へっぽこマスターが物申す(改)   作:剣聖龍

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イレギュラーG/へっぽこマスターは盃に叫ぶ

 時は少しだけ遡りカルデア管制室。

 

 そこでは爆破工作によって設備に大きな被害を受けつつも、ロマニを始めどうにか生き残ったスタッフが一捷達をサポートしようと力を尽くしていた。

 

 特異点攻略の終盤――冬木で言えばマグマ・ドーパントが現れたときから通信が不安定になり通じなくなっている。なんとか回復させようと尽力しているが、今のところ回復の目処が立っていない。

 

 

(平沢君……マシュ、オルガマリー所長。どうか無事でいてくれ……)

 

「……ん? 何だコレは!?」

 

 

 突然スタッフの一人が声を上げる。レイシフトしている一捷達の状態をモニターし、修正・対応を行う一人だ。

 

 いち早くロマニがスタッフへ聞く。

 

 

「どうしたんだ?」

 

「それが、マスター平沢一捷の存在証明の値が、大きく変動しています! このままでは、消滅の可能性も……」

 

「なんだって!? 直ぐに対応を!」

 

「はい! ……あれ?」

 

「今度はなんだ!」

 

「変動した数値が、戻っています。多少変化はしていますが、問題……ありません」

 

 

 レイシフト中はスタッフがその人物をモニターしデータを観測・修正することで、レイシフト先で存在することができている。

 

 その値が大きく変動したり、修正しないままであれば、その人物は消えてしまうしれない。故に観測し証明する人間が必要となる。決して、適正者一人ではレイシフトはできないのだ。

 

 そこで発生した異常。一捷の存在証明の値がいきなり変動したかと思えば、すぐに安定した値となり消滅の危険はなくなる。

 

 ロマニをはじめスタッフ達はひとまず安堵するが、通信は不能のまま。レイシフト先の状況は不明。何かあったのではないかとロマニ達の不安は尽きない。

 

 機材を復旧させながら彼らは、レイシフトしている三人の無事を祈るしかできなかった。

 

  

 

 

 

 

 ……それにより、ロマニ達は現場に精一杯で『あること』にまで気が回らなかった。

 

 一捷の存在証明の値が変化し安定値に戻ったこと。

 

 その安定値が『変化前と安定後で変わっていたこと』に、誰も気付けなかったのである。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 マオーの指示通りに短剣を操作し言葉を紡いだことで、僕の体は変化していた。

 

 風を纏った緑と黒の姿。首には赤と白のマフラー。左手の令呪は半分ずつ違うアルファベットのWの形

 

 仮面ライダーWに登場する主役ライダー『仮面ライダーW』、その基本形態『サイクロンジョーカー』の姿へと僕は変わっていた。

 

 全身に力がみなぎっている。今まで経験したことのない感覚だ……。

 

 だがこれならやれる。戦える。マグマ・ドーパントにも引けをとらないと体が、本能が理解していた。

 

 

「……さぁ、勝負だ。レフ教授!」

 

『えぇい、たかが姿を変えたくらいで! 焼けてしまぇぇぇぇ!!』

 

 

 マグマ・ドーパントは一瞬怯んだが僕への攻撃を再開する。

 

 マグマの岩石と炎。それらの間をすり抜けるようにかわしていく。当たりそうな岩石は風で吹き飛ばし、殴る蹴るで砕く。もしくは弾くことでこちらに向かってくる豹にぶつける。

 

 仮面ライダーのスペックは基本トン単位だ。サイクロンジョーカーのパンチ力は2.5t、キック力は6.0t。人の頭以上のサイズはある大岩だろうとパンチ・キックで難なく壊せてしまう。

 

 大岩を殴り砕き、岩つぶてを豹達に振らせて怯ませる。

 

 駆け抜けて距離を詰め、三体の豹を殴り飛ばし、蹴飛ばし、手刀にて切り裂き撃破。

 

 

「ガッ!?」「グォン!」「オオゥ!?」

 

「次っ……!」

 

『ぬぅっ!?』

 

 

 全身に風を纏うと地面を蹴る。纏った風により一瞬でマグマ・ドーパントの元まで到達し、全身の風を解き放つ。

 

 

『ぬぁぁぁぁぁーーっ!?』

 

 

 突風によりマグマ・ドーパントが吹き飛び、豹を生み出す炎四つを跡形もなく消し飛ばす。これで新しい豹は生まれない。

 

 続いてオルガマリー所長の救助。所長を抱え直前と同じ要領で風を纏い高速移動。クー・フーリンさんとキリエライトさんの元へ着地し、近くにいた残りの豹も風で消し飛ばす。

 

 

「オルガマリー所長!」

 

「気を失ってるだけです。お二人とも、所長を頼みます」

 

「坊主おめぇ。その姿は……」

 

「詳しくは後で。あのマグマ怪人は僕が相手をします。お二人はセイバーを」

 

 

 普通ならまず止めに入られるだろうが、状況が状況であること。僕が戦ったのを見たからから、クー・フーリンさんとキリエライトさんは何も言わず頷いてくれた。

 

 

「……分かった、こっちは任せな」

 

「オルガマリー所長は、必ずお守りします!」

 

「お願いします」

 

「……えっ? 平沢、平沢なの!? なんでそんな半分こ怪人みたいになってるの!?」

 

(本当にそれ言う人いるんだ……)

 

 

 土壇場で目を覚ましたオルガマリー所長の発言にちょい傷つきつつ、セイバーはクー・フーリンさんとキリエライトさんに任せ、マグマ・ドーパントの前へ再び降り立つ。

 

 

『おのれぇ、平沢一捷ぁ……! 舐めた真似をしてくれたな貴様ぁ!』

 

「舐めるというのはおかしいでしょうに。そんなインチキパワーを使っておいて」

 

『貴様に言われたくないわぁ!! ガイアメモリ二つ分の力だと!? 本家気取りか? 主人公にでもなったつもりかぁ!!』

 

(……ン? レフのやつ、ダブルがメモリ二つを使うのを知っている? 主人公ってことは翔太朗とフィリップのことも?)

 

『燃えてしまえぇっ跡形もなくぅ!!』

 

 

 マグマ・ドーパントの発言に疑問に感じたが、戦闘中に考えることじゃあない!

 

 岩石と炎を掻い潜り風で防ぐ。相手の懐まで到達。顔面へ左右のフック二発を入れ、ふらついている所に風を纏わせた回し蹴りをかます。

 

 

「うぉらぁっ!!」

 

『ぐぅぅぅ!?』

 

 

 蹴りを防ぐも地面を転がるマグマ・ドーパント。

 

 ガイアメモリやレフの変貌など未知の要素が多いしセイバーもまだ残っている。時間をかけない、一気に決めにいく!

 

 

「……こう使うんだな、マオー!」

 

『平沢一捷ぁぁぁ!』

 

 

 僕の名を叫び、マグマ・ドーパントが炎を吐き出す。

 

 それをジャンプで回避。スペック上のジャンプ力は60.0m、浮き過ぎないようある程度で停止。マグマ・ドーパントを倒すというイメージを強くする。それによりマオーから流れてきた大技の発動シークエンスを実行する。

 

 

『ジョーカー! マキシマムドライブ!』

 

『い、いかん!』

 

 

 左手にあるWを模した令呪を叩く。それにより電子音声が流れ原作における必殺技『マキシマムドライブ』が発動。

 

 竜巻が起こって僕の周りに吹き荒れる。大技が来るのを悟って両腕をクロスさせガードの態勢をとるマグマ・ドーパント。

 

 そこに、全身へガイアメモリのエネルギーを溜め、必殺の一撃を放つ!!

 

 

 

 

 

「――ジョーカーエクストリーム!」

 

「うわ気持ち悪っ」

 

 

 

 

 

 体が正中線で真っ二つになり、緑と黒の部分による時間差ライダーキック。

 

 ……一人だから本当に割れるとは思わなかったよ! 呟いた所長の気持ちも分かるけどね!

 

 断面? 黄色であることを祈れ!

 

 

『ぐっ、うぉぉぁあああっ!?』

 

 

 二発のキック、威力は12t×2。狙いはガードしている体を覆う右腕。風で向きを調整し右腕にキック二発を叩き込む。ボキボキ、と砕ける音がしマグマ・ドーパントの右腕が千切れる。傷口からは血のようにマグマが流れ落ち、ふらつくマグマ・ドーパントの後方へと僕は着地。

 

 

「続けて……!」

 

『サイクロン! マキシマムドライブ!』

 

 

 Wの令呪を叩いて二度目のマキシマムドライブ発動。今度はサイクロンのメモリ。右手に風が渦巻き収束していく。

 

 風の手刀――ライダーチョップ。狙いはマグマメモリを刺した左腕。

 

 

「左腕なんだよぉ!!」

 

『ぐああぁぁぁぁ!?』

 

 

 左腕を切り飛ばす。両腕を無くしガード不能。がら空きになった胴体へサイクロンとジョーカー、二つのメモリのエネルギーを溜め込んだ上段蹴りをぶち込む!

 

 

「ラストォォォッ!!!」

 

『グッボァァァァァァ!!!?』

 

 

 バチバチバチと電撃を身体から散らしながらマグマ・ドーパントは吹っ飛んでいき、スーパー戦隊や仮面ライダーでよく見るように爆発。

 

 切り落とされたレフの左腕からはマグマメモリが排出されパキン、と音を立てて砕け散る。ガイアメモリの破壊、メモリブレイク。どうにか成功したみたいだ。

 

 残るはセイバーことアルトリア・オルタ。

 

 クー・フーリンさんの援護を受けてキリエライトさんが戦っているが、戦闘能力は向こうの方が遥かに上。押されている。

 

 

「くっ、あぁっ!?」

 

「もらった」

 

 

 斬撃を盾で受け、反撃に出ようとしたキリエライトさんだが足を滑らせ態勢を崩してしまう。

 

 それを見逃すはずがないアルトリア・オルタが剣を振り上げる。

 

 ここからだと僕は間に合わない! ならばっ!  

 

 

「やらせないよアルトリア・オルタナティブ!」

 

「何っ!? これは……!?」

 

 

 礼装の中に隠していたあるものをサイドスローにて投げつける。狙いはアルトリア・オルタの足元。踏み込む足に投げたもの――強化魔術を施してもらった◯リジナルアソートの袋が足と地面に挟まり、今度はアルトリア・オルタが滑る形となる。

 

 それにより剣の軌道がぶれ、キリエライトさんは少し退くことで回避成功。反撃のシールドタックルをぶちかまし、衝撃で後退。

 

 アルトリア・オルタは剣でガードしたがそれでもいい。

 

 時間は稼げた。

 

 この間に後方のクー・フーリンさんが、宝具の準備を整えていたからだ……!

 

 

「終わりにさせて貰うぜ、セイバー」

 

「キャスター! これを狙って……!」

 

 

 アルトリア・オルタが気づくも遅い。発動するクー・フーリンさんの宝具。

 

 足下に展開した水色の魔法陣。それは赤色になったかと思えば炎が噴き上がり、中から枝で組まれた巨人が出現。火炎を纏ってアルトリア・オルタへと襲いかかる!

 

 

「焼き尽くせ、木々の巨人。炎の檻となりて――‘灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)’!」

 

 

 燃え上がる炎がアルトリア・オルタを囲み、巨人が振り上げた足が振り下ろされる。トドメにアルトリア・オルタを胸の檻へ放り込み自分もろとも巨人が燃え盛る。

 

 そして巨人が燃え尽きるのと一緒に、アルトリア・オルタは消滅。

 

 ……倒した。どうにか。この特異点、最後の敵を。

 

 バトル終了の合図は、文字は、BGMはない。本当に楽したのかと、半信半疑な気持ちだ。

 

 

「倒したよ、セイバーをな。間違いなく、だ」

 

 

 声をかけてきたのはクー・フーリンさんだ。その手には金色に光る結晶体のようなものが握られている。

 

 僕に渡されると、結晶体は光った盃の形に変わった。

 

 聖杯。

 

 願いを叶える願望機、とんでもない力を秘めた金の盃。

 

 ゲーム・アニメ・漫画のFate作品で見てきたそれを持ったことで、改めて特異点の終わりなのだと、僕は理解した。

 

 

「やった……やったんだよな。僕は……」

 

 

 途端、身体の力が抜けてその場にへたり込んでしまう。それにならうように礼装の色がサイクロンジョーカーの緑黒からローブに戻り、令呪はWから一画だけ残った元の形へ。

 

 マグマ・ドーパントを倒したから変化が解けたのだろうか。

 

 

「おっとと……」

 

「大丈夫ですか、先輩!?」

 

「元の姿に戻った? さっきのは、変化の魔術の一種なのかしら……?」

 

「ど、どうでしょうか……僕も無我夢中で。申し訳ないですが、後で説明させてください……」

 

 

 キリエライトさんとオルガマリー所長が駆け寄ってくる。心配され、変化したことの予測を聞かれるが、申し訳ない。分からないし何より疲れてて答えられない……。

 

 どうにかキリエライトさんに立たせてもらう。

 

 そこでクー・フーリンさんの体が透けていることに気がついた。

 

 そうか、セイバーを倒したから聖杯戦争は終わり。退去が始まったんだ!

 

 

「どうやら時間切れみたいだな。よくやったぜ、坊主に嬢ちゃん。所長さん。ここまで生き残ったのは、おめぇらの力だよ」

 

「そんな……クー・フーリンさんのお力があったからです。私一人では、先輩方を守りきれませんでした」

 

「……私だって、殆ど何もできなかったわ。ありがとうございます、サーヴァント・クー・フーリン。カルデア所長として、礼を言います」

 

「ありがとうございました、クー・フーリンさん。色々とお世話になって……ごめんなさい、伝えたいことがいっぱいあるのに、中々まとまらないや……」

 

「へっ、嬉しいこと言ってくれんじゃねぇか」

 

 

 ぐしゃぐしゃ、と僕の髪をかき回し、ニッとクー・フーリンさんは笑う。

 

 

「なら気ぃつけていけよ。この先、おめぇらにはもっとデカいが控えてる。いくつもな。なーに心配すんな、オレでよけりゃいつでも力を貸してやる」

 

 

 僕らに向けてそう言うと、クー・フーリンさんは僕に向き直る。

 

 

「んで坊主。繰り返しだがあの短剣には注意を払っとけ。あんな変化する力は見たことがねぇ。きっと何かがある。……本当に、気をつけていけよ」

 

「……はい。お世話に、なりました」

 

 

 それが最後の言葉になって、クー・フーリンさんは消えていった。

 

 残されたのは僕ら三人。

 

 後はカルデアに帰還するだけ……なんだけど。

 

 

「……クククククク」

 

 

 突然聞こえてきた笑い声に僕らは振り返る。

 

 声の方向にいたのは……レフ!? 

 

 しまった、マグマ・ドーパントとセイバーに気を取られてレフまで倒したのかを確認していなかった……!

 

 だがダメージは残っていて、レフの両腕はない。

 

 その状態で、笑い続けるレフ。

 

 

「レフ教授!?」

 

「ハハハハ……まさか、ここまでやるとは思っていなかったよカルデアの諸君」

 

「お前の負けだレフ。特異点は終わる。聖杯も回収して、メモリも壊した。僕らの勝ちだ」

 

「フン……貴様の中ではそうなのかもしれんがなぁ。このままタダで帰すわけにはいかないなぁ!!!!」

 

「「「!?」」」

 

 

 レフ目を見開いて叫び、空中に何かを展開していく。

 

 何かの魔術か?

 

 やがて空中に現れたのは……オレンジ色の球体。

 

 燃え盛る炎のような色をした地球のコピー、カルデアス。

 

 こいつはあの場面!? 原作でオルガマリー所長が消されてしまうところ!?

 

 

「……うそ。あれって、カルデアス……?」

 

「そうだ、現在のカルデアスだよ。紛れもなく」

 

「…………なによ、あれ……カルデアスが、真っ赤になってる……?」

 

「あの星に、人類の生存を示す青色は一片も存在しない。全ては焼却されたのだよ、オルガ」

 

「違う!! あんなの虚像よねマシュ、平沢!?カルデアスがあんな風になっているなんて」

 

「そ、それは……」「ッ……」

 

 

 カルデアスを見ていただろう、キリエライトさんは言葉に詰まる、僕の方は答えられない。

 

 あれは、レフの言う通り今のカルデアスだからだ……。

 

 

「生涯をカルデアに捧げている君へのプレゼントだよオルガ。最後の光景としては、申し分ないだろう?」

 

「さ、最後? 何を言って……!」

 

「だってそうじゃないか。レイシフト適正者のない君が、どうして特異点にいられる? それはね……」

 

 

 

 

 

 

もうとっくに、君が死んでいるからなんだよ、オルガマリー

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 

 オルガマリー所長の声がやけにはっきり聞こえる。僕とキリエライトさんは、その場に立ち尽くすことしかできない。

 

 ……僕もだ。これは既に『知っていた』はずなのに!!

 

 

「何を呆けている。死んだことで頭の回転が遅くなったか? まぁその不愉快さは変わらないがね」

 

 

 レフが爆弾を仕掛けた。その場所は所長の真下。だから所長の体は跡形もなく吹き飛んでもうない。

 

 今、ここにいる所長は残留思念。トリスメギストスが拾い一緒に転移させた存在。本当ならレイシフト適正のない所長ではレイシフトできない。

 

 できるとしたらそれは、肉体がなかったから、ということ。

 

 全てを聞いて、所長はその場に崩れ落ちる。

 

 

「そんな……そんなっ! 嘘よそんなの! 私が死んでいるなんてぇ!」

 

「嘘じゃあないよマリー!! その表情! その絶望した顔!! いつもの鬱陶しい君が歪んだ顔をォ!!! 見たかったんだよ私はァァァァ!!」

 

「……っ!! レフゥ! お前はぁぁぁぁ!!」

 

 

 体のことなんか忘れて、叫ぶ。

 

 ゲームで知ってるとか知識とか、そんなのどうだったいい!

 

 目の前でオルガマリー所長を絶望させたレフが許せなかった。生き残るために一緒に戦ってくれた人を侮辱した、(レフ)が!!

 

 踏み出しぶん殴ってやろうとしたが、バタリと倒れ込む僕の体。動かないのか!? 動けないのかさっきの戦いのせいで!?

 

 

「さて……私の役目は終わりだ。嫌がらせも完了したことだしねぇ」

 

 

 そう言い終えると同時、洞窟が揺れ始める。

 

 特異点の崩壊が始まったのだ……まだカルデアとの通信も回復してないのに!

 

 ていうかどうやって戻るんだよコレ!?

 

 

「さらばだ、カルデアの諸君。そして平沢一捷。……あぁ、最後の忠告をしてあげよう。カルデアは、用済みになった」

 

 

 未来は見えないまま。

 

 外部とは通信が不可。

 

 カルデアの外へ様子を見に行った職員は戻ってこない。

 

 結末は確定したと、レフは冷たく告げる。

 

 

「お前達人類は、この時点で滅んでいる。確定したのだよ、君らの運命はね」

 

 

 ふわりと浮き上がるレフの体。その体が光に飲まれていく。

 

 

「さらばだよ、カルデア。精々絶望して、後悔して、死にたまえ」

 

「クウッッ……! 待てよレフ! レフーーーーッ!! 待てよやぁぁぁぁーーーーーっっっ!!」

 

 

 倒れたまま奴が消えていくのを見て叫ぶしかできなかった、僕には。

 

 レフが消えるとゴゴゴゴゴと揺れは大きくなり、洞窟はひび割れ岩まで落ちてくる。

 

 幸いキリエライトさんが岩から守ってくれるが、このままだと本当に特異点の崩壊に巻き込まれてしまう!

 

 

「先輩!」

 

「クッソ! せめてカルデアと通信が繋げて……」

 

「……無駄よ。そんなことしても」

 

「はい!?」

 

 

 腕の端末を使いカルデアとの通信を試みる。何度試しても繋がらない、それでもどうにかしようと試すが、オルガマリー所長の言葉に思わず荒く答えてしまった。

 

 

「レフが言っていたでしょう……人類は滅んでいるのよ。カルデアスがそう証明いた。何をしても無理よ。もう、カルデアは……人類は……私は……」

 

「何言ってんですか!? このままだと僕ら死んじゃうんてすよ!? そんな訳にいかないでしょう!」

 

「あなたとは違うのよ私は!!!!」

 

 

 絶叫と共にバシン、と頬に衝撃。思わず言い返したが、ビンタとオルガマリーの表情……涙をいっぱい流している顔を見て、何も言えなくなった。

 

 

「平沢は良いわよこのまま戻れるんだから! 私は違う!! このまま消えるしかないの、体がないから! レイシフトの適正がないから……!」

 

「オルガマリー所長……」

 

「だったら何したって意味ないじゃない……レフはもういない。人類はもう滅んでる。カルデアスがそう証明してるのよ……だから……」

 

 

 ……僕は一体、何をしていたのだろう。何を見ていたのだろう。

 

 ここはゲームじゃない。原理が分からなくても今自分がいるここが現実。そこにいる人は元の世界と同じ人間だ、人間なんだ。感情を持っていて、心があって、家族や友達がいて、それぞれの人生がある。同じなんだ、僕と。

 

 分かっていなかった、僕は。ただゲームで知っているから。たまたま敵に対抗するパワーがあったからここまで来れた。ゲームで消されてしまった所長を助けられると、救えると思っていた。

 

 ……バカか僕は?

 

 フラグを満たし死亡キャラを生存させればいいと、心の何処かで思っていた。全然見ていなかった。所長のことを。他の人や、この世界もだ。

 

 考えようとしなかったんだ。その人の気持ちを。同じ人間なのに! 何一つ変わらないというのに!

 

 僕と何も変わらない、喜びもするし泣くこともある、人間という存在なのに!!

 

 

(……やっぱり、僕には無理だろうな。藤丸立香みたいに立ち回るのは)

 

 

 僕は彼・彼女じゃない。原作を知っているだけの人間でこの世界から見たら『異物』だ。『よそ者』だ。

 

 僕のことを知ったら、この世界の人には嫌われても、拒絶されても無理はない。勝手に自分達のことを知っているなんて、僕だったら不気味だと感じて関わりたくないと思う。

 

 ……ただ。それでも。

 

 泣き叫んでいる所長を見て、何もしないという選択は……僕にはなかった。

 

 

「……意味はありますよ、オルガマリー所長」

 

「先輩?」

 

「意味? 私に意味があるの!? もうすぐ消えちゃう私に!!?」

 

「ありますよ。もちろん」

 

「勝手なこと言わないで! 貴方に私の何が分かるって言うのよ! たとえカルデアに戻ったって、皆私を嫌ってる! 所長に相応しくないって思ってる! 私だって分かってわよそれくらい、でもそうするしかなかったの! 私は!! そんな私に、どんな意味があるって言えるのよ!?」

 

「……認めてほしいからですよ。貴女に」

 

 

 僕の言葉にオルガマリーは唖然となる。

 

 ……こんなのは偽善だ。自己満足だ。

 

 それでも今、僕は、所長に死んでほしくない。

 

 

「最初に居眠りかましましたからね、僕。所長言ってたでしょう? あなたにこれを着る資格はないって。所長に言われたんじゃ、僕はカルデアの一員として認められてないということ。それは嫌なんですよ。寂しいし、悔しい。だから、認めてもらいたいんです。そのために、所長には生きていてもらいたいんですよ」

 

「……なによ。なによ、それ。勝手な意見じゃないの。貴方の……」

 

「えぇ。僕の勝手な意見です。けど嘘ではない。だから所長。どうか死に急がないでください」

 

「……私だって、死にたいわけないでしょ……。でも、どうすることもできないのよ。レフの言う通り、体がないんだとしたら……」

 

 

 そこが問題だ。いくら所長が死にたくないと思っても、戻る体がなければ消えてしまう。

 

 体を復活させるなり、新しく作るでもしない限り。

 

 ……ならば。ならば、だ。

 

 

「じゃあ、コレならどうですかね?」 

 

 

 手にしている物体をオルガマリー所長へかざす。

 

 それを見て所長と、キリエライトさんも目を見開いた。僕のやろうとしていることが伝わったのだろう。

 

 アルトリア・オルタを倒して回収した金色の盃――聖杯。

 

 願いを願望機ならば、あるいは。

 

 時間はあまりない。息を吸い込んで、聖杯に向け、思いっきり叫ぶ!

 

 

「聖杯! お前、願いを叶えられるんだろう! 願望機なんだろう! だったら僕が、平沢一捷が願う! オルガマリー所長を死なせないでくれ!!」

 

 

 足場にまで大きくヒビが入ってきた、特異点の限界が近い……!

 

 だとしても!

 

 オルガマリー所長を、死なせない! 

 

 キリエライトさんも!

 

 そして僕も!

 

 皆で、生きて帰るんだ……っ!!

 

 

 

 

 

 

「やってみせろよ聖杯ぃ!! 人の願い叶える願望機というのなら!! 今!!! 願い叶えてみせろやぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 絶叫した瞬間、立っていた地面が割れて投げ出せる感覚が全身を包む。

 

 世界が真っ白になっていき、目が開けられなくなる。

 

 その中で、金色の光を、最後に見た気がして。

 

 目を閉じたまま、意識が薄れていった……。

 

 

 




サブタイトルのG=ガイアメモリ

絵を描くとして、早く上手に描けるのはどちらだと思いますか?

  • オルガマリー
  • マシュ
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