体が浮き上がり、何かに包まれるような感覚。
そう感じた……と思えば、周囲はコフィンの中から全く別の場所に変わっていた。
風が肌をなで、木の匂いがする。地面に立つ感触が伝わってくる。
目の前に広がるのは木に草に茂みがたくさん。森の中だここは。
レイシフトに成功したのか? ということは……ここがフランスなのか? 最初の特異点?
「先輩」「平沢、何か不調はある?」
「……キリエライトさん。所長。いえ、特に異常はありません」
「そう。なら、まずはカルデアに連絡をとるわ」
バンド型の通信機を操作しカルデアに連絡をとる所長、通信がつながるとドクターにレイシフト成功を報告する。その間、キリエライトさんは盾を構え周囲を警戒している。
レイシフトの影響なのか、僕は少し頭がボーっとしていたが、構えられた盾を見るとハッとなる。ここはもう特異点だ、いきなり何かに襲われても不思議じゃない。訓練で言われたこと。気を引き締めなければ。
所長とドクターの話を耳に入れながら周りを警戒。今のところ、生物らしき影、敵影らしきものは見えない。
「二人とも、まずはサーヴァント達と合流するわよ。レイシフトの途中で、少し座標がずれたみたい」
『周囲に魔力反応を複数感知している。恐らくこれがアルトリア王達だろう。まずは一番近いポイントへ向かってくれ』
ドクターの案内に従い移動する。
幸い、アルトリアさん達四騎とは直ぐに合流できた。それは良い。
けど周囲を探っていた百貌さんが、森の外にあるものを発見したということで、一度森から出る。そして見上げれば、それが嫌でも目に入ってきた。
空に広がる、巨大な光の輪。
とてつもなく大きなそれに、誰もが圧倒され、ただ空に浮かぶ輪へ視線をやり続けている。
「あれは……一体?」
「これ……魔術? 嘘でしょう、そうだったらどれだけの規模なのよ……」
『光の輪……? いや、衛生軌道上に展開した何らかの魔術式、なのか……?』
あの光の輪、いや光帯はラスボスである魔神王ゲーティアの宝具。あれがあるということは、少なくともゲーティアが存在していることになる。
ならば、レフが使ったガイアメモリはなんなんだ? いくらゲーティアでも他作品の道具を使う理由はないだろうし、そんな力は無いはず。
気になるのはメモリだけじゃない、こちら側には青緑の短剣にマオーという謎もある。
……この時点で原作にないことが複数起こっているのだ。
今更だがこの世界、原作から外れてないだろうか? いや、そもそも僕がいる時点で言えたことじゃあないんだが……。
そこまで考えたときだった。焦げ臭いような匂いがして、見下ろした先の村から煙が上がっているのが見えた。
「村が……焼かれてる!?」
「おそらくあれはドン・レミ村です……理由は分かりませんが、何者かが焼き払った後の……!」
ゲーティアの宝具である光帯、ドン・レミ村が燃やされたこと。それらは1431年に起きていない。原作とは違うことがあるも、この特異点から歴史は既に変わり始めている。
人の歴史が壊されている。ゲームのテキストと絵で表現されていただけのことが、目の前の現実となって起きていた。
……ならば早く助けに行かなければ!
「ドクター、所長。指示をお願いします。これをなんとかするのが、僕がやることのはずです」
『……そうだね。まずは情報収集だ。この地で何が起きているのか、それを突きとめる必要がある』
「ひとまずここから下りて、村か街を目指しましょう」
所長の言葉に僕ら頷いて、情報を集めるべく周囲の探索を開始した。
目的は特異点の修復。そのために必要なのは聖杯の回収。魔術王が各時代に放ち、歴史を歪めた聖杯を探し出さなければならない。
加えて、ガイアメモリが何故この世界にあるかも調べなければ。もしかしたら、僕みたいに異世界の人間が他にいたりするのだろうか?
周囲を警戒しながら見つけた砦や小さな町で話を聞いて情報を集めていく。
「ありがとうございます。話を聞かせてくれて」
「あぁ……気をつけていけよ」
怪我をしている兵士さんにお礼を言うと皆の元へ戻る。
現在地はロレーヌ地方のヴォークルールにある砦。ここも襲撃を受けたそうでボロボロだ。
決めていた集合場所にてキリエライトさん達と合流すると、腕にはめている通信機が鳴る。出ると相手はダ・ヴィンチさんだった。
『情報収集の成果はどうだい? 藤丸君』
「いくつか気になる情報を集められました。ドクターは?」
『彼は今休憩中さ。今は私が代わり。それで、内容を聞かせてくれるかい?』
「はい」
まとめた情報を伝えていく。
まず一つ目。死んだされるオルレアンの乙女、聖女ジャンヌ・ダルクが甦った。
二つ目。ジャンヌ・ダルクの襲撃によりイングランドは既にフランスから撤退。そのフランスも国王であるシャルル7世が殺され、国家機能は麻痺状態。
三つ目。フランス中央部のオルレアンを占拠したジャンヌ・ダルクはそこを拠点にし各都市を襲撃している。
四つ目。甦ったジャンヌ・ダルクは『竜』を操り、無数の竜による軍勢を引き連れていること。
『……なるほど。大まかな状況は把握できたね』
「それと最後に。気になる情報が」
これは集まる直前、ある兵士さんに聞いた話だが、
『こいつは噂なんだが……蘇ったジャンヌ・ダルクは二人かもしれないんだ』
『二人?』
つい先日、ジャンヌ・ダルクを名乗る存在に別の街が襲われた。
そのジャンヌは全身を赤い甲冑に包み、空を飛んでいた。手には剣、鎧からは火を噴いて暴れ回り、一晩で街三つと壊城一つが落とされたという。
生き残った人はそのジャンヌを見た目から『赤のジャンヌ』、『炎の騎士ジャンヌ・ダルク』と呼び、恐れているそうだ。
「ただし、その赤のジャンヌはそれ以降、襲ってきたことはないそうです」
『そうか……二人目のジャンヌ・ダルク。それも特異点の影響かもしれないね』
「クー・フーリン、キャスターとして貴方はどう思う?」
「全くあり得ない話じゃないな。復活の際に魂を分けたとか、別の側面を呼び出したとかも考えられる。」
赤のジャンヌに魔術的な要素が関係しているのではないか。オルガマリー所長の問いかけに、唯一のキャスタークラスであるクー・フーリンさんが予想を並べる。
二人目のジャンヌ……オルタじゃないよな?
全身に鎧を纏った赤のジャンヌなんて原作にいなかった。これもガイアメモリのようなイレギュラーなんだろうか?
「本来の歴史ならば、竜のような幻想種や二人目のジャンヌ・ダルクはこのフランスには存在しないでしょう。恐らく、甦ったジャンヌ・ダルクが何かしらの手段で竜やもう一人の自分を呼んだものと考えられます」
「仮にセイバーの言葉を真実とするならば、この特異点を形成している聖杯は復活したジャンヌ・ダルクの手にある、と踏んで間違いないだろう。今後の方針としては、ジャンヌ・ダルクを見つけることを薦めたいのだが」
「オレも同意見だ。異議はねぇぜ」
「こちらも同じく」
「どうされますか? 先輩」
「……アルトリアさん達の言う通りです。まずはジャンヌ・ダルクを探すのがいいかと」
「分かったわ。私も同じ意見。まずはジャンヌ・ダルクの捜索を第一とします」
ただ赤のジャンヌ以外にゲームと違う箇所はない。聖杯はオルレアンにて待つ、術ジルが作り上げたジャンヌ・オルタの中にあることだろう。
そうしてジャンヌ・ダルクの情報を集めようと行動しようとしたら、だ。
ガン、ガァーンと高台の鐘が打ち鳴らされる。
「飛竜だ! 飛竜が来たぞぉ!!」
見張り台の兵士が危機を知らせるべく叫んでいたが、その直後、見張り台を火の玉が直撃し崩れていった。
「皆様、あちらを!」
百貌さんが指し示した方向。
その空には緑や茶色をしたワイバーンの群れ。空の青い部分が見えなくなるほどの大群が、この砦ヘ迫っていた。
ワイバーンの大群に町の人々はパニックになって逃げ惑う。兵士や武器を持った人が戦おうと集まり、一瞬で町は戦場へと変わってしまった。
「男と兵士は武器を取れぇ! 女子供は逃げろ、焼かれるぞ!!」
「先輩! 所長!」
「……あぁ! 分かってる、あの竜を迎え撃って――」
『ストップ! その必要はないよ』
思わず突っ立っていたがキリエライトさんの声で気付き、戦おうと指示を出そうとしたら、何故かダ・ヴィンチちゃんに止められてしまう。
どうしてだ!? ここで戦わないと、砦の人達が危ないのに!
『残念ながらここでの戦闘を認めるわけにはいかない。必要な情報は手に入れた、すぐにその場から離脱するんだ』
「待って下さい! 目の前で襲われてる人達を、見捨てろって言うんですか!?」
『今いる場所は特異点だ。特異点というのは、他とは切り離され隔離された時代。修復すれば、そこで起きた全てのことはなかったことになる。その時代の人間が死んでも何も問題はないということさ』
(違う、違うんだよ。そうじゃないんだ)
『あえて言うよ。その時代で死んでいけないのは、キミとオルガマリー所長、マシュだけだ』
けど目の前では竜によって人が食われ、殺されている。男や女、老人子供問わずに。
『いくら私達でも、目に映る全ての人間を救うことは出来ない。これから先、“キミ達の判断が我々を救う”。この意味を考えてくれ』
「それ、は」
「……平沢。ここはダ・ヴィンチの言う通りよ。撤退しましょう」
所長まで……! ダ・ヴィンチさんの言いたいことは分かる、それでも……!
僕らが死んではいけない。それは正しいしその通りでもある。
ワイバーンに襲われる人々、その全てを助けることは……出来やしないだろう。
少し離れた場所でも、泣いている女の子が今にも竜に襲われようとしていた。
目一杯に開いた大きな口で、小さな頭を噛み砕かんと、ワイバーンが迫る――!
「――どぉぉぉらあぁぁぁぁぁっ!!!!」
「オォォォォッ!?」
その瞬間、僕は弾かれたように駆け出した。
何か思うより先、体が自然に動いていた。
全力疾走。その中で抜き放った青緑の短剣をワイバーンの片目に突き刺す。短剣を抜きつつ女の子を抱え、石の道を転がり壁にぶつかってようやく止まる。
腕の中の女の子へ見る。良かった、彼女は無事みたいだ……。
「せ、先輩!?」「平沢! ああもう何やってるのよ!?」
後ろからキリエライトさん、オルガマリー所長の驚いた声、怒る声が聞こえてくる。こりゃ説教食らうね、後悔してないけど。
「お説教は後で受けます! キリエライトさん、そのワイバーンに止めを! アルトリアさんは下りてきたワイバーンを攻撃、エミヤさんは弓矢で空中のワイバーンを少しでも減らして下さい!」
「……分かりました」「やれやれ。私も少し文句を言いたいものだな」
これはアルトリアさん達からも怒られるな。そう思いつつも、ワイバーン迎撃へ向かってくれるお二人。……申し訳ない。
見れば、クー・フーリンさんと百貌さん、そしてオルガマリー所長もワイバーンへ攻撃してくれている。これなら少しでも犠牲者を減らせそうだ。
そう思ったとき、通信が繋がる。相手はダ・ヴィンチさんだ。
『……キミ、人の話聞いてた? 自分の命の重さ、分かってる?』
「それくらい分かってますよ。僕だって死にたくなんかありません」
少し呆れたような言い方だった。……確かに、目を刺せたから良かったものの、少しでも生命力が強かったらあのワイバーンに殺されていたかもしれない。それだけじゃなく、他のワイバーンに囲まれ八つ裂きにされるなり、火の玉で黒焦げにされたりと……どんな死に方をしていたか分からない。
死にに行くような行動。そうと分かった今、手足が震えてめちゃくちゃ怖いと感じる……。
それでも、体が勝手に動いてしまっていた。
キャスターのギルガメッシュが言っていた真実。特異点で死んだ人間は修復されても生き返らない。人に殺されたのなら獣に殺されたなどと原因が変わるだけで辻褄合わせがされる。そのことを知っていたからでもあった。
けど……!
それ以上に思いがある。ありきたりだけど、僕が思ったことが……!
「目の前の一人すら助けれないで、世界なんか救えるわけないだろう……!」
ただ理不尽に命が奪われるのが嫌だった。それだけなのかもしれない。
一般人の僕が言ったって全く重みのない台詞吐いてる自覚だってある。
でも自分に出来ることなら、その出来ることをやるしかない。そう言ったのだからせめてそれくらいはしなければ、と。
「大丈夫、大丈夫だよ。きっと、助けるから」
「う、うん」
できるだけの笑顔で女の子へそう言い、ワイバーンから逃げるために走る。全力で。
(絶対に、この子だけでも、助けてみせる……!)
……それが、最悪の形で果たされないことを、誰も知るはずがなかった。
はい、お待たせしました。オルレアン編の始まりです。
大体は原作通りですが、赤のジャンヌというイレギュラーが。まあ前回の後書きでほぼ言っちゃってますが。
最後には不穏な流れ。
実を言うとW二話に出たあるドーパントを出すかどうかで迷っています。もし出すと、変身者を女性にしようと思うのですが、そうすると話がまたこじれるかなぁ。
やや早いですが、今年も残り僅か。このような時に怪我をしやすいので、皆さんお気をつけて。
それではまた次回。
絵を描くとして、早く上手に描けるのはどちらだと思いますか?
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オルガマリー
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マシュ