へっぽこマスターが物申す(改)   作:剣聖龍

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へっぽこマスターの痩せ我慢

「……先輩、起きていらっしゃいますか?」

 

「………………」

 

「その……お食事をお持ちました」

 

 

 部屋の隅で蹲る一捷はマシュに答えない。

 

 

「……こちらに置いていきますので、お好きなときに食べて下さいね。……また来ます」

 

 

 そう言ってマシュが退室しても一捷は一言も話さなかった。置かれたエナジーバーと水が入ったペットボトルにも一瞥もくれず、同じ態勢でいる。

 

 僅かに開かれた目は一体何を見ているのか。いや、何も見えていないのかもしれない。

 

 彼の目に映っているのは、考えているのは、あのときのことだけ。

 

 目の前で、アンナが貫かれ倒れていく瞬間のみが、今の一捷の中で繰り返される。そして自問自答。

 

 どうして、あのとき動けなかったのか。

 

 直ぐに再変身していれば。

 

 油断せず周囲に警戒していたら。

 

 あるいはアンナを助けられたかもしれないのに。

 

 どうして? ああしていたら。こうしていたら。

 

 過ぎてしまったことだと分かっていても、無限ループのように考えるのをやめられないった。

 

 

「僕のせいだ……僕の…………」

 

 

 呟き、そうしてまた自分を責め、考え込む。

 

 何度も何度も、繰り返す。その度に、負の思いが積み重なっていく、一捷の心の中に。悲しみと怒り。

 

 それらはどす黒い負の感情の塊となって、心の底に貯まっていく。

 

 

「………………」

 

 

 長く蹲り続けた末、不意に顔を上げる一捷。

 

 重く感じる体を動かし、とった行動とは――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ただいま戻りました」

 

『お帰りマシュ。……どうだった? 平沢君の様子は』

 

 

 左右に首を振るマシュに、通信越しでロマニは『そうか……』と呟く。

 

 リヨンでの戦いから半日が経過していた。ビッグ・ティーレックス撃破後、複数の敵に襲撃されながらもなんとか離脱したカルデアメンバー。今は廃棄された砦の中で休息をとっている。

 

 それでも状況は芳しくない。

 

 一捷とアンナに何が起こったのか、オルガマリー達から伝えられ全員が把握している。

 

 あれ以降一捷は塞ぎ込んでしまった。まるで魂の抜けた抜け殻のような状態になってしまい、マシュ達が呼びかけようが何をしようがほとんど反応すらしない。

 

 無理もないことだと全員が思う。目の前で自分と交流があった人間を殺され、自分は何もできなかった。一般人である一捷への精神的ショックは計り知れないものだと予想していた。

 

 悲しむ気持ちは分かる。他の面々もアンナと交流していたので、彼女の死はそれぞれに悲しみと後悔の感情を抱かせていた。

 

 

「せめて私が……平沢殿が連れ去られた際に、直ぐ追いかけていれば」

 

「いやジャンヌ殿。私達もファントムの撃破に時間をかけ過ぎた。せめて私が追いかけるべきだった」

 

「……それを言うなら、あの白いドーパントを取り逃した私達にも責任があるわよ」

 

 

 そう、ビッグ・ティーレックスが撃破された直後、状況はあまりにも変わったのだ。

 

 次々と。何回も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁぁぁぁ、ぁぁぁぁ……」

 

「この程度で絶望するか。メンタルの弱い奴」

 

 

 倒れたアンナを前に膝をつき動かなくなる一捷に、白いローブの存在は手にした槍を構えようとする。

 

 

「おっと」

 

「貴様、よくも!!」「おい坊主! 聞こえてるか、オイッ!!」

 

 

 一捷の肩越しに飛来した火球を難なく槍で弾き、ゴズールの拳をいなすと飛び退く白い存在。

 

 次いで飛んでくる衝撃波や光線を回避しながら、白い存在は廃墟の上に着地。そのまま廃墟から廃墟へ飛び移ってあっという間に姿を消してしまった。

 

 

「一体なんだったの、今のは……」

 

「それよりもだ! 早く向こうのセイバー達と合流するぞ、またあの槍持った奴が来るかもしれねぇ!」

 

 

 一捷を担ぎ上げたクー・フーリンが叫ぶ。アンナの遺体は流石に放置できなかったので、ティーレックスメモリの破片と一緒に百貌のハサンが分身を使い運ぶ。

 

 

「でぇやぁぁぁっ!!」

 

「ぐおぉぉぉぉっ……」

 

『おっと……ここまでだな』

 

 

 オルガマリー達が街の東側に移動すると、あちらこちらが凍った街の中で、ファントムがアルトリアに切り裂かれ倒されていた。

 

 それを見て白いドーパントが呟く。最初にオルガマリー達と戦っていたこの白いドーパントは、ビッグ・ティーレックスが現れた混乱に乗じて街の東側へ移動しファントムとアルトリア達の戦いに乱入した。氷の能力で氷柱や氷の弾丸で弾幕を張り、地面や壁を吹雪で凍結させて相手の移動を制限。ファントムの援護とカルデアの妨害に徹した。

 

 結果、アルトリア達はその場に抑え込まれ、一捷の方へ向かえなかった。連続攻撃でファントムは倒されたが、その隙に白いドーパントは体から冷気を発し、それに紛れて撤退した。

 

 

『十分にこの力は確かめられた……退かせてもらう。精々生き延びることだ、カルデア』

 

「くぅぅ……だが、役目は果たしだそ。報われぬ役目だったがな……」

 

 

 最後にそう言い残しファントムは消滅。アルトリア達がオルガマリー達と合流するが、

 

 

「先輩? 一体何が……っ!?」

 

「何故アンナがここに!? しかも、もう息が」

 

「……恐竜のドーパントを倒した後に襲われたのよ」

 

 

 担がれた一捷とアンナの遺体に驚き、何があったかを聞いてマシュ達は顔をしかめる。

 

 が、悲しみに浸る間もなく街に影がかかる。

 

 大きな影。見上げると空に竜の姿が。

 

 巨大な竜だった。ワイバーンとは比べ物にならない、漆黒の巨竜にして真の竜種。

 

 名を『ファヴニール』。背にはジャンヌ・オルタを乗せ、周りには無数のワイバーンを引き連れている。

 

 ファヴニールが攻撃態勢に入り、防ぐのも逃げるのも間に合わない距離にいるオルガマリー達は死を覚悟したが、そのときファヴニールの前に飛び出す影があった。

 

 彼女らが出会った騎士だ。彼こそが探していた竜殺し。ドイツ系の叙事詩『ニーベルンゲンの歌』の主人公にして、かつてファヴニールを倒した英雄『ジークフリート』。

 

 迎え撃った彼の宝具を回避するためファヴニールは上昇し、その間にオルガマリー達は撤退を決め全速力で駆け出す。

 

 が、ジャンヌ・オルタがそれを見逃すはずもなく、直ぐ様追っ手のサーヴァント二騎を放ってきた。

 

 追撃してくるサーヴァントから逃げる最中、ワイバーンに襲われているフランス軍を発見し救援に入るカルデアだが、ゾンビの出現、カーミラの合流、フランス軍からのジャンヌへの警戒とカルデア側に不利な状況が続く。

 

 しかし途中でジル・ド・レェ率いる部隊が現れ、彼らからの援護によってなんとか盛り返した。

 

 ……かに見えた。

 

 

「ハハハハッ! やってるじゃあないか、楽しめそうな戦いをさ!」

 

「あ、赤のジャンヌだっ!! 赤のジャンヌ・ダルクが出たぞぉーーーっ!!!」

 

 

 兵士の叫び声。空から女性の聞こえたかと思うと、全身を真っ赤な鎧に包んだ人型の存在が浮いていた。

 

 背中に生えた虫のような羽根を羽ばたかせ、赤のジャンヌは戦場を縦横無尽に飛び回る。手にした両刃の剣でカルデアへ斬りかかり、全身に内蔵された機関砲や大砲でフランス軍を吹き飛ばし戦場を大混乱に陥れた。

 

 

「ハッ、英雄が揃ってもこの程度……んっ?」

 

 

 しかし突然、赤のジャンヌの動きが止まる。

 

 

「チィッ、この頑固娘め……肝心なときに約に立たないねぇ!」

 

 

 理由は分からなかったが、それに乗じてカルデアメンバーは離脱を決行。再び動き出した赤のジャンヌより放たれる砲弾や手榴弾を撃ち落としつつ、どうにか撤退。

 

 戦いでの消耗が激しく、偶然見つけたこの砦に逃げ込んだというわけだ。

 

 

『それにしても、赤のジャンヌ・ダルク……サーヴァントと思っていたけど、あれは……全く違う』

 

『そうだね。まるで空を飛ぶ昆虫のような騎士。私も見たことがないよ』

 

 

 人の声が発せられていたので恐らく中に人がいるはずなのだが、見た目はSFに出てくるパワードスーツやロボットのようであり、カルデアを混乱させていた。

 

 魔術や錬金術、そしてガイアメモリとも違う異質な存在、赤のジャンヌ・ダルク。

 

 彼女と戦ったときのことをジークフリートは語り出す。

 

 

「……リヨンで俺を襲ったのも、複数のサーヴァントとあの赤いジャンヌ・ダルクだった。可能な限り戦ったが、奴の剣からは異常な力を感じた」

 

「それは、魔力ではないの?」

 

「……なんと言えばいいのか。似て非なるものというべきか、燃え盛る炎の様に爆発的な力だった。……すまない、今は曖昧なことしか言えん」

 

 

 その異常なパワーによってジークフリートは押し切られ敗北。その体に呪いをかけられてしまった。

 

 襲ってきたサーヴァントの一騎――マルタによりリヨンの城に匿われたものの、現在のジークフリートでは全力が出せず、ファヴニールには勝てない。

 

 複数の呪いかけられたそれを解くにはジャンヌともう一人の聖人が必要で、次は呪いを解く存在を探さねばならない。

 

 もっとも。赤いジャンヌと謎のパワーと聖人探しの前に、一番の問題が残っているのだが。

 

 

「……マスターは立ち直れんかもしれん」

 

「そんな、何を言うんですかエミヤさん!」 

 

 

 苦い顔でそう漏らしたエミヤにマシュがいち早く言い返した。まるでマスターを信じていないような物言い。

 

 本当にそう言っているわけではない、だがエミヤが言ったことは薄々全員が感じ取っていた。

 

 戦った相手が親しかった存在で、助けようとしたのに守れなかった。しかも、目の前で命を奪われて。

 

 普通の人間なら、精神的に大きなショックを受けまともではいられなくなる。

 

 それでも。それでも今は、カルデアは戦わなければならない。この特異点を解決し先へ進むために。

 

 残酷なことだろう。だがここで立ち止まるわけにもいかない。

 

 

『……最悪の場合、平沢君だけでもカルデアへ帰還させ、任務を再開する必要がある』

 

「そんな……」

 

『その場合、オルガマリー所長が全てのサーヴァントのマスターとなります』

 

「……止むを得ないわね」

 

「待ってください! 本当にそれで良いんですか!? アルトリアさん達の意見だってあるでしょう!」

 

「……マシュ。オルガマリー達の言うことも間違ってはいません」

 

 

 本当にこのまま、塞ぎ込んだ一捷を帰して進むという流れになりかねない。たまらずマシュは抗議したが、黙っていたサーヴァント達からアルトリアが答える。

 

 

「マスターの気持ちも理解できます。……ですが、いつまでもここにはいられない」

 

「……このまま竜の魔女を放置すれば、このフランスが滅んでしまいます。それはなんとしても止めないと」

 

「……そうね。ジャンヌの言う通り、それは避けなければいけないわ」

 

「彼には悪いが……ボクもマリーに賛成だ」

 

「心が折れた奴を戦いには出せん。帰すのも手だろうよ」 

 

「………………」

 

 

 アルトリアを始め、ジャンヌ、マリー、アマデウス、クー・フーリン(術)はフランス奪還のため一捷を帰還させ進むことを勧める。

 

 百貌のハサンは沈黙していたが。

 

 

「……ま、それもアリか。心が折れた奴を戦いには出せねぇ」

 

「無論、マスターの気持ちを無視する訳ではありませんが」

 

「平沢殿のことを考えれば、そちらの方が良い……のかもしれんな」

 

 

 カルデアに待機している槍のクー・フーリン達も概ね一捷帰還に賛成。

 

 

「普通……じゃ、いられないよな。こんなことになったら」

 

「そうね……一般人だったのなら、耐えきれないはず。……反応自体は、ごく普通のことよ」

 

 

 ムニエル、エルロンを始めとするカルデアスタッフ達もほぼ同意見。一捷に対し思うところはあるものの、それでも少しずつ、一捷という人間が分かってきた。

 

 人なりは悪人ではない。優しく思いやりがあり、悪い部分を認めることができる。ややぶっ飛んだところ、精神的に弱いのは気になるものの、普通の人間というのが現在の一捷に対するカルデアスタッフの認識。

 

 そんな普通の人間として考えれば、仮にここで立ち上がれなくても、戦いを拒否したとしてもなんらおかしいことではないのだ。

 

 カルデアの大半が賛成したことで、本格的に帰還の流れが強まる。

 

 それでもなお、マシュだけは否定の意思を叫び続けていた。

 

 

「……ですが! まだ先輩は何も言っていません、肝心の先輩を無視して進めるのは、違うと思います!」

 

「『何も言ってない』のではない。『何も言えない』状態なのだマシュ。精神的なショックというのは、見かけ以上に酷いものだ」

 

 

 

 

「そんな状態のマスターに、君は無理矢理戦え、とでも言うつもりか?」

 

 

 

 

「――そんなことすれば、間違いなく死ぬぞ。彼は」

 

 

 

 

 

「ッッッッ!!!」

 

 

 

 そんなマシュに対し、エミヤは鋭く断言。

 

 戦い以外で死ぬという意味も含めて、だ。

 

 今の一捷の状態を考えたらそうなってもおかしくない……思わずその場面を想像したマシュは青ざめ、それでもなお食い下がろうとしたときだった。

 

 

「いや誰が死にますか。そんなつもりないですからね」

 

「それは君が………………んっ?」

 

「せ、先輩!?」

 

「遅れて申し訳ありません」

 

 

 エミヤの言葉へ続くように聞こえてきた声。思わず全員が声の発生源へ勢いよく振り向く。

 

 そこには他ならぬ、今話題にしている一捷が立っていた。

 

 

「大変なときに役に立てず申し訳なかった。……貴方とは初対面ですね。はじめまして。マスターを務めています、平沢一捷と申します」

 

「……丁寧にありがとう。セイバー、ジークフリートと言う」

 

「以後よろしくお願いします、ジークフリートさん」

 

「……こちらこそな」

 

「…………それで。話は聞こえていましたが、随分と内容が進んでいるようですね」

 

「……聞こえていたのならばその前提で話す。……もう平気なのか、マスター」

 

 

 少なくとも塞ぎ込んでいたところからは回復したということになる。

 

 そのつもりでエミヤは話を進めるが、

 

 

「平気、平気ですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな訳ないでしょう。クッッッッソ落ち込んでますよこれでも」

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「(堂々と言うことじゃないのでは……?)」」」

 

 

 ネガティブ発言をぶちかます一捷に思わず全員が若干引く。それを見た上で一捷は続ける。

 

 

「……正直ショックとしか言えませんよ。目の前でアンナちゃんが死んで。なんでこんなことになったんだって思いまくってます」

 

「先輩……」

 

「それでも……辛かろうがなんだろうが、今ここで何もしなかったら、アンナちゃんの死が本当に無駄になる。それだけは、絶対に嫌なんです」

 

「痩せ我慢ではないのか」

 

「えぇ、痩せ我慢です。それが何か?」

 

「それも堂々と言うことではあるまい……」

 

 

 誰がどう見ても無理をしている一捷。エミヤの指摘で開き直るのに、エミヤの方が呆れた声を漏らした。

 

 ここで言い始めるとキリがなさそうだったので、無理矢理にでも話題を変えようと、一捷は先程の話を挙げる。

 

 

「……とりあえず、今は話を続けましょう。ジークフリートさんの呪いを解くことと、赤のジャンヌ・ダルクについて、でしたよね」

 

『……そうだね。これがその、赤のジャンヌ・ダルクだ』

 

 

 カルデアより送られてきた映像。空で暴れ回る赤のジャンヌ・ダルクの姿を見た一捷は、映像が終わると思わず額に手を当て、声を漏らした。

 

 

「……まさかとは思ってたけど。この人かよ……」

 

『この人……? 何か分かるのかい?』

 

「えぇ。これは……『オーラバトラー』です」

 

「オーラバトラー……?」

 

 

 聞いたことのない単語に反応したのはマシュだ。他のメンバーも顔を見合わせている。

 

 

「そう、人型の戦闘兵器。中に人が乗り込んで戦う、架空の兵器ですよ」

 

「架空だと? 何を言っているマスター。赤いジャンヌ・ダルクは確かに存在していたぞ」

 

 

 

 エミヤが最もな疑問を返す。そう言われるだろうと一捷は感じていた。少しの間沈黙。頭の中で考えをまとめ、口を開く。

 

 

「ちょっとすみません、一度外します」

 

 

 断りを入れ、皆の前から離れる一捷。部屋の隅に行くとカルデアへ通信を繫ぐ。

 

 相手はロマニ、ダ・ヴィンチだ。

 

 

「ドクター、ダ・ヴィンチちゃん。申し訳ないんですが……これは僕のことも説明しないと話が続けられないです」

 

『えぇっ、いきなり何を言って……いや、それってまさか』

 

「お察しの通り……。オーラバトラーは僕の世界でのロボットアニメの兵器。仮面ライダーWとは違う作品に登場する存在です」

 

『……それは確かなの? どうしてそんなものが?』

 

「それは分かりません……可能性として、Wがある以上、他作品もあるかもしれないとは考えましたが」

 

 

 確証がないので何故なのかは分からない。

 

 それでも、今分かっていることを説明するには黙っている内容を含め話さなければならない。そうしないと、どうしても不自然になってしまうと一捷は言うのだ。

 

 少しの間沈黙が流れ、ロマニの声が帰ってくる。

 

 

『…………分かった。確かに黙るようにとは言ったけど、いずれは話さなければならないとは思っていた。それが少し早く来たのかもしれない』

 

「それじゃあ」

 

『ロマニがそう判断するのなら、私からも言うことはない。ただし、内容は最低限に。君のことと、そのオーラバトラー関係だけだ。いいね?』

 

「分かりました」

 

 

 許可をもらい通信を切る。そうして戻ってきた一捷に対し、疑いの目がいくつも突き刺さった。

 

 

「いきなりどうした坊主? コソコソ話なんかしてよ」

 

「……不快に思わせてしまい、すみません。赤のジャンヌ・ダルクの、オーラバトラーの説明をするに当たって、言わなければならないことがあるんです」 

 

「っ……!」

 

「言わなければ、ならないこと?」

 

「……実は、僕はこの世界の人間ではなく、異世界から来た人間なんです」

 

「……はいっ?」「えっ」「……んん?」

 

 

 アマデウス、マリー、ジークフリートがそれぞれ戸惑う反応を見せる。当然の反応だ。残るオルガマリー達は何も言わないまま。ほとんど変わらない表情だったが、僅かに反応はしていた。カルデアからも、聞いているであろうスタッフ達からの反応はない。

 

 

「てっきりエミヤさん達は驚くと思いましたが」

 

「そんな訳無かろう。内心驚いているのだ、これでも」

 

「……そうでしたか」

 

 

 ひとまず全員の反応を受け止めて、一捷は説明を続けていく。

 

 

「信じられないでしょうけど、まずは最後まで話を聞いて下さい」

 

 

 オーラバトラーとは、1983年に放送されたロボットアニメ『聖戦士ダンバイン』に登場する人型の兵器。

 

 赤のジャンヌ・ダルクの機体は『レプラカーン』。全身に火器を内蔵した高火力の機体で、武装はオーラバトラーが装備する実体剣オーラソードを始め、頭部の牙とこめかみに埋め込まれた機関砲オーラバルカン二門。背中のエンジンのオーラコンバーターに内蔵された連装オーラバルカンが左右一門ずつ。股間部の大砲オーラキャノン。右腕の装甲にナパーム・ランチャーのフレイボム。左腕に装備した盾には射撃武器オーラショットとワイヤー付き鉤爪のワイヤークローを搭載。両方の脹脛には手投げ爆弾グリネイドを格納。

 

 パイロットはアイルランドの女性ロックシンガー『ジェリル・クチビ』。戦いを楽しむ攻撃的な性格の女戦士だ。

 

 彼女がこの世界に現れたのは、ある意味必然だと一捷は考えていた。

 

 

「それは何故ですか、平沢殿?」

 

「ダンバインの中で、戦いは最初、異世界バイストン・ウェルを舞台としていました。が、途中で主人公が元いた世界……地球に移ったんです。現代に戻ったジェリルが戦う内に、そのパワーでギリシャの空軍を傘下にしました。そのときに、空軍パイロットの一人がジェリルを見て『20世紀のジャンヌ・ダルク』と例えたんです。それで、ジェリル・クチビとレプラカーンが召喚された……と予想したんですが」

 

「……無理矢理過ぎない、それ?」

 

「でしょうね……」

 

 

 ジャンヌの問いに予想を話す一捷だが、アマデウスからもっともな指摘を受ける。だが現れたレプラカーンことジェリルとジャンヌ・ダルクを結びつける要素はこれしか思い当たらないので、ひとまずそういうことにしておいて、話を再開する。

 

 

「そしてオーラバトラーの特徴ですが、共通して『オーラ(ちから)』による操縦で動きます」

 

 

 カタカナに漢字の『力』、読みは『ちから』で『オーラ(ちから)』。

 

 生命体が持つ精神エネルギーであり、これを増幅・エネルギーとして戦うのがオーラバトラー。強い感情によってオーラ力は増し、様々な影響を及ぼす。

 

 例えばオーラバトラーの出力を強めたり、強力なオーラ力で他人を良い方向へ導いたり。果てにはオーラバトラーを巨大化させる現象まで引き起こしたりと、凄まじいパワーをもたらす。先程の説明でジェリルがギリシャ空軍をまとめられたのも、ジェリルの強いオーラ力によるもの。

 

 

「感情で増幅する力……そうか。あの異常な力は、オーラ力というものだったのか」

 

 

 レプラカーンの剣から感じた力の正体が分かり、符に落ちるものがあったとジークフリートは頷く。

 

 

「それで、そのオーラバトラーにはどうやって対抗するのだ。明確な弱点があるのか?」

 

「対抗手段……としては、オーラバトラーには同じオーラバトラーをぶつけることです。そうなると、コイツの出番でしょうね」

 

 

 そう言い一捷は青緑の短剣を取り出す。エミヤ達はそれを見て、何をするのかすぐ分かった。

 

 

「その短剣の力を使うのね。冬木で実際にWの力が現れたから、対抗手段が生まれるのは本当なんんだろうけど……」

 

「そうなりますと、先輩がオーラバトラーに乗って戦うのですか?」

 

「そういうことになる。……更にレプラカーンだけでなく、新しいドーパントもいたんですよね? 所長達を襲った」

 

「え、えぇ……この敵よ」

 

 

 映像が切り替わり映されたのは白いドーパント。

 

 

「『アイスエイジ・ドーパント』ですね。氷を操るドーパントです」

 

 

 イニシャルは『I』。『氷河期』の記憶を宿した『アイスエイジメモリ』で変化するドーパント。

 

 アイスエイジ・ドーパントはオルガマリー達と戦い、姿を消したかと思えば、ファントムと共闘。いつの間にかいなくなっていたそうだ。

 

 

「……おそらくだけど、正体はレフよ。声が同じだったわ」

 

「レフ教授が!? 一体どこで新しいメモリを……」

 

「もしかすると、マルタが言っていた『A』という存在ではないのですか。今の所、人理を焼き払った存在を除いて、最も怪しいのはそのAなる人物です」

 

『確かにね。マルタの言葉通りなら、彼女にガイアメモリを与えたのはAという人物。なら、レフ教授と接触していたとしても、不思議はない』

 

 

 アルトリアの予想にダ・ヴィンチが答える。

 

 謎の人物Aもそうだが、アンナを亡きものにした槍の男。新しいメモリを手に入れたレフ。赤のジャンヌ・ダルクことレプラカーン。そしてこの特異点。分からないこと、解決しなければいけないことだらけの現状。

 

 とりあえず、今判明している情報の整理は終わったので、警戒をしつつ各自休息に入る。

 

 

「……ドクター、ダ・ヴィンチちゃん、一つ話さなければならないことがあるのですが」

 

『どうしたの? わざわざこっちの回線を使うなんて』

 

「……『この先』についての話です」

 

『『っ!』』

 

 

 自分がいた部屋に戻るなりカルデアへの回線――ロマニとダ・ヴィンチにのみ繋がるタイプの方を開く一捷。

 

 どうしても伝えなければならない内容があり、内容が大っぴらに言えるものではないので、このような形で伝える。

 

 それは先の話。この先に起こるであろう、一人の仲間の最期。

 

 

『……そうか。それで、ティエールの街を守って、アントワネット王妃が犠牲に』

 

「はい……」

 

『それで、なぜその内容を私達に伝えたんだい?』

 

「もしも、同じ未来になっていたとしたら。僕をアントワネット王妃達の近くへ配置してほしいんです」

 

『それは、彼女を守るために?』

 

「はい。仮に竜の魔女が襲ってきても、未来の情報である程度は有利に立ち回れる。仮に赤のジャンヌが襲ってきたとしても、短剣で同じ性質の力を得られるはず。そうすれば、対処は不可能じゃありません」

 

 

 可能性として確かに不可能ではない立ち回り。

 

 先を知っている一捷は、この先で消えてしまうマリーをなんとか助けたいと思い自らの意見を伝えた。

 

 ……どうして急に未来情報を持ち出して誰かの死を避けようとするのか、自分でも分からないまま。

 

 だが、返ってきた返答は厳しいものであった。

 

 

『……ごめん平沢君。それは許可できないよ』

 

「っ!? 何故ですか!? 確かに穴だらけの内容ですが、可能性は……」

 

『それはそうだ。可能性はあるし、不可能じゃない。……でも、それだけなんだ。それ以外の不確定要素や、キミの危険を考えると、認める訳にはいかない』

 

 

 だが言ってしまえばこれは、一騎のサーヴァントを助けるために、マスターが危険になるということ。オルガマリーがいるとは言え、やられる確率が高くなる場所へ一捷を行かせられる訳がなかった。

 

 他にもダ・ヴィンチが言う通り、例えば他のサーヴァントやエネミー、ドーパントの襲撃といったイレギュラー。

 

 短剣で得るかもしれない、ガイアメモリとは勝手が違う力をその場で使いこなせるかもある。

 

 もちろん一捷もそれは分かった上で二人に未来のことを伝えたのだが……。

 

 

「それでも……先のことが分かっている。変わるかもしれないですが、助けられる可能性がある人がいる。……僕は、できることなら助けたい」

 

 

 一捷の気持ちはロマニ達に痛いほど分かった。自分達が助けられなかった人のことを持ち出した。だからそれを繰り返したくない、助けたいという一捷の思いは尊いもの。

 

 が、それだけで危険な配置を許可できない。

 

 マスターの一人であり、不安定ながらも特殊な能力を扱える一捷を失う訳にはいかないからだ。

 

 

『気持ちは分かるけど、それが無茶なことなら許可はできない。未来の情報は強力だけど、だからこそ簡単に動いてはならない、何が起こるか分からないんだ。それともキミは、これから犠牲がある度にその全てを救う、という風に動くのかい?』

 

「それはっ……」

 

(というか無茶なことしかなかっただろうに……)

 

 

 ダ・ヴィンチにそう言われ言葉に詰まる一捷。どうにか返答したかったが、思いつかなった。

 

 全てを救うことなど、できはしない。

 

 どれだけ力があったとしても、戦えばどこかで犠牲が出てしまう。たとえそれは自分がもっと強くても、本当の仮面ライダー達のような存在でも、できないこと。

 

 ……人や仮面ライダーを遥かに越えた存在であれば、あるいは可能性があるかもしれないが。

 

 

「でも僕は……もうアンナちゃんのように、誰かに死んでほしくない。このままじゃ、アントワネット王妃が……マリーさんが死んでしまうかもしれないんだ! だから……!」

 

『落ち着いて、声が大きいって! 誰かに聞かれでもしたら……』

 

「……あら? 誰が死んでしまうの」

 

「それはマリーさんが――えっ」

 

 

 一捷でもロマニでもダ・ヴィンチでもない声が聞こえて、一捷とカルデアのやり取りが途切れる。

 

 反射的に声がした方、部屋の出入り口に向ければそこには……今話に上がっていたマリーとアマデウス、そしてジークフリートの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

絵を描くとして、早く上手に描けるのはどちらだと思いますか?

  • オルガマリー
  • マシュ
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