不良男子の生活記録   作:全智一皆

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34(ヴァーリ日記)

 

■  ■

 □月QW日

 今日、気になる事があった。

 禍の団―――『無限』を司る龍神オーフィスを首領とするテロリスト集団。その一人である黒歌の事だ。

 最近の彼奴は、前よりも気が緩んでいる。少し前までは誰も信用しない、信頼しないといった尖った雰囲気だったが、今ではそれが少し穏やかになっている。

 

 何か彼奴を変える様なものがあったんだろうか。

 

 

 □月QI日

 アザゼルから出る様に指示された。コカビエルが戦争を起こそうしているから、それを止める様にと。

 退屈なのは、確かにそうだが。あまりにも平和的で、穏やかで、つまらない。誰一人として戦おうとしていない。争おうとしていない。

 コカビエルはそんな現状に嫌気が差したのだろう。規模が大きな戦争……三大勢力を巻き込んだ戦争を起こす為に、躍起になった結果がこれだ。

 俺が来た時には、既にコカビエルは圧倒されていた。悪魔でもない、天使でも堕天使でもない―――ただの人間の手によって、圧倒されていた。

 コカビエルは見事に蹴り飛ばされ、悶絶していた。あれでも古参の堕天使、『神の毒』と呼ばれた堕天使だと言うのに……それを悶絶させるとは、凄まじいな。

 そういえば、最近サーゼクスが一人の人間に興味津々だとアザゼルが言っていたな。なるほど、あの人間がサーゼクスが興味を抱く人間なのだろうと納得した。

 名前は、確か……上原(かみはら)(わたる)だったか。

 あの超越者を相手に物怖じせず、人間でありながら赤龍帝を知っている様な言動をした謎の男だと噂では聞いていたが……あれは、噂以上だな。

 コカビエルが何度攻撃しようと、それら全てが意味を成していない。文字通り、攻撃の『力』が削り落とされて効果を発揮していなかった。

 アルビオンは、自分の『半減』と似ていると言っていたが……アレは、おそらく一部に過ぎないとも言っていた。

 

 あのコカビエルが、一人の人間によって呼吸する力も失う程に衰弱して倒れ伏すか。

 上原渉……面白い男だ。

 

 

 □月QP日

 最近の黒歌の様子が変わったのは、おそらく上原渉が原因だろう。

 今日、黒歌から上原渉の力について質問された。禍の団に所属している訳でもない、文字通りあかの他人に黒歌が興味を持つ事がまず珍しい。

 きっと、上原渉が黒歌の何かを変えたのだろうと思う。

 俺としては、先日言った通りだ。彼奴のアレは、俺の『白龍皇の光翼』の『半減』と似て異なる性質だ。そして、それが全てではないのも。

 アレは力を半分に減らしているのではなく、力そのものを削ぎ落としていた。『半減』と言うよりは『減少』、『減少』と言うよりは―――『堕落』。

 相手が持つあらゆる力、それ自体を削ぎ落としてる本来あるべき姿や価値、意味を失わせる。アレは、そういうものだ。

 アルビオンも、自分と似ていると言っていた。自分の様で自分ではない、鏡を見ていた様な感覚だと。

 

 おそらく、俺や赤龍帝にとっては天敵となる力だ。ドライグの『倍加』もアルビオンの『半減』も、まずそれ自体の出力を削ぎ落とされて『堕落』させられては意味を失うばかりだ。

 だが―――それでも俺は、彼奴に勝ちたいと思う。

 

 

 □月QL日

 黒歌が首輪をしていた。俺は敢えて指摘しなかったが、美猴は指摘していた。二人で喧嘩をしていた。

 あの黒歌が首輪か……上原渉、凄まじい男だな。黒歌がそこまで彼奴に心を許したという事なのだろう。

 日に日に黒歌の雰囲気は柔らかくなっている。だが、それを悪いと言うつもりはない。

 

 家族。そう呼べる存在が出来たのなら……それを嬉しく思う。

 

 

 ▽月QV日

 上原渉と出会った。買い物の帰りの様だった。

 実際に目にしてみれば、何とも不思議な奴だった。立ち方から分かった、コイツは戦闘という行為に慣れた人間ではないと。

 にも関わらず、あの動き。コカビエルと戦っていた時のアレは、素早く隙が無かった。知ろうとすればする程に謎が深まるか……面白い。

 しかも俺に戸惑う事なく、挨拶をされた。俺だけじゃなく、俺の中に居るアルビオンにもだ。

 コイツには驚かされるばかりだ。黒歌の言う『不思議』とは、こういう事かと理解させられた。

 

「お前は、自分を強いと思うか? この世界の誰よりも」

 

 そう聞けば、

 

「知らん。別に興味ねぇし」

 

 そう返された。

 あれ程までに強いにも関わらず、強さにも力にも興味は無い。不思議な男だ。

 だが、それから続けて、

 

「そりゃ他の奴に比べりゃ強い方ではあるだろうけど……だからって、戦いたい訳じゃねぇよ。俺は誰かを殺すのも、死なせるのも御免だ」

 

 甘い奴だ。だが、不思議と嫌悪感はなかった。

 力を持ちながら、戦いを忌避する。穏やかな日常を望む者……そういう人間も居るという事なんだろう。

 

 帰り際、せっかく会えたからと言って菓子を手渡された。まさかこの歳になって菓子を渡されるとは思わなかった。

 本当に、不思議な奴だ。ありがたく貰っておいた。地上の菓子も、中々に美味かった。

 

 

 ▽月QB日

 アーサーとルフェイから、嫌な気配がすると言われた。

 呪われたという訳でもなく、臭いがする訳でもない。ただどうしてか近寄り難い気配が俺の周りから漂っていると。

 だが、黒歌も美猴もそんな気は感じないと言っている。

 アルビオンに聞いても、分からないと言っていた。ただ、自分の様で自分でない感覚がするとも言っていた。

 

 上原渉に何かされたとも考えたが……その線は薄いだろう。何か細工をするならば、そもそも全員を巻き込む筈だ。

 アーサーとルフェイに関連する何かを、上原渉が持っているのだろうか。

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