巨神聖戦記2024 108と108   作:Genbu108

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#12 第三章 - ヤシオリとハチワリ -

「我々の母艦にようこそ。我々の星の名称は地球人には発音出来ない。X星人とでも呼んで頂きたい。」

 

見たところこの坊主頭の男がX星人の司令官のようだ。坊主頭の男の周囲には側近と思しき男女数人が並び、坊主頭の男共々黒コートを着込み細長い黒サングラスをかけ両目を覆う。

 

清仁らしき者はサングラスを外したX星人司令官の右隣に立ち、未だ状況を把握出来ず、困惑顔の楠木らにこう語りかけた。

 

「彼らは窮地の私を救ってくれたばかりか、 ムートーやラドンをはじめ巨神達も追い払ってくれました。私達地球人に対しとても友好的です。敵意などありません。ご覧の通り外見も我々地球人と同じですし、我々の言葉も通じます。楠木さん、広池さん、私は彼らと協力してこそ私達地球人は新たな一歩を踏み出せると確信しています。」

 

清仁らしき者の一人称は「私」、これは清仁本人が公の場にて使う一人称と同じだ。清仁本人が現人神として君臨したい野望を抱き続け、公の場以外では「朕」の一人称を好ん で使っていたのは前述の通り。

 

「え、X星人さんだったかな? 私は日本国首相の広池一雄と申します。陛下をお救い下さったばかりか巨神達まで撃退して下さり何とお礼を申し上げればいいのか。」

 

しどろもどろに話す広池に対し司令官はこ う言った。

 

「礼には及びません。貴方達の信頼を得るため何が出来るかを我々は示したに過ぎませんので。それよりも今地球に深刻な危機が迫っております。だからこそ我々がこうして駆 け付けたのです。」

 

司令官が両掌を向けると天井全体が発光し、太陽系に、そして地球に向け移動中の巨大な天体の立体映像を映し出す。

 

「これぞ今現在地球に迫る危機、直径は地球の約4分の3ながら地球の約6000倍の質量を持つ妖星ゴラス! 我々の科学力によりこの天体が何時地球に衝突するのか、地球のどの部分に衝突するのかは既に解析済みです。 その地点に地球上全ての軍事力を集約し総力を以て攻撃すれば妖星ゴラスと雖もひとたまりもありますまい。」

 

清仁らしき者ら3人が司令官への挨拶を終え退出すると、先程からサングラス越しに楠木を睨んでいた筆頭参謀が舌打ちした。

 

「あの口髭男、我々の船に入る前は素っ裸になってあんなに偉そうに怒鳴り散らしていたのに、入った途端に縮こまり小声さえ出さなくなる、実に底の浅い男です。ああいう愚劣な者共の機嫌を取るのは正直疲れます。我々の軍事力ならあんな連中など。」

 

途端に司令官が声を荒げ、血気にはやる筆頭参謀を叱り飛ばす。

 

「早まるな!計画はまだ始まったばかりだ! 今ここで強行策に出れば無用の混乱を招くのは必至!確かに我々の科学力、そして軍事力は地球人の比ではない。だが覚えておけ、力だけに頼る者はいずれそれよりも強い力に滅ぼされるということを。」

 

義仁は楠木の怒鳴り声により皇居全域が騒音地獄と化した際に卒倒し、たった今意識を取り戻した。母艦から戻った楠木が清仁らしき者と共に記者会見の準備をする中、広池は静養中の義仁がいる部屋に駆け込んだ。

 

「殿下に是非ともお聞かせしたい吉報がありまして、この広池無礼を承知で参上仕りました!あの巨大UFOに乗るX星人なる異星人達は我々地球人に極めて友好的でして、巨神達を撃退してくれたばかりかわざわざ天皇陛下をお連れ下さったのです!」

 

「何だと!兄は、陛下は生きていた、いやご無事だったのか!?」

 

そう叫んだ義仁の表情は歓喜の色ではなく驚愕の色が濃い。

 

「ええ、UFOから降りてこられた天皇陛下は至ってお健やかなご様子でして、これで光文の代は安泰です!」

 

嬉しそうに話す広池の左頬に義仁の拳骨が食い込み、先程楠木にぶん殴られた直後にかけた予備の眼鏡のフレームが歪む。

 

「でっ、殿下、いっ、一体何を!?」

 

察しの良い読者の方なら今現在義仁は清仁らしき者の出現により己の即位が遠のき怒り心頭、いきなり広池をぶん殴ったのは完全な八つ当たりだとすぐにわかっただろう。

 

「広池貴様さっきからうるさいぞ! 俺は今気分が悪いんだ!出ていけ! ここからとっとと出ていけ!消え失せろ!」

 

先程の楠木の騒音地獄には遠く及ばないと はいえ、癇癪玉を破裂させた義仁の罵声には半泣き顔の広池即ち日本国首相を即退散させる威力。菊タブー故この皇嗣の暴挙は厳重に秘匿され、新聞、雑誌、TV、ネットニュ ースが報じることはまず無いが。

 

日本の報道機関は天皇制死守という皇室の意向を忖度し、皇室の体面を傷つけるような出来事は決して報じない。この菊タブーにより皇族共はどのような悪事を働こうと世間から非難される心配をせずに済み、衝動的に妊娠させた宮内庁職員を追放、裏人脈を駆使し元総理を暗殺、八つ当たりで現役総理の顔面をぶん殴った上罵倒等何処までも卑劣に、 横暴になれる。

自制心などとうの昔に捨てた皇族共はこれからもTVカメラの前では善人面しつつ陰で悪事を働き続けるのだろう。菊タブーがある限り。

 

前述の通り楠木も元老の地位を得て以来20年間衝動的殺人、性暴力、収賄等己の悪事を闇に葬り続け、皇族連中同様世間の目を気にせず悪事を働ける特権を有する身と言えよう。総理経験者2人の顔面をザクザク切り刻んだ上晒し首にした一件を見れば、皇族連中同様自制心を失っているのは最早疑いようがない。菊の御紋を紋章とする皇族共が己の悪事を闇に葬れる特権を菊タブーと呼ぶな ら、事あるごとに口髭を自慢する楠木が己の悪事を闇に葬れる特権は髭タブーと呼ぶべきか。

 

この日以来清仁らしき者は国際社会から 「深海6700mから生還した奇跡の帝」「新轟天号を撃破したティアマトも手出し出来ない聖者」と称えられ、楠木共々「巨神に屈しなかった英雄」扱いされるように。そんな清仁らしき者がX星人との共存を呼び掛ければ当然大勢の人が靡く。

 

「皆様、国際連合は既にこの時代の実情にそぐわないものになっております。X星人の皆様と共に巨神と戦い地球を取り戻すため宇宙連合に改称するべきかと。」

 

かつて楠木による自作自演の銃撃事件の舞台となった国連総会にて清仁らしき者が演説する様子はネット上に生配信され、無事和歌山に避難出来た一ノ瀬並びに藤崎もその映像を観ている。

 

「おかしい、あの清仁みたいな人、何かがおかしい。母さんを捨てた清仁の顔なんて二度と見たくない筈なのに、あの清仁みたいな人の顔ならそれ程苦も無く見れる。そもそも深海でティアマトにドロドロに溶かされ消滅した新轟天号から生身の人間が生還出来るなんてあり得ないよ。」

 

「顔を見てもそれ程苦にならないのは、あの男が清仁本人ではないと直感的に気付いているからだろうね。由衣の言う通りあの清仁が偽物でX星人とやらの傀儡なら筋は通ってる。」

 

「今私が言ったことなんて世間からは無視されるか嘲笑されるのは目に見えているけど、志保先輩は信じてくれるんだ。」

 

「深海で消滅した新轟天号から生身の人間が生還など到底不可能という由衣の主張には何の矛盾も無いからだよ。私は皇室を崇拝しないと自尊心保てない愚か者共と違って清仁が単なる人間だと知っているし。」

 

同じ頃、X星人母艦最深部では筆頭参謀が司令官にあることを訪ねていた。

 

「あれはそのまま放置してよろしいでしょうか?」

 

「1体ぐらいなら構わんよ。今丁度地球人達があのゴジラを駆除しようとしているから、 我々はお手並みを拝見しようじゃないか。」

 

今現在司令官の目の前に映し出されている のは、新大阪駅構内にて棒立ち中の巨大不明生物である。

 

その巨大不明生物の打倒に燃える矢口は大阪府八尾市の八尾空港に向かう機内から緊急指令を発し、新幹線に在来線、そしてコンク リート作業車を多数徴用と元老としての権限の濫用に余念がない。八尾空港内に所在する陸自の八尾駐屯地は地球防衛軍発足に伴い八尾基地と改名され、基地内のコンクリート 建屋の屋上にいる背広姿の2人は矢口と泉だ。

 

「泉、何故俺を裏切った?」

 

唐突過ぎる矢口の発言を受け、泉は眼鏡の奥の両目が泳ぐ。

 

「なっ、何を言っている? 矢口、俺達は広池総理をはじめ党の連中の大半がヤマト皇国に走った時も日本国に留まり共に奮闘した仲じゃないか。」

 

「とある宮内庁職員から俺に報告があったんだ。泉が上皇陛下にUSBメモリを手渡す瞬間を見たとな。」

 

「やっ、矢口、嘘はいかんぞ。おっ、俺が上皇陛下にUSBメモリをお渡しする時人払いをしたから渡す瞬間を見た宮内庁職員なんている筈が。」

 

何時ぞやの楠木同様矢口の誘導尋問に引っ掛かったことに気付き青ざめた泉、しかし楠木と同じく気付くのが一足遅い。

 

「やはりな。先日貴様が楠木武を『さん』付けで呼んでいたのがどうも引っ掛かり、密かに俺を裏切り楠木武に乗り換えたのではないかと考え鎌をかけてみることにした。結果は貴様も知っての通り。ちなみに楠木武も同じ方法で過去の死体遺棄を白状したよ。」

 

最早言い逃れ出来ないと悟ったのか、泉は本性を現しこう叫んだ。

 

「ああそうだよ! 貴様がヤマト皇国に赴く天皇陛下から三種の神器の箱だけを回収する瞬間を隠し撮りし上皇陛下に映像をお渡ししたのも、貴様が隠し持つ白骨とボイスレコーダーを盗み出し楠木さんに手渡したのも全部俺だよ!だが矢口、俺が貴様を裏切ったんじゃない!貴様が俺を裏切ったんだ!俺に黙って上皇陛下に取り入り楠木さんと同じ元老の肩書を得た貴様がなぁ!」

 

矢口は元老の肩書を得た代償に当選同期の盟友を失っていたのである。

内心では矢口を出世の手段扱いしていた出世欲の塊を盟友と呼ぶのはかなり語弊があるような気もするが。

 

「待て!矢口、まずは君が落ち着ゲッ!」

 

他人との約束を平然と破るクズに限って他人に裏切られると激怒はよくある話。

約束を破った相手に対し「約束は破ったが後悔は無い」と悪びれもせず言い放つ矢口も例外では なく、怒りに任せて泉の顔面を掴み後頭部を背後の柵に叩きつけた、何度も何度も。

 

我に返った矢口の目線の先では泉が両目を見開いたまま息絶え、白いペンキが塗られた屋上の柵の一部が赤黒く染まっている。

 

「や、矢口閣下、これは一体!?」

 

「泉は足を滑らせ後頭部を柵に強打し亡くなった、そういうことだ。わかったな。」

 

屋上に駆け付けた地陸軍兵士達は皆矢口の突き刺さるような眼光に怯え、彼を殺人犯だと糾弾出来る者は誰もいない。

 

漸く連絡が繋がり、楠木は矢口に帰還を促す。

 

「矢口よ、他の巨神達は駆逐され大阪にいる ゴジラも今は活動を停止しているではないか。この楠木が地陸海空軍元帥として大阪に兵を遣わし今度こそ必ずそのゴジラを仕留めてやる。だから早く東京に戻れ。」

 

巨大不明生物を本物のゴジラと信じ打倒に燃える楠木だけに、帰還命令も矢口に手柄を取られたくないという私情に基づく。矢口もまた巨大不明生物をゴジラと信じ、数年前に取得した牧悟郎なる人物が残したとされる暗号めいた情報に基づき秘密裏に血液凝固剤を量産していた。

この血液凝固剤量産は三丸重工の系列企業、三丸化学が担い、元老矢口との癒着を深め富嶽重工の風下に立つ現状打破の足掛かりにしたい三丸重工の思惑が見て取れる。

 

「楠木元帥閣下、あのゴジラは無性生殖によりネズミ算式に個体数を急増させ、小型化だけでなく、有翼化し、大陸間を飛翔する可能性すらあります。援軍を待ってなどいられません。この大阪の地に集いし我々がゴジラを倒し大量発生を阻止してみせます。」

 

有翼化は勿論、地球全体の生態系に悪影響を及ぼす大量発生など自然界の調和を保つ本物のゴジラならまずあり得ない。

巨大不明生物についてここまで調べながら一向に本物のゴジラとは別物と気付いていないあたり、矢口とその取り巻きは突き詰めた専門知識のみに囚われ他のことがまるで見えていないのだろう。

 

「それなら地球防衛軍が開発した新型戦略核ミサイル、『ハチワリ』を新大阪駅で棒立ち中のゴジラに撃ち込めばいい! ツァーリ・ボンバなる旧ソ連の水爆が約50メガトンなのに対し、このハチワリは約80メガトン! 史上最強の熱核兵器だぁ! 実のところ完成はしていたが秘密裏に製造開発したのもあり、まだ核実験は済んでない。そこで核実験も兼ね新大阪のゴジラにハチワリを投下する!」

 

などと叫ぶ楠木の両目は殺人嗜好者特有のぎらつきに満ち、今の発言は「早く大阪から離れないと貴様も餌食だぞ!」という矢口への 脅迫を言外に含む。この新型核ミサイルの名称は楠木正成所用の短刀、鉢割に由来し、かねてより非核三原則を敵視してきた楠木が核ミサイルの命名にまで細かく口出ししているのは最早自明か。

 

楠木が初めて核開発に関与したのは牧野におだてられイスラエルの地に赴いた16年前だ。イスラエル側に肩入れした楠木はパレスチナ人虐殺を楽しみながら技術者達にハチワリの原型となる核ミサイルを秘密裏に製造させるも、事もあろうに完成したばかりの核弾頭が勝手に爆発しイスラエルの広範囲を放射能汚染した。楠木主導の執拗なパレスチナ迫害によりパレスチナ人は勿論パレスチナ迫害に批判的なイスラエル人は皆国外に逃れ、 結果的に放射能汚染を回避出来たのは不幸中の幸いと言えよう。

 

かくして世界地図からイスラエルという国が消え、被ばく耐性のある楠木は被ばくした技術者全員を見捨てて1人日本に逃げ戻り現在に至る。

 

「楠木閣下、しばしお待ちを。既にゴジラ凍結作戦の準備は出来ております。」

 

矢口が血液凝固剤の件を話すと、楠木はいつもの下品な声を上げ大笑いした。

 

「グハハハハ! こいつは傑作だ!何年も前から血液凝固剤を製造開発しゴジラの日本上陸に備える、矢口貴様のその意識の高さは見事!褒めて進ぜよう!だがどうやってその血液凝固剤をゴジラに投与する? 注射でもするのか? ゴジラがそう都合良く貴様の思い通りに動く筈が無い!さて、貴様の戯言を聞いてやった。次は矢口貴様がこの楠木の言うことを聞く番だ!早く東京に戻れ!」

 

楠木の大声により矢口のスマホがブルブル 震え、矢口はもしこのスマホを耳に当て楠木と会話していたら間違いなく鼓膜が破れていたと密かに確信している。

 

「今なら大阪府北部の被害で済みます。復興の見込みはあります。核を使えばそれも難しくなります。上皇陛下が崩御された地夢洲も間違いなく放射能汚染されます。」

 

今の矢口は先程衝動的に泉を殺害した件を 早くも隠蔽出来たという自信に満ち、高圧的な楠木に対し一歩たりとも退かない。

 

楠木がやろうとしていることの乱暴さが度を超えているのも相まって、一見矢口が人道的配慮をしているように見える。

しかしそもそも矢口は巨大不明生物への核攻撃自体に反対しているのではなく、日本国内への核投下に反対しているに過ぎない。日本が始めた太平洋戦争により殺された大勢のアジア人を無視し日本国民の犠牲者数ばかり強調する矢口なら、仮に巨大不明生物が日本以外の国に上陸したならその国が蒙る被害など全く考慮せ ず核攻撃を訴えるのは目に見えている。

 

「わかった、そこまで言うなら貴様の好きに しろ。貴様のお手並みをとくと見てやる。だが覚えておけ、もししくじったなら直ちにハチワリを撃つからな!その時は生きて帰れると思うな!それはそうと矢口、貴様の同期当選の泉ちゃんがつい先程亡くなったとの報告 が入ったが、もしかして殺っちゃった、か な?」

 

粗暴な愚か者ながら妙な狡猾さも併せ持つ楠木は泉死亡の真相に気付き、先日配偶者の遺体遺棄の件で脅迫してきた矢口への仕返しに力を注ぐ。長年刑事コロンボシリーズがお気に入りなのを踏まえると、殺人犯矢口を追い込む自分をコロンボに重ねているのかもしれない。このくだりを読み「殺人と隠蔽の常習犯楠木武が刑事コロンボを気取るな!」と憤る方もいるだろうが。

 

「さっきまであんなに威勢が良かったのに急に大人しくなったあたり図星のようだな。まあいい、同じ元老のよしみとして泉ちゃんの件はこの楠木の胸深くにしまっておく。その代わりゴジラ凍結作戦とやらが成功し東京に戻ってきたら『お盆踊り』している姿をネッ ト上に生配信しお笑い芸人デビュー宣言しろ。元老かつお笑い芸人、前代未聞の肩書を有する貴様は必ず売れる。この楠木がそう言うのだから間違いない。貴様の芸名は、そうだな、『シン・ランドウ200%』でどうだ? 前衛的だろ!グハハハハ! あと20年続いてきた慣例に則りこの楠木の菊門をたっぷり味わって貰うからな。それではシン・ランドウ200%君、成功を祈る!」

 

矢口はかつてない屈辱感に打ちひしがれ、スマホを右手で掴み床に叩きつけた。 先程泉を殺害した時同様表情が険しく、そしておぞましい。楠木の大声により発熱し故障寸前のスマホに持ち主の矢口がトドメを刺した格好だ。

 

「絶対に、絶対にゴジラを倒す!」

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