「これは……酷い」
リヨンに到着した一捷達。
道中で集めた情報によると、リヨンには大剣を持つ守り神がいたそうでワイバーンと戦っていた。しかしサーヴァント複数に襲われ、以降は行方不明に。カルデアはその守り神が竜殺しと踏んだのだが。
既にリヨンの街は瓦礫の山と化しており、生き物の気配すら感じられない廃墟となっていた。
街の惨状に顔をしかめつつ、目的の竜殺しを探すため一捷らは行動を開始。街の西側をオルガマリー、クー・フーリン(術)、百貌のハサン、アマデウス、マリーが。東側を一捷達で担当し竜殺しを探す。
廃墟の中を警戒しながら歩いていると、かすかに人の気配と物音がした。
もしやアンナのように生存者がいるかもしれないと希望を抱く一捷。が、現れたのは希望ではなく、絶望を抱かせる存在であった。
「オ、オォォォ」
「こ、これは……」
「
死者が生き返った存在、ゾンビ、さまよえる亡者。
手足がなくなり、腹が裂けて腸がはみ出し、頭が削れて脳や目がこぼれた人達。
グロテスクな光景、同じ人が変わり果てた姿に、一捷は恐怖と吐き気を感じずにはいられなかった。
冬木はここに来るまで、似た光景を見てきた。それでも、同じ人の変わり果てた姿を見るたび、ショックを感じ胸の奥が締め付けられる感覚を味わう。
(……やっぱり、怖いよ。こんなの………)
命を狙ってくるサーヴァント達やレフ、モンスターと分かっているドーパントは戦うことができた。
が、いざ自分から戦わないといけないとき。相手が同じ人だと分かっていると、体が動かなかった。
今は人間でなく、こちらを殺そうとしていると、分かっていてもだ。
「くっ……くそぉっ」
どうにかサイクロンメタルには変わったものの、最後まで一捷はリビングデッドを攻撃できなかった。
リビングデッドはアルトリア達によって全て倒され、ジャンヌが祈りを捧げる。
その姿を見て一捷は自分を心の中で責めた。情けない。エミヤに誰かのため戦うと言いながら、アンナには守ると誓いながら、いざとなればこれか。
自己嫌悪で考え込みそうになる一捷だが、そんな時間すら戦いの場では与えられない。
新たに敵が出現。それもリビングデッドやワイバーンではなく、サーヴァントがだ。
「安らぎ……安らぎを望むか……。それは、あまりに愚かな言動だ」
現れたのは顔の右半分を仮面で覆い、両手は皮が剥がれ長い爪を伸ばした男。
「新手のサーヴァント……!」
「貴様、何者だ」
「然様。人は私を――
本名はエリック。十九世紀を舞台とする小説『オペラ座の怪人』に登場する怪人のモデルとなった人物で、クラスはアサシン。
彼も竜の魔女によって召喚され、命令によりリヨンを支配下に置いていた。
「さあ、さあ、さあ。ここは、死者が蘇る地獄の只中。――君たちは、どうする?」
「……お前が。お前が、ここの人達を……!」
ファントムの行いに、一捷の中で怒りの炎が燃え上がる。
何もできなかった自分に対する怒りもあった。それ以上に、非道を行った目の前のサーヴァントを、許しておけなかった。
メタルシャフトを強く握りしめる。
「……あんだけ言ったのに、メンタルが弱い僕で申し訳ない。キリエライトさん達。……だけど、こいつは。今ここで倒す」
「その通りです、先輩!」
「貴様の非道、許すものか」
「逃げられるとは思わぬことだ」
全員が得物を構える。
先陣を切るのはアルトリア、エクスカリバーで斬りかかる。
ファントムは浮遊能力を使いエクスカリバーを回避。タイミングをずらして仕掛けたマシュ、ジャンヌの攻撃も避けると、飛んできた矢を爪で弾き、防ぐ。
最初の攻撃は防がれたが、数の有利でファントムを斬り、殴り、撃つ。
宝具を使う暇も与えず、攻撃のラッシュでファントムを一気に倒しにかかる一捷達。
「ぬぅ……。……ふっ、ふふふふ」
「ンッ……? 何がおかしい!」
「気づいていないかな、君たち。君たちを狙う、新たなものが来ているのに」
突然おかしなことを言い始めたファントム。混乱させるための嘘かと一捷達は思ったが、そのとき。
かすかに、遠くから聞こえてくる物音。
ガラガラと、崩れるような音。ズシンズシンと、何かを踏むような音。
「来る。竜が来る。肉を裂き骨を砕く牙が来る。この世のものではない、『古の記憶を宿す』、埒外の竜が!!」
「……記憶!?」
思わぬ単語がファントムの口から出てきて、まさかそれはと一捷が叫ぼうとした、その瞬間、
『グオオオオオオオォォォォォォォォッ!!!!』
大気を震わせる叫びと共に壁が壊れ、一捷達の右側面から、そいつは現れた。
「なっ、ぐはっ!?」「きゃぁ!」
「アルトリアさん! ジャンヌさん!」
側にいたアルトリアとジャンヌが吹き飛ばされてしまう。
そいつは巨大な恐竜の頭から手足と体が生えたような異形。
その姿に、一捷が真っ先に叫んだ。
「ティ、ティーレックス・ドーパント!?」
「なんだと!? くっ……もしや奴もドーパントか!」
巨大な頭が振り回され、瓦礫が降り注ぐ。
それらはエミヤが剣や弓で撃ち落とし一捷はメタルサイドでガード。吹き飛ばされたアルトリア達の元に向かう。
ティラノサウルスこと『ティーレックス』の記憶を宿した『ティーレックスメモリ』によって変化した怪人『ティーレックス・ドーパント』。
廃墟の中でティーレックス・ドーパントは暴れ回り、瓦礫だらけの街を更に破壊していく。
予想外の事態に一捷はまずオルガマリー達と連絡をとろうとしたが、通信機から帰ってくるのは砂嵐とノイズ。カルデアに繋いでも同様だった。
ファントムかティーレックス・ドーパントの影響なのか、
通信が繋がらず他の状況が分からない。
ならば、自分達でどうにかするしかないとメタルシャフトを握り直す一捷。
「ティーレックス・ドーパントには僕が行きます! エミヤさん、後方から援護をお願いします! キリエライトさん達三人は、ファントムの相手を!」
「マスター、一人でドーパントの相手をするつもりですか!?」
「ドーパントならWの仕事だ! まずはどちらかでも倒さないと挟み撃ちにされる!」
「ならば頼めるか、マスター」
「もちろん!」
飛んでくる瓦礫をメタルシャフトで砕きながらティーレックス・ドーパントへ突っこむ。
ティーレックス・ドーパントの主な攻撃方法は、巨大な顎による噛みつき、突進、咆哮による衝撃波。
顎を振り回し、噛み付いてくるティーレックス・ドーパントをどうにかメタルシャフトで防ぎ、反撃の打撃を繰り出す。
「そぉらっ!」
『グッ!?』
シャフトを回転させ風を纏わせる。振り下ろし、返してシャフト反対側でのかち上げ。上がったティーレックスの顎に、回転して勢いを乗せた渾身の叩きつけでの三連撃。
『ガァァァァァ……』
(よし、このままなら!)
唸り声をあげてたたらを踏むティーレックス・ドーパント。更に畳みかけようと一捷はメタルシャフトを振りかざすが、どうにもティーレックス・ドーパントの様子がおかしい。
『ガ、ァ、アァァァァァ』
体を左右に振り痛がるような素振りを見せる。確かに連続で攻撃を受けたが、まだ撃破に至るほどダメージは受けていない。
奇妙な動きに一捷が警戒していると、ティーレックス・ドーパントは苦しむように呻く。
『イ、イタ、イ、イタイ……』「いたい……」
「ッ!? 声!?」
くぐもった声が少女のものになって苦しむティーレックス・ドーパント。
どうやらドーパントになっているのは少女のようだ。
……そして、少女の声を聞いた瞬間、一捷の胸がかすかにざわつく。
(というか、今の声って、まるで)
「いたい、いたい、いたい……」
「……いたい、よ……『おにいさん』」
「ッッッ!!!??」
「なん、だと……?」
「今の声……まさか!」
「あぁぁぁぁ……っ」
ティーレックス・ドーパントが顎を開く。顕になった内部に一捷を始め全員が衝撃を受けた。
白い肉の塊に埋め尽くされ、真ん中に変身者が埋まっていた。
――リヨンで別れたはずの『アンナ』の姿が、そこにあった。
◆◆◆
『グオオオオオオオォォォォォォォォッ!!!!』
「っ、何!? 今の声!」
時は少し戻る。
一捷達とは反対側の街を捜索していたオルガマリー達にも、ティーレックス・ドーパントの咆哮は届いていた。
直ぐ様連絡を取ろうとしたが繋がらない。詳細は不明だが、このまま無視するわけにもいかなかった。
「皆、戻るわよ。平沢達と合流しないと」
「あぁ、急いだ方がいい。今の叫び声、平沢達の側に新手が来た可能性が高い」
「だろうな。王妃様、確か硝子の馬が使えたよな」
「任せて。なにせ『この人』を探しに来たのだから」
「……すまない。迷惑をかける」
謝罪をするのはオルガマリー達が捜索中に偶然見つけた騎士。ある理由で全力を出せない彼を、マリーが出した硝子の馬に乗せ引き返そうとするオルガマリー達。
そこに、きらりと光る鋭い物体がいくつも飛んできた。
「敵襲です!」
「下がれマスター!」
急ぎ後方に回るオルガマリー、前に出たクー・フーリンと百貌のハサンが物体を迎え撃つ。
ダガーに砕かれ、ルーンで溶けたそれは、氷柱だった。
正面の家から一つの影が現れる。
『久しぶりだね、オルガ』
「その声……!? まさか貴方!」
オルガマリーが言い切るよりも早く現れた存在――毛が逆立った白い人型は、両手から氷の塊や礫を撃ち出し、足元からオルガマリー達に向けて地面を凍結させていく。
『ここは私に付き合ってもらおうか。この新たな力、君達で試させてもらう』
「くっ……!」
◆◆◆
「そんな……どうして! どうしてアンナちゃんがドーパントに!?」
ティーレックス・ドーパントの正体に、一捷は思わず叫んだ。
可能性としては、あり得ないことではなかった。
メモリを挿入する生体コネクタを体に打ち込めば、誰でもドーパントになる。メモリとの相性などはあるが、基本どんな人間でも、人以外の生物でもなれる可能性がある怪人なのだ。
だからアンナがドーパント化するのもおかしくはない。だが理屈はそうでも、一捷には全く分からなかった。
何故アンナがドーパントに? 誰がメモリやコネクタを与えた? そればかり考えていた。
「アアァァァァッ……」
そんなことはお構い無しにアンナ――ティーレックス・ドーパントと化した彼女が襲いかかってくる。
顎を開いての噛みつき。鋼鉄をあっさりと噛み砕く威力の牙をかわし、メタルシャフトで反撃。
打撃ポイント『ストライクバー』がティーレックス・ドーパントの顎に当たる。
その、直前、
『……ありがとうおにいさん。その……さっきはごめんなさい』
「ッッッ!!」
「ウゥァァゥッ!」
「がぁっ!」
アンナの姿が思い浮かび手が止まってしまう。
そこを狙われ体当たりで吹き飛ばされる一捷。どうにか迎え撃とうとするが、その度にアンナのことを思い出してしまう。
アンナの姿、表情、言葉を。
そして何より……彼女を守ると誓った自分の思いを。
記憶の中のアンナと自分の思いに縛られ動けなくなってしまう一捷。
その隙を狙い、ティーレックス・ドーパントと並び立ったファントムが同時に攻撃を仕掛ける。
「うぅぅぅぅぅ」『ガァァァァァァーーーーーァァッッッ!!!!』
「歌え……歌え我が天使――‘
苦しむアンナの声が恐竜の咆哮に変わる。
ファントムの犠牲者達の死骸を組み合わせ作られたパイプオルガン。ファントムの歌によって演奏され、放たれる魔力放射。
二つの振動が合わさり、街を粉々にしながら一捷へと迫りくる。
「――‘
「き、キリエライトさん……!」
「怪我はないですか平沢殿!」
「早く立って! 私達の後ろに!」
寸前で割り込んだマシュによって事なきを得、復帰したアルトリアとジャンヌ、弓を装備しているエミヤ達の背に走る一捷。
だがファントムとティーレックス・ドーパントに攻撃を仕掛けようとするアルトリア達を見てそれを止める。
「ま、待って! あのドーパントは、変身しているのはアンナちゃんなんだ!」
「それは分かっています、聞こえていましたから。ですが今は、彼女を止めないと」
それにはメモリだけを壊すメモリブレイクが必要だ。
それが可能なのは、現時点で一捷のみ。
分かっている。自分しかどうにかできないのは。だが分かっていても、相手がアンナだと思うと一捷は動けなかった。
自分と交流しどんな人かを知っている人物と戦うこと。
その辛さ、恐怖を、今まさに一捷は味わっていた。
もしもドーパントの撃破に失敗したら? メモリブレイクできなかったら?
自分達がやられるかもしれない。あるいはアンナの命を奪うことになるかもしれない。
「……無理、だよ。そんなの。アンナちゃんと戦うなんて、僕には」
「平沢殿……」
「僕には……できないよ……そんなこと」
「………………」
「――甘ったれたことを言うな!!!!」
「ぐっ!?」
「せ、先輩!」
「アーチャー!? 貴方何を!」
自分は戦えないと俯いていた一捷。その顔を上げ、エミヤが頬を殴りつけて強く言い放った。
「自分にはできない、だと? ふざけるな! マルタとの戦いで、お前は私に何と言った。忘れたとでも言うつもりか!!」
「だけど……もし失敗したら、アンナちゃんを」
「当たり前だそんなことは。力を振るうというのは傷つけ、壊すことだ。例え英雄の、ヒーローのものだとしても変わりはない」
一捷の胸倉を掴みエミヤは続ける。
「それでも、その力を誰かために振るうと言ったのは君自身だろう! ならばそれをやってみせろ。そのための力ではないのか、君の手に入れた力は!!」
「!!!!!」
エミヤの言葉に、一捷はまるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた。
正義の味方。正義を求め続けた男の言葉が、心の中に入って染み渡る。
(……そうだよ。ヒーローごっこだと言われようと、戦うって決めたじゃないか、僕は)
先の言葉を思い出す。ならば、やることは決まっている。
一度俯いてエミヤの手を放し顔を上げる。
その目には、決意が宿っていた。
「……ごめんなさい、エミヤさん。皆。……その通りです。僕は誰かのために戦うと決めました、あのときに」
「マスター……」
「だから、今は戦う。戦わないといけない。アンナちゃんを止めて、助けるために!」
そう言い切った一捷の隣にエミヤが立つ。
「ならば指示を、マスター。ドーパントだけでなく、ファントムも対処の必要があるぞ」
「えぇ……。ファントムにはエミヤさんとアルトリアさん、キリエライトさんが。ジャンヌさんは、僕とティーレックス・ドーパントの相手を。まずは二人を引き離して、各個に倒します」
「……了解です」「分かりました」「……はい!」
三人と二人に別れ、それぞれの相手に先制攻撃を入れる。
「やぁぁぁぁっ!!」「ぐぉっ……!?」
「そこです!」『オォン!?』
ファントムとティーレックスを反対方向へ吹き飛ばし分断。
アルトリア達が戦うのを確認しつつ、一捷はジャンヌと共にティーレックス・ドーパントへ駆け出す。
「おにい……さん」
「……ラァァァァッ!!」
アンナの声を聞きつつ、絶対に彼女を助けるのだと言い聞かせ、一捷はメタルシャフトを振るう。
「ああぁぁぁっ!?」
「必ず! 助ける! だからっ! ごめんよアンナちゃん!!」
ティーレックスの顎を殴りつける。
その感触に歯を食いしばり、二度、三度、四度と叩く。
「う、ぅぅぅ」『グァァァァッ!』
「ジャンヌさん、跳んで!」
「はいっ!」
ティーレックスが地面に顎を突き立て、泳ぐように地面を壊しながら突進。それを見た一捷の指示通りジャンプしたジャンヌはティーレックスを飛び越え、一捷は横へ転がって回避。
「そぉれっ!」
メタルシャフトを高速回転。風が竜巻となり、それを上空のジャンヌに一捷は放つ。
弧を描いてジャンヌに当たった竜巻は彼女を押し出す。狙いは地中を進むティーレックスの行き先。
「そのまま地面を砕けジャンヌさんっ!!」
「はい! ――はぁぁぁぁぁっ!!」
竜巻を纏ったジャンヌは弾丸の如く駆け抜け、渾身の力で旗を振り下ろす。
筋力B+落下+竜巻による加速。
複数の要素を加えた一撃が地面を粉砕し貫く。
『オオォォォォッ!!?』
命中したティーレックス・ドーパントは地中から弾き飛ばされる。立ち上がるが足取りがおぼつかず、大きなダメージを負っているのが分かった。
後がないと踏んだティーレックスは咆哮し、自らの能力を周りに広げる。
背中にある脊椎が伸びていくと、周囲の瓦礫が集まり出し、次々にティーレックス・ドーパントへ合わさっていく。
石や木材を無理矢理に組み立て、完成したのは巨大なティラノサウルス。
ティーレックス・ドーパントの暴走形態『ビッグ・ティーレックス』だ。
(鉄筋が入ってないはずの瓦礫を引き寄せた!? 能力が変わっている?)
「皆さん気をつけて! ドーパントが巨大化した! 注意を払ってくれぇっ!!」
一捷が叫んでジャンヌ達に警告するが、その一捷を狙ってビッグ・ティーレックスは突っ込んできた。
『グォォォォォォォォッ!!』
「ムッ!? うわぁぁぁぁっ!!」
「平沢殿っ!」
開いた顎に噛みつかれる。
Wとなっているお陰でなんとか一捷の体は無事だが、ビッグ・ティーレックスは一捷を噛んだまま街の西側に並ぶ廃墟
に突撃。次々と壁や建物をぶち破り、開いた場所に出ると一捷を吐き捨て、側の壁に叩きつけた。
重力で落下し地面に倒れる一捷。
「ぐぅぅっ……なんて、パワーだ……」
全身に走る激痛。少し動かすだけで体がバラバラになりそうな感覚。
それでも、痛みで涙目になりながらも、立ち上がる。無理矢理立つ。
「……負ける……もんかよ」
アンナを助けると決めた。その上で守ると。
ならば立ち上がれ。諦めてはならない。
仮面ライダーの力を持つならば、最後まで戦うのだ。
誰かを守り、救うためにも。
『ヒート! ジョーカー!』
サイクロンメタルからヒートジョーカーにメモリチェンジ。拳に炎を纏いビッグ・ティーレックスと対峙。
ビッグ・ティーレックスの体から飛ばされる細かい瓦礫や木材を殴り壊しながら、一捷は少しずつ距離を詰めていき、足元にまで辿り着く。
「……シャァオッ! ラァァァァッ!!」
掛け声を上げ、左の膝に炎の右ストレートをぶちかます。一撃だけでなく、二撃、三撃、四撃と連続。そしてラッシュ。
ひたすら組み合わさった瓦礫を粉砕していく。
砕く、砕く、砕く、ひたすら砕く。
『グゥゥゥゥッ……!』
「くそっ、暴れんな……!」
しつこい攻撃を嫌がったビッグ・ティーレックスが左足で蹴り飛ばそうとし、一捷は左足に組み付くことで難を逃れたが、そのまま足を激しく振り回される。
瓦礫を握りしめ意地でも離れないようにするが、激しく振られる内に握力が弱まってくる。
このままだと振り落とされる。一捷がそう思ったときだった。
「フォルテッシモ!」
「ごめんなさいね」
「しゃっ!」
『グォッ!?』
衝撃波、硝子の塊、ダガー三本がビッグ・ティーレックスの頭部に命中し怯む。
破片や音で何が起き、誰がやったのかを把握した一捷は念話を使用。
『オルガマリー所長!』
『平沢、足にしがみついているのはやっぱり貴方なのね! その怪物は一体何!?』
『ドーパントですよ! ティラノサウルスのドーパントが瓦礫を纏ったビッグ・ティーレックス!』
組み付きながら必要な情報を伝える一捷。
『何ぃ? あの嬢ちゃんがこのデカいドーパントにされているだと!?』
『何故そのような……いえ、それは今考えるべきことではありませんか』
伝えている間も瓦礫、石礫、木材があちらこちらにばら撒かれ、どうにか回避・組み付きながら念話を続行。
『とにかくこのデカブツをなんとかしないと。石でできたトカゲに食べられるなんてボクは嫌だぞ!』
『その通り……だから、必ず助けます! アンナちゃんを! 絶対に!』
『そうですわね。あの大っきなトカゲさんからアンナを出してあげないと。よろしくて、オルガマリー?』
『……ここで退くわけないわ、ライダー。平沢、ドーパントの情報があるのなら貴方が指示を出しなさい。これだけの敵を無視はできないわ、やれるわね!?』
『やってやりますとも!!』
「ラッ! ハッ! シャァァオ、ラァッ!!」
力強く返答し一捷は更に畳みかける。右拳で叩き、裂き、貫く。三撃目の拳がビッグ・ティーレックの左膝に入った瞬間、その巨体が大きくかしいだ。
『グッ、ォォォォォォッッ!!??』
叩き込み続けていたヒートジョーカーの拳が、関節部たる膝を打ち砕いたのだ。支えを失い、瓦礫の巨体が倒れ込んで土煙が舞い上がる。
一捷のアンナを助けるという誓い・思いがジョーカーメモリによって大きな力となり、最初は圧倒されたビッグ・ティーレックスに通じたのだ。
直ぐ様離れた一捷はオルガマリー達と交代。呼吸を整えながら指示を飛ばす。
「クー・フーリンさんはルーンでビッグ・ティーレックスを拘束! 少しでも立ち上がるのを防いで下さい! 百貌さんは筋力の個体で攻撃、狙いは右足だ! アマデウスさん、アントワネット王妃、オルガマリー所長は頭に遠距離攻撃を!」
「任せとけ」「はっ!」
最初にクー・フーリンが杖を地面に突き立てルーンを発動。周りに散らばった木材を操り、更に木の根を生み出して
ビッグ・ティーレックスに絡ませ、動きを封じる。
「ぬぅん!!」
続いて百貌のハサンが人格を変え、筋骨隆々の大男――『怪腕のゴズール』となり、ばたつくビッグ・ティーレックスの右足を殴り、蹴り、踏みつけ、ダブルスレッジハンマーをぶちかます。怪力Dのスキルによる圧倒的な腕力に右足はひび割れ、遂に膝が砕け散った。
これで立ち上がるまでの時間が稼げる。
どうにか拘束を抜け出そうと暴れるビッグ・ティーレックス。その頭に衝撃波が、ピンクの風が、光線が降り注いでダメージを重ねる。
『ヒート! メタル!』
「おおおぉぉぉぉぉっっ!!」
駆け抜けていくのはヒートメタルにハーフチェンジした一捷。メタルシャフトにメタルメモリを装填しトリガーを押す。
『メタル! マキシマムドライブ!』
『グッ、グォアアア』
「ム!」
必殺技の発動に入る一捷に対して、ビッグ・ティーレックスは音声とパワーの高まりで危険を感知。突撃する一捷を衝撃波で粉々にしてやろうと顎を開いた。
それを見た一捷は瞬時に周囲を確認。右に大きな瓦礫を見つけそちらへジャンプ。メタルシャフトをバットのように持ち替え、思い切り振り抜いた。
「オォォォォラァァァッ!!」
『――ガッッッ!!??』
瓦礫はメタルシャフトに砕かれず、大きな塊のまま真っ直ぐ飛んでいき、ビッグ・ティーレックスの頭に直撃。
開いた顎に瓦礫が挟まる形となり、顎の開閉と衝撃波を封じ込める。
一捷はメタルシャフトの外側のみから炎を噴射し、振り抜いた態勢から回転し勢いをプラス。シャフトを真ん中に持ち直し、ビッグ・ティーレックスの頭部右側へ渾身の一撃を叩きつけた。
「メタル――ブランディング!!」
『ゴッ……ガアァァァァッッ……!?』
マキシマムドライブの直撃を食らったビッグ・ティーレックスの各部分が爆発していき、最後に大爆発。
炎が噴き上がり、その中から灰色のドーパントメモリ――ティーレックスメモリが飛び出してきて、バラバラに砕ける。
それを見て、メモリブレイクは成功したと一捷が思うと同時に、ヒートメタルの姿が解除される。
戦いによるダメージの蓄積とマキシマムドライブによる消耗で限界が訪れ、自動解除されたのだ。
襲ってくる急激な疲労感に片膝をつく一捷。
「はぁっ……はぁーっ…………アンナちゃんは!?」
だが直ぐにアンナの無事を確かめるべく、震える足に力を込めて彼女を探す。
ティーレックスメモリが排出され壊れたのは確かに見た。ならば何処かに無事でいるはずなのだ。
……あるいはそうではないかもしれないと思ってしまい、鼓動が早くなるのを感じながら、周囲を見渡す。何度も。
左右に。瓦礫や廃墟の陰に。あらゆる部分に目をやって、そして見つけた。アンナの姿を。
「アンナちゃんっ!!」
「……う。おにいさん……?」
一捷が倒れているアンナに叫ぶ。するとアンナは目を覚まし、ゆっくりと立ち上がって一捷の方へ視線を返してきた。
見たところ怪我はない。ガイアメモリの影響が残っているかもしれないが、ひとまずは無事を確認できて、一捷は胸を撫で下ろした。
「よかった……本当によかった、無事で――」
「おにいさ……」
「…………あ……けふっ」
「…………ごめんな、さい……」
「………………なん、で」
そのときの光景を、一捷は永遠に忘れることはない。
その際、一捷は何を思っていたのか。所々しか思い出せない。
理解できなかった。疑問しなかった。何故、という言葉しか思い浮かばなかった。
どうして、直ぐにアンナを助けに行かなったのだろう。
どうして、アンナは謝ったのだろう。
…………どうして、アンナの胸から鋭い刃が飛び出しているのだろう。
口から血を吐いて、刃が引き抜かれると、アンナは音もなく倒れた。糸が切れた人形のように、ぱたりと。
そうして、もう二度と、起き上がってはこなかった。
「はいはい、そういうのいらないから。ナシよナシ、こんな結果はさぁ」
倒れたアンナの後ろに、全身を包帯を巻き白いローブの人間が立っていた。右手には血で濡れた槍を持つ存在が。若い男の声だった。
そいつが犯人なのは明白だったが、一捷にそいつのことは何一つ映っていなかった。頭に入ってこなかった。
……ただ、もう動くことすらない、命が失われた『彼女』のことを見て、『彼女』のことしか考えられなくなっていた。
「……誓ったんだよ。僕は」
「守るって、決めたんだ。せめて、せめて……一人だけでもって」
「決めたんだよ。決めた。決めて…………あ、あっ、あぁ、うぁぁぁぁ」
「……あああああああああ!!!! うぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーっっっ!!!!」
サブタイトルのA=アンナ、とあるキャラ『■■■■』
絵を描くとして、早く上手に描けるのはどちらだと思いますか?
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オルガマリー
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マシュ