青緑の剣が、災いをもたらす?
僕が何かを失っていく、だって?
エミヤの言葉に困惑するが、相手は待ってくれない。
得意とする魔術の呪文が唱えられる。
「――
『敵アーチャーの魔術発動だ! 投影された剣、数四!』
放たれる四本の剣、刀。クー・フーリンさんがルーン魔術で撃ち落としキリエライトさんが盾でガード。
続いて、弓から放たれる矢。数は、三つ!
「どういうことだ、この剣が災いをもたらすって! 僕が失う? 何を言っているんだ、貴方は!」
「敵である私が素直に答えると思ったかね?」
オルガマリー所長の光魔術が矢とぶつかり、逸らされた矢は壁に刺さる。
「ランサーとアサシンを殺した戦いは私も見ていた。あれほどの力……君は制御できると思っているのか?」
「リスクは当然あるだろうさ、それでもやってみせるんだよ!」
「無知とは恐ろしいな。力とは何か、如何な結果をもたらすのか。知らないからこそ言える発言だ」
ルーンの炎、光の魔術が夫婦剣に切り払われる。
「確かに知らないよ一般人だから! 生まれてこの方25年! 攻撃力とてしての力なんか持ったことないからね僕は!」
「何を開き直っているのか……。ならば、初めて手にする力で、君はどうするというのだ」
「決まってる! この特異点を解決する為だ、キリエライトさん達に死んでほしくないからだ!」
「言い切るか。成る程……ここまで来たなりに腹は据わっていると見る」
矢の雨を十字盾で防ぎながら、キリエライトさんが突進。夫婦剣に受け止められ、盾と剣二本で鍔競り合いってから両者が距離をとる。
「だが甘い。未熟な信念で叶うほど理想は甘くない。過ぎた力に振り回され、その身を滅ぼす」
「僕がそうなると言うのか!?」
「君が言わせているのだよ!」
両手に三本ずつ投影した剣を投擲。
次の瞬間、爆発。初めての攻撃パターン。
語尾が強くなったエミヤのように爆風が広がり、僕らはそろって吹き飛ばされ洞窟を転がる。
(
急いで立ち上がる。少しは火傷したけど問題はない、他の皆も吹き飛んだだけでダメージは見たところ軽そうだ。
「魔術の一つも使えず、回路も開いていない。令呪すら満足に扱えず、マスターとして指揮もとれない。仲間にやつ当たり、それでいて助けられてばかり。このような君が戦っていけるというのか」
「それは」
「そんな君に一体何が出来ると言うのだ! 力を手に入れただけの未熟なマスターが! この特異点を攻略し、その先すら進んでいけると、証明出来るか!!」
「――何も出来ないのであれば、何もするな。大人しく、ちっぽけな理想を抱いたまま溺死しろ。それで後悔も喪失も味わなくて済む」
……エミヤに言い切られてしまった。
かの名台詞で、だよ。
いやはや名台詞貰えてウレシイナー(棒)。……はいファンとしての感想終わり。
いやこれ、キッツイなぁ……。ここまで断言されてしまうのは。普通に考えると結構キツイ内容だから、とにかくショックだわ……。
何も出来ない、未熟なマスター、か。
……もしも。もしも藤丸立香だったら、元の主人公だったら、ここでそうは言われなかったかもしれないな。
「てんめえアーチャー! 好き勝手言いやがって」
「平沢、敵のサーヴァントの言うことよ。貴方を混乱させるのが目的、悩まないで!」
「先輩は、何も出来なくはありません……! 私が証明してみせます!」
『平沢君、気をしっかり持つんだ! まだ戦いは終わってない、頑張ってくれ!』
皆が励ましてくれる。キリエライトさんは僕の前で更に力強く盾を握り防御を固めてくれ、両サイドにはクー・フーリンさんとオルガマリー所長。ドクターの通信付きだ。
ありがたいな……皆が僕を守ろうとしてくれる。
なら、僕が諦めちゃあいけないよね。
出来ることをやるしかない。
魔術やマスター能力は……今は出来ないから無し。
令呪を使うか? いや、この狭い場所だとクー・フーリンさんの宝具はつっかえるか洞窟が崩落する可能性がある。キリエライトさんの仮想宝具は防御、タイミングが限られる。こちらも無し。……ロード・カルデアス展開しての体当たりならワンチャンあるかもだが。
あと僕に出来ること……『あれ』しかない、かな。今の状況だと。
正直滅茶苦茶悩む。これでいいのか。正しいのか。失敗したらどうするのかと。下手をすればやられるどころじゃない。
けど迷っている時間はない。エミヤは変わらず僕を仕留めようとしている。その先にも進まなければならないのだ。
(やるしかない……覚悟決めろよ、平沢一捷)
「オルガマリー所長、クー・フーリンさん、キリエライトさん」
「なんだ!?」「何よ!?」「どうしました!?」
「一つ、協力して欲しいことがあります。それで、上手くいけばアーチャーのペースを崩せるかもしれない」
その言葉に三人は驚き、手早く内容を伝えていく。
当然だが今は戦闘中。本当は念話で伝えられれば良いんだけど、今の僕は使えない。後で所長に教わらなければ……。
三人ともモーションを小さくして聞いているが、まずエミヤにはこの様子が見られている。その上で、実行する。
「……それ、本当に大丈夫なの?」
「一歩間違えれば、先輩が危ないです。マスターを危険に晒す訳には……」
「分かってる。でも、ここで時間かけてたらジリ貧になるだけだ。……無茶をしてでも、突破するべきだと思う」
「良いんだな、坊主。失敗したとしても、オレ達が直ぐ助けられるかは分からん。……死ぬかもしれねぇぞ?」
「……それでも、です」
死ぬという言葉に何も思わない訳じゃあない。
不安と恐怖を無理に押し殺して、頷いてみせる。
それで僕の意思は伝わったようで、クー・フーリンさん達は頷いてくれた。
「なら、やってみろ。あのアーチャーに、目にもの見せてやりな」
「はいっ……!」
「死ぬんじゃないわよ。平沢……」
「マスター、お気をつけて……!」
そうして、伝えた通りの協力をしてもらい、僕は前に出る。
位置はキリエライトさんの隣。
「作戦会議は終わったかな?」
「えぇ。お陰さまで」
「ではどうする。私を倒すかね? どうやって?」
「……貴方はサーヴァントだ。僕じゃあまず勝てっこない」
頭、心臓を狙い放たれる矢を、直ぐ様キリエライトさんが防御してくれる。
「アーチャー、確かに貴方の言う通りだよ。僕は魔術師としても、マスターとしても未熟者。心も弱いし理想も小さい。出来ないことばかりだ」
「なら、大人しく諦めろ。剣を渡しここで死んでもらう」
「――あぁ。そうさせてもらうよ」
「……何?」
「この剣は確かにとんでもない。だから、渡すと言っているるのさ」
そうして僕は、青緑を剣を右手で握ると思いきり振りかぶり、
「行くぞアーチャー、キャッチの用意は十分か? しっかりぃ……受取れよやぁぁぁぁぁっ!!」
全力で、放り投げる!!
さー、こっからだ。
僕という人間のやり方でやってやる。
勝負だ、エミヤ。
◆◆◆
エミヤは一瞬、耳を疑った。
青緑の短剣を手放すと目の前の
それだけならハッタリの可能性もあった。が、一捷は本当に剣を握り、こちらへ投げようとしてくる。
まるで野球のピッチャーのように、体を捻り、左足を上げると石の地面を踏みしめて踏ん張り、右腕を振り抜く。
(本気でこちらへ投げる気か? 狙いは顔面? 隙を作らせるつもりか)
「行くぞアーチャー、キャッチの用意は十分か? しっかりぃ……受取れよやぁぁぁぁぁっ!!」
そうして、青緑の短剣が投げられる!
……ふわりと、大きな弧を描いて。
「と、見せかけてのチェンジアップってね」
「は?」
投げる瞬間に力を抜いたことで、青緑の短剣はゆっくりと上空へ浮き上がる。
てっきり、ピッチャーよろしく全力のストレートが来ると予想したエミヤが、思わず声を漏らした。
つられて、放られた短剣に視線が向く。
ゆっくり、回転しながら上がっていく短剣。
とにかく一捷の手からは放れた。剣を撃ち落とし回収しようとエミヤは弓を構える。
その時、変化が発生。
短剣の表面に筋が走り、仕掛けられていた魔術が起動したのだ。
「ッ!! 閃光魔術!」
短剣が強烈な光を放ち一面が白一色に彩られる。
これはオルガマリーに施して貰った光の魔術の一種だ。
反射的に目を覆い、武器を夫婦剣に切り替え攻撃に備えるエミヤ。
この隙にクー・フーリン達からの攻撃が来ると踏んだ行動。
光が収まるまで数秒。
その時間に、カルデア側から攻撃は仕掛けられなかった。
(攻撃がない? ブラフか? それとも別の算段があるのか?)
「いただき」
「!?」
エミヤの真下から声が。
見るとそこには一捷の姿。いつの間にか足と足の間に寝る形で潜り込んでいた。
「ちっ、しまっ――」
「そして必殺のぉー」
「キンテキック!!!!」
メ シ ャ
「ぐぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「えっ」
「はぁっ?」
「はい?」
『何、やってるの……』
そこからなんと、まさかの金的。しかも蹴りでの。
男の弱点にクリティカルヒットしたその一撃に、さすがのエミヤも絶叫。
対し、一瞬思考が停止してしまうカルデア側。
そう……エミヤのペースを崩す策を実行する、とは聞いていたのだが、まさか金的などというバカな手段だとは思っていなかったのである。
「き、き、貴様……仮にもFate作品の主人公がやる手段ではないだろう……それはぁ」
「うるへー!! 人外パワー振るってくるサーヴァント相手にしてんだぞこちとらぁ! 生き残る為ならバカなことでもやってやるわ!!」
そしてエミヤにも予想外の一撃だった。まさかこんな、ギャグのような手段を、仮にもマスターがするとは考えもしなかった。加えて、何故か凄まじいダメージ。金的だとしても、サーヴァントがここまで痛みを感じることは普通ない。
まるで、人間の時のような痛み。立っていることすら難しい。
あまりにもしょうもない手段に、エミヤの中で沸々と怒りが湧いてくる。
顔を真っ赤にして、下らない手段を使った一捷を睨みつける。
「ふざけているのか貴様……。私達は戦いをしているのだぞ。その最中にこのような、遊びのような手段を使いおって……!」
「ふざけてなんかいないよ。僕は」
「なんだと!? これの何処がだ!」
「僕がギャグをする時はね、何時も大真面目にやるからだ。そしてこの状況下で、僕という人間のスキルから、これしかないと考えた。生き残る為にね」
「……阿呆か、貴様。真面目に語れる内容か?」
「でしょうね。それでも、貴方は引っかかった。恐らく、油断しましたね? 僕が未熟だと考えて。少しも油断が無かったと、言い切れますか?」
エミヤは直ぐに答えられなかった。
方法はともかく、一捷を侮っていた部分はあった。
どうせ、何も出来やしないだろうと。
空中に放り投げられた短剣が落ちてくる。手を伸ばしキャッチした一捷が、青緑の短剣の切っ先を、エミヤへと向ける。
「答えられないのが答え。今の結果が答え。油断したから、僕のふざけた手段に引っかかった。それだけのことです」
「……君は、それで良いのか。そのような、不真面目な態度で。それで、この先の戦いを生き残れると、本気で思っているのか」
「未来のことなんざ分からないよ。人間なんだから僕は。その時に対応していくしか、出来ない」
「そしてその時、生き残り帰る為に行動する。真面目に戦い。カッコ悪くても。おちゃらけてでも。それが僕。平沢一捷なんだよサーヴァント・アーチャー」
言い切ると同時、短剣の柄を左手で思いきり叩く一捷。
それにより、再び強烈な閃光を放つ短剣。
「二段重ね!?」
光が放たれると同時、一捷は直ぐ様エミヤの前から逃げていた。
金的の痛みが引き、隙を見て始末しようとしていたエミヤだったが、再度目くらましを食らう。
そこに降り注ぐ炎、光、そして衝撃。
ルーン魔術に焼かれ、光の魔術に貫かれ、杖に霊核を貫かれるエミヤ。
「言いたいことはたくさんあるでしょうね。貴方の正義には、認められないと思う。それでも戦いますよ今は。僕なりの思いってやつで」
「君は……!」
ぼろぼろになったエミヤの視界に映ったのは、右手を上げる一捷の姿。
「じゃ、そういうことで。バッハッハ〜イ」
(なんだそれは……)
最後に謎の挨拶への疑問を残して、エミヤは消滅していった。
◆◆◆
「まー、そういう訳で。どうにかこうにかアーチャーを倒したのですが」
「良い訳ないでしょーーーっ!!」
『心臓止まるかと思ったよボクは……!』
アーチャー撃破で一段落なんてなる筈がなく。
再びオルガマリーからのお説教を食らう一捷。
今回はロマニも説教に加わり、静かな怒りを露わにしていた。
(当然だよねぇ……命がけの戦いでギャグやらかせば)
「聞いてるの!? アナタ!」
「……はい。しょうもない手段を取りました、一歩間違えたらまず死んでいました」
『キミが死んだら本当に終わりなんだよ……もっと自分を大事にしてくれ……』
(……大事にしてくれ、か)
一捷はその言葉にギュッと両手を握りしめ、同時に胸の中も締められるのを感じていた。
どうにかクー・フーリンとマシュがオルガマリー、ロマニを落ち着かせてくれたのと、最後の戦いが控えていることから、お説教は一時中断。カルデアに帰ってからとなった。
『……これで残るは一騎。クー・フーリンの言っていた、セイバーのサーヴァントだけだね』
「準備はいいな? それじゃ、奴さんの元に」
「あ、その前にトイレ言っていいですか僕」
「「『空気読めぇ!!!』」」
……とりあえず、最後の戦いを前に用足しへ向かう一捷。クー・フーリンを護衛につけて。
そして離れた場所で用を足してくると、クー・フーリンに向けて背を向けて言う。
「……クー・フーリンさん。ルーンで、防音って出来ますか?」
「出来るぜ。してほしいのか?」
「はい。……30秒でいいです」
「……あいよ」
一捷の手が、体が、声が震えていた。
クー・フーリンは何も言わずルーンで防音を施した。これで彼が解除しない限り、音は外に漏れない。
「……うっ! はぁっ、はぁっ、はぁーっ……あああああ、うあああぁぁぁ!!!」
「……怖かったよな、おめぇ」
「あだりまえ、です……うぅぅぅ、わあぁぁぁ……」
いくらエミヤの前であんな態度をとっていたとしても。
一捷は戦ったことのないただの人間。戦場に立ち、戦士と対決することは、とてつもない恐怖だった。
ただ、バレないように必死に振る舞っていただけ。ふざけた手段や、挑発的な言動は、ただそれを誤魔化すものでしかない。
薄々感じ取っていたクー・フーリンは、ただ黙って一捷の嗚咽を聞いていた。何も言わず、好きにさせていた。そうさせることが必要だと思ったからだ。
時間通り30秒、思いきり泣く一捷。
ぐしぐしとハンカチで目を拭い、常備している目薬を指す。目が腫れていたり充血していたら心配をかけると思ってだ。
「……ありがとうございました、クー・フーリンさん。我儘を聞いてくれて」
「なーに、我儘なもんかよ。さ、あと一つだ。……気張れよ、坊主」
「……はい」
そう答えて一捷はクー・フーリンと共に戻り、洞窟の最深部へ到達。
「……ほう。面白いサーヴァントを連れているな、貴様ら」
黒い剣を携えたセイバーのサーヴァントが立ち塞がる。
手にするは、かの聖剣エクスカリバー。
円卓を束ねる騎士王にして、黒く侵食された姿。
セイバー、アーサー・ペンドラゴン・オルタナティブ。
「そうだ、構えるがいい。その力が本物かどうか。この私が確かめてくれる」
今回の一捷の戦い方については、かなり思う所があると思います。
戦いの中でふざけたことをしていれば、誰であろうと怒るでしょうし、自らや仲間が危険に晒されます。
それを分かって、一捷はそれしかないと、行動しました。
このスタンスが合わない方もいらっしゃると思います。
もしも不快にさせてしまったら、申し訳ありません。
そしていくら弱点を突かれたとしてもサーヴァントが人間の蹴りでダメージなんか負わないだろ、と思われるでしょうが、これも理由があります。
それによって一捷は、とんでもない事態に巻き込まれることになります……その時を、お楽しみに。
絵を描くとして、早く上手に描けるのはどちらだと思いますか?
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オルガマリー
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マシュ