す。そのように一瞬で振るうことで、刀に付いた返り血が振り払われ飛び散った血が上手く花のような形をかたどる。
そうして、ほとんどエンシェントカイザーゴーレムの周りの魔物を一掃した煉は勢いそのままにさらに突っ込んだ。
「
煉は、煉に振るわれたゴーレムの腕を跳躍でかわしてその腕に着地する。そして、その腕をつたってエンシェントカイザーゴーレムに接近する。その途中で煉は、騎士モアに教えられたある情報を思い出す。
『黒岩殿、一般的なゴーレムは胸の辺りにコアがある!!コアを破壊できればゴーレムは崩れ落ちます!!』
その情報をもとに煉はエンシェントカイザーゴーレムの胸を中心に意識を集中する。それと同時に無意識に刀に力を入れる。自身の能力を発動させ、確実に仕留めようとする。
煉の能力である『
煉は刀を上に上げて唐竹の構えをとって跳躍する。自由落下を利用して放たれた一撃の名は…
「【
この技は、煉が暇な時に見ていた漫画の技を再現した技である。雪が「これ再現してよ」の感覚で提案して、それに煉が乗る形で再現されたのがこの飛天御剣流である。
煉の斬撃を食らったエンシェントカイザーゴーレムは頭からコアごと縦に真っ二つになり、崩れ落ちた。
煉単騎で巨大なゴーレムを破った光景に辺りは沈黙が支配する。逆に日本軍は出番がなくなったと嘆いていた。
その時だった。魔王が突如跳躍した。高さ約50mまで恐るべき身体能力でジャンプした魔王は煉に向けて、先程突撃していった騎士団を全滅させたあの黒い炎を放とうとする。対する煉は刀を納刀して、鯉口を切った状態で魔王に視線を向けつつ構えた。抜刀術の構えだ。
「魔界の王の名において命ずる!!魔界の監獄の王、鳳凰、我の命により我に逆らいし愚かな敵を焼き尽くせ!!魔王炎殺拳奥義!【炎殺黒鳳波】!!
我にコケにしたことを後悔しろ!!」
魔王は怒り狂っていた。太陽神の使いと思われる軍隊(日本軍)によって過去に惨敗して、またつい先程はエンシェントカイザーゴーレムを単騎で破られた。魔王のプライドが刺激されて怒り狂うのも無理はない。
煉は魔王のその姿を見て、フッと嘲笑しながら迫り来る黒い炎を迎撃する。
「黒岩流・抜刀術【風車】」
その技は、神速の抜刀術で風を起こしつつ自身を中心に周りを斬る技だ。風が起こるのはどの抜刀術もそうだが、この技は風を起こすことに特化している。このような技ができるのは煉の実力が高いからだろう。
この技によって黒い炎が振り払われた。その後に煉はすぐに納刀する。
「馬鹿な!!おのれー!!!」
怒り狂いながら煉に突貫する魔王。頭に血が上っているが故に視野が狭まっていた。だからこそ、横からの魔王に襲いかかる影に魔王は気付かなかった。
「あなたが魔王ね♪それじゃあ、
魔王を奇襲したのはフランドール・スカーレットだった。魔王は標的をフランに変えて、フランは魔王に興味津々な表情をしながら、両者はぶつかりあった。
「ねぇ、未来!暇!」
「なら、お茶に付き合ってくれる?」
ネクロマンス本部では、トーパ王国派遣部隊の一員になれずに暇していた雪と一人お茶会をしている未来の姿があった。煉はトーパ王国派遣部隊に、ゆかはゲート調査部隊に、海斗は外交で海外を訪問しているために2人は暇していたのだ。いくら国内の防衛や治安維持のために残っているとはいえ、そんなことは滅多に起きない。起きるとすれば、警察で済むような出来事だけだ。
「お茶?お菓子だけなら…」
そう言って未来の反対側の椅子に座る雪。雪は円卓の中心にあるお菓子に手を伸ばして口に頬張る。サクサクと音を立てながら美味しそうにクッキーを次々と口に頬張る。
「ところで雪、今回のトーパ王国派遣に関する作戦名を決めたのはあなたらしいですね」
「そうなんだ♪どうだった?」
「いい作戦名だと思いますよ。煉なら一本取られたと言うでしょうね」
「そうなの?」
「そうですよ。後、その後に魔王とやらに宛てた紙の内容を考えたのも雪らしいですね。煉、困惑してましたよ。一体何を書いたらあんなに怒るんだと」
「単純に味方を褒めただけだよ?それと事後報告。こんな感じで」
雪は魔王に宛てた紙のメモを見せる。そのメモは以下の通り。
『レッドオーガとブルーオーガのお命をいただきました。とてもすごかったですよ。うまかったです。
p.s.レッドオーガとブルーオーガは簡単に倒せたので魔王とやらはさぞ弱いんでしょうね、そうでしょう自称魔王様♪本物の魔王なら、本拠地に引き篭もらずに1人で出撃しても簡単に我々を倒せるでしょうしね。』
現地で魔王に宛てた紙に書いた内容と全く同じ内容だ。その内容は、勘違いするようなことが書かれていた。それを見た未来は「うわぁ」と少し引いていた。
「よくこんなの思いつきますね。私には無理ですよ」
「ふふん♪いつも夕陽と豊彦と遊んでいるからそれで覚えたのだ!」
雪の煽りスキルは
「まあ、ほどほどにしてくださいね?」
未来は紅茶が入ったティーカップを皿に置く。
(魔王には同情しますね。同情だけですが)
未来はそう思いながら、トーパ王国に派遣するメンバーを決める会議を思い出していた。
その会議は煉の派遣が決まった後、ある姉妹の乱入によってさらに会議が延びたのだ。その2人がスカーレット姉妹であり、この乱入が彼女らを派遣する理由となった。レミリアが魔王のことをどこかで耳に挟んだのか、それとも日本軍が魔王と戦う運命を見てそれに興味を示したのか、そのどちらか定かではないが魔王に興味を示したのは間違いではない。フランも新しい玩具ができたと楽しみに目をキラキラしていた。それに加えてこの世界の吸血鬼の立ち位置というのも気になったために、ついでという形で派遣が決まった。吸血鬼はこの世界に存在しないのか伝承も何もなく架空の存在として存在していたため、直接の反応を見るしかなかった。また吸血鬼は羽が生えている有翼人と似ているため、日本側としてはこの派遣で魔帝の光翼人とレミリアとフランは関わりないということが証明できれば良かった。だからこそ日本に吸血鬼がいるということを広めるためにもこの派遣に踏み切った。それが成功すれば、2人は堂々とこの世界を満喫できる。そのような事情を2人は理解したうえで、派遣させることに喜んだ。彼女らにとっては魔王と遊べるだけで良かったのかもしれない。
「さて、そろそろですかね?」
未来は自身の能力を使用してフランと魔王の戦いを覗いた。覗いた先には、ちょうどフランと魔王が対峙しているところだった。雪と未来はそれを試合を観戦するように見るのだった。
補足
吸血鬼は太陽ダメなのでは?と思うかもしれませんが、吸血鬼専用の日焼け止めを塗っているため問題ありません。
対パーパルディア皇国戦にて参加するネクロマンス首脳部は?(大和ゆかは参加確定)
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黒岩煉
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小野未来
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船橋海斗
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冬花雪