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△月P日
あの人間に拾われて、看病をしてもらった。
正直、意外だったっす。そのまま見捨てられるか、復讐されるかと思ってたのに……それとはまったく真逆の、優しい事をされたっす。
思い切って聞いたっすよ。なんでうちを助けたんすか?って。だって、うちなら絶対に助けないっすもん。見捨てるっす。
そしたら、何言ってんだコイツみたいな顔して、
「目の前で怪我してる奴を見捨てる訳ねぇだろ」
その見た目から発せられる言葉じゃないっすよ、マジ。うち、襲おうとした側っすよ?
「変な奴だろうが何だろうが、見捨てていい理由にはなんねぇだろ」
変な人間だと思う。容赦なく暴力を振るう癖に、聖人みたいな事を言い出す、変な人間だと。
でも……なんだか、それが心地良く感じたっす。
△月A日
朝、目を覚ませば傷が快復してるだなんて誰が思うだろうか。あの人間も驚いてたっす。治った本人であるうちも信じられないっすよ。
滅びの力。バアル家の消滅の魔力が籠った攻撃を受けて生きただけでも奇跡で、肉体の傷なんて跡が残るくらい酷かった筈なのに……それが、綺麗に治るなんて。信じられないっす。
うち、ただの下級堕天使っすよ? 神器だって持ってないただの堕天使。秘められた力がー、みたいなのも無いっす。
まぁ、見た目だけで中のダメージは回復してないっすけど。まだ自由に体を動かせないっす。早く動きたいっすよぉ〜……。
今日は、人間がご飯を作って食べさせてくれたっす。お粥だったけど、美味しかったっす。
……うち、いつまでこの家に居られるっすかね。
△月D日
今日、初めて互いの名前を明かしたっす。と言っても、お互い名前を隠してたつもりはないっすけど。
上原渉。それが、この人間の名前。うちを蹴り飛ばしたのに、うちを助けて、今も看病してくれてる変な人間の名前。
なんて呼べば良いんだろ? 上原様? 渉様? そう聞くと、「お前が呼び易い方で良い」と言ってくれたっす。
遠慮なく、渉くんって呼ぶ事にしたっす。匿ってくれる恩人に君付けなんて、あんまりっすかね?
でも、渉くんが許してくれてるし、良いっすよね。
休日なのもあって、渉くんからどういう経緯でこうなったのかを聞かれた。
正直、怖かったっす。本当の事を話せば、捨てられるんじゃないか? 殺されるんじゃないか? そう思ったっす。
でも……この人には、嘘を
この家に辿り着いた時、終わったなって思った事も含めて、全部話した。
そしたら、渉くんは怒るでもなく、けど、顔を顰めて、「お前は俺を野蛮人か何かかと思ってんのか? んな事するわけねぇだろ」と、心外といった感じになっただけだったっす。
それに続けて、
「そもそも、怪我してる奴を見捨てるなんざ出来る訳ねぇだろ。人として終わってる。目の前で倒れてる奴が居るなら、どんな理由があろうと助けるのが当然だ」
「取り敢えず、暫くは一緒に暮らすんだ。出来る限り世話は焼いてやる」
とも言ってたっす。
本当に、変な人っすね。でも……何故だか、その言葉がすごく嬉しかった。
△月F日
まだ体が痛い。立つだけでも精一杯っす。
けど、渉くんに補助してもらいながらなら、歩ける様になったっす。
あれからというもの、渉くんを見る度に震えていたのにそれが無くなった。多分、あの言葉のお陰だと思うっす。
なんか不思議っすよね、あんなに怖がってたのに。
△月G日
体が動く様になったっす! いや、何で!?
うちが渉くんに拾われてから、そんなに時間経ってないっすよね!? 渉くんも驚いてたし、治療してくれた訳でもなさそうだし……。
学校から帰った渉くんが、グレモリーからの見解を教えてくれた。
渉くんが持つ神器―――能力不明の神器が、うちの魂の傷すらも回復させたのではないか? というのが、グレモリーの見解らしいっす。
でも、渉くんが神器を使った姿は見た事ないし……何より、神器の使用者である渉くんがあそこまで驚くものっすかね?
まぁ、何にせよ動く様になった事に変わりはないっす! これでやっと……
やっと……あれ? うち、どうしたかったんだっけ?
そうだ……うちには行く宛がない。
上司であるレイナーレ様も死んで、仲間も死んで、うちが行く場所はもう無いっす。『
なら、うちが行きたい場所は何処っす?
うちが居たい場所って何処っす?
分かんないっす……
△月H日
考えて、考えて……分かったっすよ。
うちは、渉くんの家に居たいっす。此処で暮らしたいっす。
利用したいだけなのかもしれない。後ろ盾なんかない自分を守ってくれる、都合のいい道具なんて思っているのかもしれない。
心の奥底に、そんな気持ち悪いものがあるのかもしれない。けど……そう考えても、やっぱりうちは渉くんと居たい。そう思うっすよ。
きっと、そんな簡単には許されないっすよね。渉くんは難しい顔をする筈っす。
だけど、うちは渉くんの傍に居たい。都合が良いと罵られても受け入れるっす。雑用でも何でもするっす。だから……だから、どうか。
此処で暮らしたいっす。どうか、渉くんの傍に居させてください。
そう伝えると、
「いいぜ」
そんな、あっさりとした答えが返って来たっす。
気が抜けたと言うか、つい「えっ、良いんすか!?」と驚いてしまった。
「なんで驚くんだよ。お前が言ってきたんだろうが」
渉くんはそう言ってたっすけど、そんなあっさりと了承されるとは思ってなかったっすよ! だって、うちとのファーストコンタクトがアレだったし……
そう言うと、渉くんは「んな事を一々気にする程、俺は細かくねぇよ」と流した。
「諸々反省するんなら、それで良いだろ。まぁ、一緒に暮らすなら家事は手伝ってもらうけどな。世話は焼いてやるが、ニートにするつもりはないぜ」
渉くんはそう笑って、優しく受け入れてくれたっす。
嬉しくかったっす。けど、どこか罪悪感の様なものも感じたっす。
でも、それすら見透かされたのか、
「死んで詫びるなんざバカのやる事だ。傷付いて償うなんざ阿呆のする事だ。誰かを傷付けたなら、最期まで生き抜いて贖罪するのが詫びってやつだ」
そう言って、慰めてくれた。
本当……変な人っす。だけど、とても優しい人だと思ったっす。
渉くんがそう言ってくれたんだ。うちも、頑張らないとっすよね。
△月J日
渉くんと一緒に服を買いに行ったっす。
うちが着てる服はあの服だけ。それ以外のやつはあの教会にあったけど……敢えて黙ったっす。
決別って言うんすかね? 教会のミッテルトじゃなくて、上原渉という人間の同居人としてのミッテルトとして、あの家に居たいっすから。
そうやって買い物をしていると、グレモリー達と遭遇したっす。つい渉くんの背中に隠れちゃったっす。自業自得なんすけど……。
どうやら、レイナーレ様が狙っていた聖女……アーシアの服を買いに来たらしい。こっちと目的は同じだと、渉くんはグレモリー達と一緒に買い物する事にしたっす。
背中に隠れていると、渉くんに促されて、うちは一人の少年―――兵藤一誠の前に立って、
「馬鹿にして、ごめんなさいっす!」
と、頭を下げた。
人を馬鹿にしたなら、相手を傷付けたなら、謝るべき。そう言われたっす。
兵藤くんは笑って許してくれた。そして、その兵藤くんが許すならと、グレモリーさん達も許してくれたっす。
最初はやっぱりぎこちなかったっすけど、途中からは少しだけ仲良くなれた様な気がするっす。
うん。今日は、良い日だったっす。