巨神聖戦記2024 108と108 作:Genbu108
スキュラが大暴れするアメリカにラドンが飛来し、メキシコにいた頃同様飛翔時に衝撃波を発生させ都市部に甚大な被害を与えている。1990年代末に巨神に破壊された都市部を八割方復興したばかりだけに、アメリカにとってかなり辛い。かつてのアメリカは広島・長崎への原爆投下に飽き足らず平壌、ハノイ、セント・ジョーンズ等他国の都市をバンバン破壊していたような気がするが。
ニューヨーク上空にてアメリカに配備された地空軍の空中戦艦ランブリングがラドンに挑む。地球防衛軍発足以来日本に超大国の地位を奪われ凋落した現在のアメリカに巨神2体を同時に叩く軍事力は無く、より広い地域に被害を及ぼすラドンの撃滅を優先した格好である。なお現在スキュラはアリゾナ州のフ ェニックスにいてラドンとの遭遇はまずない。
「撃ち落とせ! あのデカい鳥を撃ち落とせ!」
艦長のハイランド・ホイットモア地空軍大佐が檄を飛ばし、ランブリングの艦体各部から20式プロトンミサイル数発が乱れ飛ぶ。
ホイットモアには26年前B-2爆撃機を操縦しNATO主導のコソボ空爆に参加した際、こともあろうにベオグラード市内の中国大使館にJDAM爆弾を投下し死傷者を多数出した過去がある。当時NATOの空爆に批判的だった中国への逆恨みに基づく意図的な爆撃だ。この件を「誤爆」ということにしたい合衆国連邦政府は中国大使館を爆撃目標に設定したCIA中佐を解雇した上、口封じのため諜報員を動かし散歩中を狙い暗殺した。
全身にプロトンミサイルを浴びたラドンが無傷なのはホイットモアにとって想定内。ミサイル攻撃により動きの速いラドンを牽制しランブリングの主砲、マグナムメーサーキャノンにより仕留めるのがホイットモアの思い 描くラドン討伐の筋書である。コソボ空爆の直後に本土の都市部の大部分を巨神に破壊されて以来アメリカは他国への大規模な武力行使が出来なくなり、地球防衛軍発足後も現在に至るまで巨神を1体も仕留められなかっただけに、ホイットモアは今回何としてでも巨 神ラドンを仕留めると意気込む。
「今だ!主砲を撃て!」
ホイットモアの指令通りランブリングの艦首から放たれたマグナムメーサーキャノン、 その出力は700万ボルトと22式メーサー戦車を凌ぐ。ところがその主砲が顔面に直撃したラドンは無傷かつ速度も落とすことなくランブリングへと迫る。メキシコのイスラ・デ・ マーラ島火山の火口に潜み火山内の高温高圧により長年鍛え抜かれただけあって、ラドンの身体は出力700万ボルトのメーサー砲を全く受け付けない。
「ホイットモア大佐、避け切れません!」
ランブリングが撃墜されそうになったまさにその時、足利市上空に出現したのと同型の大爪形態UFOが出現し、ラドンに謎の光線を浴びせて退散させた。自分が命拾いしたことに全く気付いていないホイットモアは舌打ちし不機嫌そうな表情だ。この男は日本から地球防衛軍の主導権を奪いコソボ空爆以前のアメリカを取り戻すのを己の人生目標に定め、中国大使館に爆撃し大勢死傷者を出した件を未だに反省しておらず地球人の軍事力なら必ず巨神を倒せると信じ込んでいる。
上海市の繁栄は香港そして北京を凌ぎ、中国最大の世界都市としてその名は世界に響く。その上海市もムートーが通った際甚大な 被害を蒙り、市内の浦東新区に建つ東方明珠電視塔(※上海テレビ塔)は空中戦艦火龍が激突しほぼ全壊した。火龍の剣状の艦首から放たれる龍剣高電子砲はランブリングの主砲に匹敵する威力とはいえ、ラドンと同等以上に頑丈な上広範囲に電磁パルスを拡散するムートーが相手では見せ場の無いまま墜落もやむなしか。
東京に向かう特別機の機内にて涎を垂らし熟睡中の楠木はいびきが実にやかましい。いびきが止んだと思ったら今度は耳障りな歯軋り、この口髭男は寝ても覚めても周囲に迷惑な存在と言えよう。
「楠木閣下、大変です。早く目を覚まして下さい。」
「んぁ?何だ、馬田か。もう羽田に着いたのか?」
「羽田には間もなく到着します。それよりも閣下、あちらを。」
表面全体に幾何学模様が刻まれた直径約2kmの銀色の金属球が皇居上空に浮かび、先程ラドンやムートーを退散させた大爪形態UFOが合計6機その金属球を取り囲んだと思いきや、次々と金属球の下部に接続されていく、マンデラが指し示した窓の外の光景はまだ寝起き顔の楠木の眠気を全て吹き飛ばす程衝撃的である。
「何だぁあれはああああっ!」
先程のいびきどころではない楠木の絶叫が機内全域に響き渡り、あろうことか特別機は自動操縦が故障し瞬く間に失速した。パイロ ットの巧みな操縦により大事には至らなかったとはいえ、一歩間違えればそのまま墜落したのは間違いない。
「危ないところでした。」
「この機のオートパイロットはポンコツ過ぎる。もっと軍人精神を注入してやらんと。」
自動操縦の故障は自分の騒音公害級の絶叫が原因なのにこの言い草、日頃から身の回りの機器が不調になる度憤激しその機器を文字通り叩き壊してきた楠木らしい身勝手さが見て取れる。
旧日本軍が使用する兵器の設計には「武人の蛮用に耐えうること」という条件が課され、当然ながら短気かつ粗暴な楠木の行動には常に「武人の蛮用」がつきまと う。
特別機は何とか羽田空港に着陸し、機外に出た楠木を義仁自ら出迎えた。
「殿下、ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます。」
「楠木、挨拶はいい。早くこっちに乗れ。」
「ぎょ、御意!」
義仁に先導され楠木は御料車仕様のトヨタ・センチュリーロイヤルに乗り込んだ。マンデラは政仁の時と全く同じ理由により義仁に同乗を拒まれ、1人羽田に残る。
楠木らを乗せ走行する御料車が皇居に近づくのに伴い、窓から見える金属球がどんどん大きくなっていく。大爪形態UFO6機全てを下部に接続し終えた金属球は皇居上空に咲く巨大な銀色の花に見え、球体全体が無機質な不気味さを醸し出す。
「殿下、あと少しで皇居正門に着きます。羽田に行った時と同じ道順で南車寄に向かえば よろしいでしょうか?」
「貴様何年運転手をやっている!? そんなこといちいち俺に確認するまでも無いだろうが!先に来ている広池らをこれ以上待たせるわけにはいかん! 俺に無駄な質問する暇があ るなら運転に集中しろ!」
皇居上空に浮かぶ金属球が自分の即位を脅 かすという不安に駆られ運転手に怒鳴り散らして八つ当たり、この小心者かつ横暴な義仁が即位すれば今以上に周囲を振り回すことだ ろう。
義仁が怒鳴った後車内がすっかり静まり返った御料車は二重橋を渡って皇居正門をくぐり、皇居宮殿の玄関に相当する南車寄に到着した。
「楠木、降りるぞ。ここからは徒歩だ。」
楠木と義仁が辿り着いた宮殿東庭には既に広池ら政府与党の面々が集い、皆上空の金属球を眺め不安の色を隠せない。矢口の姿が見 当たらないのは、少し前に楠木と入れ違いで大阪へと向かったからである。今現在矢口の 番号にかければ「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないためかかりません」とアナウンスが流れ、誰も矢口を呼び戻せない。
「おお、楠木閣下、大阪でゴジラに遭遇したと聞きましたがよくぞご無事で。」
広池はそう言って楠木に駆け寄った途端に顔面をぶん殴られ、およそ1週間ぶりに眼鏡のフレームが歪む。
「先日総理に返り咲いた時は何処ぞの青瓢箪と違い20年続くこの国の『慣例』に従ってくれたから鉄拳は勘弁してやったが、熟慮の結果最近日本国を、そしてこの楠木を裏切ったばかりの二股膏薬クソ眼鏡にはやはりお仕 置きが必要と判断した。蓑田や牧野みたいな目に遭わずに済んだだけありがたく思え!」
「楠木、その辺にしておけ。今は内輪揉めしている場合では無い。上空のあれをどうするかが焦眉の急だ。」
義仁がたしなめた途端に大人しくなったあたり、やはりこの外道は皇室の権威には弱 い。
「御意! 念のため殿下は地下に避難して下さい! この楠木があの巨大UFOを何とかして見せます!」
義仁が地下シェルターに向かったのを見計らい、楠木は服も下着も全て脱ぎ捨て上空の金属球に向かって以下の通り叫ぶ。皇居のど真ん中に全裸男が仁王立ちし怒鳴り散らす、皇居の前身、江戸城を築城した太田道灌には絶対見せたくない光景だ。
「何処の星から来たか知らんがこの星を侵略など無駄だ! 何故ならこの星には、地球には史上最強の男、楠木武がいるからだ! この楠木の前世、ダビデは投石器を使いゴリアテを打倒したのに対し、この楠木はゴリアテなどより遥かに強大な存在、ゴジラに対し己の全裸を、そして己のイチモツを見せつけて撃退した! ダビデだった頃と違い投石器など最早必要無い!どうだ! 貴様らが見下ろしている一糸まとわぬ髭の男の凄さがわかっただろ! グハハハハ!悪いことは言わん! 今すぐこの星から立ち去れぇ!」
拡声器を使うまでもなく楠木のドラ声は皇居全域にガンガン響き、楠木の裸体がおぼろげに映る長和殿ベランダに張られた防弾ガラスに幾筋も亀裂が走る。広池らは懸命に両耳を塞ぎ、何人かはこの騒音地獄に耐えられず白目を剥き卒倒した。少し前に皇居敷地内から野生動物達が一斉に逃げ去ったのは巨大金属球の出現、あるいはこの騒音地獄を本能的に察知したからだろうか。
楠木が怒鳴り終えると金属球は球体の下部から一筋の光を照射し、全裸男楠木の目の前の地面を照らす。その一筋の光に包まれ人影がゆっくりと降りてきた。人影の両足が地面に着いた途端に光は消え、そこには燕尾服に身を包む初老の紳士が佇む。
「てっ、てててて、天皇陛下!」
楠木が己の裸体の各所から冷や汗を流しつつ口をパクパクさせ驚くのも無理はない。
彼の目の前に佇むにこやかな表情の初老の紳士の姿形は最近まで日本国の象徴として君臨し、海江田らと共にその日本国を見限り新轟天号と運命を共にしたあの清仁そのものだからだ。
当然広池らも顔が清仁そっくりな男の出現に動揺を禁じ得ない。
「楠木さん、それに広池さん、ご無沙汰しております。」
清仁らしき者の物腰柔らかな話し方は普段TVが映す清仁そのものである。
以前新轟天号の艦内から画面越しに楠木と会話した際の清仁は楠木を呼び捨てにする高慢な男だったような気がするが。
「てっ、天皇陛下、ご尊顔を拝し恐悦至極に存じます。よ、よくぞご無事で。この楠木、 今後とも陛下に忠誠を誓う所存でありま す!」
「天皇陛下、この広池一雄、陛下のご無事をずっと信じておりました!」
楠木といい、広池といい、先程まで義仁にペコペコしていたのに随分と変わり身が早いものだ。
清仁らしき者は右手を上げ上空の金属球を指し示しながらこう言った。
「危ないところを彼らに助けて頂きました。楠木さんが服を着たら広池さんと共に彼らに挨拶しに行きましょう。」
再び金属球の下部から一筋の光が照射され、広池、清仁らしき者、そして慌てて迷彩服を着た楠木の3人を球体内部へと導く。 どうやらこの光にはエレベーター的な機能がある模様。球体内部にはチューブ状の廊下が走り床部分は石畳状、壁並びに天井には古代遺跡を彷彿とさせる不可思議な模様が刻まれ、楠木並びに広池は清仁らしき者に先導され球体最深部へと向かう。
球体最深部には巨大空間が広がり、足を踏み入れた楠木らを坊主頭の男がやや胡散臭げに微笑みながら出迎えた。