「これより、緊急御前会議を始めます」
会議室に集まった高官たちにそう言う司会者の顔色は悪かった。否、司会者だけじゃない。ここにいる一同の顔色が悪かった。
先日の日本の攻撃で、パーパルディアがなす術なく一方的に攻撃される様を見ていた。自慢のワイバーンロードが簡単に撃ち落とされ、我が物顔で上空を飛び回る。さらに、一人の女性がパーパルディアに天災を起こし、甚大な被害を起こした。それだけで、日本との力の差が理解できてしまった。
「アルデよ、我が国の状況の説明を頼む」
「……はい」
全体的に暗い議場で、ルディアスはアルデに説明を求める。
「まず、こちらの資料をご覧ください」
そう言って、アルデは資料を配り始めた。その資料に書いてあるのは以下の通り。
・中央暦1639年4月
ロデニウス大陸のクワ・トイネ公国にいきなり汽車が走るようになる。原因を調査したところ、日本と接触し、同国から支援して貰っていたことが判明する。
・同年4月下旬
当時、ロデニウス大陸最大勢力を誇っていたロウリア王国がクワ・トイネ公国及びクイラ王国に侵攻し、ロデニウス戦争が勃発する。同戦争において、クワ・トイネ公国とクイラ王国は日本に救援を要請したと推測される。そして、日本はそれを受諾し参戦。結果、ロウリア王国は陸海軍ともに壊滅した。特に海戦では、日本によって2500隻以上の船が撃沈されていて、ワイバーンも甚大な被害を受けた。このことは観戦武官として派遣されていて、現在は精神を患っているとして療養しているヴァルハルの証言と一致している。
・同年5月下旬
フェン王国に対する懲罰攻撃のために出撃していた国家監察軍東洋艦隊がフェン王国沖で日本海軍によって全滅する。これが日本と初の武力衝突となる。
・同年7月上旬
フェン王国に対する再侵攻により、ニシノミヤコを陥落させる。その際に日本人観光客と思われる約200人を捕らえる。
・そのことを我が国に来ていた日本人外交官に絶対的な隷属の要求とともに伝えると、即座に解放の要求をしてきた。それに逆上したレミールが、皇族の名において全員殺処分する。
・これに激怒した日本は我が国に宣戦布告。その翌日にはフェン王国にいた侵攻部隊が全滅。ニシノミヤコも陥落した。この状況から、この時から日本と我が国は本格的な戦争状態に入ったと判断した。
・同時期、同場所付近にいた海軍も全滅。これで我が国の海軍の三分の一が失われた。
・この戦いの結果を受けて、日本に亡命していた旧アルタラス王国王女ルミエスが、日本でアルタラス王国正当政府を樹立した。これの背後には、明らかな日本の支援があると推測できる。また、この樹立の際にルミエスが各国の反乱組織に演説を行う。
・これにより、皇帝ルディアスの名において日本に殲滅戦を布告する。
・同年7月中旬
属領アルタラスが日本の攻撃を受ける。この攻撃によって、在アルタラス皇軍は全滅。アルタラス王国が独立する。
・同年7月下旬
皇都エストシラント、デュロ、パールネウスが敵の飛行機械による攻撃を受ける。その結果、皇都防衛隊陸軍基地が破壊されて皇都防衛部隊が壊滅する。また、同じようにデュロ防衛隊、パールネウス防衛隊が壊滅する。同時にデュロ、パールネウスは壊滅状態となる。
・コンフィルで大規模な爆発が発生。敵の攻撃によるものと思われ、これにより同地域は壊滅状態となる。
・海軍は、海上に出ていた第三艦隊は敵の飛行機械による攻撃で壊滅する。同時に、出港準備していた第一・第二艦隊は、敵の飛行機械によってその場で全て沈められる。これで、我が国の海軍の主力戦力は壊滅したことになる。
・パーパルディア上空に謎の女性が出現。その女性によって、各地で自然災害が発生、同地域が壊滅状態となる。
・攻撃に飛行機械が使われていたためムー大使を問い詰めたが、あの飛行機械は日本独自で開発されているものだとのこと。また、ムーによれば、日本は古の魔法帝国を超える力を持っているかもしれないと発言した。
・日本は自らのことを転移国家と名乗っている。しかし、この国が残した戦績は、文明圏外の国家の残した戦績ではなく、歴史上、このような国家の存在を我が国が認知していないわけがない。故に、いきなり現れたというのは間違いない。
その資料を全員が見たのを確認したアルデは、詳細を話し始める。
「戦況は最悪と言っても過言ではありません。先日の爆撃により、我が国の三大陸軍基地全てが壊滅しました。
さらに、パールネウス、デュロ、コンフィルが日本軍の攻撃で更地になりました。現場には瓦礫しか残っていないとのことです」
議場はさらに重い空気に包まれる。だが、アルデの報告は終わっていない。
「海軍はさらに悲惨です。第一・第二艦隊は港で全て沈没、第三艦隊は日本艦隊と接触する前に飛行機械で全滅させられたようです。我が国に流れ着いた、海に投げ出された水兵から話を聞きますと、降伏する暇すらなかったとのことです」
「そうか……」
つまり、パーパルディアの主力は軒並みやられたということだ。この報告を聞いたカイオスは、夢の内容を思い出し、内容こそ違えど夢が現実になったような錯覚を受けた。
「あ、あの…」
ここで話を切ったアルデは意を決したようにルディアスに視線を合わせた。
「早急に降伏することを進言します!」
「なんだと!?気でも狂ったか!?」
アルデの突然の進言に、真っ先に反応したのがバーラスだった。彼が降伏に反対するのは、知っての通り統治機構の所業を黙認していてそれが反乱の原因となるのは明白だったからだ。だが、それをアルデが容認するわけがない。
「狂ってなどいません。しかし、こうして主力が壊滅し、我々が追い詰められていて、日本の力が我が国より圧倒的に上と分かった以上、降伏するしかないのです」
「………属領統治軍の引き揚げを行ってもか?」
「陛下、それをやると、間違いなく日本が煽動して反乱を煽ります」
この見解に一同は黙ってしまう。事実、カイオスが見た夢では、ルミエスの煽動により属領が一斉に反乱をした。しかも、リーム王国まで便乗する始末だ。
「陛下!!どうか、ご英断を!!」
「…………」
ルディアスはじっとアルデを見つめる。アルデは、パーパルディアを救うためならどのようなことになってもいいと覚悟していた。その覚悟した目で、ルディアスを力強く見つめていた。
「………余は夢を見た」
突然、ルディアスが語り出した。いきなりのことで、一同は困惑する。だが、話を聞こうと耳を傾ける。
「我が国が、日本に蹂躙される夢だ」
しかし、ルディアスから出た言葉は、一同を固まらせるのに充分だった。
「事の発端は今と同じだが、攻撃方法が違った」
そうして、ルディアスは語り始める。夢での出来事ーーー時が巻き戻る前の出来事を。
日本の飛行機械からの攻撃から始まった本土攻撃は、次に海へと戦場は移った。しかし、そこでも日本の蹂躙を受け主力が壊滅。その報告を受けたという。その後の艦砲射撃は、海に面している街を悉く耕し、大量の民間人が巻き込まれた。
その後すぐに日本軍が上陸し、本土を蹂躙。先の攻撃により引き揚げた属領統治軍も壊滅しており、ルミエスが煽動した属領の一斉反乱も抑えることができなかった。
「これが、夢で起きた出来事だ」
ルディアスのこの言葉に、反論する者は誰もいなかった。日本の力を既に分からされたからだ。
「…………へ、陛下、私もその夢を見ました」
そこにカイオスが発言する。奇しくも、ルディアスが見た夢と全く同じ夢を見ていた。
「陛下!!私もです!」
アルデも発言する。それに続くように、レミールを除く全員が同じ夢を見たと発言する。
「……レミールは?」
「………」
「レミール!!」
「は、はい!」
「レミールは見たのか?我が国が日本に蹂躙される夢を」
「な、なんのことでしょうか?」
冷や汗を流しながら答えるレミール。彼女をよく見ると、焦点があってないように見えた。夢のショックなのかパーパルディアが実際に蹂躙されている故のショックなのかはわからない。だが、彼女が上の空なのは変わりなかった。
ルディアスはレミールのハッキリとしない答えに失望のような眼差しを向けると、一同に向き直る。
「カイオスよ、確か日本の情報に詳しかったな」
「はい」
「我が国は日本に降伏する。日本とコンタクトをとって降伏を伝えるのだ」
「はっ!」
カイオスは日本に降伏、コンタクトをとるため、城に白旗を立てにいった。
だが、彼らは知らない。この会議も、カイオスのこの行動も、日本側が仕掛けたシナリオだということを………。そして、パーパルディアのその行動が意味なさないことを……。
「そろそろね、ゆか」
『あぁ、そろそろだ』
天災が収まっているパーパルディア皇国。その皇城の屋根に一人の女性が、エストシラントを見下ろす形で立っていた。
その女性の名は海神(創造者)。雷作戦改でパーパルディアに天災を起こした人物である。その人物は今、ゆかと耳のインカムで会話をしていた。
「未来の様子はどうなの?」
『相変わらず紅茶飲んでるよ。フェーズ移行前なのに……』
未来は、海上封鎖中の第一連合艦隊総旗艦の紀伊の会議室で、ゆかの目の前で呑気に紅茶を飲んでいた。彼は次のフェーズの要なのを自覚していないのだろうか?
次のフェーズ、雷作戦改フェーズ5の概要は、未来の能力で本土で待機中の日本軍240万をパーパルディア本土に転移させて強襲する。他の者でも転移はできるが、より正確により多くできるのが彼だった。
未来は、ティーポットから紅茶を注ぎ入れ、それを飲み干す。格式高いお嬢様のような綺麗な所作で飲み干す。
「所作が綺麗なのがムカつくのよね」
『まぁ、否定はしない』
『酷くない?』
酷い言われようである。だが、彼の所作は、お手本と言っていいほど洗練されていた。
「無駄に綺麗なんだもの」
『無駄とは何よ、無駄とは』
未来のツッコミが入るが、海神(創造者)はスルーする。
「フェーズ4はいつ終わるの?」
『後少しだ。機甲部隊は今進撃してるしな』
「そう」
フェーズ4は、37式水陸両用装甲車のみで編成されている機甲師団で海から沿岸部を蹂躙するフェーズであった。このフェーズはどうしても海から進撃するので、参加兵士のほとんどが海の男とやらで埋められていた。
「あの人たち暑苦しいのよ。早く終わらせてくれない?」
『無茶言うな。これでも、ほぼ最速で蹂躙してるんだぞ?」
「そう。なら、この中継映像を止めてくれないかしら?いくら戦場の様子が見たいといっても、こんな暑苦しい者が映る映像なんか見たくないわよ」
彼女の片手にはスマホが握られており、それで戦場の様子を窺っていた。その映像には、個性的な者たちの蹂躙劇が映し出されていた。
『相手の
『超エキサイティング!!』
『ヒャッハー!!!汚物は消毒だー!!』
『URYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!』
もはやカオスである。これらが、37式水陸両用装甲車を操りながらであるのだから、とんでもない集団である。しかも約一名は人間をやめようとしている。
海神(創造者)はスマホからインカムを通して聞こえる音声にため息をつく。戦況は優勢、圧倒的に優勢なのだが、その立役者たちが上記の人物たちであるため、彼女がこうなるのも仕方なかった。
向こうの戦況は、フェーズ4開始と同時に、37式水陸両用装甲車のみで編成されている機甲師団がパーパルディア沖に転移、そのまま沿岸部を強襲した。
これは完全な奇襲になった。ただでさえ、爆撃で兵力が壊滅しているのだ。少ない兵力で広い沿岸を守るのは無理があった。
37式水陸両用装甲車は海上を約120キロもの速度で疾走していた。乗員は海兵隊で、上陸戦に特化した部隊である。その部隊は、装甲車に付いている39式12㎜陽電子砲を容赦なく発射する。発射しまくる。
この部隊には能力者はいなかった。だが、能力者に匹敵するほどの身体能力を持っていた。現に、一部の人は、
『人間、やればできるんだぜ』
「できたら苦労しないわよ!?」
思わずツッコミをいれる海神(創造者)。こいつら、人間やめていると心底思っているだろう。
『ふん!!』
すると、映像のどこからか何か踏ん張る声が聞こえる。よく見ると、中継用のカメラに向かって決めポーズをやっている人がいた。服装からして海兵隊の一人である。その人物は、拳を思いっきりパーパルディア沿岸目掛けて振りかぶった。
『すごーいパ〜チ!!』
海神(創造者)は考えるのをやめた。思考を放棄したとも言う。
彼らは、ついには上半身裸になって海に飛び込んだ。海水浴に来たわけではないのにも関わらずだ。それでいて、手に持っている連射式小型グレネードランチャーをぶっ放して、潜んでいたと思われるパーパルディア兵を吹き飛ばしていた。
『た〜まや〜!!』
彼らが持っている連射式小型グレネードランチャーは、本来なら制圧兵器として運用されていた。上陸の際に効率よく敵兵を倒す役割を担っている。特に海兵隊は、銃弾の弾幕の中を突っ込んで橋頭堡を確保する戦い方をするため、このような兵器が好まれる傾向にあった。
放たれた榴弾は、次々と敵防衛陣地に着弾する。誘導装置が中に入っているのかというぐらい、面白いぐらいに着弾する。
『キャハハハハハハハハハハハ!!!!もっと、もっとだ!!』
「………勝手に始めていいかしら?」
『………好きにしろ』
「わかった。好きにさせてもらうわ」
ゆかも思考を放棄した。このカオスな人たちと関わりたくないのだろう。
「未来、頼んだわよ」
『……………』
「未来?」
『は〜い!』
そのセリフを皮切りに未来との通信が途切れた。恐らく、準備に入ったのだろう。それに合わせて、海神(創造者)も準備に入る。
フェーズ5は、日本軍240万人の攻勢を海神(創造者)が支援する方針であった。フレンドリーファイアがないようにする必要があるが、神である彼女なら問題ない。
「さて、やりますか」
海神(創造者)は空中に浮かび、再び能力を発動させる。空が分厚い雲に覆われて暗くなり、ポツポツと雨が降る。雷が雲の中を迸り、その音があたりに響き渡る。
「……【
笑顔でそう言った海神(創造者)。その技の一部がパーパルディア沿岸部の味方に向けられていたのは気のせいだろう。
『3、2、1…』
インカムから、ゆかのカウントダウンが聞こえる。カウントが0になると、時空の歪みが発生して転移が始まる。
転移の割り振りは、エストシラントに100万、コンフィルに30万、デュロに50万、パールネウスに60万の予定だ。一気に転移する際にこのような調整は無理がある気がするが、未来はこのような細かい調整ができた。
『GO〜』
未来の声がインカムから聞こえる。それと同時に、日本軍240万の転移が完了する。
転移した日本軍は、すぐさま進撃を開始した。午前中の爆撃によって更地になっている土地を、ゆっくりと進軍していく。
先頭にはお馴染みの39式戦車の姿があった。パーパルディアの装備では対抗できないことを良いことに、脇目を振らずにどんどん砲撃しつつ奥地に進んでいく。
「あっ、落ちた」
「何がだ?」
「ほら、あれ」
日本軍兵士の一人がある地点を指差す。その方向を見てみると、黄色い閃光が、雷が集中して落ちていた。
「なんか、落ちすぎじゃない?」
「そうか、別に普通だろ?」
「どこが普通なんだよ!!てか、君、明石か!?」
「ふっ、よく雷に撃たれる男、明石夕陽だ。よろしく頼むよ」
何故か夕陽が戦線に参加していた。いつもとキャラが違うように感じるが、それは置いておこう。
雷はその他の地点にも同じように落ちていた。それは何故なのかは、すぐにわかることになる。
「これ、焼死体か?」
「感電死だね」
「いや、なんで見ただけでわかるんだよ」
「伊達に雷に撃たれていないさ」
普通は雷に撃たれない。だが、彼はよく光によって撃たれている。まぁ、これに関しては自業自得なので文句は言えない。
話を戻すが、雷が断続的に落ちているのは、パーパルディア人が生きているからだった。潜んでいるパーパルディア人を海神(創造者)がピンポイントで落とす。ある時は竜巻で吹き飛ばし、ある時は硬くした土の槍を作り地面から串刺しにする。
パーパルディア本土は、日本によって蹂躙されていった。パーパルディア上層部は脱出することすら叶わずに包囲され、脱出路も潰された。さらに、各地で抵抗するパーパルディア軍は、日本軍の物量+質の暴力でたちまち全滅。一気に抵抗力が削がれていった。
「………2回目だ。皇城に攻撃後、開始せよ」
『了解』
その様子を部下からの報告で逐一把握していたゆかは、タイミングをみて、再び「月読命作戦」を発動させるよう命令を下す。
パーパルディアの悪夢はまだ続きそうであった。