中央暦1639年7月21日 パーパルディア皇国 皇都 エストシラント南方100km 海上付近
「さて、どうすっかな?」
海上封鎖中である第一連合艦隊総旗艦紀伊甲板で、総司令官のゆかはそうぼやいていた。理由はただ一つ。パーパルディアが発令した国民皆兵のことである。この命令により、パーパルディアに民間人はいなくなるので、それらの被害を気にする必要はなくなった。だが、属領の者を含めるとなると話は別になる。
日本皇国は当初、属領を全て独立させるつもりでいた。それは、アルタラス王国を復活させた時には既にその計画はあったし、パーパルディアの力を一気に削げることも理由の一つであった。しかし、国民皆兵でその計画は狂ってしまった。
「属領の者はできるだけ殺したくないしな……」
ゆかは完全に想定外の出来事で頭を抱えていた。まぁ、いくらなんでも国民皆兵は予想できないので、彼がこうなるのは仕方ないことだが。
「………属領の者たちの意思に賭けるしかないか」
ゆかは耳についているインカムで、本国にいる雪に連絡を取った。そうして伝えられたのは、アルタラス王国王女ルミエスによる属領一斉反乱への煽動の指示だった。
『皆さん、こんにちは。アルタラス王国王女ルミエスです』
紀伊の会議室にある立体映像でルミエスの会見の様子を見るゆか。周りには彼の部下たちが座っており、そんな彼らの手には立派な水が入ったコップが握られていた。ゆかも例外ではなく、それをたまに飲みながら、ルミエスの会見を視聴する。
『これから行う発表は正式に日本皇国の了承を得ています。
先日、アルタラス王国の北方、パーパルディア皇国皇都エストシラント南方約100kmの海域で日本皇国とパーパルディア皇国の海戦が行われました。
この海戦にパーパルディア側は主力戦列艦等約1032隻を投入しました。対して日本は1隻のみでこの艦隊に決戦を挑んだのです』
ルミエスがいる会見会場にいるマスコミがざわめき出す。いくら日本が強いからといって、明らかに多勢に無勢の状況。その場にいるほとんどが日本の敗北を信じて疑わなかった。
『結果は……………日本の圧勝です!!!日本は、傷を一切負わずに、海戦に参加したパーパルディアの艦艇を一つ残らず沈めたとのことです!!!これで、パーパルディアの主力海軍は全滅したことになります!!』
ルミエスの声に力が籠る。マスコミは日本の圧倒的な勝利に再びざわめき出す。
ルミエスの横には、日本から無償で提供されたプロジェクターに海戦の経過が映し出されていた。その映像には、日本の巨大船にパーパルディアの戦列艦群が突撃していき射程外から一方的にやられていく様子が映っていた。
『さらに、日本はパーパルディアが誇る三大陸軍基地全てに空から攻撃を行い、これを全滅させたそうです!!また、先ほど発表した海戦で勝利した日本の巨大船がパーパルディアの皇都に艦砲射撃を実施し、更地にしたそうです!!』
ルミエスのその発言に合わせるように、プロジェクターに映る映像が変わる。一番マスコミの反応が大きかったのは、やはりクレーターだらけと化したエストシラントの映像だった。列強の首都をこのようなクレーターだらけにするのは、本来なら不可能なことだからだ。
『パーパルディアは本土防衛の穴埋めのために属領統治軍を引き揚げ始めているという情報が入ってきています!!さらに、パーパルディアは国民皆兵を発令しました!!その範囲は、属領の住民である皆さんも含まれています!!』
ルミエスのその情報はマスコミにとって、この映像を見ている者たちにとって巨大な爆弾そのものだった。
『しかし、皆さん考えてみて下さい!!パーパルディアは国民皆兵をするほど余裕がないのです!!
皆さん!!今こそ立ち上がる時です!!皆が一斉に動けば、パーパルディアはそれを止める力はありません!!今こそ、力を合わせて祖国を取り戻そうではありませんか!!
パーパルディアはどの戦いでも日本に勝てない!!それはこれまでの戦いを見て既にわかっていることです!!そんな日本が、皆さんが動いたら独立を保障すると確約してくれました!!さらに、戦いの支援も確約してくれました!!
我々も戦うのです!!あの
属領の住民を鼓舞する今のルミエスは、その絶大なカリスマ力と容姿の美しさが相まって、紀伊で会見の映像を見ている乗員の一人が「女神だ……」と漏らすほど、大きく見えていた。
「………潜水艦艦隊に暗号通信。『根は崩れた』だ。急げ」
「はい!!」
「それと
「は!!」
ゆかの命令を受けた部下が会議室から退出する。
「さて、見せてもらおうか。
ゆかはそう呟くと、パーパルディア上陸作戦『
日本皇国 月沖
「総司令官から通達!!『予定通り始める。目標はコンフィル』とのことです!!」
成層圏のさらに上、星々が浮かぶ空間である宇宙にて、一つの大きな物体が動いていた。その物体は船の形をしており、見た目は明らかな戦艦だった。
その戦艦の名は、大和型宇宙戦艦一番艦『大和』。宇宙海軍第一主力艦隊の旗艦である。
「そうか。なら、すぐに『遊星』の中間誘導の準備をしろ!!」
その艦艇の艦長、
『大和』が中間誘導する兵器、『遊星』は日本が開発した新兵器である。『遊星』という名は、コードネームの役割を果たしているが、新兵器の性能的にあながち間違っていない名前だった。
「照準合わせました!!後は誘導を引き継ぐだけです!!」
燈の部下の一人がそう報告する。燈はその報告を聞くと、ふっと微笑み、
「発射まで待機!!いつでも引き継げるように、気を引き締めていけ!!」
燈の声が響いた。
日本皇国 月面基地
「司令官、遊星の準備完了しました。起動予定時刻まで後10分です」
月面基地の司令室では、新兵器の実地試験に向けた準備が行われていた。司令室は、近未来的な見た目の室内で、あちらこちらに様々な機械が置いてあった。そのほとんどがレーダーや月面の観測データの資料が映っている機械など、軍事に関係する機械が置いてあるが、一部はアーケードゲームなどの娯楽用の機械が置いてあった。
そんな司令室の一角で、新兵器『遊星』の実地試験の責任者である
「10分か。それぐらいならのんびりしててもカップ麺は食い終わるな」
ズルルルと麺を啜る音が響く。司令室は彼の他に30人以上の人がいるが、その誰もが静かなので、その音は物凄く目立った。
「はぁ、またですか?」
雄星の横に座っている部下がため息をつきながら彼に話しかける。雄星は時々、今回と同じようにしてカップ麺を食べる。その度に部下が「休憩室か食堂で食べろ」と注意している。それに彼は、一回カップ麺を目の前の機械にこぼすということをやらかしている。それなのに懲りる事無くカップ麺を司令室で食べていた。
「またとはなんだ?カップ麺は最高の時短料理なんだぞ」
「それはわかってますから、いい加減休憩室か食堂で食べてください」
今いる場所が司令室というだけあってか、静かに言い合う二人。そんな中、カップ麺をちょうど食べ終わった雄星は、目の前の機械についているモニターの画面を見る。その画面には、
「で?あれが今回の対象でいいのか?」
「カップ麺に夢中で話聞いてなかったんですか?」
どうやら彼は作戦の説明中にもカップ麺を食ってたらしい。そのカップ麺のラベルには「カレー味」と書かれていて、カレーヌードルを食ってたことが窺えた。
「対象はコンフィルですよ。あれは対象に使う衛星です」
「ふーん」
「「ふーん」じゃありません。新兵器の実地試験を行うのに「ふーん」はないでしょう」
「ねぇ」
「なんですか?」
「……カップ麺、片付けていい?」
「………三分間待ってやります」
もはや、どっちが上司かわからない二人である。部下が腕時計を見ると、実地試験開始まで残り5分となっていた。
部下は自分の席に戻り、パーパルディアの地上映像を目の前にある小さな画面に映す。画面の中心には、核兵器のサイロと酷似している部分が映っていた。
「お待たせ。残り時間は?」
「残り2分です」
雄星はちょうど3分で帰ってきて自分の席についた。片手には、シーフード味と書かれたカップ麺が握られている。
「片付けにいったんじゃないんですか!?」
驚いて声を上げるも静かにしながら声を上げる部下。その部下のツッコミに雄星は、あたかも当たり前かのように、「うん」と頷いた。
「行ったよ。けれど、新たなカップ麺を作らないとは言ってない」
「屁理屈じゃないですか!?」
そう静かに言い合いをしている二人だが、残り時間が30秒と実地試験開始時刻まで迫ってきていた。
部下は腕時計とレーダーを、雄星はカップ麺と謎の隕石の状況がでているモニターを見る。
「実地試験開始まで、5、4、3、2、1、0、遊星の制御を開始します」
「人工衛星の制御権の取得に成功しました。制御権を中間誘導担当の大和に移譲します」
「大和より通信。『これより、中間誘導を開始する』とのこと」
複数人の部下が次々と報告を行う。それを雄星は聞き分け、一人ずつ指示を出す。雄星は、相変わらずカップ麺を啜りながら、事態の遷移を見守っていた。
「|対地対空両用磁気火薬複合加速式半自動固定砲《ストーンヘンジ》とかあったら迎撃できたんだが、奴らにはそれがないからな。汚い花火になるだけだろうさ」
雄星はそう呟いて、カップ麺を啜った。
時は少し遡る。
「時は来た!!」
パーパルディア皇国の属領であるクーズでは、3000人近い反乱軍が潜んでいた。彼らは、パーパルディアの統治に対して反感を持つ者であり、ネットワークのように数十人単位ずつで潜んでいた。彼らのその活動は表立っていないため、統治機構の者に奇跡的にバレていなかった。
その反乱軍、クーズ王国再建軍のリーダー、ハキは、世界のニュースで流れたルミエスの会見と属領統治軍の撤退を好機として、一斉決起の準備に入った。
そんな中、ハキの右腕と称されているイキアは、手元にある短機関銃を見ていた。
「………MP40か…」
彼がボソッと呟いたのは、手元の短機関銃の名称だった。
ーーMP40。第二次世界大戦でドイツが使っていた主力の短機関銃である。そんな銃が何故彼の手元にあるのか。
「日本の諜報員たちには感謝だな」
イキアが呟いたセリフが答えである。
日本は、パーパルディアを内側から崩す戦略として、反乱組織に武器を無償で与えたり訓練を施したりしていた。そうすることで、パーパルディアの
日本から各反乱組織に与えた武器は、どれも第二次世界大戦で活躍した武器であった。MP40やM1ガーランド、三八式歩兵銃など名高い名銃たちが日本で再生産されて各反乱軍に提供されていた。これらは、ムーが主力として採用している7.7mm重機関銃と匹敵、もしくはそれ以上の性能を持つ武器であった。
「イキア!!準備はできてるか!」
「できてるよ!!」
そうして、この日、クーズ含む5ヶ所の属領で一斉に反乱が起こった。これを境に、他の属領でも次々と反乱が勃発することになる。
「撃てぇ!!」
ハキの声でクーズ軍は一斉に射撃を開始する。パーパルディアの主力であるマスケット銃ではできない連射できる銃で、マスケット銃で抵抗する統治機構の職員を蜂の巣にする。
一斉に決起したクーズ王国再建軍は、街の至る所にいて油断している統治機構の職員に向けて発砲した。それによって反乱が起きたことを察知した他の職員が統治機構に連絡しようと逃げ出そうとするが、同じように撃たれて死亡する。
その後、他の場所にいたクーズ軍と合流したクーズ王国再建軍は、そのまま統治機構まで進撃した。約3000人ものクーズ軍が、統治機構を完全包囲する。
「撃てぇ!!ここを突破させるな!!」
「バリケードをもっと固めろ!!」
統治機構の職員たちは、簡易的なバリケードを作って必死に抵抗する。だが、職員のほとんどが碌に軍事訓練を受けていない者であるため、士気も練度もクーズ軍より低かった。逆に、クーズ軍のほとんどは、祖国を取り戻すという強い思いと日本の支援という後ろ盾によって、士気は最高潮に達していた。
「ハキ様!!統治機構のバリケードが固く、突破できません!!」
「なら、
そうしてクーズ軍の奥から出てきたのは、
「食らいやがれ!!」
部隊の一人がその武器の引き金を引いた瞬間、武器から
この擲弾を発射した武器は、『パンツァーファウスト』と呼ばれる武器だった。対戦車兵器として名高いこの兵器が、簡易なバリケードを木っ端微塵にするなど簡単なことだった。
「よし!!今だ!!突撃せよ!!」
敵の防衛線に大穴が空いたことを確認したハキは、クーズ軍に突撃命令を出す。そして、ハキもそれに続くように突撃した。
統治機構の職員らは、手に持っているマスケット銃でクーズ軍を撃とうとするが、射程外から一方的に撃たれてどんどんその数を減らしていく。
やがて、統治機構の職員が全滅すると、次々と統治機構を制圧していく。そして、全てが制圧し終えて屋上に着くと、ハキはそこにあるパーパルディアの国旗をへし折り、かつてのクーズ王国の国旗を掲げた。
「みんな!!我々の勝利だ!!」
今、この時を持って、クーズ王国が再独立した。
「ん?あれは…」
「流れ星?」
突如、イキアを筆頭に空の異変に気付いた。その空には、昼間にあるはずのない流れ星が流れていた。
その流れ星は心なしかだんだんと大きくなっていた。
「あれ、近づいてきていないか?」
この場にいる誰かがそう言った。だが、それに対処する方法がない。
一同が諦めかけた時、流れ星は思っていたところと違うところに落ちた。
「お、おい。あの方角ってパーパルディアの方角じゃないか?」
「確かに」
「ということは、パーパルディアに神の鉄槌が下ったんだ!!」
「「「うおおおおおお!!」」」
クーズ王国民の声が響き渡った。
「弾着まで、3、2、1、弾着」
宇宙戦艦『大和』、月面基地司令室の両方のモニターには、遊星の着弾の様子がリアルタイムで映っていた。
ーーー遊星。それは新たな衛星兵器のコードネームである。この兵器の正式名称は『人工衛星型隕石落下装置』。いわゆる、人工隕石である。
今回は謎の人工衛星を利用して、それをパーパルディアに落とした。着弾地点であったコンフィルは、阿鼻叫喚の嵐になっており、そこにあった核施設と酷似していた建物も崩壊した。
「な!?ま、まさかあの隕石も日本の攻撃なのか!?」
人工隕石がコンフィルに落下した光景を偶然にも見ていたカイオスは、冷や汗をかきながら肩を震わせていた。
着弾時の衝撃は、そんなカイオスに容赦なく襲いかかる。衝撃波が建物を揺らし、爆風が強烈に吹き抜ける。
「日本は、神のようなことも、できるのか……」
カイオスはただ項垂れるしかなかった。
目撃者の証言
『日本の巨大船からの攻撃を運良く瓦礫が守ってくれたと思ったら、その次の日は国民皆兵の命令が出されて、私は皇都防衛部隊に配属された。私は海軍の掃除夫であり、多少の訓練は受けていたため、訓練についていくことができた。だが、それは唐突に訪れた。
それは、訓練の途中での出来事だった。私は当時、仲間とともに厳しい訓練をしていた。そんな時、コンフィルの方角に隕石が落ちた。この頃は、着弾地点がコンフィルでこれが日本の攻撃だとは知らなかったが、私のコンフィルの防衛部隊への異動がその翌日に出されたのは運が良かったと思う。一日早くなって隕石が降ってきた日に異動になっていたら、間違いなく私は巻き込まれていただろう』