同日 12:00 パーパルディア皇国 皇城
「これより、緊急御前会議を始める」
この場には、様々な部署のトップが顔を揃えていた。しかし、全員の顔は暗く、会議場に重苦しい雰囲気が漂っていた。
緊急御前会議。それは有事の際に緊急で国の意思決定を行う重要な会議のことである。今回の議題は言わずもがな、日本のことであった。
この会議に参加しているのは以下のメンバー、
皇帝 ルディアス
皇族 レミール
軍の最高司令 アルデ
第一外務局長 エルト
第二外務局長 リウス
第三外務局長 カイオス
臣民統治機構長 パーラス
経済産業局長 ムーリ
この他にも様々な部署のトップが顔を揃えていた。とはいえ、いくつかの部署のトップは日本の攻撃で死亡しているため、この会議に参加しているのは、日本の攻撃から生き延びた者たちだけであった。
「まず、こちらをご覧ください。第一外務局と第三外務局が合同で作成した資料です。この資料に目を通して貰ってから本題に入りたいと思います」
そうして配られた資料には、これまでに判明した日本のことについて書かれてあった。
・中央暦1639年4月
ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国にいきなり汽車が走るようになる。原因を調査したところ、日本と接触し、同国から支援して貰っていたことが判明する。
・同年4月下旬
当時、ロデニウス大陸最大勢力を誇っていたロウリア王国がクワ・トイネ公国及びクイラ王国に侵攻し、ロデニウス戦争が勃発する。同戦争において、クワ・トイネ公国とクイラ王国は日本に救援を要請したと推測される。そして、日本はそれを受諾し参戦。結果、ロウリア王国は陸海軍ともに壊滅した。特に海戦では、日本によって2500隻以上の船が撃沈されていて、ワイバーンも甚大な被害を受けた。このことは観戦武官として派遣されていて、現在は精神を患っているとして療養しているヴァルハルの証言と一致している。
・同年5月下旬
フェン王国に対する懲罰攻撃のために出撃していた国家監察軍東洋艦隊がフェン王国沖で日本海軍によって全滅する。これが日本と初の武力衝突となる。
・同年7月上旬
フェン王国に対する再侵攻により、ニシノミヤコを陥落させる。その際に日本人観光客と思われる約200人を捕らえる。
・そのことを我が国に来ていた日本人外交官に絶対的な隷属の要求とともに伝えると、即座に解放の要求をしてきた。それに逆上したレミールが、皇族の名において全員殺処分する。
・これに激怒した日本は我が国に宣戦布告。その翌日にはフェン王国にいた侵攻部隊が全滅。ニシノミヤコも陥落した。この状況から、この時から日本と我が国は本格的な戦争状態に入ったと判断した。
・同時期、同場所付近にいた海軍も全滅。これで我が国の海軍の三分の一が失われた。
・この戦いの結果を受けて、日本に亡命していた旧アルタラス王国王女ルミエスが、日本でアルタラス王国正当政府を樹立した。これの背後には、明らかな日本の支援があると推測できる。また、この樹立の際にルミエスが各国の反乱組織に演説を行う。
・これにより、皇帝ルディアスの名において日本に殲滅戦を布告する。
・同年7月中旬
属領アルタラスが日本の攻撃を受ける。この攻撃によって、在アルタラス皇軍は全滅。アルタラス王国が独立する。
・同年7月下旬
皇都エストシラント、デュロ、パールネウスが敵の飛行機械による攻撃を受ける。その結果、皇都防衛隊陸軍基地が破壊されて皇都防衛部隊が壊滅する。また、同じようにデュロ防衛隊、パールネウス防衛隊が壊滅する。同時にデュロ、パールネウスは壊滅状態となる。
・一方、海上では日本の巨大船一隻と交戦した第三艦隊が全滅。同じように第一・第二艦隊も全滅する。これによって、我が国は海軍主力が実質的に喪失する。
・我が国の艦隊を全滅させた日本の巨大船は皇都に対し艦砲射撃を行う。約1時間ほど続いた艦砲射撃により、エストシラントは皇城以外更地に変貌する。
・攻撃に飛行機械が使われていたためムー大使を問い詰めたが、あの飛行機械は日本独自で開発されているものだとのこと。また、ムーによれば、日本は古の魔法帝国を超える力を持っているかもしれないと発言した。
・日本は自らのことを転移国家と名乗っている。しかし、この国が残した戦績は、文明圏外の国家の残した戦績ではなく、歴史上、このような国家の存在を我が国が認知していないわけがない。故に、いきなり現れたというのは間違いない。
資料が配り終わると、一同はその資料を見始めた。紙をめくる音だけが響き、数分後には全員読み終わっていた。
「それでは本題に入ります。まず軍の状況ですが、全ての面において悪いとしか言い様がありません」
アルデは額に汗を滴らせながら、開戦前と比べて随分と縮小した現在の状況を話していく。
「海軍は先ほどの海戦で全ての主力を喪失しました。残っている艦艇は、西に待機していた竜母6隻含む第1級艦12隻と第2級艦37隻、解体待ちとなっていた旧式艦47隻しか残っておりません。制海権は完全に日本の手に渡りました」
残っている艦艇数は合計96隻。これだけ見れば、第三文明圏とその周辺国の中で突出した力を持っていると見る事ができる。しかし、日本に対しては例外で、主力をあっさり沈める力を持つ日本と対峙するとなると、あまりにも小さく見える。
「陸軍に関しましては、今朝の攻撃で皇都防衛隊、デュロ防衛隊、パールネウス防衛隊が全滅しました。よって、この攻撃で全ての皇国三大陸軍基地が全滅したことになります。その原因として空から爆弾による大規模攻撃を全く想定していなかったことにあります。今後、基地を作る時には
アルデはここでひと息ついた。それと同時に、チラッとルディアスの方を見る。ルディアスはやはり顔を顰めていた。
彼が説明した損害は彼らの予想を大きく上回っていた。しかし、エストシラントをクレーターだらけに変えられたのを知っている一同は、ある程度の損害を覚悟していた。だが、それでも上回っていたのだ。特に予想外だったのは、資料に書いてあるパールネウスのことだった。
エストシラント、デュロ、パールネウスの中で一番被害が大きいのは間違いなくエストシラントだろう。その次がパールネウスだ。
エストシラントの人口は約1000万人いると言われている。それは日本が調べた結果と一致しているため間違いない。空爆後も紀伊攻撃時には少なくとも約800万人以上はいた。それに対して、紀伊は事前通告なしで攻撃を行った。その結果、民間人含め推定700万人以上が死亡している。生き延びた者はエストシラントの県境付近か、皇城近くに住んでいる人、もしくは途轍もない豪運の持ち主ぐらいしかいない。
その次に被害が大きいパールネウスは人口約750万人とエストシラントに次ぐ人口の多い都市だった。さすが聖都と言われるだけある。だが、空爆時に結界で逃げ場を無くされた挙げ句に、「バンカーバスター+二トン爆弾以上の威力のある爆弾」の性能を持つ釘型爆弾によって都市は瓦礫と化した。当然、そこにいた約750万人は文字通り全滅。骨すら残らなかった。
その惨状を知ったカイオスは内心、「既に遅かったか」と呟いていた。エストシラントがあの状況だと、カイオスが日本の攻勢に合わせて行おうとしていたクーデターもできないだろう。用意していた私兵も全滅してしまっている。
日本が行った一連の攻撃で、
アルデはさらに続ける。
「今、急いでその穴を埋めているところですが、失った戦力が大き過ぎて焼け石に水です。なので、属領統治軍を引き揚げて各都市の防衛につかせます。それでも、失った戦力が大き過ぎて元のように防衛することは不可能です」
「ちょ、ちょっと待ってください!!そんなことしたら、各地で反乱が起きかねません!!他に補う方法はないのですか?」
パーラスが慌ててアルデに異を唱える。というのも、パーパルディアの属領統治は現地民にとって過酷そのもので、その原因が統治機構の者が暴走していたからだった。それを知っていた彼は、職員への報酬の一つとして黙認していた。
だが、考えてみてほしい。現地民に対してこのような行いをすると、間違いなく現地民は反抗するだろう。それがないのは属領統治軍がいるからだ。なのにその属領統治軍が引いてしまうと、溜まっていた火種は爆発するのは目に見えている。パーラスはそれを危惧していた。
「無理です。ただでさえ、三大陸軍基地が壊滅しているのです。しかもその基地があるところは全て重要拠点。故に何がなんでもそこだけは守らなければならない」
彼が言っている三大陸軍基地があるのはエストシラント、デュロ、パールネウスだ。この三つは先ほども出てきたが、エストシラントは皇都、デュロは工業地帯、パールネウスは聖都と、パーパルディアの主要要衝でもある。いくら壊滅していたとしても、そこだけは敵に占領されてはいけない。
「それに、臣民統治機構は反乱を起こさせないためにあるのでしょう?ならば、既に牙は抜かれているはずですし、こちらに引き抜いても問題ないはずです。属領どうしの横のつながりもないので、そこまで心配する必要はありません。仮に、反乱が起きても、属領の防衛と皇都の防衛、どちらを優先すべきかお分かりでしょう?」
「ぐっ!」
パーラスは何も言えず、黙りこんでしまう。それを見たアルデは、話を続ける。
「空いた穴を埋めるための戦力の移動は既に陛下から許可を貰っています。また、新たに動員することで戦力を増やす許可も貰っています。それらを利用して、できるだけ防衛態勢を整えられるようにいたします」
アルデはそこまでは話して席に着席する。彼が着席し終わったら、カイオスが手を挙げた。
「現在の軍の状況から我が国は今までにない危機に陥っていることが充分ご理解いただけたかと思います。そこで皆さんにお聞きしたいのは、
皇帝を前に聞きにくいことを堂々と言ったカイオス。一同はギョッとした顔で彼の方を見る。
「アルデ最高司令にお尋ねしたい。現有戦力で日本に渡洋侵攻し、陛下のお望み通り日本人を殲滅することは可能か?」
「陛下のため、全身全霊で取り組む所存だ」
「精神論など聞いていない。できるのかできないのか、どちらかだと聞いている」
「………できません。海軍も陸軍も主力を失った以上、防衛だけで手一杯です。仮に、侵攻できるまで戦力の回復を計るとしたら確実に1年以上はかかります」
カイオスはルディアスの方をチラッと見る。ルディアスの表情は、変わらず暗かった。
「我が国から殲滅戦を宣言している以上、降伏してもパーパルディア人は1人残らず殺されるでしょう。そうなると徹底抗戦するしかないのですが、それをするだけの戦力が足りないことは先程の説明でわかっています」
「カイオス、余は既にアルデに動員の許可を出したぞ。それに地の利はこちらにある。それでも足りないというのか?」
「はい。それを説明するためにこの資料をご覧いただきたい」
カイオスが一同にある資料を配る。その資料は、前の会談の際に日本の外交官から渡された資料をカイオスが書き写したものだった。
「その資料を見て分かる通り、日本は四つの大きな島と多数の小さな島からなる人口約5億7500万人の島国です」
「なっ!?我が国の人口より圧倒的に多いではないか!!」
思わずムーリが声を荒げる。カイオスはそれを横目にさらに続ける。
「このように、日本は我が国を超える人口を有しており、我々が全力で動員しても彼の国の数には届かないでしょう」
「ならばどうする、カイオスよ」
ルディアスは問いかける。カイオスは少し間を置いた後、その質問に答えた。
「しかし、日本もいきなり全戦力を上陸させるようなことはないでしょう。補給の問題がありますから」
「つまり、上陸した敵を各個撃破すれば良いと?」
「それもありますが、動員後の戦力でもできるかは微妙なところです」
カイオスが懸念しているのは、日本がパーパルディアの兵力を上回った数で上陸してくることだった。古来から、攻める時は守る時の3倍以上の戦力で攻めると言われている。故に、上のような数で上陸してくる可能性があった。
「なら、どうしろと言うのだ?」
「簡単です。
「「「「「「な!?」」」」」」
カイオスの提案に一同は驚愕した。それは国としてあり得ないことだからだ。
ーーー国民皆兵。それは国民全員が兵士となることを意味する。この命令が発令されると、その国の国民は民間人ではなくなるのだ。
そんな狂気の沙汰とも言える提案だが、カイオスは平然としていた。理由は簡単だ。彼は
「それにこの命令を出せば属領の者までも対象になりますから、戦力が大幅に上がります。武器の不足などの様々な問題が出るでしょうが、本土防衛の重要性に比べれば大した問題ではありません」
彼のその言葉に一同は考えてしまった。いつもなら誰かしら反論しているだろうが、自国民が、自分が殲滅されるかもしれないという恐怖がそれを抑えてしまっていた。
「わかりました。属領から徴兵した者らを盾に防衛しましょう。そうすれば、精鋭をできるだけ温存させながら戦うことができます。そのようにして日本に出血を強要させれば、いつか日本も講和をせざるを得なくなるでしょう」
アルデはカイオスの提案にのった。それに続くように他の者ものっていく。
「………わかった。やるしかないようだな」
ルディアスは淡々と、そう言った。
「国民皆兵だと?奴ら、正気か?」
皇城に忍び込んで緊急御前会議を盗み聞きしていた、パーパルディアに派遣されている日本の諜報員、無刈雅は、パーパルディアが最終的に下した決断に驚愕していた。
「こ、これは……」
そんな彼の横にいる川内(艦)も同じく絶句していた。それもそうだろう。普通なら、国民皆兵なんて考えは出てこない。
「終わったな、急ぐぞ」
2人は会議が終わるや否や急いでエストシラントから脱出した。脱出用の潜水艦が近くの海岸に横付けされている。それに2人は乗り込む。
潜水艦はそのまま無事日本まで帰った。
「………まだ折れんか」
無刈と川内からの報告書を見たゆかはそう呟いた。彼はパーパルディアが簡単に降伏するとは考えていない。だが、国民皆兵は予測できていなかった。まぁ、普通あり得ない命令であるため、予測できないのが普通なのだが。
「煉、作戦を一部変更する。こうなったらパーパルディア人全員の心を徹底的にへし折ってやる」
ゆかは煉に作戦概要を伝える。その作戦は、後に、パーパルディアにとって史上最悪の悪夢となるものであった。
「作戦名は『
「大丈夫です。問題ありません」
「それと
「そうですね、すぐに呼んできます。ネクロマンス本部に待機させときます」
「頼んだ」
煉は会議室から転移で退出した。一方、ゆかはそのまま会議室に残っていた。
「………」
ゆかは少しの間黙り込む。そして、30秒ほど経つと立ち上がり、扉の方に向かっていった。彼がいた場所の机の方を見ると、そこに一枚の紙が置いてあった。それは、先ほど話していた作戦の概要が書いてある紙であった。
やがて会議室には誰もいなくなる。誰もいない会議室の中心の机には、新たに開発されたと思われる立体映像装置があり、それが起動しっぱなしで放置されていた。
ジッ……ジッ……ジジッ……
突如、その装置が動き出して立体映像が投影された。その立体映像はノイズがあるものの、しっかりと立体映像として機能していた。
映像はパーパルディアの衛星画像を映していた。そして、その画像に重なるように照準が出現し、パーパルディアのある街に合わさる。
ジッ……ジッ……ジジッ……………ブツン
その瞬間、映像が途切れた。だが、装置は相変わらず起動しっぱなしになっていた。そこにゆかが扉を開いて中に入ってくる。
「………気のせいか」
戻ってきたゆかの手には紫の剣が光り輝いていた。彼はそのまま甲板に転移する。再び誰もいなくなった会議室は何の反応も示さなかった。
(パーパルディアの街に照準が………これからやろうとしていたことが何故映像として?)
甲板に立っているゆかは、先ほどの映像に疑問を持っていた。何故なら誰も触っていないのに勝手に映像が投影され、しかもこれからやる作戦を表す内容が流れたからだ。
(ハッキング?いや、そんなことをできる人物なんて………いや、居たわ)
ゆかは本土にいる遊ぶのが大好きなネクロマンス首脳部の1人を思い浮かべる。彼なら、このような悪戯をしてもおかしくない。
「まぁ、緊張がほぐれたからいいか」
その呟きは波の音に紛れて消えていった。
設定集「皇国空軍兵器」を更新しました。
更新内容
・超重爆撃機 富嶽