カードゲームで悪の組織から助け出した女の子に求婚されてる 作:らかぶ
す、少し振り返っておこう。
俺の名前は神矢ジョウ、転生者だ。
現在は中学生で、俺が生きている世界はカードゲームがすべての世界。
プレイング・カード。
そう呼ばれるこの世界のカードに熱中する、まぁちょっと特殊な子供と言えるだろう。
そして、自慢ではないがそこそこカードバトルは強い方だ。
だから事件に巻き込まれても、襲いかかる敵を撃退することができる。
そのせいで更に事件に巻き込まれ、事件を解決したら更に別の組織に目をつけられ。
なんてことをしている内に、すっかり親友のダイブと共に正義のカードプレイヤーみたいな感じの存在になっていた。
今では、大人たちと一緒に事件を解決することもあるくらいだ。
で、俺が先日助けた――といっても、もう半年くらい前の話だけど――少女が俺のもとに押しかけてきた。
名をニコ、多分名字はないと思う。
洗脳教団の巫女なんていう立場を押し付けられた少女。
そのせいか常識に疎く、多分知ってることよりも知らないことの方が圧倒的に多い。
半年前に助けたはずなのに、全然その辺り勉強してなさげなのが気になるけれど。
これは後で、ナツキさんに聞くしかないだろう。
そんなニコだが、なんというかとんでもない美少女だ。
褐色肌の小柄な銀髪少女。
といえば、なんとなくスレンダーなイメージを抱くかもしれないが。
ニコはむしろ非常に発育が良い。
というか、一部分だけではない。
全体的にこう、むっちりしているのだ。
特にふとももとか、凄い。
それでいて細い部分は細くて、太っているという印象は全然ない。
むしろ健康的だと感じるくらいだ。
そんな彼女が今。
俺の眼の前で。
全裸で立っている。
よし、振り返り終わり。
全然良くないけど、よし。
「ジョウー、ジョウー、どうしたデス? ボーっとしてて、なんかお顔赤いデス」
「え、あ、ええっとだな!」
何とか視線を反らして、カードプレイヤーとしての矜持で精神を落ち着けようとしていた俺の前にニコが心配そうに立つ。
ここで俺とニコの位置関係を振り返っておくと、俺は体を洗って座っていてニコは立っている。
つまりこの場合、俺の視線が最初に何を捉えるかと言うと……まぁ、胸である。
慌てて更に視線をそらそうとするが――
「ナツキに聞いたデス、こういうときはおでここっつんこさせるデス!」
「うお……っ!」
ニコの手が、俺の顔を正面に固定した。
視線がニコを余すことなく捉えてしまう。
というか手、柔らか! なんだこの手、マシュマロか何か!?
そんなことを思っている間にも、ニコの顔はどんどんこちらに近づいて――
こつん、と額同士がぶつかった。
軽く、合わせる程度に。
「え、ええと……ニコ?」
「うーん……よくわからないデス」
そりゃあまぁ、そうだろう。
こっちはそもそも体をシャワーで温めてるわけだし。
とりあえず、ニコもしばらくそうしていて満足したのか、俺から手を話して二カーっと満面の笑みを浮かべた。
「それで、ニコ」
「はいデス! お背中流すデス! どうやればいいデスか!?」
「いやまぁ、そこからだよな……」
ニコは、本当にいろんなことが無知だ。
そして、やりたいという意志は強く持っているものの、俺がだめだと言えばそれを受け入れてはくれるだろう。
素直ないい子なのだ。
だから、ごまかそうと思えばいくらでもなんとかなる。
でもなぁ……。
「ニコは俺の背中を流したいんだよな?」
「もちろんデス! ナツキ行ってました。お嫁さんがお背中流すと、すっごく元気になるって」
それはどこが元気になるっていいたいんですかね、ナツキさん?
とにかく、ニコは本気だ。
やりたいことには何でも挑戦したい、全身でそれをアピールしている。
それを無碍にするのは、なんというか……ずるいんじゃないだろうか。
いや何が……って言われるとうまく言葉にできないんだけど。
「じゃあさ、ニコ。まずは俺がニコの背中を流すよ」
「……? 背中流し、お嫁さんがやるんじゃないデス?」
「別に、ニコだけがやらなきゃいけないことじゃない。俺だって、ニコの背中は流してもいいんだ」
いやいいのか? ぶっちゃけこう、いかがわしくない?
そういう感情が俺に牙を向いてくるけれど。
我慢して、続ける。
だってそうだろ? 俺はニコにたいしてやましい感情を抱いてしまっているかもしれないが。
ニコはまったく、そうじゃないんだから。
お嫁さんという言葉も、結局周囲から教えられたから使っているにすぎない。
だから、これでいいのだ。
……多分。
「……じゃあ、ジョウとニコ、一緒デス! ニコ、ジョウと一緒がいいデス!」
「ならよかった。じゃあその椅子に座って背中を向けてくれ。そうそう……よし、そんな感じ」
かくして、俺はニコの背中を流し始める。
ニコの体の柔らかさとか、肌の美しさとか。
色んなものが情報として俺に入り込んでくるけれど。
カードプレイヤーとして、理性を保って背中を流す。
これはあくまで教えているだけ……これはあくまで教えているだけ……よし!
「と、こんな感じだ。じゃあニコ、今度はニコがやってみてくれ」
「はいデス! ……あ!」
……ニコさん? 何でなにか思いついたような声を上げるんですか?
一体ナツキさんに何を吹き込まれたんですか?
「こうすれば、一気に色んなところを洗えるデス!」
そう言って、背中に押し付けられる柔らかな感触。
これは、まさか、いわゆる伝説のおっぱ―――――
□
――――はっ!
意識が、カードバトルをするときの集中状態に入っていた。
集中状態に入ると、俺はカードのことしか考えられなくなる。
とっさにそれを利用して理性を保ったのだろう。
集中状態でも、最低限の受け答えはできるからな。
気付いたらニコと二人で風呂から上がり、着替えを終えていた。
ところで記憶の片隅にうっすらある、風呂に入った俺の上にニコが乗っかっているこの映像は一体……。
ともかく。
その後は普通に夕飯を取って、就寝することとなった。
の、だが……。
「あの、ニコ?」
「はいデス?」
「……ニコの部屋は、あっちにしようって話になったよな?」
「そうデスね?」
「……どうして俺の部屋で就寝を?」
俺の部屋のベッドの上には、俺とニコの姿があった。
布団の中に潜り込んで、二人で眠る気満々である。
ニコの体温が、布団の中をじんわりと温めている。
「お嫁さんは一緒に寝る、デス?」
「寝ないです……いや寝るかもしれないけど、ええとアレだ」
「はいデス」
「……俺が意識しちゃって、眠れない」
「それは大変デス!」
ガバっとニコが起き上がる。
あわあわと慌てた様子だ。
それはそれとして。
「それと、ニコ」
「はいデス」
さっきからこのやり取り多いね、じゃなくて。
「……ぶっちゃけ、ニコも眠れるか?」
「……あう?」
「なんかこう、眠気とか……ある?」
「……寝るって、どうやるデス?」
そ、そこからかぁ――――。
本当に、起きたばかりなんだな。
そして、案の定ニコも眠れそうになかった。
となるとそうだなぁ、何かやって眠くなるまで時間潰すか。
それに、ニコが眠くなるまで待てば、俺が一人で眠ることだって可能。
うん、それがいい。
いくら何でも同衾は流石に早すぎる。
で、何をやるか。
正直、これに関しては一択である。
「じゃあ、そうだなニコ。眠くなるまで二人で遊ぶか」
「遊ぶデス? 遊ぶ、やってみたいデス!」
「そうだな。じゃあ――」
俺はそう言いながら起き上がり、あるものを手に取る。
ベッドの横に、充電しているスマホと一緒に並べられたそれは――
「――ニコは、プレイング・カードって好きか?」
プレイング・カード。
つまりカードゲームだ。
この世界において、遊びといえばこれが一番だろう。
誰もが知っていて、誰もがプレイしたことのあるゲームだからな。
問題は、ニコがカードバトルを好きかどうか。
「……ニコは」
いいながら、ニコは自分のデッキを取り出す。
それを見下ろして、それまでの天真爛漫な様子が少し引っ込んだ。
やはり、ニコはカードバトルに抵抗があるだろうか。
かつては、悪の組織にとらわれて無理やりカードバトルをさせられていた身。
そこに、多くの抵抗があっても不思議ではない。
だが、
「……好きデス、カードバトル」
今まで通りの笑みを浮かべて、ニコはそういった。
いや、少し違うな。
その笑みは、これまで見たどんな笑みよりも――幸せそうだった。
「カードバトルの楽しさを教えてもらったから、好きデス。ジョウとカードバトルしたい、デス」
「それって……」
「あ、ほら、ジョウ! バトル、バトルするデス!」
と、ニコが誤魔化すように言う。
なんだか、その様子に思わずドキっとしてしまった。
とにかく真正面から好きだ、お嫁さんになる、と言われても当然ドギマギするけれど。
今のは、なんというか。
恥ずかしがっているように見えたのだ。
俺は、少しだけ呼吸を整えてからニコに促されて卓に着く。
「……じゃあ、やるデス?」
「ああ、やろう」
お互いのデッキをシャッフル。
プレイボードを使ったバトルなら、勝手にボードがデッキをシャッフルしてくれるけれど。
テーブルだと、こうは行かない。
この世界のカードバトルには、基本的にプレイボードと呼ばれる、いわゆる決闘の盤みたいなものが用いられる。
しかし、こうしてテーブルでのバトルというのも乙なものだ。
「――バトル・プレイング」
「バトル・プレイング、デス」
二人で、バトル開始の合図をする。
初期手札は五枚、じゃんけんをしてから手札を揃える。
勝ったのは俺だ。
先行を宣言してから、手札を見た。
うん、いつも通りの俺の手札だ。
そうして、バトルは静かに始まる。
お互いに自分のモンスターをプレイ――この世界における召喚やマジックの発動はすべてプレイと呼ばれる――していく。
「……ジョウ、楽しそうデス」
「そう見えるか? まぁ、たしかにそうかもな。俺はプレイボードでのバトルも好きだけど、こうしてモンスターが投影されないテーブルのバトルも好きなんだ」
「それ、珍しいデス?」
「ああ、珍しい」
この世界では、モンスターがプレイボード……ないしは、ソレに類する機械で投影されるのが当然だ。
だから、こうしてモンスターが投影されないテーブルでのバトルはそこまで人気がない。
ただ、俺は好きなんだ、テーブルでのバトル。
だって前世ではこれが一番当たり前の形式だったからな。
落ち着くんだよ。
何より――。
「テーブルでのバトルは、どこでもできるからな。こうして、夜周りが寝静まってても、静かにしてれば怒られない」
他にも、カードとライフを管理するスマホか電卓さえあればできる、というのもいい。
この世界はカードバトルが常識だからな、コミュニケーションを簡単に取れるんだ。
今みたいに。
「…………」
「……ニコ?」
「え、あ、なんでもないデス! ニコのターンデス!」
俺の言葉に、なんだかこちらを覗き込むようにして黙り込んでいたニコ。
呼びかけると、慌てて自分のターンを宣言した。
なんだか良くわからないけれど……とにかく、俺達の夜はバトルで更けていくのだった。
□
――で、翌日。
正直、まずった。
あの後、結構バトルが盛り上がってしまい、気がつけば日をまたいでいて。
ニコは眠りについたものの、俺はまだ興奮冷めやらず。
結局寝たのは結構遅い時間だった。
というわけで、眠い。
ニコの手前、寝坊することだけは避けねばならなかったけれど。
それはそれとして、眠い。
なお、ニコは朝になったらナツキさんの医療センタースタッフのお姉さんが迎えに来た。
どうやら、今日はとりあえず一日泊まってみるくらいのものだったらしい。
まぁ、着替えとかで困ってしまったしな。
仮に俺のところで暮らすなら、日用品とかは用意してもらえると助かります。
「ジョウは聞いたぜ?」
で、登校早々。
何やらクラスが騒がしかった。
状況が見えない中、とりあえずダイブのところに行くと。
開口一番、ダイブがそんなことを言ってきた。
聞いたか聞いてないかで言うと、何も聞いていないんだが。
「何でも、女の子が空を飛んでたらしいんだぜ」
「それは……また、何かしらのモンスターが目撃されたんじゃないか?」
「そこまでは知らないけど、なんとなく事件の予感がするぜ!」
事件は、ぶっちゃけ昨日起きただろ。
俺の人生を揺るがす大事件だぞ?
ダイブにはあまり関係なかったかもしれないけど。
なお、女の子が空を飛んでいた……というのは、正直そこまで珍しい事件ではない。
この世界にはカードのモンスターってやつがいて、それらが空を闊歩しているのはそこまでおかしなことではないからだ。
まぁ、こうして噂になったりはするけどな。
「あ、ダイブくん、ジョウくん、おはよう。聞いた聞いた?」
「おはほうだぜ!」
「おはようミツキ、空を女の子が飛んでたって話か?」
「え、なにそれ?」
ミツキがそう答えたことで、俺はダイブの方を見る。
ダイブもさっぱり、って感じだ。
そもそもミツキがダイブに俺と一緒に挨拶した辺り、ダイブもさっき来たばっかりってことか。
それじゃあ、クラスの騒がしさとダイブは無関係なわけだ。
……結構珍しいな、それ。
大抵の場合、ダイブは騒動の中心だ。
それが違うってなると、誰がこのざわめきの中心なんだ?
「実はね、うちのクラスに転校生がくるらしいの!」
――――転校生?
なんかこう、猛烈に嫌な予感がする。
そういえば俺、ニコに今日の予定どうするか聞いてないな?
というか、聞こうと思ったけど昨日熱中しすぎて完全に忘れてたな?
ともかく、クラスがざわついてるのは転校生が原因らしい。
まぁ、一大イベントだもんな、転校生。
じゃあ空飛ぶ女の子は何者なんだよ、って話だけど。
今は一旦おいておこう。
この猛烈な嫌な予感の正体を確かめないことには、落ち着かないからな。
「ホームルームを始めるわよー」
そう言って入ってきた、美人だけど残念そうな教師に視線が集まり。
「もう知ってる人もいると思うけど、今日からウチのクラスに新しい仲間が増えるわ」
歓声が上がる。
いや、そこまで大きなものではないけれど、おー、という声があちこちから聞こえた。
そして教師が促すと同時。
「失礼するデス!」
案の定、ニコが制服姿で教室に入ってきた。
視線が一気にニコへ集まる。
ただでさえ、小柄ながらも目を引く美少女だ。
転校生ともなればなおさら、注目を集めるものだろう。
「え、えと、えと、ニコって言う、デス! 今日からお世話になる……デス!」
「ニコちゃんは、悪の組織に囚われてたから色々とわからないことが多いの。みんな、支えになってあげてちょうだい」
教師の言葉に、ざわざわとクラスが揺れる。
それ、言っていいのか? と思うかもしれないが。
ぶっちゃけ、悪の組織の被害者なんてこの世界には山程いる。
そもそもニコを操っていた洗脳教団は、一時期俺達が暮らす町の住人全員を洗脳していた。
唯一洗脳されていなかった俺とダイブが組織に乗り込んで壊滅させるまでの間。
ここにいるクラスメイトもその被害者だったわけだ。
そんなわけだから、こういう情報は共有されていたほうが円滑に進むということで共有されることが多い。
何より、ニコがそれを気にする性格ではないなら、情報を共有して助けを求めたほうがいいのだ。
電車の乗り方もわからないくらいだと、知っているかいないかでニコに対する印象は全く変わってくるだろう。
で、それはそれとして。
ホームルームはニコへの質問大会と化していた。
好きな食べ物とか、好きな漫画とか。
ただニコはあまりにも知らないことが多い。
漫画はそもそも存在すら知らないし、食べ物だって昨日俺と食べたスパゲティくらいしか知識がない。
今朝もスパゲティの残りだったしな。
で、そんな中。
「に、ニコちゃんは好きな人のタイプとかあるんですか!?」
ある男子が、そんなことを質問した。
――まずい、と想った時にはもう遅い。
「あ、それならニコ、ジョウのお嫁さんになるデス!」
元気よく、ニコは俺の方を見て叫び。
クラスの視線が、一斉に俺へと向けられた。
カードゲームでずっぽし