不良男子の生活記録   作:全智一皆

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45(黒歌日記)

 

■  ■

 ☆月[_日

 案の定、渉はまた倒れていた。しかも、前よりも酷い状態だった。そりゃあんな無茶するんだもん、こうなって当然だにゃー。

 渉の家に入った瞬間、気が暴走しているのが直ぐ分かった。

 嵐みたいに暴れたと思ったら、今度は凪いだ海みたいに静かになったり、落ち着いたと思ったらまた暴れたりを秒単位で繰り返していた。これまで経験した事なかったら、ちょっと気持ち悪くなっちゃった。

 しかも、今回は渉だけじゃなくミッテルトも何処か苦しそうだ。ヴァーリが言っていた『新たな龍の神器』が宿ったのが多分原因なんだと思う。

 ミッテルトは「まだ疲れが取れてないだけだっすよ。大丈夫っす」って言ってたけど、あんな顔で言われても説得力ないにゃー。

 前より力を込めて、ミッテルトにはまた眠ってもらった。私ね、ミッテルトの事も大切なんだよ? ミッテルトが倒れちゃったら渉も私も悲しいよ?

 

 これは、自己満足の罪滅ぼし。もう一緒には暮らせないから。せめてこの僅かな時間だけでも……上原渉の黒歌として、二人を助けたい。

 

 

 ☆月-+日

 ルフェイと一緒に調合した薬をミッテルトに渡した。色んな薬草だったり霊草だったりを混ぜて作ったものだ。味はすっごく不味いけど、これを飲めばちょっとは体調の不良も緩和すると思う。

 渉にも飲ませてあげたかったけど、やっぱり神器の所為で渉には何も出来なかった。渉に何か能力を使おうとしたり、食べさせたり飲ませたりしようとすると、神器が干渉してすぐ戻される。

 本当に訳が分からない。自分の主が死ぬかもしれないのに。それに、何も出来ないって無力感を味合わせられるのも辛いんだよ?

 薬を飲んだお陰か、少しだけ顔色が良くなったミッテルトがありがとうと言ってくれた。いつもなら嬉しく感じるのに、その感謝が胸を苦しめた。

 渉もそうだけど、ミッテルトも大概だにゃー。たらしって言うのかな? 私がこんなに絆されるなんて、これまでなかったんだよ? 誇っても良いと思う。

 主人殺し。そんな異名が付いた私の事を、家族だって受け入れてくれる。ミッテルトも渉もその事を知らないから当たり前なんだけど、でも二人のそれがとても暖かった。

 二人の事は、信頼して良いって思えた。信用して良いって思えた。

 不思議だけど優しくて、暖かくて、一緒に居て幸せにさせてくれる渉。

 純粋で素直で、お日様みたいに暖かくて、一緒に居て楽しいと思わせてくれるミッテルト。

 二人と出会えた事は、勿論嬉しいよ? けど、こんなに別れるのが惜しくなるくらいなら、いっそ出会わなければ良かったとすら思っちゃう。

 

 あーあ、自分が心配だにゃー。ちゃんと野良猫に戻れるかな? また美猴に何か言われるのは面倒だにゃー。

 

 

 ☆月*・日

 ミッテルトに私の事を話した。私が主人殺しの名前を持つ悪魔だって事と、禍の団の事も少しだけ。

 ミッテルトは少し驚いて、けど、批判をするでもなくありがとうって言った。なんで、って思った。

 だって、テロリストだよ? 渉をあんなに無茶させて、ミッテルトの事も瀕死寸前まで追い詰めた奴等の仲間だよ? それなのに、ありがとうって言われたんだもん。私の方が驚いちゃった。

 

「だって黒歌ちゃんにとって、きっと辛い選択だった筈っすから。うちの事をちょっとは信頼してくれてるから、それを話してくれたんすよね? だから、ありがとうっす!」

 

 つい抱き締めちゃった。まさかそんな事を言われるとは思ってもなかった。本当、ミッテルトは良い子だにゃー。ちょっと心配になっちゃうくらい。

 こっちこそ、ありがとうだよ。私がテロリストだって知っても、そう言ってくれるんだもん。正直、とても嬉しかったよ?

 

 渉、ミッテルトの事、これからも大事にしてあげてね? でも、私の事も憶えていてくれたら嬉しいな。

 

 

 ☆月%#日

 渉は起きなかった。顔色は少し良くなった気がするけど、本当に少しだ。気休め程度でしかない。

 気も少し落ち着いてきたけど、まだ荒々しい。相変わらず私達は渉に何もする事が出来ない。無力感に苛まれるのって、本当に辛いにゃー。

 触れる事が出来るのは、唯一の救い。渉に何か力が働く様な事をしなければ、渉に触れる事は出来る。手を繋ぐ事も、頬に手を添える事だって出来る。ほっぺにキスだってしちゃった。

 ―――大丈夫。ちゃんと暖かい。心臓の音だって聞こえる。渉は生きてる。死んでない。

 もうこれも出来なくなるのは、少し悲しいけど……でも、大丈夫だよね? 渉は強いから。渉なら、乗り越えられるよね?

 私達は、ただ渉を信じる事しか出来ない。もう一緒には暮らせないけど、せめて信じる事ぐらいは許されるよね?

 

 離れる前に、せめてお別れぐらいは言いたいにゃー……

 

 

 ☆月.?日

 渉が起きた。目を覚ましてくれた。

 また何もなかったみたいに、いつもの調子で「おはよう」って言ってくれた。こっちは渉の事が心配で心配で気が気でなかったっのに、まったくもう。

 ミッテルトなんて、大声出して泣いちゃったよ? 私もそれくらい嬉しかったけど、我慢した。偉いよ、私。

 そんな事しちゃったら、きっと絶対に離れられないから。渉と一緒にずっと居たいってなゃっちゃうから。

 

「最近は居る事が少なかったから、心配したんだぞ。まぁ、猫だから仕方ないんだろうけどさ」

 

 渉が私を撫でてくれた。ごめんって謝って、それからありがとうって言ってくれた。それから、

 

「けど、もうお前はうちの子だ。此処がお前の家だ。だから―――ちゃんと帰ってこいよ。いつでも待ってるからな」

 

 もう……私の決意を揺らがせる様な事言わないでほしいにゃー。嬉しいよ? すっごく嬉しい。人の姿になって、泣いて抱き着いちゃいたいくらい嬉しい。

 でも、これが最後。渉からの、最後の撫で撫で。渉とミッテルトとの―――最後の時間だから。

 

 ねぇ、渉。私はね、渉の事が大好きだったと思う。ミッテルトの事も、大好きだったと思う。

 けど、もうさよなら。もう会えないかもしれない。でもね、もしまた会えたら―――また優しくしてね。そして、また一緒に暮らしたいよ。渉の家で、皆と一緒に暮らしたいよ。

 ミッテルトと遊んだり、修行したり。帰ってきた渉に撫でてもらったり、一緒にご飯を食べたり。白音の事も―――私の妹の事も話したりしてさ。

 争いとは無縁な、そんな……平和な日々を、また―――過ごしたいよ。

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