あれから何度も、何度も同じ光景を見る。それは全て、祖国が滅びる光景だった。
ムーのより洗練されているように感じる飛行機械が、時々姿を見せながら祖国の軍事基地を爆撃していく。巨大な艦艇で海が埋め尽くされて、そこから苛烈な艦砲射撃が浴びせられる。大量の敵軍がいきなり目の前に現れて、巨大な地竜を先頭に我が軍を蹂躙していく。
何度繰り返されたのだろうか?何度殺されたのだろうか?
何度も頭の中を駆け巡る記憶に冷や汗をかいている寝起きのカイオスは、そう何度も何度も自問する。なすすべなく自国を蹂躙されていく様子は、しっかり記憶に焼き付いていて離れない。
夢かと思った。だが、夢ならば何故繰り返す?何故、感覚がある?何故、痛みを感じることができる?何故、死んだのに目が覚めない?何故、周りのみんなも同じ記憶を持っている?
結論はたった一つだった。
「これも……日本の…力なのか…」
カイオスは、時が繰り返されていることに気づいた。しかし、何回も蹂躙されるのをただ黙って見ることしかできないまま、何回も死んだ。しかも、彼がいた皇城は最後に攻撃されることで皇国の崩壊を目に焼き付けさせるかのようにだ。
「う、あ、あぁぁ…」
それらの光景を繰り返すことで、カイオスの心は徐々に摩耗していった。日本にどう足掻いても勝てないというのは分かりきっていたが、それでも非戦闘員の被害を抑えることはできなかった。やろうとしても、その前に甚大な被害が確実に出る。まるで、こちらの動きを読んでいるかとような動きでだ。
このループは、たまに皇城から攻撃することもあった。もっとも、彼含めた要人は殺さないで生け捕りにされた上で、皇国の崩壊を見なければならないのは変わりないのだが。
日本軍は様々な攻撃をしてきた。現場からの報告からでしか知らないのだが、地面からムーのより洗練されたデザインで謎の鼻が付いている鉄の地竜が出てきて攻撃してきたり、謎の足が四本ある怪物が縦横無尽に動き回りながら攻撃されたりしたとのことだ。その四本足の兵器は、あろうことか我が国で開発中の毒ガスなるものまで使用したらしい。それも、我が国より強力であった。
空ではどうだろうか。ワイバーンは離陸前に地上で撃破されるのがほとんどだった。日本の飛行機械にワイバーンオーバーロードでは通用しない。その飛行機械も、ムーのより桁違いに速かった。飛行機械が通り過ぎてから音が聞こえるのだ。音速を超えていることになる。
光の槍も脅威だった。飛行機械が放つ光の槍は、一度狙われたら絶対に逃れられない。速度も速く、ワイバーンオーバーロードでも振り切れない。まるで、魔帝の誘導魔光弾のようだ。
海ではどうだろうか。駄目だ。こちらも圧倒的だった。先の海戦では、たった一隻の巨大戦艦により皇都は灰燼と化した。誇りある艦隊は全滅し、海からの侵攻を防ぐすべはない。それで、何度も上陸された。
思えば、その船にも光の槍を搭載していたそうだ。船から放たれたことで分かったことだが、ワイバーンオーバーロードの飽和攻撃でもそれで難なく防いで見せた。砲が一門しかない艦もあったそうだが、撃つまでもなくその光の槍で落とされた。相手の飛行機械との戦闘なしでとのことだ。
どう足掻いても勝てない。数々のループでそれを学ばされた。最初の会談後に彼は日本の情報を知り合いの商人に頼んで集めて来てもらった。そのようにして得た情報は、民間に広まっている一般的な情報なのだが、パーパルディアにとっては途轍もない情報だった。その情報を裏付けるかのように、今回のループ内で使われている兵器は得た情報とほぼ一致している。だからこそ、日本とレミールの会談の後にクーデターのために日本とコンタクトをとろうとしたが、失敗した。
日本から見れば、既にパーパルディア全土どこでも攻撃可能だった。そのことに上層部はやっと気付き降伏しようとしているが、時既に遅く、日本の気が済むまで降伏は許されない状況となっていた。あの時の日本皇国外交官が言っていた「これで終わらせる気はない」というセリフは、日本の怒りをよく表していた。
「そ、外は…」
カイオスは現在、自身の屋敷の中にいる。だが、何度も繰り返された死と祖国の崩壊という光景が彼の心を蝕み、明らかに体が重くなっていた。それでも無理矢理動かせるのは、ひとえに愛国心からか。
「あっ…」
窓から見た外の景色は酷いものだった。だがそれは、予想できていたことだった。
カイオスが見たのは、空に1人の女性が浮いていて、その人物の身振りに合わせて天変地異が起きている光景であった。その光景は、彼が何度も見たものだった。
「あ、あぁぁぁ」
そのさらに上空からは何発もの隕石が落下していた。夜だったら綺麗な火球が落ちているように見えるだろうが、カイオスにはそんなものを想像することすらできなかった。その余裕がなかったからだ。
何もできないことをわからされた彼は、もはや抗うこと事態できなかった。ただ黙ってパーパルディアの行く末を見るだけで何もしなかった。
カイオスの心は、完全に折れていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
冷や汗でびっしょりとなった服を気にせず息切れするのは、レミール、今回の戦争の元凶であった。彼女もカイオスと同様、皇国の崩壊を目の前で見せ付けられた人物の1人である。彼女は、ゆかに頭を撃ち抜かれてからも「死ぬ→ループ」を繰り返していた。
「お、のれ、蛮族め…」
だが、レミールが相変わらずそう言うのは、現実逃避なのだろうか。目にハイライトはなく、うわ言のように繰り返し言う。
彼女がここまで憔悴しているのはカイオスと同様の理由だが、その他にも理由はあった。それは、彼女が見る夢にあった。
「私を、殺すなど…」
夢と現実の区別がついていないのか、レミール以外誰もいない自室でそう呟く。そんな彼女の目は虚だった。
「や、やめろぉ!!!やめろぉぉぉ!!!」
彼女は突然叫び出す。誰もいない一室で暴れ、発狂する。その様子は、「狂犬」と呼ばれ恐れられていた彼女とは全く違う姿であった。
その様子を聞き付けた侍女が慌てて彼女の自室を訪ねる。室内からは、レミールの暴れる音が響き、侍女はさらに慌てて室内に突入する。
「落ち着いてください!!レミール様!!」
「ひぃ!?く、くるなぁぁ!!!」
だが、思ったより力が強いのか何回も弾かれてしまう。さらにレミールは、落ち着かせようと来た侍女を自分を殺しに来た者だと勘違いして暴れてしまう。懐にあるナイフを取り出し、錯乱しながら侍女に斬りかかった。侍女は専用の訓練を受けていないため、あっさりとレミールに殺害される。そこで、レミールは「はっ」と我に返る。
「あ、わ、私は…な、何を…」
我に返ったレミールは、足元に転がる侍女の死体に目が入る。自身の右手には血塗れのナイフがあることから、自身が殺害したと自覚する。
「あ、あっ、あぁぁぁぁ」
その死体の目はレミールの方を見つめていた。首筋を斬られて即死だったのか、目は開いたままの死体に、レミールは恐怖していた。その目を、夢で見た日本人の目と重ね合わせたからだ。実際にはそんなことはないのだが、余裕がないレミールには無理な話だった。
「今日もここですか」
すると、扉が勝手に開かれた。その扉からは、彼女のトラウマとなっている人物が姿を現した。
彼女は皇族である。だが、目の前の人物にそれは通用しない。確実に、日本人を虐殺された恨みでいっぱいだろう。
そんなに憎いのか。いつも通り
「そんなに怖いですか?レミールさん」
彼から言われたその言葉はレミールの心に突き刺さった。夢で何回も殺され、ループでも何回も殺され、それらに怯えるかのように震えが止まらない。おそらく、それが彼女が初めて体験するであろう恐怖だろう。
だけど、レミールは認めなかった。自分が恐怖するはずないと思い込んでいるからだ。突然発狂したり暴れたりするのは恐怖している証拠なのだが、レミールにその現実は見えていなかった。
「ぐっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
レミールは血塗れのナイフを振りかぶりながらその人物、大和ゆかに突進する。ゆかはそれを難なくかわすと、レミールの手首に手刀を落としてナイフを落とさせる。落ちたナイフはゆかがすぐさま蹴って距離を離す。
丸腰となったレミールは、発狂しながらゆかに突進していく。先程の突進で至近距離にいるゆかだが、それも簡単にかわすと、レミールの背後にまわって背中を軽く押す。背中を押されたレミールは、突進していたこともあって前屈みに転ぶ。
「随分と余裕が無さそうだな」
「お、の、れぇ…」
プライドが高く自我が強いことが幸いしたのか、未だに心が折れかけているという段階で耐えている彼女。カイオスみたいに完全に諦めたというわけではなく、こちらに対して憎悪に満たされているが故に耐え続けられていた。
「じゃあ、外見ようか?面白い光景が見れるぞ。もっとも、レミールにとっては違うかもしれんが」
ゆかはおもむろに窓に寄ると、それを全開にしてレミールに外の景色を見せつける。そこには崩壊しかかっている皇城の姿があった。黒煙が立ち上り、城壁や城の壁の一部は完全に崩壊している。
その時だった。皇城の惨状をレミールの目に焼き付けている最中、空から隕石が落下し皇城に直撃した。瓦礫が大量に発生し、着弾地点付近には小さなクレーターが形成されている。
「なっ!?」
レミールは大きな驚愕を受ける。
「ルディアス様ぁ!!!」
その皇城には、政府高官の他、パーパルディア皇帝であるルディアスがいるはずである。その皇城が、日本軍の攻撃により瓦礫と化したのだ。中にいる彼らも助かっていないだろう。さらに、小さなクレーターがあるということは、地下の脱出口も潰されていることを暗示していて、そこからの脱出も不可能であった。どっちにしろ、彼らは助からなかった。
レミールは目の前でルディアスを殺されたことで再び発狂し出した。彼の名前を叫びながら、涙を流す。その姿に、ゆかは内心苛立ちを覚えていた。
「レミール、それがあんたに殺された者の遺族が思う気持ちだ」
ゆかのその一言は、レミールを固まらせるのに充分だった。思えば、見せしめとして処刑した者の国の外交官は揃って同じ反応を示していた。その反応は、今の彼女と同じ反応だった。今になって、彼女はそれを言われて自覚した。
「あ、あぁ…」
怒りか。恨みか。パーパルディアのこの状況も、目の前でルディアスが死んだ状況も、自分が原因となっていることは明らかであり、それを彼女はようやく理解した。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
レミールは絶望した。絶叫しながら、頭を掻きむしる。立ち上がっていたレミールは、床に座り込み、未だに続けられている日本軍の攻撃の音を聞きながら走馬灯のように頭の中を駆け巡るルディアスの姿を想起する。
「………」
ゆかはそれを黙って見つめる。彼女は今頃、復讐心が湧き上がっていることだろう。だが、その相手の日本軍の強さを身をもって知った以上それは不可能であり、復讐したくてもできない無念に囚われることだろう。
レミールはついには血塗れのナイフのところまでゆらゆらと接近して拾い、その刃先を自身の首筋に当てがった。
「……何をしている?」
「……ルディアス様のいない世界はいらない」
ゆかは慌ててレミールの手首を掴んで動きを止めさせる。
「…だから死ぬのか?」
「あぁ」
「そうか」
そう答えるレミールの声には、あの会談のような覇気はなかった。現在の彼女は、弱々しく愛する者のところに逝こうとしている状態であった。
しかし、それはゆかが許さなかった。手始めに力を入れて掴んでいた手首を折ると、反対側の手と一緒に拘束してこめかみに拳銃を突きつけた。
「言ったはずだ。『これで終わらせる気はない』と」
「………」
レミールは何も答えなかった。ただ黙って、その運命を受け入れるかのように目を瞑った。
「そうか、それが答えか」
ゆかは拳銃を下ろした。彼は、懐に拳銃をしまう。
「無刈、
「了解」
ゆかはいつのまにか近くにいた無刈にそう頼んだ。無刈はそれに了承する。レミールは、ゆかに拘束されたままな為、なんの抵抗もせずにその場で動かないでいた。
しばらく経つと、無刈がその
「き、キサマ、は…」
「映像越しでしたが、久しぶりだね、レミール」
「な、何故、生きている…?キサマは、死んだはずだ…」
レミールが驚くのも無理はない。なぜなら、今彼女の目の前にいるのは、日本人を虐殺した際に最後に死んだ、割と印象に残っている人物だった。
その男性、田中雅史は、怒りの表情を隠さずに鋭い眼光でレミールを見つめた。
「そりゃ、時を戻せるんだから、死んでいないことにするのも簡単ですよ」
彼はこう言っているが、実際は違う。救おうとしたのは良いものの、彼含めた殺された人全員はその時間に死ぬ運命が確定していた為救うことはできなかったのだ。頑張れば救うことはできるが、海斗と未来が相手の本拠地にいる上、気付いたのが処刑直前という間に合わないのが確定だった。それでも何人かは救うことはできるだろうが、何人かは犠牲になっている。仮に、その前に巻き戻して防いでも、今度は友好国を巻き込んでくる可能性があった。パーパルディアならやりかねない。
だったらとゆか単独で救ってもよかったが、そもそも死ぬ運命が確定した者を無理矢理救うことは生死の管轄を侵す行為に等しく、それを堂々と破ってこの世界の裁判長に目を付けられるのはこの時点では回避しておきたかった。1人2人なら問題ないが、今回は200人と多い。目をつけられて、こちらに無理難題な要求をしてくるであろうパーパルディアに対する対策を疎かにするわけにはいかなかったのだ。だが、今は違う。時をループさせてパーパルディア人を何回も殺している時点でその禁忌は破られている。この作戦、月読命作戦を発案・発動を行ったゆかは、目を付けられることを覚悟してパーパルディア本土攻撃を繰り返したように思える。
「こっちに来る時、何か言われたか?」
「えー、『後で向かいます』らしいですよ」
ゆかは一瞬、顔を引き攣らせる。ゆかが知っている中で直接こっちに来るような人物は1人しかいなかった。
「仕方ないか」
ゆかは覚悟して受け入れることにした。
軽い話をしていた2人だが、話が終わるとレミールの方を向き直した。2人の、特に雅史の視線には、怒り、恨みの感情が含まれていた。
雅史はゆっくりとレミールに歩み寄る。近くに落ちている血塗れのナイフを蹴って遠くにやった上で拳銃をレミールの額に突きつけた。
「何か言い遺したいことは?」
「………」
「そうですか」
雅史はゆっくりと拳銃を下ろす。そして、レミールに背を向けてゆかの横を通ってその場から離れていく。
「復讐しないのか?」
「したいですよ?ですが、私は予備役で正規軍人ではありませんから。復讐はあなたにお任せします」
「…わかった」
ゆかは懐から拳銃を取り出すとすぐさま三発発砲した。放たれた銃弾は、レミールの腕、足、腹部の三箇所に命中する。
「グッ!」
レミールは呻き声をあげる。足を撃たれたためか、足を引き摺るようにしてゆかたちから離れようとする。だが、ゆかはそれを逃さなかった。
「
ゆかのその命令は、雅史の耳にしっかり届いた。その命令を雅史は即座に受諾すると、手に持ってある拳銃を振り向き様にレミールに発砲した。彼は日本軍の中でも練度は高い方であり、そのためか、しっかりレミールの胸部に命中した。しかしレミールは、悪運が強いのか中々死ななかった。
銃弾は彼女の肺にまで到達していた。致命傷になり得る傷だが、しぶとく生きていた。
「ありがとうございます、司令」
「礼はいい。それより、トドメはいいのか?」
「はい。これぐらいで大丈夫です。後はお願いします」
雅史はポケットに拳銃をしまうと、その場から退出した。その場に残ったゆかは、レミールにトドメをさそうと再び拳銃を額に突きつける。
「……じゃあな」
そうして、一発の銃声が一室に響き渡った。
レミールにトドメをさしたゆかは、再び起きた浮遊感を感じながら、僅かに笑みを浮かべていた。パーパルディア人は、日本軍の攻撃に恐怖を感じており、日本軍の姿を見ただけでパニックに陥るほどだ。さらに、政府高官のほとんどの人は、祖国の崩壊を目に焼けつけられた状態で死ぬ事を何回も繰り返しているため、心が完全に折れた状態で全てを諦めていた。これらのことは、ゆかがたてた作戦の目的であり、それが達成されようとしていた。
「……そろそろ終わらせようか」
ゆかは変わらず笑みを浮かべているが、その目は笑っておらず、冷徹な笑みだった。彼は、その表情のまま、ネクロマンス首脳部全員に通信を入れる。
「月読命作戦最終フェーズに移る。各自準備を」
『『『『はい!!』』』』
それ以外にも、ゆかは通信を入れる。その通信で語られた命令に、全員が従う。
月読命作戦の最終フェーズ。それは、完膚なきまでに叩きのめしたパーパルディアにトドメをさすフェーズである。このフェーズの終了時には、ほとんどのパーパルディア人が死亡または廃人となると予想されていた。そのフェーズを、今実行されようとしていた。
「……始めようか」
ゆかのその声は、過去に巻き戻る時空の歪みの中に消えていった。
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