ゆかは誰もいなくなった執務室である出来事を思い出していた。それは日本人を虐殺されていく様子を見て思い出した記憶。それは前世界で起きた過去の記憶。そして……………ゆかの過去の記憶。
その記憶はゆかが「大和ゆか」となる前の出来事であった。
西暦2023年8月10日 日本国 人工能力者開発研究所
「やったぞ!!大成功だ!!」
白衣を着た研究者が叫ぶ。彼はパソコンやら薬品やらがたくさんある部屋の壁際にある複数の特殊な液体で満たされたカプセルを見ていた。それらの中にはどれも
そのうちの一つのカプセルが動き、中の液体が放出されながらフタが開く。それと同時に中の子供が起き上がる。
「おはよう、実験番号29604号。意識ははっきりしているかな?」
「…………はい」
「よろしい。私のことはクロン博士と呼んでくれたまえ。後は彼について行きなさい」
「…………はい」
実験番号29604号が退出した後、クロン博士は急に人が変わったかのように大声で笑い出した。しかもガッツポーズまでしている。
「ようやく、ようやくだ!!複数の強い能力者の遺伝子をいくら組み合わせても最強の能力者が生まれなかったのにようやくだ!!これであの計画を進められる!!」
そう言うクロン博士の手元には政府から渡されたある計画「クローン技術を活用した能力者大量生産による兵力増強」について書かれていた。それを見た彼は不敵な笑みを浮かべていた。
実験番号29604号。それがゆかが「大和ゆか」と名乗る前の名前だ。当時の彼には感情というものがなく、ただただ研究者や政府高官などの命令を聞く機械みたいな存在だった。
「
今彼が行っているのは能力の強化訓練だ。指定された目標に達するまで能力を使用して、クリアしたらまた次の目標に向けて能力を使用する。それをひたすら繰り返す。失敗すると最初からになり、全てクリアするまで休むことは許されなかった。それでも彼は表情一つ変えず、何の疑問も抱かずに淡々とこなしていった。失敗して体罰や他の
数カ月経つと、彼は段々実戦投入されていった。今は政府に仇なす存在を秘密裏に処理する仕事をしている。成功率はほぼ100%を収め、政府からも
そんなある日、彼は弱い能力者と無能力者が結託して起こした大規模な反乱の鎮圧を頼まれて請け負うこととなった。その時の彼の装備はナイフ6本と拳銃2丁のみだった。だが、たったそれだけの装備でも反乱軍を蹂躙するには充分だった。
「相手は1人だ!!やっちまえ!!」
「…………目標発見。殲滅する」
実験番号29604号は右手にナイフ、左手に拳銃を持って戦場を駆け抜けた。敵が能力を発動するとそれを避けながら拳銃でその敵を撃ち抜き、敵が銃を撃とうとするとすぐさま至近距離まで接近し首筋を斬って絶命させる。大砲やら対戦車砲やらを持ち出してきたら能力で絶命させる。ナイフ、拳銃、能力による攻撃をそれぞれ状況に合わせて行う。
「お前ら!撤退だ!!」
自軍の劣勢を見た反乱軍指揮官は即座に撤退の指示を出す。その間にも実験番号29604号は戦場を蹂躙しており、撤退しようとする者、撤退している者を次々と殺していく。
やがて最後の1人になった。その1人は街中に逃げ込もうとしたがそれは叶わなかった。背後から心臓を一突きされたのだ。
全滅した反乱軍だが、29604号の攻撃はそれだけではなかった。彼は関わった街を襲い始めたのだ。いきなり人が死に絶え、家が破壊され、あちらこちらで人が逃げ回る。それでも逃げ回っている人は反乱軍と同じような運命を辿った。
その様子をドローンから見ている人物がいた。その人物はクロン博士。実験番号29604号を生み出した研究者である。彼は淡々と機械のように人を殺戮していく29604号の姿を見て、満足そうにしていた。
29604号が虐殺と変わりないことをした日から数日後、訓練場に彼はいた。彼の目の前には彼と同じ顔をした人物が複数立っていて、両者とも戦闘準備をしていた。
『これより、実験番号29604号の強化実験を始める。3、2、1、スタート』
その放送と同時に全員が動き出した。29604号は開始と同時に能力を発動させ、模倣した多種多様な能力で一人一人確実に仕留めていく。また、その間にもナイフや拳銃を使用して至近距離に接近した個体も仕留めていく。
「………ターゲットロックオン完了。攻撃開始します」
その声が聞こえた瞬間、29604号はその場から飛び退いた。さっきまで彼がいた場所は小さな窪みができており、何かの攻撃が行われたと推測できた。
彼が飛び退いたことで大きな隙が彼にできた。その隙を見逃さず敵は彼を一気に攻め立てる。
「右腕に被弾。軽傷のため戦闘継続します」
ついに29604号の右腕に37564号が撃った銃弾に被弾した。だが、痛みを感じている様子を見せずに戦闘を継続する。
「
29604号が能力を発動した瞬間、目の前の敵が炎上した。炎上した敵は火を消そうと踠くが、29604号は容赦なく頭に銃弾を撃ち込んだ。それを見ていた敵の仲間は、味方が殺されたのにも関わらず何の反応もせずに無表情で攻撃を続行した。
能力による攻撃や銃弾が飛び交う訓練場。そこで29604号のスコアが1000人を突破した時、訓練が終了した。訓練場の床や壁、彼の服などには29604号が殺した
その数日後には再び反乱軍の鎮圧を依頼された。彼が現場に着くと前回より多い反乱軍の姿がそこにあった。
「目標発見。殲滅を開始する」
彼は無表情でそう言うと強く地面を蹴って敵に接近した。手に持っているナイフで首筋を斬り裂くと、その近くにいる敵の頭を銃弾で撃ち抜く。反乱軍は銃弾を乱射するが、29604号はそのほぼ全てを避けたり銃弾を撃ち落としたりして防ぐ。何発が自身に命中しているが、怯みもせずに反乱軍に突っ込んでいった。
「
やがて反乱軍の真ん中に到達すると29604号はそこで能力を発動させた。29604号が使用したのは爆弾を生成する能力であり、威力が大きい爆弾を使用して辺り一面を反乱軍ごと焦土にした。
「ば、化け物だ………」
それは誰が呟いたのだろうか?生き残っている兵士かも知れないし亡くなった者の遺言かもしれない。だが、その言葉は周りの反乱軍に伝播していった。反乱軍が口々に29604号のことを化け物と言う。化け物と言いながら逃走する。それらの言葉は29604号には届かないが、その様子を見ているクロン博士には届いていた。
『フハハハハハハハハハ!!!そいつは傑作だ!!確かに化け物とは言い得て妙だ。が、29604号は化け物以上の性能だ!!』
笑いながら言うクロン博士。そんな中、逃走している反乱軍を殲滅しようと29604号は市街地へ突入する。
「…………目標の殲滅に障害となるもの多数。まとめて始末します」
そこには多数の民間人がいた。反乱軍に関わっていない民間人が。それを29604号は反乱軍の殲滅の障害となるとして即座に始末することにした。
まず狙われたのは29604号に一番近かった男性だった。今の29604号の姿は反乱軍の返り血を浴びて血塗れなので、周りの人たちは悲鳴をあげながら逃げようとしていた。その男性も例外ではなく、ナイフと拳銃を持っている血塗れの人が来たら逃げるしかない。だが相手は、兵器として育てられているクローン、その中で最強の29604号だ。逃げられるはずがない。その男性は頭部を撃ち抜かれて死亡した。
その光景を見ていた「映画の撮影か」とかいう頭お花畑の逃げ遅れた人が逃げ惑う。そんな格好の的に対して、29604号が攻撃しないはずがなかった。
「目標多数確認。殲滅する」
そこから29604号による虐殺が始まった。人が殺される度に街は血で染まっていっている。
「ぎゃあぁぁァァァァァァァァァ!!!!」
「やめ、やめてぇーーー!!!!!!」
「おかあさぁぁぁあん!!いやぁ!!!!やめてぇ!!!」
「や、やめろーーー!!!死にたくない!死にたくない!」
「目がー!!目がー!!目に血が入ったー!!!ぐぁっ!!」
「いやっ、いやっ、い、」
それらの悲鳴は全て29604号に殺される何の罪もないただの一般人のものだ。彼はそれらの悲鳴に何の感情も抱かない。自身のことはただの兵器だと思っている、思い込まされているが故に。また、彼に感情がないのも何の感情を抱かない理由の一つだろう。
「いたぞ!!敵は1人だ!」
「………目標の増加を確認。敵と認定し、殲滅する」
彼はひたすらに機械的だった。言われた目標を達成するだけの兵器に過ぎなかった。だが、彼は強かった。強く命令に忠実であるがために傑作と謳われた。
「………殲滅完了。帰投する」
その日、この街は血で染まった。
「さすがだ!!29604号!!瞬く間に65000人を殲滅するとは!!」
帰投した29604号はクロン博士の激励を受けていた。だが、それにも何の感情も抱かない。彼は返り血を落とすとそのまま自室へ帰っていった。
自室についた29604号は備え付けられたカプセルの中に入ろうとする。その時だった。
「29604号、ちょっといいかな?」
突如、背後から声が聞こえた。振り返るとそこには1人の少年か大人の男性か分からない人物が立っていた。気配も何もなかった彼に29604号は警戒心丸出しで見ていた。
「ふふっ、別にとって食べるわけじゃないんだからさ………」
「………侵入者発見、始末します」
「うおっと!?危ない、危ない」
「…………能力発動不可。敵のダメージゼロ。勝ち目なしと判断し、自爆態勢に入ります」
29604号は拳銃を下ろし、ナイフも手放し、首にあるチョーカーのスイッチを入れようとした。そのチョーカーの中身は爆薬になっており、スイッチを入れて数秒後に爆発する物だ。29604号は自爆することで謎の男を道連れにしようとした。謎の男は彼のそんな行動を爆発を
「………爆発せず。これ以上の抵抗は無意味と判断」
29604号は諦めたように手を広げて無抵抗の意志を示した。手に持っている武器を捨て、隠して持っていた武器も捨て、無表情で謎の男を見つめる。謎の男は静かに微笑んでこう口を開いた。
「落ち着いてくれてよかったよ。僕は君と話をしに来たんだ。興味を持ったからね」
29604号の頭の中は?でいっぱいだった。普通なら興味を持ったからって研究所に単身で、しかも誰にも悟られずに来ることができるのはおかしい。それに気配を感じさせず自分の背後に立って声をかけてきた。彼にはこんなことはできない。せいぜい気配を消す程度だ。謎の男のように気配を周りと同化させることはできなかった。
「何。別に大した話じゃない。世間話やら僕の思い出話やらを話すだけだ。それにそんなに長居するわけでもないしね」
「………………」
「うーむ。相変わらずの無表情。まぁ、それもそれで良し」
「………………」
「まずは自己紹介だね。僕は赤城闇市だ。よろしくね」
29604号は一切喋らなかった。赤城の話を聞くだけで何の反応も示さない。謎の男はそれでも話していた。赤城にとっての最近の事や自身が所属している反乱軍内で起きた面白い事、楽しかった娯楽など様々な事を話していった。
「お?もうこんな時間。また、来るね」
そうして赤城はその場から消えた。口止めを29604号にした上で。ただ命令に従う人物である29604号はその口止めに素直に従った。
翌日から毎日と言っていいほどのペースで赤城がやって来た。そのどれも誰にも悟られずに来ていた。29604号は襲っても勝てないのは分かっているので赤城を始末しようとしていなかった。
そして、赤城が29604号に会いに来るようになってから数カ月後、29604号にある変化が起きた。
「……………もっと聞かせて」
その日も赤城はいつも通り無反応の29604号に話すだけ話して帰ろうとしていた。だが、実際に帰ろうとした時、29604号は赤城の服を掴んで上の言葉を話した。赤城は目を丸くしている。
「……………重大なバグが発生、原因不明」
「バグじゃないよ。それは感情っていって、今の気持ちは寂しいっていうんだよ」
「29604号は兵器です。兵器に感情はありません」
「まぁ、今はわからなくでもいい。いつかわかる時がくるよ」
赤城は29604号の手を服から手を離させてその場から消えた。
「これが……感情……理解不能…」
外にいた赤城は仲間であるある人物と合流していた。その人物は後に諜報機関『霧』のトップを務めることになる人物だった。その名は無刈雅。能力『透過』でずっと赤城と29604号のやり取りを外から観察していたのだ。
「どうだった?彼は」
「なんとなく赤城がなぜ彼を気にいるのかがわかったよ」
「そうでしょ、そうでしょ。政府に潜入している君が言うんだから、間違いない」
赤城は嬉しそうに研究所の方向に視線を向けた。
その日から29604号は少しずつ変わっていった。赤城と接していくうちに、無表情だったのが少しずつ表情を変えるようになってきていた。また、感情も豊かになっていき、反乱軍をできるだけ一撃で殺したり訓練で様々なことを聞くようになっていた。だが、その変化は良い影響を与えただけではなかった。
「いいか?29604号は兵器だ!兵器に感情など必要ない!!分かったか!!」
このように、クロン博士主導で感情を持ち始めていた29604号を元の機械的な29604号に戻そうとしていた。そのために手段を選ばなかった。
そして、ついに研究者にとって恐れていたことが起きた。29604号がわざと反乱軍を見逃したのだ。正確には反乱軍に関わっていた街を襲わなかった。前まで襲って虐殺を繰り広げていた29604号が襲わなかったのだ。これには研究者らは焦った。焦った結果、29604号に対する対応を過激化させていった。暴力や言葉で徹底的に29604号を追い詰める。
その光景は赤城と無刈も見ていた。
数週間後、クロン博士は29604号を傑作から失敗作と評価を落とし、政府もそのように評価を落とした。それと同時に、政府は「クローン技術を活用した能力者大量生産による兵力増強」計画を失敗と判断し、感情を得たことによる反乱防止のためにクロン博士にクローン全員と29604号の処分を命じた。
クロン博士は29604号の処分を実行するためにある作戦を立てた。最強のクローンで最強の能力者である29604号を処分するには骨が折れるため、クロン博士は感情という弱点を利用する作戦だ。後に、この作戦が29604号を完全に怒らせ、29604号を兵器から人間へと転換させることになる。
翌日、29604号は訓練場に呼び出された。否、29604号だけじゃない。他の
「こんにちは、我が成果たち。そして、29604号」
クロン博士がそう言った瞬間、29604号を除いた全てのクローンが29604号に対して戦闘態勢に入った。これを見た29604号はモニターに向けて怒鳴る。その表情は額に青筋を浮かべ怒りに染まっていた。この頃になると、29604号は人間と同じような感情や表情を持つようになっていた。
「博士!!これはどういうことですか!!」
「29604号、君は変わってしまった。感情を手に入れ、我々の言葉に従わず意見を言ってくる。兵器は兵器らしく黙って我々に従えば良いのだ。そこに感情など必要ない」
29604号は目を見開いた。今の言葉は要は「君は感情を手に入れたから捨てるね」と言っているのと同義だ。彼にとってこれは裏切りと言えるもの。よって彼は怒りに震えたが、手を握って堪えていた。
「博士!!29604号を裏切るのですか!!」
「裏切る?裏切ったのは君ではないかね?我々に対する危険因子を全て始末せず、さらにはそれ以外にも意見を言うようになって自分勝手に振る舞う。我々は君を生み出し、ここまで育ててやったのに関わらずこれらの行為は裏切りと言って他に何と言うのかね?」
「敵戦闘員だけ始末して何が悪い!!それにこちらは裏切ってなどいない!!」
「ほう、あくまでシラを切るか。まぁ、いい。どちらにしろ君の処分は感情を持った時点で決定事項だ。そして、他の個体も」
クロン博士がそう言うと周りのクローンは一斉に戦闘態勢を解き、首元のチョーカーのスイッチに手をかざす。それを見た29604号は咄嗟に叫ぶ。
「なっ!!やめろー!!!」
29604号は動けなかった。数が多いのもそうだが、何より彼が体を動かそうとすると何かに拘束されているような感覚を覚え、無理矢理動かそうとしてもやはり拘束されているような感覚と同時にその場から動けなかった。
「足掻いても無駄だ。君は自分のせいで死に行く他の個体を特等席で見ているといい」
そうして、29604号を除いた他のクローンらがチョーカーのスイッチを押した瞬間、29604号は
「あっ、あぁ」
29604号は限界だった。今までも他の個体を殺してきたがここまで精神が摩耗することはなかった。理由は彼が感情を手に入れたためだ。感情を手に入れた影響は訓練にも顕著に現れていた。どれくらい顕著なのか。それは他の個体らを自身の兄弟と認識するほどだ。そう認識すると、他の個体を訓練の称する殺し合いの際に手加減をして引き分けに持っていって殺さなくなる。実際に29604号はそれをやった。そんな大切な存在と認識している者を目の前で自爆させられたのだ。
「全く酷いことするね」
29604号が涙を流しながら俯いて絶望していると、その背後から声が聞こえてきた。モニター越しに見ているクロン博士にもその声は聞こえており、侵入者と咄嗟に判断して始末するように研究所直属の警備隊に指示を出した。だが、警備隊からは何の返答もなかった。その理由は声の主から齎された。
「無駄だよ。警備隊は既に
訓練場の真ん中に移動したその声の主はその姿を現した。
「僕は赤城闇市。隣にいるのが無刈雅だ。よろしく、クロン博士」
「能力者か。それも隠密系の。生身での実力もあると見た」
「良く分かったね。自慢するわけではないけど僕は強いよ。ほい」
「なっ!?どうやって破った!!」
赤城は話しながら29604号に接近して肩に手を置く。それだけ、たったそれだけで29604号の拘束が解けた。クロン博士はそれを見て驚愕する。
「僕にとってこの程度、無効化するのは容易い。それだけだよ。それより………」
赤城は29604号の背後から横にいく。チラッと視線を向けるが、未だに彼は俯いている。そんな彼に赤城は声をかけた。
「いつまで俯いているんだい?29604号」
29604号は聞き覚えのある声に顔をゆっくりと上げる。その顔は相変わらず絶望に染まっていて、目に光がない。
「もしかして自分のせいで弟が死んだと思っているのかい?」
「…………だってそうだろ!!俺は兵器だ!!兵器に感情は必要ないんだよ!!それなのに俺は、俺は!!」
「君は悪くない。それに君は兵器じゃない」
「何を言っているんだ!!俺が皆を死なせたんだ!!それに俺は最強能力者を生み出すために作られたクローンであり、兵器なんだよ!!」
「君こそ何を言っているんだ、29604号。兵器に感情以前に自分の意志自体がない。君たちは従うという意志自体はあったんじゃないか?外が知らないからそれしか意志がなかっただけで」
その言葉に29604号は「はっ」とした。確かにその通りだと納得した。今まで研究者たちの言葉に従っていたが、いつでも意見を言ったり逆らったりすることはできたはずだ。それを29604号が証明している。それなのに従うだけだったのは、そうなるように教育を受けていたからだ。
「それに29604号は悪くない。悪いのはクロン博士たち研究者だ。それを指示した政府も」
赤城はそう言い切った。対するクロン博士は口角を上げて興味深そうに赤城を見ていた。
「クローンは世界的に禁忌とされている技術。それに飽き足らずクローンを兵器扱い。
クローンは人間だ。人間は心を持つ。心を持つから感情に意味が生まれる。無表情だったクローンにも心があるということは彼が証明している。そんな者たちを利用して、且つ「要らないから処分する」と言わんばかりの態度。さすがにキレるよ?」
「何を言うのかと思えばそんなことか。確かに君の言うことは一理ある。だが、クローンは兵器として製造された時点で兵器であり、禁忌とされている技術を利用して誕生したクローンに居場所などここ以外にないのだ。ならば、ここで殺すことも救済だとは思わんかね?」
「思わない。殺すことに対して救済は大義名分にならない。博士がやろうとした事、やった事は到底許されることではない」
「それなら彼もじゃないですか?いくら私の命令とはいえ、非戦闘員を大量に虐殺したんですよ。つまり、私の行いが許されないことだとしたら、それに従った彼も許されないことをしたと言えるでしょう」
クロン博士は赤城に反論する。29604号が見守る中で2人の口論はさらに続いていた。
「彼が従ったのはそれしか選択肢がなかったからだ。博士たちはそうなるように教育していたんだろう?君たちは兵器だの、我々の命令は正しくそれに大人しく従っていればいいだの、外に君たちの居場所はないだの、そのように教えていたんだろう?研究所に忍び込んだ際に録音した証拠もある。これで反論があるなら聞いてみたいね」
赤城は録音機をポケットから取り出してモニターに映る博士に見せつけるように上に掲げる。それを見たクロン博士は赤城の表情も見て嘘ではないことを察する。
「………確かに29604号が悪くないのは認めよう。だが、君たちは反乱軍だろう?世論はどちらを信用するかな?」
確かにクロン博士の言っていることは一理ある。現在の社会情勢は実力主義社会であり、強者によって弱者が淘汰されている。場所によっては強者が弱者を無理矢理従わせているところもある。その事例からわかるように数が多い弱者は、一定数いる強者に怯えて逆らえないのが現状なのだ。そのような状況の中で反乱が起こると、その勢力は反社会勢力と見做されすぐさま殲滅される。つまり、反社会勢力として殺されるより強者に従い生存率を上げるのが弱者の意見であり、そうすると世論のほとんどが敵に回ることになる。
上の現状を改めて認識した赤城はクロン博士の言葉に答えた上で自身の考えを述べた。
「もちろん政府側を信用するでしょう。だが、我々はそんな社会に問題があるからこそ反社会にならざるを得ないのです。それに鎮圧されようとも、僕には勝てない」
「…………確かに警備隊を全員倒したりここまで探知されずに来たりしているので、その自信は本当なのでしょうね。ならば、ここでその芽を摘むことにしましょう」
瞬間、モニターが切れ、訓練場の壁が真っ黒に染まる。反射的に赤城と29604号は背中合わせになって周囲の警戒をする。
29604号は復活していた。赤城が頑張ったこともそうだが、彼は自分のような存在を今後生み出させないために、そしてなによりクロン博士という自身を縛り付ける存在から解き放たれるために反抗することを決心したのだ。すると、爆散して辺りに飛び散っていた29604号の兄弟の血や肉片が光の粒子となり29604号の手に集まった。集まった光の粒子はだんだんと片手剣の形を成していき、やがて紫色の片手剣を形成した。
「29604号を、
それに肯定するかのように片手剣はキラリと光った。
その片手剣は彼の手によく馴染んでいた。禍々しい雰囲気を感じさせるその片手剣に彼は直感である神器の名前を付けることでその片手剣を定義した。その名は、
「いくよ、『ダーインスレイブ』」
29604号がそう言った瞬間、片手剣に紫色の光が纏っていく。彼はその剣をいつでも突き出せるように構えた。
「まとめて消えろ!!
クロン博士が目の前に現れて能力を発動したのと同時に29604号は剣を力強く突き出した。
「穿て!!【ダーインスレイブ】!!」
本来なら周囲が真っ暗になって何も見えなくなったところを一方的に攻撃する技が、29604号の技によって破られた。赤城はそれを見て笑みを浮かべていて、クロン博士は想定外だったのか苦虫を潰したような顔をしていた。
これ以降もクロン博士と29604号の攻防戦は29604号が優勢な状況で終始進んでいった。
「貴様ァ!!誰がお前を生み出したと思ってやがる!!」
「博士だと思っている!だが、それだけだ!!」
クロン博士の闇の力と29604号の模倣の力がせめぎ合う。一進一退の攻防で出る衝撃は頑丈なはずの訓練場の壁にヒビを入れ、いつ崩れてもおかしくない状態になっていた。そんな中、クロン博士を29604号が弾き飛ばす。
「ぐっ!おのれ、29604号!!」
「それに俺は29604号じゃない!!」
口に出たクロン博士の恨み言葉を否定する29604号。否、彼は完全に博士から繋がりを絶つために、そして人間となるために自身が考えた自分の名前を思いっきり叫んだ。
「俺は、29604号じゃない!!俺は、
大和ゆかだ!!!」
29604号改め大和ゆかは無意識に能力を発動して、壁に激突して血を吐いている博士に向けてビームを放った。そのビームは博士には物凄く見覚えがあった。
「なっ!?私の能力を!?」
博士は対抗するように同じ技をぶつけて火力勝負の形となった。だが、ゆかは今までの彼とは違った。博士が想定していた威力を大幅に超えて、博士をビームごと呑み込んだ。
この後、ゆかは赤城と無刈と協力してこの研究所を潰した。潰した後はゆかと無刈は反乱軍に入りネクロマンス創設へと繋がる。赤城は1人で旅を再開し、しばらく経った後にネクロマンスと殺し合うことになる。
(懐かしいの思い出したな…….)
過去を思い出していたゆかは目の前にある書類を見て現実に引き戻される。運命で見た日本人虐殺はもはや避けようのない運命であり、今目の前にある書類はその報復案をまとめたものになっていた。後はパーパルディア皇国にいる2人が帰ってくるのを待つだけであり、ゆかは首を長くして目を閉じて瞑想しながら彼らを待っていた。
能力説明
・
その名の通り。
・
その名の通り、見ただけで特定のものを炎上させる魔眼。炎上させると言っても大火傷するぐらい。
・司法 闇
闇を司る能力。博士の能力の上位互換。
補足
大和ゆかの由来
大和→大和は日本を表し、自身が日本最強能力者として作られたことから。
ゆか→紫を「ゆかり」として、「り」を抜いただけ。理由は兄弟の魂が込められた片手剣が紫色なことから。
ほぼ無理矢理の設定ですが、今回の話を書くにあたりなんとか違和感をできるだけなくした結果が上のようになりました。完全にこじつけに近いので、今後、本編を改訂するかもしれません。
キャラ紹介
NO.12 赤城闇市 男 19歳
旧反乱軍所属
かつてクローンだったゆかに感情を教えた人物。赤髪で好青年の印象がある彼だが、今回の話に出てきたように研究所に忍び込んだりとプロの軍人と変わりないセンスと能力がある。しかし、それと逆に子供たちと遊んでいる光景が見られることがたまにあるんだとか。今は亡くなっている。
能力
【
ありとあらゆるものを無にする能力。解釈次第でどんなものにもなれる最強の能力。例として
【
その名の通り霊を操ることができる能力。この能力は後付けであり、彼の死後に彼を生き返らせて傀儡とすると同時にこの能力を植えつけた。かつてネクロマンスと対峙する前はこの能力と元からある能力を使って無差別に虐殺していた。
設定集「皇国陸軍兵器」を更新しました。
更新内容
・近接航空支援機「小鷲」
設定集「キャラ紹介」を更新しました。
更新内容
・NO.12 赤城闇市
対パーパルディア皇国戦にて参加するネクロマンス首脳部は?(大和ゆかは参加確定)
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黒岩煉
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小野未来
-
船橋海斗
-
冬花雪