「…………いてぇ」
ゆっくりと目を開いていく。
まず見えてきたのは真っ白な天井。……知らない天井ですわ。
次に感じたのは、痛み。全身の痛み。切り傷すり傷関節痛筋肉痛。中からの痛みその他色々。様々な痛みがじくじくと、ずきずきと、身体中に走り回っていた。
「……いてぇ」
「あ、目を覚ましたんだね! 平沢君」
横からドクターの顔。起き上がろうするけど……痛みで体をうまく動かせない。「そのままでいいよ」とドクターに言われたので、寝たままで会話。ありがとうございます……。
「ここはカルデアの部屋だよ。冬木の特異点はほぼ消滅した。帰ってこれたんだよ」
「帰って……っ! ドクター、オルガマリー所長は!?」
カルデアに戻ってきた。その単語に思わず起き上がり、ズキリと全身に痛みが走ってうめきながらベットに戻る……。
い、痛い……。
「あだだだ……」
「平沢君、今のキミ重症だから。全身ボロボロなんだよ、そのままにしてて」
カルデアへ帰還した僕は気を失っており、すぐさま治療を受けることになったそう。
礼装で抑えていた傷が開き全身傷だらけの状態。内臓や骨や筋肉も傷ついている。そんな危ない状態なのか僕……。
ひとまず今は寝たまま話を聞く。
どうしても、聞いておかなければならないことがあるからだ。
「それでドクター……所長は? オルガマリー所長は、どうなったんですか!?」
「………………」
ドクターはじっと黙ってこちらを見返してくる。
まさか……やっぱり、ダメだったのか。
あんな土壇場で、聖杯を使ったしても、助けることはできなかったのか……。
「……心配しないで。大丈夫だよ」
「え……?」
「オルガマリー所長は無事だ。キミ達と一緒に、カルデアへ帰還できたよ」
ドクターいわく特異点が終わった後、僕とキリエライトさん、そしてオルガマリー所長がカルデアへと戻ってきていた。
現在は検査を受けている途中なのと意識が戻っていないので面会はできないが、それでも無事なのだそうだ。
「オルガマリー所長……そうか。帰ってこれたんだ……良かったぁ……」
「マシュから聞いたけど、ずいぶん無茶をしたそうだね。まさか回収した聖杯をすぐに使うなんて」
「あ、あの時は……そうするしかないと思って……」
「けど聖杯だよ? あの聖杯。どんな影響が出るか分からないのに、だ」
「……そうですね。ごめんなさい……オルガマリー所長にも、直接謝ります。後で、ちゃんと」
「そうしなさい。……まあでも、オルガマリー所長が生きているのも事実だ。ありがとう、平沢君。所長を助けてくれて」
頭を下げお礼を述べられる。
……そんな、僕は。僕は立派な人間じゃあない。いたたまれない気持ちでいっぱいになる。
それでも、今だけは悟られないようにしないと。
「……自分でやれそうなことを、やっただけです。僕は」
「それでもだよ。特異点の異変を解決して、無事に帰ってこれたんだ。三人で。これはとても凄いことなんだ。感謝してもしきれない」
そう言ってくれるのは素直に嬉しい。ズタボロだけど、生き残れたんだからまだマシかな。これは。
そう思っていると、だ。
「……ただね。平沢君」
ドクターの表情から笑顔が消え声のトーンも低くなる。
真剣な表情。顔を引き締めてこちらをじっと見てくるドクター。
なんだろうか。
「特異点から帰ってきて、目覚めたばかりで。怪我もしていている。そんな状態だけど、キミに、どうしても聞かなければならないことがある」
「……なんでしょうか」
……大体の察しはついていた、このとき。話の流れ、ドクターの様子で。
「――平沢一捷君。キミは、一体何者なんだ?」
◆◆◆
「……何者か、ですか」
「特異点でのキミの活躍は、マシュから聞いている」
クー・フーリンと協力しサーヴァントと戦ったこと。
所長を聖杯で助けたこと。
そして……見たことのない二色の姿に変わり、異形となったレフを倒したことも。
この話を進めるに当たって、ドクターはもう一人呼ぶとよこと。誰かが入室してくる。
赤と青の派手な服装で、左腕はガントレット。先端に青いトゲトゲした結晶がある杖を持つ茶髪の女性だ。
うん、この人ですよね。
「はじめまして、平沢一捷君。私はレオナルド・ダ・ヴィンチ。キャスターのサーヴァントだ」
「彼女はカルデアが召喚した英霊で、かの万能の天才。キミも名前くらいは知っているよね?」
「それはもちろん」
カルデアの技術部でトップを務める彼女を加え、話が続けられる。
「なら話を続けるよ。さっきも言った通り、マシュからキミのことは聞いている。正体不明で変化したレフ教授を、キミは二色の姿になり倒した。明らかに魔術ではない方法でだ」
「君は一般応募でのマスター候補生。データだと一般人で、魔術やその他戦闘スキルはないと報告されていた。けどマシュの報告から、君のデータを調べ直したんだ。そうしたら……」
ダ・ヴィンチが一旦区切り、少し間をおいてドクターが答える。
「……そのデータは改竄されていたものだったんだ。とても巧妙に隠されていたけどね。つまり本来ならマスター候補生は47人。48番目のマスターは存在しない」
……改竄ときたか。
そうなるとここは、藤丸立香がいない世界線?
「恐らく、データ改竄はレフ教授が知らない間に行っていたんだろうけど……」
(……改竄したってどこからどこまでだ? キリエライトさんと会う前の記憶がないんだが……最初のシミュレーションも? 確かあれはカルデアスがやったはずじゃなかったか……?)
「だからどうしても、キミに聞いておかなければならないんだ。……キミは何者なんだ? 平沢一捷」
まっすぐとドクターの目が僕に向けられる。
見ただけで分かった。警戒されている。疑われていると。
そりゃそうだろうね……裏切り者が出て組織をめちゃくちゃにされ、そいつが引き入れたと思われる、記録のない人間がいる。状況的に裏切り者の仲間、スパイだと思われても無理はない。
……この状況、嘘はつけないな。
たとえついても、サーヴァントの・ダ・ヴィンチには見抜かれるかもしれない。無理に暴れたとしても、すぐに鎮圧されて終わりだ。青緑の短剣もないし。これは今気づいた。
(もしかしたら、ここで終わりかもしれないな)
せっかく生き残って戻ってきたが、これ以上状況を悪くしたくない。いや現時点で悪いんだけど。
……言うしかない。正直に。
後は、受け取った向こうの判断だ。
体に力を入れ、無理矢理起き上がる。
「あいてて……」
「平沢君、だから起き上がらなくて……」
「いや、起き上がらせてください。話するのに、寝たままなのはダメです」
どうにか体を起こしドクター、ロマニ・アーキマンとキャスターサーヴァントのレオナルド・ダ・ヴィンチへ顔を向ける。
四つの瞳を見返す。その目が問いかけている。
お前は何だ? 何者だ? と。
一度呼吸をして……僕は意を決し口を開く。
「僕が何者……ですが。人間ですよ。ただの。ただし……こことは違う世界ですが」
「……なんだって?」
「……僕は。平沢一捷は、この世界の人間ではないんです」
◆◆◆
そうして僕は全てを語った。
自分が違う世界の人間で気づいたらカルデアにいたこと。
この世界がプレイしていたゲームに似ていること。
この先に起こること。
青緑の短剣とマオーのこと。
そして何故か、違う作品のアイテムや怪人が出てきたこと。
思いつく限りのことを伝えた。
当然、突拍子もない話なので最初は二人とも信じてくれなかった。スマホかタブレットでもあれば証拠も見せられたんだが……。
そこでドクターが手袋の下にはめているであろう……ソロモンの指輪について言うと、二人共目を見開いて驚愕。当然だ、このことを知っているのはカルデアでも限られている。
それにより二人は、とりあえずだが、僕の言葉が嘘ではないと理解してくれた。話を続行しドクターとダ・ヴィンチは途中途中で反応しながら、ジッと聞いてくれていた。
「……僕が言えることは、ここまでです」
「…………そうだったのか」
全てを聞いたドクターは納得したような様子。腑に落ちた、といった表情をしていた。
「……つまり、キミにとってボクらの世界はゲームだった。それによく似ている。そこではボクらやマシュや所長達がキャラクターになっていて、主人公にあたる別の人物がマスターになっていた……と」
「はい。そういうことです」
「ハァ〜……とんでもない答えが帰ってきたねぇこれは。私達がゲームのキャラクターだとは。君、そんな風に見てたのかい? 私やロマニ達のことを」
「ちょっとレオナルド。そんな言い方」
「いえ……そう言われたても仕方ないです。……確かに、僕の中にそういう気持ちは……ありました。ないとは言えません」
「じゃあオルガマリー所長を助けたのも、キャラクターとしてかな? ここで死ぬとわかっている彼女。ならば生かすこともできる。しかも彼女はカルデアの所長だ。それを利用して、信頼を得ることもできる」
ダ・ヴィンチの指摘。
それは……僕も思っていたことだ。利用云々は違うが。
でもこうなるかもしれないと、心の何処かで恐れていたこと。
彼女は厳しい口調で続けていく。
「だが忘れてないかい? この世界を傍観して知っていたのならば……カルデアに被害が出ることも分かっていたはずだよね。君は」
「……はい」
「レオナルド、何を言って」
「ロマニは少し黙っていてくれたまえ。つまり君は、知っていながらカルデアの被害を見過ごした。大勢が犠牲になるのにだ。対して目の前のオルガマリー・アニムスフィアは救ってみせた……それ、本当に良いことだと思ってる?
「凍結処理によって、爆破に巻き込まれたマスター候補生やスタッフ達は、辛うじてなんとかなっている。けどもしも。もしも君が最初に我々へ情報を伝えていたら、彼ら彼女らは健在であったかもしれない。オルガマリー所長だって死ななかったかもしれないんだ」
「こんなことを後から言うのはズルいと思うだろう。けど、いっておかなければないんだ。君には。傷ついたメンバーやスタッフ達、そしてオルガマリー・アニムスフィアにも人生がある。そして生き残ったスタッフ達の中には、凍結された人間と親しい者だってたくさんいる」
「そんな彼らに君はなんていうつもり? どんな気持ちを抱いて接していくんだ? 端役のキャラクターだから関係ない……なんて思ってないだろうね」
「レオナルド!! いくらなんでも言い過ぎだ! 平沢君だって、混乱していたかもしれないだろう?」
「だが実際に設備へ被害は出ている。負傷者が出ているんだよロマニ。カルデアに関わる英霊として、私もコレだけはハッキリさせておかないと気が済まない」
こちらを貫くかのような鋭い視線と共に、レオナルド・ダ・ヴィンチは僕へ問いかける。
「――平沢一捷。君は、カルデアの味方なのか? それとも敵なのかい?」
「……僕は」
直ぐには……答えられなかった。
もちろん敵のつもりなんかない。それは誓って。
だけど……ダ・ヴィンチに言われた犠牲になった人達。
被害が出ること知っていて、あるいは救えたかもしれない他のマスターやスタッフ。
ダ・ヴィンチはこう言いたいのだろう。何故オルガマリーを救っておいて、他は何もしなかったのかと。
ゲームのキャラクターだと軽く見ていなかったかと。
そしてその上で生き残った人達にどう接していくのか。
このカルデアへ危害を加える存在なのか否か……と。
「僕は…………僕は。カルデアの敵じゃあ、ありません」
「それをどうやって証明する?」
「……証明は、今は、できません。ダ・ヴィンチさんの言う通り、僕の中で皆さんのことをキャラクターだって思っていた部分も……ないとは言えない」
「じゃあ、生き残ったスタッフ達には?」
「経緯はどうであれ……僕が何もしなかったのは事実です。だから謝罪を行います。たとえ許して貰えなくても。必ず償いをしていきます」
「具体的には?」
「……それも、どうやったらいいのかは分かりません。……だけどこれだけは言えます。オルガマリー所長を助けたのは、僕が助けたいと思ったからです。死ぬと分かっていたのもありますが……助けたいという気持ちに嘘はありません。信頼させての利用なんて、考えていません」
「平沢君……」
「そして僕が特異点に行けたということは、少なくともマスターとしては仕事ができるはずです。今の僕ができることで、カルデアに協力したい。そう、思っています」
思っていることを、考えを全てぶつけた。
もしも、これで認めてもらえなければそれまでだ。これ以上、僕にできることはない。
自分の心臓の鼓動が。呼吸の音がやけにはっきり聞こえる。
僕が二人へ思いを伝えて、永遠にも感じられる間が流れる。
それを破ったのは、ドクターの方だった。
「平沢君。話してくれてありがとう。今は休んでいてくれ。後のことは追って伝える」
「流石に私達だけで判断はできないからね。君の言葉は覚えておく。それを踏まえて、こちらで協議させてもらうよ」
お大事にね、とドクターは言い残し、ダ・ヴィンチと一緒に部屋から出ていく。
残されたのは僕一人。
静かな部屋に、傷だらけの僕……だけ。
「……なんでかなぁ」
どうしてこんなことになった……とひとりごちる。
死にかけて、生き残って、傷だらけになって。
疑われて、叱責されて。
涙がにじんでくる。
いや、ダ・ヴィンチの言う通りだろう……僕が何もしなかったから……。
『本当にそうか?』
『何故、あそこまで否定されなければならない』
『必死だったはずだ。戦いの中で生き残るために』
『他のことなど、気を回せる余裕はなかった』
『そこまで言うのならば、こちらが傷つくのはいいのか。死ぬのはいいのか』
そんな声が、自分の中で生まれ聞こえてくる。
違う! そんなこと思っちゃいけない! 僕が悪いのは本当なんだ!
……ただそれでも、それでも、それでもっ……!
悲しいのも本当なんだ……。
体の痛みがじくじくと、普段より染み渡るように感じる。胸が苦しい。呼吸も同じく。
痛い。苦しい。怖い……。
どうなるんだ一体?
僕は……これからどうなるのだろう?
こんなときに青緑の短剣、マオーに相談したいのだが。一緒に戦ったアイツなら、何か良い意見を出せたかもしれない。
もしここにいるのが僕ではなく、本来の主人公――藤丸立香だったら、問題にならなかったかもしれない。
完全に、考えはネガティブ側へ行ってしまっている。今の僕は。
協議にかけるとダ・ヴィンチは言っていたが、もし「NO」の結論が出たら。カルデアへの脅威と見なされたら。
凍結されるのだろうか? 魔術だから封印指定?
……ロクなことにはならないだろう、な。
「……帰りたいなぁ。家に」
急に向こうの世界の我が家を。部屋のことを思い出す。
好きな飯作って食いたい。ゲームやりたいしアニメも観たい、漫画も読みたい。両親にも会いたい。
「……誰か助けてくれよ。誰だっていいからさぁ……」
そう呟いてボーっと天井を見続ける。
そうしている内、瞼がだんだんと下りてきて。
……静かに、眠りに落ちていった……。
“――心配するな。お前のことは、必ず助けてやる”
『■■■■■……』
どこかで声がし、黒い懐中時計型のアイテムが機械音声を鳴らしていた。
はい、帰還してからの最初の対話でした。
ダ・ヴィンチちゃんが冷たすぎるか……?
カルデアが追いつめられた状況であること、ダブルという未知の力を使ったこと。そしてゲームとして世界を知っていたことから、警戒はされるだろうと思って書きました。
なんか暗い展開ばかり書いてる気がする……申し訳ありません。
話が進んでサーヴァントが増えれば、もう少し明るくなる予定です。
感想やご指摘、批判。遠慮なくどうぞ。
それではまた次回に。
絵を描くとして、早く上手に描けるのはどちらだと思いますか?
-
オルガマリー
-
マシュ