中央暦1639年7月17日 パーパルディア皇国 第一外務局
「おのれぇー!!!おのれ、おのれ、おのれぇ!!!」
ここ、パーパルディア皇国第一外務局では1人の女性の怒鳴り声が響き渡っていた。その女性、レミールが手に持っているのはある一つの報告書であり、その内容はパーパルディアの戦略を根本から覆す可能性があり得るほどの内容であった。
『属領アルタラス王国陥落に関する報告書』
上記はその報告書の表紙に書かれているものである。日本軍による攻撃を受けて、アルタラス王国を失陥したのだ。これは、パーパルディア皇国の第三文明圏における無敵神話を打ち破る決定的な証拠となり得るものであった。
「詳細を説明します。
つい先日、在アルタラス皇軍は日本軍による攻撃を受けて連絡が途切れています。陸海空どの連絡も途切れているため、全滅したと判断しております。また、統治機構の職員の連絡も途切れており、恐らく殺害されたかと見ています」
詳細を説明しているのは第一外務局局長のエルトである。彼女は黒目黒髪の美熟女の容姿をしていて、二つの果実もレミールほどではないがある程度デカい。しかし、政府高官だからなのか独身であり、密かにカイオスを想っているのでないかと一時期噂されたことがある人物である。
そんな彼女だが、レミールにアルタラス王国陥落の詳細を報告する時、僅かにだが震えていた。それはレミールの怒りが飛び火することを恐れていたからだ。この報告はレミールの怒りを暴発させる。それはわかりきっていたことだからだ。
「何故、我が皇軍が敗北する!?我が皇軍は第三文明圏最強ではなかったのか!?」
「い、いえ、我が皇軍は第三文明圏で最強なのは変わりはありません。しかし、日本には飛行機械の存在が確認されています。現に、アルタラスでは報告が上がっていませんが、フェンでは上がってきています。それを考えると、アルタラスでも飛行機械を投入された可能性が高いです。そして、飛行機械を作れるのはムーしかいません」
「そうか、そういうことかぁ!!ムーめ!!やってくれたなぁ!!代理戦争とは小癪な!!おい!ムー大使を召喚しろ!!真偽を確かめる!!」
「会議中失礼します!!」
レミールが激昂していると1人の部下が息を切らしながら入ってきた。緊急の報告があって走ってきたのだろう。
「ムー本国から在パーパルディアムー人に国外退去命令が出されました!!既に輸送船や飛行機械で退去が始まっています!!」
その報告は、先ほどまで会議であがっていたムーの関与を決定的にする証拠になり得るものであった。少なくとも、飛行機械を作れるのはムーしかないという認識のパーパルディアが、ムー人の国外退去を受けてムーの日本に対する関与を信じるのは仕方ないことである。
「やはりか!!おい!至急だ!!ムー大使を召喚しろ!」
レミールのカン高い声が響いた。
パーパルディア皇国ムー大使館にいるムー大使ムーゲは、ムー本国に届いた日本からの要請に「やはりか」という表情で読んでいた。日本から出された要請は、パーパルディアにいる外国人の国外退去の要請であった。これは、日本の国力を知っているムーゲにとっていつか来るだろうなと思っていた要請であった。そして、本国はそれを受諾。在パーパルディアムー大使のムーゲに命令として国外退去が通告されたのだ。
「ようやく、ここから出ることができるな」
ムーゲはパーパルディアにはうんざりしていた。プライドが高いのはまだ許容範囲だが、明らかに格上の日本に対して殲滅戦を宣言した時点で内心見放していた。それでも彼がここにいたのは、仕事だからとしか言いようがない。ムーゲは真面目だった。
「一応、外務局に伝えとくか」
そうして、ムーゲが第一外務局に向かおうと準備をし始めた時だった。
「ムーゲ大使、第一外務局から召喚命令が届いていますが…」
「召喚命令?ちょうどよかった。私もそこに向かおうとしていたんだ。すぐに行くって伝えてくれ」
荷物をまとめてるムーゲ。そんな時、一枚の写真が机からヒラリと落ちてきた。その写真を見たムーゲは「まさかな」と思いなからも、それを懐にしまった。他の写真は机の上にあったが、それも懐にしまった。
準備ができたムーゲは、第一外務局に出発する。ムー大使館の目の前に停まっている馬車に乗り、どのように国外退去のことを説明するかを悩みながら向かっていく。
第一外務局に着いたのは、ムー大使館から出て約30分後だった。馬車から降りたムーゲ他四名は、案内人に従って小会議室に向かう。
やがて、小会議室に着くと案内人がドアをノックする。
「ムー国大使の方が来られました」
「どうぞ」
中に入ると、レミール含む第一外務局の幹部が席に座っていた。それを確認しながらムー大使一同は、案内人に促されて席に座る。
「我が国が日本皇国とかいう蛮族と戦争状態になっていることは把握しているだろう。この件に対して、ムー国の一連の対応の説明を願いたい」
会談が開始した後すぐにムーゲに問いかけたレミール。ムーゲはレミールが言った
「はい。この度、パーパルディア皇国は日本皇国と戦争状態に突入しました。その際、激戦となることが予想されるため、ムー政府は自国民の安全を確保するために貴国から避難指示を発令するに至りました。今回の指示は、大使館や空港の職員の一時的な引き揚げも含みます。この措置は貴国にも被害が及ぶという判断からされています」
ムーゲのこの言葉に、レミールは呆れと落胆の表情をする。
「上辺になどどうでもいいのです。本当のことを話していただけませんか?」
「?意味がわかりませんが」
「意味がわからないだと?ムーもとんだ狸を送りこんできたものだ。フェンとの戦いに飛行機械が確認されている。飛行機械が作れるのはムーぐらいだ。つまり、あなた方ムーは、蛮族に今までしてこなかった武器の輸出をした。そう考えれば、我が艦隊が敗北したのも頷ける。あなた方は軍艦も輸出していると推測できるからだ。それに加えて、今回の自国民引き揚げだ。これが何を意味するかは馬鹿にでもわかるだろう。つまり、ムーは我が皇国と代理戦争をしようとしている。
だからこそ聞きたい。何故蛮族に武器の輸出をした!!?何故我が国の邪魔をする!!?」
レミールの説明は、だんだんと怒号に変わっていく。ムーゲはその説明を受けて、どこか引っ掛かていた。
日本は非文明国ではない。なのにパーパルディアは蛮族と言っている。実際はムーを超える科学文明国家であるのにも関わらずだ。
「あなた方は何か勘違いをしている。我々ムーは日本に武器などの輸出はしていない。あなた方が見たのは、全て日本が自国で作った武器です。彼の国は、我々より進んだ機械文明を持っているのです」
「列強第二位のムーより文明圏外の蛮族が進んでいるなど信じられるか!!」
レミールはムーゲの言ったことを信じていないようだった。これを見たムーゲは、己の不運を恨んだ。
彼が過去に推測した「まさか」は本当だったのだ。
パーパルディアは、日本のこと「文明圏外の蛮族」と一方的に決めつけ、碌に調べもせずに戦端を開いた。しかも、殲滅戦まで宣言した。日本が使っている武器に関しても、文明圏外の蛮族が作れるはずがないとして「ムー国製」だと決めつけた。
「彼を知り己を知れば、百戦殆うからず」という言葉があるように、昔から情報は戦いをするにあたって大事なものであった。それは、情報一つで戦局が変わる可能性があるほどだ。それに関わらずパーパルディアは日本を調べなかった。調べていれば、また別の結末になっていたはずである。
「………日本が転移国家という情報は、掴んでおられないのですか?」
「転移国家だと?そんなおとぎ話を信じられるか!!」
レミールは「出鱈目を言うな」とムーゲに突っかかる。過去の報告書にもそのような記載はなかったし、現実主義者でもある彼女にとってそれはあり得ないことだからだ。
「信じられます。何故なら我が国も転移国家だからです。他国では神話としか思われていませんが、約1万2000年前にこの世界に転移したことが我が国の歴史書にはっきりと記録されています。
日本について調査した結果、彼の国は我が国が元いた世界から転移した国家であることがわかっており、また、当時の友好国であることもわかっています。当時の友好国であるヤムートは、ヤマタイコク、ヤマトなど様々な国名に変化し、現在の日本皇国に至ります。それに、日本でも我が国の転移は伝説として語られていたそうです」
ムーゲは懐から複数枚の写真を取り出す。その写真は、ムー大使館を出発する前に「まさか」と思いつつも懐に入れていた写真だった。
「こちらをご覧ください。日本と我が国の戦闘機の写真ですが、日本の主力戦闘機『雷迅』はプロペラという風を送り出す機械がありません。しかし、我が国の『マリン』にはついています。速度も、あちらは音速を超すことができるようです」
レミール一同は、ムーゲが机に置いた写真を見る。そこには、先ほど説明された日本とムーの戦闘機の写真があるが、日本の戦闘機の形状を見たエルトが見たことのある機構に目を見開く。見たことのある機構、それは世界最強の国、神聖ミリシアル帝国の戦闘機に似ていたのだ。つまり、少なくとも日本は神聖ミリシアル帝国と同等レベルの技術力を持つことが窺えた。
「それとこちらもご覧ください」
そう言ってムーゲが出したのは、日本の戦艦と戦車が映っている写真だった。
「こちらは日本の戦艦で、巨大な砲塔を搭載されているのがわかります。しかも、この砲塔は貴国で言うところの「回転することができる砲塔」です。我が国の戦艦『ラ・カサミ』も回転砲塔を持ちますが、日本の戦艦には装備、装甲、速力など全ての面で勝てません。しかも、日本はこれを数百単位で保有、運用し、驚くべきことにこれらの戦力は全て侵攻用の戦力で、防衛用の戦力は別にあるのです。
こちらは日本の戦車という分厚い装甲を持ち巨大な大砲を持つ、貴国で言う地竜です。この戦車は我が国が開発している戦車より全ての面で凌駕しています。しかも、一部の戦車は軍艦にも対抗できるということです。
この他に日本は「ミサイル」という兵器があります。いわゆる魔帝の誘導魔光弾の科学版なのですが、これをほとんどの軍艦や戦闘機に搭載しているのです。そのことから、我が国は日本を
この説明をムーゲから聞いた一同は顔を青白くする。その中でも特にレミールは、青白いどころか血の気が失せて白くなるほどだった。そんな彼女の目は光を失い、その視線を下に向けていた。その様子は、まるで自分が自分自身だけでなく国の運命を左右する取り返しのつかない失敗をしたかのようであった。
(なるほど。日本との戦争、そして殲滅戦の元凶はレミールか)
ムーゲはそんなレミールを見て上のように察することができた。彼はさらに言葉を続ける。
「殲滅戦を宣言されているということは、貴国も相手から殲滅される可能性があります。そうなった際、エストシラント含むパーパルディア全土が灰塵に化す可能性が高いのです。
ムー政府は自国民を守る義務があり、今回の国外退去もそのようなことから出したのです。我々ももうすぐ引き揚げます」
そこまで言って、ムーゲは席を立つ。
「戦いの後、もし国が残っていたら私はここに戻ってくるでしょう。あなた方が生き延びることを祈ってますよ」
ムーゲは扉に向けて歩き出し、ムー大使館一同はこの場から退出した。
会談が終わった第一外務局一同はお通夜状態になっていた。理由はムーゲが話した内容である。仮に彼が話していたことが本当だとしたら、パーパルディアは古の魔法帝国を超えるかもしれない国の民を殺し、尚且つ殲滅戦を宣言してしまっている。
「さて、これからどうするかな……」
レミールはそう言葉を漏らした。そんな彼女らは未だに茫然自失の状態であった。
「ムー大使が言っていたことが本当のことだとは限りません。ムーが日本を利用していた場合は勝機があります」
「……フ、フハハハハハハ!!」
レミールは突然笑い始める。
「まさか、“代理戦争”という最悪の想定が唯一の望みになるとは、これほどの喜劇があろうか!!」
エルトはレミールが壊れたかと思った。
彼女を心配する最中、エルトは日本のことを思い返していた。
彼女が日本のことを最初に知ったのは、フェン王国侵攻失敗の時だった。御前会議で日本の名を聞き、彼の国を最初は文明圏外の蛮族としか思っていなかった。当時の作戦の報告書には、飛行機械があるという文があったかもしれないが、この時はまだ気にしていなかった。
次に知ったのは、対日殲滅戦の宣言の時だった。この時も、パーパルディアの属国がまた増える程度ぐらいにしか思っていなかった。いくらフェン王国侵攻の失敗で監察軍が壊滅しても、今度は正規軍が相手になる。よって、負ける要素がないと思っていた。
状況が変わったのは属領であったアルタラス王国が陥落し独立した時からであった。在アルタラスのパーパルディア軍は殲滅され、停泊していた戦列艦も軒並みやられていた。この時の攻撃にも、フェン王国同様に飛行機械が使われていたことからムーの関与を疑った。だからこそ、先ほどレミールが問い詰めた。だが、ムー大使の返答は意外なもので日本の方がムーより全ての面で上だという。他の人はそれを疑っていたが、エルトはムー大使が言っていることは本当だと思っていた。何故なら、嘘をつく理由がないから。仮に嘘をついていたとしても、列強上位国が自国を下にして言うのか?言わないだろう。それだけでムーが嘘をつかない根拠になる。
エルトは視線を天井に向けた。既にやってしまった行為は消せず、失った時間は戻らない。この先日本は、パーパルディアを滅ぼすために攻撃を開始するだろう。そうなれば、勝機はもはやない。なら、少しでも譲歩を引き出すために戦うしかない。
この日の第一外務局の会議は、深夜にまで及んだという。
中央暦1639年7月20日 早朝 日本皇国 紅魔館
「パチェ!!準備できた?」
「できたわよ、レミィ」
目が痛くなるほど真っ紅に染まった洋館であるここ、紅魔館のエントランスに2人の女性がいた。1人は吸血鬼の羽が生えている水色が混じった青髪の少女、もう1人は紫髪でパジャマみたいな服装をしている人物だ。前者はレミリア・スカーレット、後者はパチュリー・ノーレッジといった。
2人はそれぞれ愛称で呼ぶほど仲が良く、今もこうして2人で出撃準備をしていた。
「それにしても、パチェが自分から動くなんて珍しいわね」
「そうでもないわよ?日本は様々なジャンルの本で溢れているから、たまに買いにいくわよ。普段はこあに任せているけどね」
パチュリーが言ったこあとは、彼女の使い魔の小悪魔の愛称である。
「それに、色々良くしてくれる日本人が虐殺されたのよ。いつも通っている本屋の大将も殺されたわ。日本軍が報復してくれたから良かったものの、今度は殲滅戦の宣言よ?私たちまで殺すと言われたら対抗するしかないわよね?」
笑顔でそう言うパチュリーだが、レミリアにはブチギレているようにしか見えなかった。それもそのはず。パチュリーがいつも通っている本屋は魔導書も扱っており、その本屋の大将はパチュリーがまだ日本に慣れなかった時に懇意にしてくれた恩人でもあった。そんな人物が殺され、尚且つ日本に住む人全員殺しますよと言われればブチギレるのも納得であった。
「レミィ、あの頃みたいに暴れるわよ」
「そうね、奴らに報いを受けされなければならないものね」
パチュリーが言ったあの頃とは、紅魔館が日本にやってくる前、並行世界の中世にいた頃である。当時は教会の襲撃が頻繁にあり、襲撃されたら報復で徹底的にその教会がある街を攻撃するということを紅魔館はやっていたのだ。今回もあの頃のように徹底的にやるつもりだ。
「そろそろね、いくわよ!」
レミリアのその声の後、2人は紀伊に転移した。
「ちょっと〜!!置いていかないでくださ〜い!!」
チャイナドレスを着た女性、紅美鈴が置いてかれたことは別の話である。
この後、美鈴はゆかによってレミリアたちと合流することができたという。