巨神聖戦記2024 108と108 作:Genbu108
天地鳴動の咆哮が響き渡る東京は首相官邸、国会議事堂等が建つ永田町、日本を代表する官庁街として名高い霞が関、名だたる大企業の本社·本店が集積し巨大なオフィス街を形成する丸の内等が壊滅した上、高濃度の放射能に覆われ、聖域とされていた皇居も瓦礫の山に成り果てた。
一体何故こんなことになったのだろうか。
いきなりだがここで約20年の時を遡り2005年7月29日、南極の地には荒涼たる氷原が広がり、南半球故現在冬の真っ只中なこの地に吹き荒れる猛吹雪は時としてコウテイペンギンをも凍死させ得る。
その苛烈な猛吹雪をものともせず地球最強の
誘導放出されたマイクロ波を照射する指向性エネルギー兵器、メーサー光線砲を搭載した最新鋭の4式メーサー戦車も多数出動したとはいえ、従来の戦車共々燃え盛る残骸と化している。
突然ゴジラの日の前の氷山が砕け、潜水艦に似た形状の戦艦が艦首の巨大ドリルを回転させながら飛び出してきた。水中も地中も移動可能かつ飛行能力を有する轟天号のご登場だ。
この万能戦艦は第二次世界大戦時に大日本帝国海軍が設計したものの1945年の敗戦により建造が頓挫し、皇居地下の秘密工廠に未完成のまま放置されていた。
そんな轟天号の建造再開を実現し完成にこぎ着けた麻生孝昭一等陸佐は現在その万能戦艦に搭乗中である。
「見たか、俺の轟天号の機動力を!南極の分厚い氷を掘り進みゴジラお前の目の前に飛び出すことが出来るんだ!ここ南極をお前の墓場にしてやる!撃て!」
麻生が檄を飛ばすと轟天号は艦体上部にずらりと並ぶ砲身をゴジラに向け、一斉砲撃を行う。全身に砲撃を浴びながらもかすり傷さえ負っていないゴジラはそのまま突き進み、108mある身長を上回る長さの尾による強烈な一撃を万能戦艦の艦体に叩き込んだ。
「麻生艦長!制御不能です!轟天号は墜落不可避です!」と叫ぶ柄木武二等陸尉に対し麻生は以下の通り怒喝り散らす。
「貴様それでも楠木正成公の末裔か!この麻生が毎日のように軍人精神を注入してやっているのだから弱音を吐くなど断じて許さん!早く何とかしろ!俺の轟天号が墜落などあってはならんことだ!」
麻生が怒譲り散らしたところで轟天号の失速が止まる著も無く、結局万能戦艦は全長150mという無駄に巨大な艦体を広大な氷原にめり込ませる羽目に。
「メインエンジン停止!」
「怯むなぁ!海自のヘタレ共に代わって轟天号を完成させた我々陸自の底力をゴジラに見せてやれぇ!」
本人がこのように怒鳴るあたり、麻生が海自を敵視し蟲天号の建造は海自を排しつつ陸自が主体となって進め現在轟天号に搭乗中の乗組員全員が独自所属なのは最早自明か。
「ミサイル発射用意!」
轟天号は巡航ミサイル潜水艦同様VLS即ち垂直ミサイル発射装置を有し、そこから多数の巡航ミサイルが発射された。狙うのはゴジラの足元だ。そして巡航ミサイルがゴジラの足場に着弾した途端に巨大な地刻れが生じ、ゴジラは悲鳴を上げ落下した。
「トドメだぁ!楠木あの氷山を撃てぇ!」
「わぁあああああっ!」
両目に涙を浮かべながら絶叫し麻生の命令通りミサイル発射レバーを手前に倒す楠木、軍国主義プロパガンダ映画の一場面にそのまま使えそうな構図である。
楠木が発射した巡航ミサイルがゴジラの落下地点近くの氷山を爆砕し大規模な雪崩を生じさせ、見事ゴジラを地中に封じ込めることに成功した、筈だった。
「やったぞ、俺の轟天号の勝利だ! ゴジラは案外弱かったな。いや、俺の轟天号が強過ぎるだけか、ガハハハハ!って、あ、あれは何だ!?」
ドラ声即ち野太く濁った声を上げ大笑いする麻生に冷や水を浴びせるかのように、轟天号艦内のモニター画面は雪崩により埋もれたばかりの一帯に突如生じ天に向け立ち昇る青白い光の柱を映す。この光の柱こそゴジラが体内原子炉を臨界状態にして口から吐いた放射熱線である。
程なくして氷上に這い出てきたゴジラの巨体は地中にゴジラを封じる麻生らの目論見の頓挫を物語る。
「あ、麻生艦長、ゴッ、ゴジラが出てきました!轟天号にはもうミサイルがありません!」
「狼狽えるな楠木! 俺の轟天号には最終兵器絶対零度砲がある! 早く撃たんか!」
「御意!」
麻生に急かされながら楠木ら搭乗員は機器を操作し、轟天号は艦首のドリルから強烈な冷気を帯びる白色の光線砲を放つ。この轟天号の最終兵器、絶対零度砲は氷上に這い出てきたばかりのゴジラの全身を瞬く間に氷結させた。
「絶対零度砲命中! 効果絶大です!」
「手こずらせやがって!だが全身凍結とあってはもう悪あがきも出来まい! やはり最後に笑うのはこの麻生だぁ! ガハハハハ!」
すっかり舞い上がり大笑いする麻生のドラ声は最早騒音の領域に達している。いきなりゴジラが全身を青白く発光させ身体を覆う氷全てを蒸発させたため、麻生の表情は恐怖と絶望に歪むのだが。
麻生の意に反しゴジラは凍死などしておらず、体内原子炉を臨界状態にして全身から高熱を発したのである。
「馬鹿な!ゴジラは生きていただと!夢だ!これは夢だ!夢に決まってる!夢だ!夢だ!夢だぁ!」
間髪入れずにゴジラは放射熱線を吐き、轟天号の艦体を無残な形に変えていく。轟天号を消し去るぐらい朝飯前なゴジラではあるものの、 核エネルギーを頂くため原子炉を壊さない程度に放射熱線の威力を抑えていたりする。
原子力を動力とする万能戦艦轟天号は原子力潜水艦並びに原子力空母同様原子力の兵器利用に他ならず、日本がその轟天号を保有すること自体が原子力の軍事利用を禁ずる原子力基本法に背く。
そんな轟天号も核エネルギーを糧とするゴジラ にとってはおやつ同然なのだろう。
こうして南極を舞台としたゴジラと轟天号の 対決はゴジラの圧勝に終わり、当然ながら麻生をはじめ轟天号の搭乗員らは皆冥界へと旅立った。
ゴジラが轟天号に放射熱線を撃ち込む直前 に持ち前の逃げ足の速さを発揮し脱走していた楠木を除いて。
「見ろ!ゴジラ!このミケランジェロのダビデ像に勝るとも劣らぬこの楠木の肉体美を! おっとこの楠木の肢体は毎日太陽を浴び続けた小麦色故大理石製のダビデ像には無い温かみがあったか。いずれにせよゴジラ貴様の醜くひん曲がった鱗だらけの身体などこの楠木の肢体は勿論ダビデ像の足元にも及ばん!グハハハハ!」
などとゴジラを罵りながら大笑いする楠木のドラ声は生前の麻生を彷彿とさせ、驚くべきことに衣服は勿論下着も全て脱ぎ捨て猛吹雪が吹き荒れる中仁王立ちしている。
そんな楠木の背中には無数のミミズ腫れ、即ち生前の麻生に何度も精神注入棒により折檻された痕が目立つ。
そして楠木が口汚く罵るゴジラの全身の鱗の歪みは数十回の核爆発の直撃に耐え抜いた証に他ならず、絶対零度砲の直撃も体表面を薄い氷が覆う程度にとどめるあたりゴジラの鱗、ひいては表皮自体が並外れた衝撃耐性並びに放射能耐性ばかりか超低温耐性を備えているのは間違いない。
自暴自棄になり全裸になった楠木は現世にへばりつく未練の強さ故己の108の煩悩を飛躍的に増幅させ、全身を被ばくしようとコウテイペンギンをも凍死させ得る猛吹雪の中全裸になろうと健康体でいられる超人へと変貌したのだ。
一方力により他者を屈服させたい文明人の究極の煩悩の産物、即ち核兵器により長年の眠りから覚めたゴジラの身長が108mと仏教における 常人1人あたりの煩悩の数と一致しているのも意味深長である。
「おいゴジラ逃げるのか!? この楠木の気迫に恐れをなして逃げるのか!? 逃げろ! 逃げろ! 腰抜けがぁ!グハハハハ!」
先程這い出てきた地割れの中へと潜るゴジラを指差す楠木は自分が勝ったと思い込み更なる雪崩を誘発しかねない程のドラ声を上げ大爆笑している。
108の煩悩を増幅させ並外れた生命力を得た楠木、身長が108mのゴジラと双方共に108という数字に縁があるとはいえ、基本的に人間には興味さえ示さないゴジラは楠木など歯牙にもかけないが。ゴジラに相手にされていないとも気付かないまま全裸で仁王立ちしドラ声を上げ大爆笑、楠木はどこまで恥知らずなのだろうか。
アメリカ海軍の原潜ノーチラスの潜航に反応しペルム紀末期以来北極海の奥底に潜み続けていたゴジラが活動を再開した1954年を皮切りに、世界各地に潜む巨神達の活動が活発化した。
翅から強烈な光を放ち蛾に酷似した姿のモスラ、飛翔速度はマッハ3を超え全身を覆う皮膚が溶岩状の怪鳥ラドン、全長約370mとゴジラを遥かに凌ぎ口から強い毒を吐く巨大海蛇ティアマト等である。
長年眠り続けてきた巨神達が20世紀後半に活動を再開したのは地球規模の自然破壊を行う文明人共に制裁を加えるためだ。
米ソ両国をはじめ世界中の核保有国が核実験と称し ゴジラへの核攻撃を繰り返したものの全て徒労に終わったように、為政者共は膨大な財力 と軍事力を注ぎ込みどの巨神も打倒出来ず巨額の財政赤字だけが残った。
21世紀を迎える頃には何をやっても巨神は倒せないし止められないという諦念が所謂先進工業国の間に広まっていたのは当然の帰結と言えよう。
そんな中自衛隊がゴジラを南極へと追い込み地中に封印したとの速報が世界中を駆け巡った。速報によると南極に出撃した自衛隊の部隊はほぼ全滅したものの1人生き残った全裸姿の楠木の気迫によりゴジラが怯え、自ら地割れに飛び込みそのまま雪崩に飲み込まれた、らしい。
無論この速報はゴジラに勝ったと信じてやまない楠木によるホラ話だが。