皇国の幻想〜異世界へ〜   作:大和ゆか

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第五十二話 大蛇(オロチ)作戦

 中央暦1639年7月21日 14:00 パーパルディア皇国 皇都エストシラント 海岸

 

 

 そこに大量の艦隊が姿を現した。そのどれも現地人からすれば巨大な艦艇ばかりであり、何も寄せ付けない威容さが、そこにはあった。

 

 

「弾種、三式弾改!!主砲砲撃準備!」

 

 

 自動装填装置を介して無人制御で砲塔の中に自動で装填される特殊砲弾。その照準は、パーパルディアの全海岸線に向けられていた。

 

 現在、パーパルディアの海岸に砲口を向けているのは、第一連合艦隊に所属する全ての戦艦である。その数、なんと331隻。その中には、パーパルディアの皇都、エストシラントをクレーターだらけにした戦艦である紀伊も含まれていた。

 

 その戦艦群が対地攻撃するに当たって、ゆかの命令で全ての戦艦の主砲に三式弾改が装填される。三式弾改は、紀伊がエストシラントを艦砲射撃する時に使用した砲弾である。なので、今回の戦艦群による艦砲射撃も、前回と同様にクレーターだらけになることが予想された。

 

 

「ふぅ」

 

 

 ゆかは一つ深呼吸をして、真っ直ぐエストシラントの方向を見つめる。彼の頭の中には、既にクレーターだらけになった海岸線の様子がイメージされていた。

 

 

「始めるか」

 

 

 彼はボソッとそう呟くと、声を張り上げて作戦開始の号令を発する。

 

 

「これより、パーパルディア上陸作戦『大蛇(オロチ)作戦』を開始する!!全艦撃ち方、始めぇ!!」

 

 

 その瞬間、一斉に全戦艦の主砲が火を吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 パーパルディア皇国 エスタリア

 

 パーパルディアの皇都エストシラントの横に位置する地方都市、エスタリアにある一つの普通の屋敷にて、ある人物が焦りながら何かを操作していた。

 

 

「くそっ!!なんで繋がらないんだ!!」

 

 

 そう怒鳴るのは、グラ・バルカス帝国の諜報員であるエスケントだ。彼は、列強の軍事力を調べるためにパーパルディアに潜入する命令を受けて潜入していた。無論、パーパルディアの文化や歴史なども調べている。

 最初は順調だった。パーパルディアの防諜力は低いらしく、簡単に情報が手に入った。情報が手に入るとすぐに無線で本国に送った。それの繰り返しは、防諜力が低いパーパルディアの中で活動するエスケントにとって楽な任務であった。

 だが、状況は日本とパーパルディアが戦争状態になったことで変わってしまった。日本は、明らかにグラ・バルカス帝国と同様かそれ以上の技術を持っていて、それを用いて徹底的にパーパルディアを潰していった。つい最近は、グラ・バルカス帝国が誇る最新鋭艦『グレードアトラスター』よりも巨大な戦艦が、パーパルディアの皇都のエストシラントをクレーターだらけにした。その光景は、グラ・バルカス帝国がレイフォルにしたこと以上の光景であった。

 そして今、彼は手元の無線機を弄りながら怒鳴り散らしている。この無線機は暗号通信用の無線機なのだが、中々繋がらない。実は、日本が電波妨害をしているからなのだが、それに誰も気付くことはない。

 

 

「あんな兵器、祖国に向けられたら…」

 

 

 彼の頭の中には、あの巨大戦艦に祖国が蹂躙される様子が浮かび上がる。

 彼の国がレイフォルにした時のように、艦砲射撃で次々と街を壊滅させていく。瓦礫すらも残さない、苛烈な艦砲射撃でクレーターだらけになる祖国。ここまで来ると、エスケントは焦りながら無線機を弄る。

 

 

「早く、早く繋がってくれ……」

 

 

 無線機に祈りながら一心不乱に弄る。その横の机の上には、日本の爆撃機と思われる写真が置いてあった。

 

 

「早くしないと、日本が上陸してしまう!」

 

 

 あれだけの艦砲射撃があると、近く上陸作戦が行われる可能性が高いのを彼は知っていた。日本軍が上陸、もしくは上陸が近くなると、パーパルディアを現在進行形で蹂躙している爆撃機による爆撃がより激しくなるだろう。そうなると、自身の命すら危険になりかねない。

 

 エスタリアは内陸にある。だから、上陸時の艦砲射撃などによる初撃を回避はできるだろうが、航空機は話が別だった。特に、パーパルディアが殲滅戦宣言している以上、日本は容赦なく爆撃機でありとあらゆる場所を耕しに来るだろう。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

 

ドオォォォォォン!!!

 

 

 

 

 

 突如、大きな音が響き渡った。

 

 

「こ、この音は、またアイツか!?」

 

 

 彼が言うアイツとは、日本が誇る巨大戦艦『紀伊』のことである。それが意味することは、艦砲射撃が始まったことに他ならず、上陸作戦が近い可能性があった。

 窓からは、艦砲射撃によって放たれた三式弾改が炸裂して火の海になっている各海岸の様子が窺えた。

 エストシラントの復興作業に従事していた住民は、炸裂した三式弾改の餌食になり、沿岸部の市街地や住宅街は見る影もなくなっていった。残るのは何もないただの沿岸部だけであった。

 

 

ドオォォォォォン!!!、ドオォォォォォン!!!

 

 

 連続して放たれる三式弾改。レールガンとはいえ、大口径から放たれる砲弾の音は大きく響き渡っていた。

 エスケントは一旦外に出て、艦砲射撃している船の姿を視認する。だが、その船の量は彼の想像を超えていた。

 

 

「なっ!?20隻以上だと!?」

 

 

 目視できるだけで20隻以上の巨大な戦艦が沿岸に向けて艦砲射撃を行っていたのだ。しかも、その戦艦群の奥から砲弾が飛んできているため、少なくとも、30隻以上はいるだろう。

 

 

「に、日本はどれだけ国力がデカいんだ!?」

 

 

 戦艦はその巨大さ故に、維持するのに莫大な費用がかかる。護衛の艦艇も含めるとその費用はさらに莫大となる。それは、国家予算の数%に食い込むほどだ。つまり、戦艦の量が多いとその分国力が大きいということになる。

 

 エスケントが日本の国力に戦慄していると、ついに、エスタリアに三式弾改が着弾した。エストシラントの横に位置してある程度賑わっていたこの地方都市は、瞬く間に火の海に包まれた。幸運にも、彼がいる屋敷はギリギリ巻き込まれなかったが、この地方都市が既に戦艦の射程内に入っていると認識するには充分だった。

 

 エスケントは、一目散に屋敷に戻り日本の兵器の写真をカバンに入れて無線機も入れる。繋がらない無線機などゴミでしかないのだが、それでも一部の望みを賭けてカバンにつっこんでいく。

 

 

「これで………全部か」

 

 

 部屋中を見渡しながらそう呟くエスケント。彼は、カバンの取っ手を持つと、そのまま外に駆け出した。外は逃げ惑う住民たちで埋め尽くされており、そこに容赦なく日本の艦砲射撃が降り注いでいた。

 

 

「クソッ!?このままじゃ!?」

 

 

 走りまくる大量の住民たちに紛れ込んだまではいいものの、どこに逃げればいいかわからなくなった。混乱してあちこちに走り回っている住民たちについていっても、海岸に近づくか全く関係ない場所に着くかのどちらかだ。真っ直ぐ内陸に逃げればなんとか射程圏外に逃れることできるかもしれないが、今の混乱具合だと、それは如何も不可能だった。

 

 

「ならば、せめて本国に情報だけでも!」

 

 

 自分の死を覚悟したエスケントは、まだ無事な屋敷の影に身を隠し、無線機を取り出す。繋がらないのはわかっているが、奇跡的に繋がることに賭けるしかない。

 それが功を奏したのか、無線機に何か反応があった。ノイズが酷いが、何かの声が聞こえたのだ。

 

 

「よしっ!」

 

 

 エスケントは思わず小さくガッツポーズをした。無線がどこに繋がっているのかわからないが、本国の情報部に繋がっていることに賭けるしかない。それが彼が残っている時間でできることだからだ。

 

 

「こちら、エスケント!!現在、パーパルディアは日本の攻撃を受けている!!艦砲射撃だが、グレードアトラスターよりも巨大な船だ!!少なくとも500m以上はある!!主砲も明らかにグレードアトラスターよりも巨大だ!!

 爆撃機もだ!!いきなり姿を現して、パーパルディアに爆撃を行っていた!!明らかにアンタレスより速度が上だった!!」

 

 

 迫るように無線機に向けて叫ぶエスケント。ここで一息ついて、続ける。

 

 

「日本にだけは喧嘩を売ってはいけない!!こちらよりも技術も国力も上だ!!目視できただけで戦艦を30隻以上は確認できた!!頼む!!上層部は信じないだろうが、最低でも日本の調査に力を入れるように説得してくれ!!」

 

 

 ここまで言ったエスケントは、無線を切った。正直、ノイズだらけの中で叫んだので、伝わっているのかわからない。もしかしたら、敵に繋がっているかもしれないが、それを確認のしようが無い。

 

 次の瞬間、ついに三式弾改が近くに着弾した。爆風と火が瞬く間に周辺を包み込む。もちろん、彼も例外ではない。

 

 

「………ここまでか」

 

 

 彼は一瞬にして、そう悟った。そして、最期にこう叫んだ。

 

 

「皇帝陛下、万歳!!」

 

 

 彼は火の海に包まれて、永遠に意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻 第一連合艦隊 総旗艦 紀伊

 

 

「圧巻ですね、司令」

 

 

「そうだな」

 

 

 映像で各戦艦が砲撃をしている様子を見ている二人。ゆかと三智だ。

 彼らは、衛星からの映像をもとに敵の見逃しがないように諸元の算出を行っていた。出た数値をそこから近い戦艦にデータを送り、その戦艦が砲撃を行う。

 本来なら、これは各艦搭載のコンピュータが行う作業であった。だが、彼らは、()()()()という理由で、コンピュータと一緒に作業を行っていた。

 

 

「砲塔版サイレンサーがあれば、初撃でもっと被害を与えられたのに…」

 

 

「仕方ないだろう。それは改良してから各艦に搭載される予定なんだ。それがこの戦争に間に合わなかっただけ。諦めろ」

 

 

「わかってますよ…ただ、あの静かな砲撃が良くてですね…」

 

 

 紀伊は前に、アルタラス王国海域で逃げようとする敵指揮官が乗っている輸送船を砲撃で沈めたことがある。その時に、実地試験として砲塔版サイレンサーを搭載していたのだ。

 従来より静かに砲撃できるこの装備は、敵からすると物凄い脅威となる。故に、紀伊艦長である三智にとってお気に入りの装備の一つになっていた。

 

 

「まぁ、大きな音がしないのはいいものだが…」

 

 

 連続して放たれる三式弾改の様子を見て、ゆかはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆかが時計を見ると、そろそろ上陸作戦の時間が近づいてきていた。だからなのか、艦砲射撃による対地攻撃はより激しさを増し、上空には、航空部隊から発艦したと思われる震電が大量に飛んでいて、上陸支援にあたっていた。

 少し経つと、戦艦の隙間から器用に抜けてきた強襲揚陸艦が大量に接岸した。

 

 

「上陸開始!!」

 

 

 その強襲揚陸艦からも砲撃が行われ、その間に次々と日本軍が上陸していく。37式水陸両用装甲車と39式戦車を先頭にしながら、橋頭堡を確保する。

 

 今回上陸したのは、エストシラントを中心とした合計8ヶ所だ。それらに同時に上陸することで、ただでさえ少なくなっている敵の対応能力を飽和させることに目的としており、その目的は成功していた。が、それ以前に、パーパルディアの対応能力は既に壊滅しているので、普通に一ヶ所に絞って上陸しても問題なかったとの見解が後に出てくるのだが、それは別の話。

 

 話を戻すが、八ヶ所に上陸した日本軍は、それぞれ前進を開始した。一ヶ所合計30万人の日本軍がパーパルディアの大地を前進していく。先程の艦砲射撃で敵兵が一人残らず消えていて、交戦がないまま、民間人一人すらいない大地を進軍していた。

 

 

「海軍の奴ら張り切りすぎだぜ。敵兵が一人もいないじゃないか」

 

 

「仕方ないですよ。パ皇に対する恨みは一緒なんですから」

 

 

 日本軍兵士が話している場所一帯は、海軍の三式弾改によって更地になっていた。そして、現在もレールガンの長射程を生かして、奥地に艦砲射撃している。流石に火力が三式弾改より低い対地榴弾を使っての艦砲射撃になっているが、敵からすれば同じようなものである。

 

 

「ん?」

 

 

 その時、38式指揮兼支援装甲車に搭載している生体反応探知機に反応があった。この探知機は、死んだふりしたりどこかに潜伏していたりしても生きている限り探知できる優れ物である。

 ちなみに、この探知機を日米対抗演習で日本軍が使用したら、アメリカの特殊部隊が奇襲できず居場所が常に丸わかりになってしまうという珍事が起きて、演習に出禁になったという経緯がある。

 そんな特殊部隊泣かせの装備だが、今回もその本領を発揮した。

 

 

「赤!?敵兵反応!!」

 

 

 探知の結果を反映するモニターに映っているのは赤。つまり、敵ということになる。

 38式指揮兼支援装甲車からの命令により、一同は警戒しながら敵兵の反応があったところに銃口を向ける。

 

 

「総員、撃てぇ!!」

 

 

「ヒィ!?」

 

 

 隊長の一声により、統制射撃が行われる。放たれた弾幕は瓦礫に弾かれるが、敵兵を驚かすには充分だった。練度が低いのか、はたまた民兵だからなのか、驚いて悲鳴を上げていた。

 隊長は一部の人の射撃を停止させると、38式指揮兼支援装甲車の陽電子砲を瓦礫に向けさせた。

 

 

「総員、下がれ!!陽電子砲、撃t」

 

 

「はっ!!」

 

 

 隊長が陽電子砲の砲撃を命令しようとした瞬間、背後から、一人の女性が飛び出して瓦礫を粉砕していた。瓦礫の向こう側にいたパーパルディア兵もそれに巻き込まれる。

 

 

「あ、あなたは!」

 

 

 一人の日本軍兵士が声を上げる。だが、瓦礫の隙間から次々とパーパルディア兵が出てきたことにより、すぐさま戦闘態勢に入る。

 そんな中、瓦礫を粉砕した女性は、パーパルディア兵に向けて、左の手の平を向け右手の拳を引いた状態で構えていた。明らかな拳法のような構えに、彼女の存在を知っている日本軍兵士たちは手に汗を握りながら事の推移を見守っていた。

 

 

「日本軍だ!!撃てぇ!!」

 

 

 一人のパーパルディア兵の命令が響く。それに合わせて、他のパーパルディア兵が手に持っているマスケット銃をこちらに向けてくるが、それだけだった。

 

 

「はっ!!」

 

 

 何故なら、構えていた女性が一瞬にしてパーパルディア兵の一人に接近して殴り飛ばしたからだ。それも指揮官クラスを。

 その光景に周りのパーパルディア兵が混乱したのは言うまでもない。

 

 

「うわぁぁぁぁァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 逃げ惑うものもいればマスケット銃を撃つ者もいる。その中で、放たれた銃弾が日本軍の一人に命中することがあったが、結界に弾かれてしまう。パーパルディア兵から見れば、見えない壁に弾かれたように見えるため、パーパルディア兵がさらに恐怖したのは明白だった。

 

 

「逃しません!!華符【彩光蓮華掌】!!」

 

 

 その逃げ惑うパーパルディア兵とこちらに向けて撃つパーパルディア兵目掛けて、女性は一気に低空で飛び出す。彼女に向かってくる銃弾は、彼女に当たる前に避けられるかはたき落とされる。

 やがて、敵の真ん中に到達した彼女は、着地した瞬間に虹色の弾幕を展開する。その弾幕は、蓮華の形のように展開される。

 この弾幕は一応避けられるのだが、そんなことを知らないパーパルディア兵は、次々とその弾幕に直撃する。彼女もパーパルディア兵に突撃して着地した瞬間に展開しているため、どんどん逃げ場がなくなっているパーパルディア兵の被害が拡大していく。

 

 

「これで全部ですね!」

 

 

「はい。ありがとうございます、美鈴さん」

 

 

「いえいえ、ご主人様の命令ですから!」

 

 

 日本軍の一兵士が言ったように、この女性の名は美鈴。本名、紅美鈴である。彼女は、紅魔館の門番であり、武道の達人である。普段は、門番なのに昼寝をしていたり修行をしていたりとマイペースな生活をしている。また、武道の達人故か、時々実力者と試合をしていることがある。一応、煉がその一人だ。

 そんな彼女が何故ここにいるのかというと、彼女が言っていた通りでゆかが命令したからである。ゆかは、日本軍が上陸した時、それぞれについていくようにレミリア、パチュリー、美鈴に指示を出していた。

 エストシラント方面がレミリア、パールネウス方面がパチュリー、エスタリア方面が美鈴とそれぞれ分かれて日本軍と合流、進軍したのだ。

 

 これから美鈴がいるエスタリア方面担当の日本軍は、ゆっくりと進軍を開始する。同時に、他の戦線でも進軍を開始する。

 

 それらの光景は、パーパルディアの崩壊の象徴の一つとなるのであった。

 

 

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