第三十三話 波乱の軍祭
中央暦 1639年5月27日 フェン王国
そこに各国の観戦武官が集まっていた。日本が損害なしでロウリア王国と魔王を倒したことは既に広まっており、その実力を一目見ようと集まっている者がほとんどだった。偶然にも、日本はフェン王国との国交交渉の際に「国交を締結するのは良いが、まずは実力を見せてくれんか」ということで軍祭に招かれていた。
「見てください、艦長!!昔の日本みたいですよ!!」
空母『龍驤』の副長は興奮が抑えきれていないようだ。艦長も落ち着いているように見えるが内心「うひょー!!最高だぜぇーー!!」と叫んでいる。それを見ている海斗は再びため息をついていた。
「遠足ではないのですが………」
そう呟いた海斗だが、その視線は彼らと同じくフェン王国の街並みに向かれていた。彼も興味があるのだろう。
彼は献上品として、いくつかの伝統工芸品を持参している。何故献上品が必要なのか。それは昔の日本、つまり江戸時代の頃の文献などで特産品を献上する時期があったことが書かれてあったからだ。それに倣って当時に似ている文化のフェン王国に献上しようとなった。そうして献上したのが、日本刀や陶器などの伝統工芸品、運動靴や真珠などの地域の特産品などになる。
「それにしても………光がいてくれて助かったですね…」
海斗がそう言葉を溢す。光に感謝している彼だが、彼がそうなったのは前日まで遡る。
〜回想〜
その日、海斗はフェン王国に献上品とする伝統工芸品は何にするかで悩んでいた。日本は昔からの伝統を大事にする国民性があり、それ故に伝統工芸品となる品が多いのだ。また、日本の文化と繋げられる品の方が良く、それの選定に終始悩んでいた。
「どれにすれば良い?知り合いに伝統工芸品に詳しい人なんていないぞ……」
そう口に出してしまうほど、海斗は中々見つけられないことに疲れ果てていた。既に二徹している海斗にとってこの問題は厳しいものであった。そして久々に徹夜している疲労からか、海斗はとんでもない暴挙に出てしまう。
「…………あの2人に相談してみるか…」
海斗はエナドリを一気飲みして脳を無理矢理覚醒させる。そうして向かった先は技術研究所、通称技研と呼ばれる場所だった。技術と聞いて読者はもう察しただろう。そう。あの2人だ。
「海斗さん!!珍しいですね!どうしたんですか?」
「もしかして拳銃の魔改造ですか?」
目を輝かせて海斗に問いかける2人、明石夕陽と太田豊彦は手に工具を持ちながら海斗に詰め寄っていた。彼らがいた場所を見てみると、魔改造中と思われる39式自動小銃が綺麗に並べられていた。
「いや、フェン王国に献上する伝統工芸品を探しているのですが……」
「フェン王国ですか?…………フフフフフフフ…」
海斗から要件を聞いた夕陽は怪しげな笑みを浮かべていた。微笑が口から漏れ出るほど何か企んでいるのが分かる。その時はいつも海斗は注意するのだが、徹夜による疲労で思考回路が回っていなかった。
「それなら、この日本刀型ライトセイバーはどうでしょう!!もしくは、この39式拳銃改を!」
「でも、伝統工芸品ではないでしょう」
夕陽が出したのはやはりとんでもない物だった。日本刀型ライトセイバーも39式拳銃改も日本の最新兵器の類に入り、伝統工芸品ではないのはすぐに分かる。海斗もそれに疑問を覚えるなど少しだけ頭は回っていた。
「海斗さん、そもそも日本の伝統はなんだと思います?」
「伝統?それは和でしょう」
「ちっちっち、甘いですよ海斗さん。確かに和は日本の伝統ではありますが、それよりも伝統としてふさわしいものがあるのです。それこそが………」
夕陽は一旦間を置く。豊彦は素早い動きで夕陽の背中に横断幕を掲げる準備をしていた。海斗の視線は夕陽の目に釘付けであり、夕陽もまた海斗の目に釘付けであった。それだけ夕陽も海斗も熱中していたというところだろう。
「それこそが魔改造なのです!!
日本は代々、他国から文化や技術を取り入れて独自に発展させてきました!!その過程には、必ず魔改造があるのてす!!例えばそう、戦国時代ではポルトガルから入ってきた火縄銃は日本の刀鍛冶に魔改造されて量産され、明治では海外の技術を積極的に取り入れて近代化に成功、その後は日本に合うように魔改造されているのです!!つまり、魔改造こそが日本の伝統と言っても過言ではないのです!!」
「!?!?!?」
海斗は「ハッ」とした。確かに日本は海外から文化や技術などを取り入れて発展してきた歴史を持つ。それらが発展するにつれて、日本に合うように魔改造されていく。つまり魔改造こそが日本の真の伝統であり、魔改造によって作られたのが真の伝統工芸品であると夕陽は主張し、海斗は納得していた。
「ありがとう。フェン王国の献上品は日本刀型ライトセイバーと39式拳銃改にするよ」
良い買い物をしたみたいな雰囲気を醸し出しながら海斗は自身の執務室へ戻る。そんな彼の手には日本刀型ライトセイバーと39式拳銃改が握られており、このままだとそのままフェン王国に「これが日本の伝統工芸品です」として献上されかねなかった。しかも今の海斗を止める人はおらず、尚更だった。
「海斗さん?そんなの持ってどこいくんですか?」
執務室まで後少しとなった時、海斗と光はすれ違った。光は海斗が普段持たない物を持っているのを見て、彼の様子が変だということに気づいた。海斗は今まであった事を話す。話を聞いた光は呆れたようにため息を吐いた。
「海斗さん、ほら」
光は海斗に手を差し出した。突然、こんな突拍子のないことをする光を普段の海斗なら何かしらの違和感を覚えるはずだが、今の海斗は疲労で正常な判断が出来ていなかった。よって、差し出された手を握ってしまう。
バチっ
「少しは休め」
光は海斗に電気を流して強制的に気絶させた。彼は、気絶して倒れる海斗を支えながら同情する。実は、魔王討伐の援軍要請があった日から海斗は周辺国家と国交締結するために各地を訪れていた。その後帰国したら、すぐに資料作成と報告書作成などで徹夜で働いて、また国外に行く。いくら海斗とはいえ、このスケジュールだと疲労が溜まるのは当然だし、その疲労が抜け切っていないのに今回の献上品の案件だ。海斗がおかしくなるのも理解できる。
「さて、海斗さんを運んだらあの2人を説教しますかね……」
光はそう呟いて、海斗を医務室に運び出すのだった。
〜回想終了〜
「本当……助かった…」
海斗がそう呟いた瞬間、フェン王国から4隻の木造船が出てきた。彼の国曰く、廃棄船とのことで処分の代わりにこれらの船を標的艦として実力を見せてほしいとのことだった。
空母を護衛してきた駆逐艦のうち、吹雪型駆逐艦の『叢雲』が前に出てきた。叢雲は砲塔を旋回させて照準を合わせる。
「それにしても、レーダー波に酷似したものを放つ生物がいるとは思わなかったですね」
「そうだな………さて、始めるぞ」
次の瞬間、レールガンモードになっている砲門から砲弾が4回放たれた。放たれた砲弾は正確に4隻の標的艦に着弾する。標的艦は一撃で粉々になり、当初懸念されていた過貫通を起こして轟沈できないんじゃないかという心配もなくなった。
この軍祭に参加している他の国家は口をあんぐりと開けて固まっていた。そして彼らは確信する。日本は高度な技術を持つ国家だと。これが後に外務省を徹夜漬けにさせる原因となるのは別の話。
「ん?」
ここでレーダーに何らかの飛行物体の反応があった。少し経つとレーダーの反応が増え、こちらに向かってきていた。それは他の艦艇も同じであり、艦隊司令は海斗に招かれている国家のものなのか確認してほしいと要請した。
「西には確かパーパルディア皇国があった………要請通り一応確認してみるか…」
海斗が確認している最中、向かってきている反応………ワイバーンロード40騎は20騎ずつに分かれて各観戦武官が見える位置で散開、一つはフェン王国王城、もう一つは日本の駆逐艦叢雲に急降下していた。
「あの目立つ船に攻撃を仕掛けろ!!」
その隊長の一声で導力火炎弾がそれぞれに一斉に放たれる。
「!?未確認騎発砲!!」
「機関最大出力!!及び結界最大出力!!」
王城に放たれた火炎弾は直撃して、王城は炎上する。叢雲は放たれた火炎弾を神がかりな操縦で全弾回避に成功する。
攻撃を受けたことでフェン王国に来ていた日本派遣艦隊の駆逐艦数隻は明確に未確認騎を敵と認定し、反撃を開始する。叢雲が全弾かわしたことに驚いてもう一度攻撃を仕掛けようとする敵騎に向けてガトリングレールガンが猛威を振るった。放たれた弾幕に次々と撃ち抜かれて瞬く間にワイバーンロード10騎が全滅する。逃げようとするフェン王国王城に攻撃をした残りのワイバーンロード10騎には艦対空ミサイルで仕留める。
「敵騎全滅確認!!これより敵艦隊攻撃に入る!全艦艦対艦ミサイル発射用意!!撃てぇー!!」
時間は少し遡る…
『すごいものだな…あの船は…なんというか、眩しい』
「確かに巨大ですごいけど……眩しいのは快晴だからじゃないのか?」
そう話しているのは、ガハラ神国のスサノウと彼の相棒の風竜だ。
『違う、太陽ではない。あの日本とやらの船から線状の光が様々な方向に高速で照射されているのだ』
「船から光?何も見えないけど」
『人間には見えまい。我々が遠くの同胞と会話する時に使う不可視の光と酷似している。恐らく何が飛んでいるのか確認もできるだろう』
風竜が説明したのはレーダーで敵を見つける際の仕組みだった。叢雲の乗員が言っていたレーダー波と酷似するものを放つ生物とは実はガハラ神国の風竜のことだったのだ。
「ちなみにどのくらい遠くまで分かるんだ?」
『個体差があるが、ワシは約120kmくらいまでなら分かる。だが、あの船はそれよりもっと遠くの物の位置まで分かるだろう。もしかしたら、同じくらい遠くにいる敵に攻撃する兵器もあるかもしれん』
風竜はこう言っているが、その推測は事実である。派遣されている駆逐艦だけでも各種ミサイル兵器が搭載されているのだ。しかも日本の艦艇は見た目と中身が釣り合っていないため、ミサイルの数がおかしいことになっている。
スサノウは驚きながらも、本国に報告することに決めたのだった。
時は進み、現在……
発射された艦対艦ミサイルは海面ギリギリを音速以上の速さでパーパルディア皇国の皇国監察軍東洋艦隊44隻に向かっていた。現在狙われていることを知らない皇国監察軍東洋艦隊提督ポクトアールは竜騎士と連絡がつかないことに疑問を抱きつつも進軍を継続していた。
「考えすぎだったか?」
彼がそう言ったのは訳があった。実は少し前にこの艦隊とフェン王国水軍と艦隊決戦が起こっていたのだ。周りにはフェン王国水軍の物だと思われる船の残骸が浮いており、東洋艦隊には傷一つついていないことから一方的な戦いだったことが窺える。このことから彼は竜騎士と連絡がつかないのは魔信の通信障害か戦果の取り合いに集中しているかのどちらかとして考え、フェン王国とは関係ないと判断したのだ。だが、実際は軍祭に参加していた日本の手によって全滅させられている。このことを彼らはまだ知らない。
「全艦、進路をフェン王国首都、アマノキへ!!」
彼がそう指示した瞬間、水平線の向こうから飛んできた光の槍が各艦に着弾した。これによってポクトアールの意識は永遠に亡くなり、威容があった東洋艦隊は瞬く間に全滅した。
「弾着まで5、4、3、2、1、着弾!反応消失!全艦撃破成功です!」
各国の武官は大騒ぎだった。放心状態から復帰した武官たちは日本の力に恐怖していた。いつ自分の国にその力が向かれるかわからない、そのような恐怖に包まれていた。
日本の戦闘は彼らからすると常識はずれなものだった。それに日本が攻撃に使用した光の槍は古の魔法帝国が使っていた誘導魔光弾と酷似していることに気付くと、さらに大騒ぎすることになった。
「日本の皆様、まずはフェン王国に不意打ちしてきた者たちを見事な武技にて退治していただいたことに謝意を申し上げます」
「いえ、我々は我々に攻撃が及んだので撃退しただけです。そこのところは勘違いされませんようにしてください」
海斗はフェン王国の意図に気付いていた。フェン王国はパーパルディア皇国と敵対していて、日本を巻き込むことでパーパルディア皇国の皇国監察軍を撃退しようとしていた。結果、実際にその通りになってしまい他国の戦争に巻き込まれることになってしまった。
「貴国は戦争状態にあるのではないですか?そうなると、国交締結はできても他の細かい条約は締結できません。なので、国交締結したら本国に帰国します」
「そうですか……ならばこれだけは言わせてください。
先程貴方がたがあっさり片付けた艦隊は第三文明圏の列強国パーパルディア皇国の国家監察軍です。我々は彼の国から領土の割譲を要求されそれを拒否しました。それだけで襲ってきたような国です。
過去に同じように彼の国の懲罰的攻撃を加えられた国がありました。その国は敵のワイバーンロードの竜騎士を不意打ちで殺したのです。その国はその後、パーパルディア皇国に攻め滅ぼされて、国民は、反抗的な者は処刑し他は全て奴隷として他国に売り飛ばされていきました。王族は親戚縁者含む全てが皆殺しにさせられ、王城の前に串刺しで晒されました。
パーパルディア皇国は、列強というのは強いプライドを持った国というのをお忘れなさらぬようお願いいたします」
ゾッとするような話だが、海斗はしっかりと相手の目を見ていた。既にパーパルディア皇国に潜入している諜報員から、彼の国の今までの所業は分かっていた。だが、実際にやられた側から聞くと説得力が段違いに違かった。
空母に戻ってきた海斗は、乗組員とともにこちらに向けて手を振っているフェン王国国民に向けて手を振りかえしてした。そんな中、船は動き出す。徐々に加速していき、30ノットになったところで等速で航行する。
(パーパルディア皇国………何か嫌な予感がするな…)
海斗は嫌な予感を感じながらも、次の国交交渉の国家であるムーについて考えていた。だが、海斗のその予感は当たることになってしまう。それも最悪の形で………。
「あぁ………分かった」
海斗からインカムで報告があった。その報告の受け取り先であるゆかは自身の執務室の椅子で何か考えるような仕草をとっていた。そんなゆかの表情は真剣になっており、近くにいる咲夜もその様子に気付いていた。
「どうしたのですか?」
「咲夜か……何やら嫌な予感がしてな…」
ゆかも海斗と同じような、もしくはそれ以上の嫌な予感を抱いていた。ゆかは海斗よりも勘が鋭い。だからなのか、フェン王国とパーパルディア皇国の衝突に対して危機感を抱いていた。
「嫌な予感ですか……」
「そうだ。それが杞憂で済めば良いが………そうはならないだろうな」
パーパルディア皇国のプライドが高いことはゆかは知っていた。そして、フェン王国に懲罰攻撃をするために派遣されていた東洋艦隊を全滅させた日本に対して、舐めているとして宣戦布告する可能性すらゆかは視野に入れていた。
「この世界に
「分からないということですか?」
「あぁ」
ゆかは手元にある紙に視線を落とす。そこにはある衛星画像とともに「レイフォルで確認された第二次世界大戦時の
対パーパルディア皇国戦にて参加するネクロマンス首脳部は?(大和ゆかは参加確定)
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