中央暦1639年7月14日 日本皇国ネクロマンス本部
「あーつーいー!!!」
自身の能力を少し強めに使って自身の体を冷やしながら会議室に入ってきた雪。7月は夏の日差しが照り注ぎ、気温がグングン上がる。この季節は冷房が必需品になるのは確定であった。
会議室には既に雪以外のネクロマンス首脳部4人が座っており、その表情は明らかな呆れが入っていた。それを見た雪は興味深そうにゆかに問いかける。
「なになに?なんでそんな呆れてるの?」
「雪、これを見てみろ」
そう言ってゆかが雪に渡したのはパーパルディア皇国からムー経由で来たある文書だった。その文書は前回(第四十三話参照)を見れば分かる通り、殲滅戦の布告であった。所謂、民族浄化である。
その布告がムーより届いたのは7月13日のことであった。レミールがムーゲにその文書を渡したちょうど一週間後である。日本はその時、次の戦略目標であるアルタラス王国解放のための準備をしていた。各軍の兵はそろそろ出撃だということを察して士気は高揚していた。その時にこのような布告が届いたのだ。
雪はゆかから受け取った文書を見る。彼はその文書に書かれている文字を見て、発動している能力を無意識に強くした。表情もダラけている顔から口角を上げて笑みを浮かべていた。
「へぇ〜。そういうことね〜」
「あぁ、そういうことだ。これについての会議をやるからまずは能力を弱めろ」
「はーい!」
ゆかに言われた通り能力を弱めて席についた雪。止めろと言っていないところから冷房代わりにしようとしていることが窺える。
「さて、先ほども言った通り殲滅戦、「民族浄化しますよ」と向こうは堂々と布告してきた訳なんだが、正直
ゆかのその言葉に頷く一同。日本は当初、誘導爆弾やミサイルといった誘導兵器を使用して民間人の被害をできるだけ少なくするつもりだった。そもそも、フェン王国侵攻が盛大に失敗したことで日本について調べて講和を検討するぐらいはしているだろうとかいう甘い考えまで浮かんでいたのだ。それはないのはわかっていても、最低でも徹底抗戦ぐらいで殲滅戦まではないだろうと考えていた。だが、実際に日本のことを理解していないのか殲滅戦を布告してきた。もはや救い様がない。
日本はパーパルディア皇国に何度も力を見せてきた。一つ目はフェン王国で行われた軍祭で監察軍を瞬殺したこと。二つ名はパーパルディア皇国から見て巨大な軍艦6隻を引き連れてきたこと。三つ目は精鋭の中の精鋭である近衛兵を瞬殺し、即座に退散したこと。それらだけで日本の力はわかる筈だ。また、レミールに渡した公文書も紙の質がパーパルディアより高品質であり、それから日本の力に気付く機会もあった。
日本とて弱い者いじめは好きではない。だが、いくら日本の力を理解できるように見せつけても、それを文明圏外国だからハリボテ、もしくは見た人が精神病を患っていると決め付けて見下し、蛮族だと断定し、延いては殲滅戦を布告してきた。ここまでやってもわからない国は見捨てるしかない。
ゆかは会議室にあるホワイトボードにパーパルディアの地図を貼り付ける。属領含めてオーストラリアぐらいの面積があるパーパルディア皇国だが、そのほとんどが属領であった。しかし、兵や兵器の数だけは大量にあり、向こうは物量戦を仕掛けてくることが予想された。
「今回の戦争にあたって我が国は徹底的にやらなければならない。向こうは殲滅戦を布告してきた。ならば、こちらも徹底的にやらなければならない。だが、一気にやるのではなくじわじわとやるのだ」
一同は頷く。要は嬲り殺しにしろとのことだ。
「ちょうど新兵器や魔改造兵器の実地試験もできる。さすがにアルタラス王国解放作戦の時は使わないが、パーパルディア本土攻撃の時は大いに使用する」
ゆかはホワイトボードと対面し、手に持った丸型の小さい磁石をパーパルディアのある場所に貼り付けた。その場所は皇都エストシラントであり、パーパルディアの首都であった。
「ここは確実に占領しルディアスとレミールを捕らえる、もしくは殺害するのが最終目標だ。煉、説明よろしく」
「分かりました。まず前哨戦としてアルタラス王国解放作戦を行います。『霧』からの情報ではアルタラス駐屯部隊は約5000名以上、地竜も少なくとも10匹は確認されているとのことです。また、航空戦力においてもワイバーンロードが約30騎以上はいるとされ、艦隊戦力についても戦列艦が30隻が停泊しているとの報告が挙がっています。なので、この作戦における勝利条件はアルタラス王国からこれらのパーパルディア軍の完全なる排除になります」
アルタラス王国の地図を出し、貼り付けて説明する煉。彼が言っていた『霧』とはネクロマンス首脳部直属の諜報機関である。隊長は無刈雅であり、霧はアメリカの諜報機関CIAと一時期睨み合っていたという経歴があった。そんな猛者が集まる諜報機関から派遣された諜報員を捕捉できる国はこの世界には存在しなかった。
煉は丸型の磁石と水性のペンを手に持って説明を続ける。
「第一段階として空母艦載機及び本土から出撃した爆撃機による空からの強襲で陸海空全てにおいて攻撃を開始します。この時、アルタラス王国にいるパーパルディア艦艇は全て撃沈させます。その後間髪入れずに海兵隊10万人を上陸し、橋頭堡を確保します。それが出来次第、第二段階に移行します。
第二段階は確保した橋頭堡に機甲師団20師団約60万人を上陸させ、そこから電撃的にパーパルディア統治機構に進撃します。この際、空母艦載機の支援を受けながら進軍することになります。同時にアルタラス王国内に残っている抵抗組織が一斉蜂起することになっていますが、彼らに合流したら彼らを後ろに下がらせて民間人のお守りをさせてください。統治機構を占領が完了したら最終段階に移行します。
最終段階はアルタラス王国内に残っている残党を掃討します。白旗で降伏してきたら別ですが、それ以外は全て殺します。
以上のことが全て終わったら作戦完遂とします。これらの作戦名はアルタラス王国に伝わる救国の英雄の言葉からとり、『タス作戦』とします」
「はいはーい」
煉が一息つくと雪が手を上げた。雪が何をしたいのか察することができた煉はため息をつきながら雪に問いかける。
「なんですか?」
「いやー、その作戦名を日本風にしたいな〜なんて」
「……………どうします?ゆか」
煉はゆかに問いかける。ゆかは「うーん」と悩んでいた。『タス作戦』と名付けたのは彼であるから当然である。
3分ほど考えて、ゆかは決心した。
「わかった。雪の言う通りにしよう。だが、あくまで表記だけだ。それでいい?」
「ありがとう〜!」
雪から了承を得られたゆかは、ホワイトボードに作戦名を書き入れた。
「作戦名は『
「「「「異議なし!!」」」」
声を揃えて言う一同。そうして名前も決まったところで次の作戦の説明をする。
ゆかはアルタラス王国の地図を剥がし、その地図の下に貼り付けてあったパーパルディア皇国の地図を出した。剥がしたアルタラス王国の地図はすぐそばにある机に置いて、パーパルディアの地図に手に持っている磁石を貼り付ける。
「パーパルディアを攻略する上で重要な要衝はこの五つだ。
一つ目は奴らの首都、エストシラントだ。ここを占領すれば奴らの士気も下がり、経済的にも大打撃を与えることができるだろう。また、ここに巨大な陸軍基地や海軍基地などが確認されているため、戦略的にもここの攻略は必須事項だ。
二つ目はパールネウスだ。ここはパールネウス共和国だった頃の首都であり、現在は聖都と呼ばれているとのことだ。だからなのか、日本国時代の人気作品である『進撃○巨人』のような巨大な壁のようなものが衛星から確認されている。また、この都市の中心部にはパーパルディアを建国した人物の銅像があるらしい。これらを破壊すれば国民感情をへし折ることが可能な可能性がある。
三つ目はデュロだ。ここは奴らの工業都市であり、奴らの軍需物資もここで生産されているとのことだ。よって、ここを叩けば経済的にも戦略的にも追い詰めることができる。
四つ目はクリートだ。ここは奴らの造船所がある。あの量の戦列艦のほとんどがここから竣工している。ここを叩くことで奴らの海軍戦力の根幹を潰すことができる。
五つ目はコーンネウスだ。ここに奴らの生物繁殖場がある。奴らの地竜やワイバーンもここで育てられているらしい。ここを叩けば奴らの航空戦力や主要機甲戦力が根こそぎ消えるだろう」
ゆかはそこまで話すと、五つの磁石が貼り付けられたパーパルディアの地図のある地点にマーカーで丸印を付けた。この地図は衛星写真であり、パーパルディアの様子が鮮明に写っている。丸印が書かれた場所はちょうど森で覆われている場所であった。
「そして、我々が最も警戒せねばならないのはここ、コンフィルだ」
「……これってもしかして…」
「ああ。核兵器のサイロと酷似している。恐らく魔帝の遺産のコア魔法か何かだと思うが、奴らが使用する可能性が大いにある。だからこそ、ここはなんとしてでも制圧しなければならない」
ゆかはこう言っているが、使用するのは確実だと彼は推測していた。理由は簡単だ。引き金が軽いのだ。地球のように核の脅威を理解しているのなら話は別だが、この世界では神話として伝えられているだけで実際に見たことがない。故に引き金が軽い。また、パーパルディアはプライドだけで使う可能性すらあった。故に引き金がクソ軽い。
恐らく切り札として使うだろう、それが一同の考えだった。
「パーパルディア本土攻撃作戦の概要を説明する。
まず、アルタラスにあるムー製の飛行場を拡張し、そこから戦略爆撃を行う。この攻撃は本土から飛ばした爆撃機も参加予定であり、攻撃対象は全て、つまり無差別に行う。これを随時行う。これを『
同時にパーパルディア本土に未だ大量にある艦隊を撃滅する。これを『海龍作戦』とし、『紀伊』を旗艦として徹底的に潰す」
「紀伊をですか?」
「ああ。流石にたまに使ってやらんと練度が下がるし、改装後の実地試験もできるしちょうどいいんだ」
彼らが言っている『紀伊』とは、第零主力艦隊旗艦『紀伊』のことである。この艦は日本海軍総旗艦でもあり、宇宙海軍総旗艦でもある艦である。
紀伊型宇宙戦艦1番艦紀伊。それが艦名である。現日本最強艦という二つ名があるだけあって練度も高い。そんな紀伊だが、実は日本転移前に改装に入っていたのだ。そんな中で転移災害が起きたのだが、改装は続けて行われていた。ロデニウス大戦時も改装は続けられていて、改装のスピードが上がったのはアズレン世界にナチスがいたことからだった。本来なら1年半ぐらいで終わるはずだった改装は1年で終わらせた。
煉が驚いていたのは改装が終わっていたことに対してと滅多に動かすことがない紀伊を動かすことに対してだった。紀伊を最後に戦線に投入したのは第五次世界大戦で、それ以降は切り札として温存していた。それにも関わらず、世界大戦と比べれば小規模な戦争に投入するゆかの決断に驚いていた。
「話を戻すぞ。
艦隊を撃滅したら上陸して橋頭堡を築く。その作戦を『
全ての上陸が完了したら本格的な進撃作戦『溶岩作戦』に移行する。概要は名前の通り、溶岩のようにじわじわと進撃する。そのため進軍速度は非常に遅くなる。だが、この進軍の際に新兵器や魔改造兵器の陸上での実地試験を併用して行うことになっている。
そこまで説明が終わると、煉が席を立ってゆかと交代する形でホワイトボードの前に立つ。煉は上に腕を上げて何かを掴むと下に下げる。出てきたのはプロジェクタースクリーンで、全て出すと懐から出したリモコンでプロジェクターを起動する。プロジェクタースクリーンに映ったのは参加兵力の資料だった。
「参加兵力は陸軍はアルタラス王国に約70万人、パーパルディア皇国に約240万人となります。海軍は第一〜第三主力艦隊で第一連合艦隊を編成し、紀伊を総旗艦として制海権を確保してもらいます。また、対地支援もゆかから確約してもらっており、さらに海兵隊30万人も貸してくれるとのことです。空軍は第500〜5700航空隊が参加すると加賀野から通達がありました。さらに増やすことも可能であるとのことです」
「あれは出さないの〜?月面基地に停まってあるやつ」
「新兵器の実験するから出さない」
未来が宇宙海軍のことをゆかに聞くが否と答えた。宇宙海軍は現在月面基地に停泊しており、謎の人工衛星(後に魔帝の僕の星とわかる)を捕獲、解析していた。また、新兵器の実地試験の際に失敗したら宇宙海軍が処理をするということになっていた。この説明だけで察した読者がいるだろうが、その通りである。新兵器の一部に
「彼女らはどうするの?」
雪がゆかに問いかける。彼女らとはゆかの住居にもなっている紅い館の住民のことだ。
「出たいらしい。だからアルタラス王国戦で出そうと思っている。もしかしたらパーパルディア本土戦でも出す可能性はあるがな」
ゆかが答えている間に煉は自分の席の近くに移動する。ホワイトボードはそのままになっており、プロジェクターもそのままになっていた。
「さて、作戦をまとめようか。
アルタラス王国解放作戦である『
この戦いは我々日本皇国がパーパルディアを攻め滅ぼす戦いである。殲滅戦には殲滅戦を。降伏する暇を与えずに徹底的にやれ!!」
「「「「はい!!!」」」」
その声の後すぐにネクロマンスは動き出した。
日本皇国 在日ムー大使館
「突然申し訳ありません。至急、貴国に要請したいことがありまして」
「な、なんでしょうか?」
在日ムー大使のユウヒに冷や汗が流れる。彼は日本がムーより強い国家だとよく知っていた。故に何か法外な要請でもするのかと一瞬だけでも身構えてしまった。この世界は弱肉強食であるため仕方ないことだが、ユウヒを訪れた特別外交官である海斗はそれを察してしまった。
互いに緊張が走る。
そんな中で海斗が口を開いた。
「我が国がアルタラス王国を解放しようとしているのはご存知ですよね?」
「はい」
「貴国はアルタラス王国内に空港を造っていると聞きまして、解放が終わった後にパーパルディアを攻撃するのに使用したいのです。なので、その使用許可と設計の詳細が知りたいのです」
海斗のその言葉を聞いてユウヒはホッと胸を撫で下ろした。そうして答える。
「確かに造りましたが、所有権は空港がある国に属することになっています。なのでアルタラス王国内にある空港はアルタラス王国のものとなります。なので、我が国は所有権を持つ国から許可を得られれば何も言いません。しかし、現在パーパルディア皇国に占領されているので、使用できない状態となっています。それに関しましても、好きに使用していただいて構いません」
「ありがとうございます」
この後海斗は、アルタラス王国臨時政府の王ルミエスから許可を取ってきたという……。